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78話目 修学旅行二日目 御宅訪問

「誠に、申し訳、……ありませんでした!……ぐすっ」


戦意喪失し、泣き喚く女性剣士に優しく慰めの言葉を投げ掛け、どうにか宥める事に成功した剣は、ようやく、本当に偶然迷い込んでしまったのだと納得させていた。


「ま、俺も誤解させるような事をしちゃった訳だし……不法侵入者を問答無用で殺処分可な決め事でも在るなら、まあ職務に忠実なだけだし問題ないって」


例え理不尽なルールであっても、そのルールに護られている住民であるのならば従わなければならない。その程度の事は、理不尽の権化(女神様)と友達な剣にとって「仕方無いか」で済ませられる程度の小さな理不尽でしかない。無論、知りもしないし教えられてもいないルールに従ったりはしないが。


「それよりさ、ここから出る方法教えてくれませんか?夕食前には宿舎に戻りたいんで」


「……」


女性剣士は、項垂れて答えなかった。


「えっと……教えられないって、事かな?」


「す、済みません……私の、一存では……」


内心、怒り心頭な剣であったが、現場の判断で不法侵入者、それも治安維持的立場にある人員を武力を用いず制圧してしまえる身元不明な不審者を解放してしまう訳にはいかないだろうとも想像出来た。


「じゃあ、その判断をする権限のある偉い人に会わせてくれない?うっかり迷い込んだ立場で無礼だとは思うんだけどさ……さっさと帰して貰えないと……」


「もらえ、ないと……?」


「直接的な暴力で説得する事になる」


「直ぐに案内させて戴きます!」


とても良い返事をした女性剣士であったが、体力と霊力を使い果たしたばかりで、足元がふらついていた。


「危ないなぁ。よっと」


「ええっ!?あの!ちょっと!」


悠長に移動する時間が勿体無く、屋根の上から転落されても面倒なので、剣は女性剣士を抱きかかえた。お姫様だっこで。


「本当に急いでるんだ。セクハラだとか言わないで下さいよ」


「……はい」


恥ずかしそうに顔を紅く染めてはいるが、女性剣士は大人である!猫耳メイドのバイトをしている義妹のように、羞恥心で失神するような小娘ではなかった事に剣は安心し、屋根の上を駆け抜けて行くのであった……時速60㎞越えのスピードで。




「うう……穴が有ったら、埋葬されてしまいたい……即神仏になってしまいたい……」


年甲斐もなく悲鳴を上げ、年下の男子にしっかりしがみついてしまった女性剣士は、目的地に到着し剣から解放された途端に、その場に蹲っていた。


「……でかい御屋敷だなぁ」


女性剣士を敢えて無視して、陰陽師達の本部を眺める剣。屋敷を囲む塀には強力な結界が張られているらしいので、堂々と正門前に着地していた。それを顔見知りの門番に見られてしまった事が、女性剣士の羞恥心に拍車を掛けているのだが、剣にとってはどーでもいいことであった。


「おい!きさ……」


「たーのもー!」


本当に急いでいる剣さんは、門番が警告を発するのを無視して、道場破りなノリで、肺の中の空気を全て絞り出すような大声で到来を告げると、とっても重そうで高さ5メートル近くある正門を前に、垂直跳びからの高速斜め急降下で蹴っ飛ばしてぶち破った!


「グラビティ・ライトニング・キーック!!」


身体強化魔法による筋力向上+重力魔法による加重&加速+風属性魔法で自身を保護するフィールドを形成+フィールド表面に雷属性魔法を付与。200メートル級スーパーロボットの必殺技をオマージュした、剣の即興複合魔導体術である!


「うええぇぇぇ!?」


奇声を上げる門番の目前で、轟音と共に一気に開かれる巨大な扉。この正門が開くのを数えきれぬ程見て、自身で実際に押し開いてもいる彼だからこそ、誰よりも信じられなかった。全力で押して、片側ずつ開閉するのがやっとなのである。それが、たった一発の蹴りで全開した挙げ句、門から扉が外れてしまったのである。門の内側には、閂が掛けられていたのに……結界で最も強化されている箇所なのに……


人間離れにも程がある。アフリカゾウの体当たりだって、簡単には突破出来そうにないであろう扉を、たった一撃。


「あ……貴方!一体どういうつもりなのですか!?」


青冷めた表情で剣に問う女性剣士。確実にこれは、ここまで剣を案内してしまった彼女の責任問題である。どんな責を負わされるのか……考えたくもないと、後悔に苛まれながらも一方で、本部で最も強固な守りの要である正門を難なく破壊してしまった武力が自分に向けられていたらと思うと、安堵しながらも恐ろしくて仕方無く……正に混乱の極みであった。


「ん~……さっき、お姉さんが技名叫んでたから……触発されて?」


「そんな事訊いてません!どういったつもりで、門を破壊したのかと訊ねたのです!」


「てっとり早いかと思って」


女性剣士が上役に取り次いでくれたとして、自分に対する扱いの結論が出るまで長時間待たされてしまっては堪らない。即断即決させる事がベストである以上、女性剣士からの報告だけでなく、実際に武力を示しておく必要があると考えたのだ。それに……職質も無しに殺害許可(マーダーライセンス)を与えてるような連中相手に、平和的交渉なんてしてやる寛容さは必要無いよね!と、決断したのであった。


「お、お嬢様……その者は、一体……?」


職務を担うだけの時間も与えられず、護るべき物を護れず、存在意義をなくしてしまった門番が「俺、クビなのかな……」と絶望に染まった暗い表情で、絶望の根源である剣の素性を訊ねた。


「お嬢様?……この屋敷の?……ひょっとして、この屋敷の主で、陰陽師のリーダーって、お姉さんの親御さん?」


「う……そう……です」


い~こと聞いちゃった♪剣さん、とっても邪悪な笑みを浮かべちゃいました!すーっと大きく息を吸い込み、再び割れんばかりの大声で、腐れ外道な呼び掛けをしちゃいました。


「陰陽師の皆さん、こ~んに~ちは~!今から三十秒以内に~!一番偉い人を出してく~ださ~い!さもないと~!お嬢様と~!門番さんに~!あの世ツアーズしてもらいま~す!」


「ぐぼぁ!?」


とってもニコニコ上機嫌な殺害予告に、門番さんは思わず白目を剥いて奇声を発し気絶した。


女性剣士も腰砕けでその場にへたりこんだ。悪趣味な冗談に聞こえる発言であったが、剣がその気になった場合、抗いようが無い事は、破壊された正門の惨状を目にした二人にとって完全に理解出来る事であった。


「ね……ねぇ、キミ……今の……どこまで、本気で……」


「……出てこなかったら、それは身内を見殺しにするクズだと判断します。なので、偉い人から優先的に殺せばいいかな……と。そうすれば、どこかで誰かが俺を帰す決断してくれるんじゃないかな~?お姉さんを殺すのは、それでも誰も俺を帰してくれなかったらの場合で」


「そ……そう、ね……」


女性剣士は愕然とするしかなかった。突飛な行動に見えながら、あくまで合理的に考え、平常心を保っている剣の精神力に。こんな化物が、修学旅行で来て、たまたま迷い込んできただけなんて、悪い冗談にも程がある……


女性剣士が悩み、塞ぎ込んでる内に、屋敷の中からはバタバタと無数の足音が激しく鳴り響き、正門前に佇む剣の視界には大勢の陰陽師が姿を現していた。皆一様に、破壊され地面に真っ平らに倒れている正門の扉を確認して目を見開いている。そして、剣に対し、強烈な敵対心を燃やしていた。正に、一触即発な決戦開始前のシーンである。


そろそろ、剣が宣言した三十秒になろうかとした、その時。


「皆、鎮まれい!」


しん……と、燃えたぎる炎のようであった空気が、冷たく張り詰めた。一喝で爆発寸前だった陰陽師達を諫めたのは、一目で格の違いを感じさせる、深い皺が刻まれた表情に鋭い眼光の、杖を突きながらも背筋の伸びた白髪の老人であった。


そんな、威風堂々とした迫力の老人を前にして、剣は全然怯んではいなかった。


「爺さん、アンタが頭で間違いないか?」


「……如何にも、儂が長老をやっておる。葛乃葉 楼明(くずのは ろうめい)と申す。孫娘が、世話になったようだの」


剣の予想は少し外れ、親ではなく、祖父がリーダーであった。大して外れてもいなかったが、少し悔しかった剣であった。


「……気にすんな。足腰立たなくなってたのを運んでやっただけさ。俺は剣。聖 剣だ。俺の要求はたったひとつ。この妙な暗い街から出て、京都の街に戻りたい……それだけだ」


剣の要求に、集っていた陰陽師達がざわめいた。


「お嬢を殺すなどと脅しておいて、出たいだけだと!?」


「長老!騙されてはなりませんぞ!結界に護られた正門を破壊されたのです!」


「そうだ!何者かは解りませんが……拘束すべきです!」


「相手はたった一人!我等が総出でかかれば……」


戦意漲る陰陽師達を、剣はヤレヤレと呆れた瞳で見回した。仕方無い、戦争……するかと。


「そこまで、貴様ら、誰が発言を許したか?」


楼明が発した冷たく、低く響いた声音に、陰陽師達が凍りついたように静かになった。


「お若いの……いや、剣殿でしたな?部下達の非礼、御許し願いたい」


静かに頭を下げた楼明に、陰陽師達は有り得ぬ物を見たかのように、揃って呆然とした表情になっていた。


「許すも許さねぇも、敵なら殺す。そうでないならどうでもいい。詳しい事情は知らねぇし、知る気もねぇけど、アンタ等には敵がいて、外敵の侵入に過敏になっているんだろ?こんだけ空気がピリピリしてりゃあ丸判りだっての。そんで疑わしきは殺処分て訳だ。そうでもなきゃ……孫娘への教育間違え過ぎてんだろってハナシだ」


状況証拠からの剣の推察に、楼明は一瞬瞑目してより深く皺枯れた表情を見せた後、大きく笑い声を上げた。


「いやはや失礼。実に素晴らしい洞察力だと感心させられてしまいましてな。……成る程、貴殿程の傑物であれば、納得出来るというものだ……」


「?……何だよ爺さん。まるで、俺の事を知ってたみたいな口振りじゃないか」


「知っていたのは名前だけだがの。東京におる部下から、ちょいと報告を受けましてな……弟子を三人奪われたと嘆いておったよ」


「三人……あ!あの迷惑な後輩三人組の事か?世間狭っ!つか、奪ったとか事実誤認だ!名誉毀損だ!マジでいらねっての!」


「そうなのかね?ふぅむ……儂も特に問題視しておりませんでしたからな……そういえば、その出で立ち……昨日、大仏を見に行かれましたかな?」


「……あの大仏、ただの金属塊じゃなかったみたいだな。付物神か?それとも式神でも憑けてたか?やっぱり星人か?」


剣さん、ちょいと食い付き気味。


「そこは、身内以外には明かせませんなぁ。それより、表の京都市街に出たいのでしたな?」


「ああ、それさえ叶えば暴れたりしねぇよ。直ぐに出れるのか?」


「ええ、尋姫(ひろき)、案内して差し上げなさい」


「は、はい!畏まりました、お祖父様!」


孫の女性剣士に剣の案内を命じると、楼明は踵を返して屋敷の中へと戻っていった。


楼明に追随し、陰陽師達も忸怩たる思いを抱えながら屋敷に戻った。すると、玄関に入ったばかりの所で楼明が足を崩して座り込み、憔悴していたのであった。


「長老!どうされたのですか!?」


「あの若僧……やはり何か仕掛けたか!」


血気に逸り、剣を追撃しようとする者達に、楼明が震える声と手で待ったをかけた。


「大丈夫……疲れただけじゃ……それより、あの者……剣殿には、絶対に手を出してはならぬ……厳命せよ」


「しかし、長老……」


異論を唱える部下に、楼明は意外にも叱り飛ばしたりせず、愉快そうにクックッと嗤いで返した。


「解らぬというのも、ある種幸せであるものだな。儂も長く陰陽師として生き、数多の怪異たる敵対存在と遭遇したが……今日が一番恐ろしかったよ……彼が、敵に与する者でなく、本当に良かった……儂には、手に負えん怪物であった……」


「長老……しかし、本部を護る結界が破壊されてしまったのですよ!修復には早くとも三日は……その間に襲撃されたら……」


「そうさなぁ……厳しいだろうが力を尽くす以外にあるまい。ホレ、さっさと動いてみせぬか?壊れた門が待っておるぞ」


若い者を重労働に追いやると、楼明は人知れず大きく溜め息を吐いたのであった。


「やれやれ……あの若僧め、桁違いにも程があるわ。まさか、あんな怪物が野心を抱かず野に埋もれているとはな……此方に取り込む事は出来ずとも、協力……せめて不可侵関係は結びたいものであるが……どうしたものか」


言葉とは裏腹に、楼明は薄ら笑いを浮かべていた。想定すらしていなかった強者との遭遇に、年甲斐もなく心踊っていたのであった。


「……茶の湯に、招いてみるとするか」


組織の長たる決断力と行動力か、決断したら即行動。この日の深夜、剣は楼明の招待を受ける事になったのであった。




グラビティ・ライトニング・キック!

元ネタはバス○ーマシンの必殺技。本家の威力は万倍以上かな~?


次回は無事に宿舎に帰ります。

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