76話目 修学旅行初日 SAKUTANターン
サブタイトル通りです。ネタまみれです。
互いに着信したメールを確認し、剣と梓は顔を見合わせ、笑みを溢した。
「お~いそこのご夫婦さんよ、二人だけで通じあってんじゃないの。みんなで楽しく、な!」
「あ、済まん。済まないついでに、もうちょい待ってくれ」
剣はスマホをちょちょいと操作すると、動画投稿サイトにアクセスし、全員から画面が見易いようにスマホをテレビの前に立て掛けた。
『ハロー!全世界のコスプレと美少女をこよなく愛する紳士淑女とキモヲタに腐女子な皆様!現役JCコスプレイヤーがプレゼンする、SAKUTAN放送局の開始だよっ!』
のっけからハイテンション!聖家九姉妹のムードメーカー桜ちゃんは、画面の中で絶好調である!
今回のコスプレは〝キラッ!〟なウィンクがハマリ過ぎてる緑な髪の超時空歌姫であった。衣装はバイト時のチャイナドレスタイプである。
『それでは放送開始にあたり私事ながら……修学旅行中のリアルおにいちゃ~ん!おねえちゃ~ん!お友達と一緒に見てくれてる~?SAKUTANは二人がいなくて寂しいよ~!』
両手を握りこぶしにして瞳ウルウル……素晴らしきあざとさ!
「剣、さっきのメールって、コレ?」
「ああ、動画アップしたから見てくれってさ」
「お願いされたら、観ないわけにはいかないよねぇ」
妹のお願いは、二人にとって友人との会話よりも優先度が高いのだ!
「この娘も、二人の妹さんなの?レベル高いわ……」
「うわ~……一年の双子程じゃないけど、凄く可愛いじゃん!」
弓と安芽にとって初見の、新たな聖家の妹。手離しの評価である。
耕平は恥ずかしそうに顔を反らしながら、チラッ、チラと覗き見るようにしている。
「なんか……コスプレって見ている方が恥ずかしくなるんだが……聖ん家って、何人妹いるんだよ?」
「アズちゃんと剣くんの下に七人いるから、九姉妹だよ耕平くん」
「お!?おう。……多いな」
質問に答えてくれた雀に対し、何故か驚き以外の何かを含んだように、若干照れ隠し口籠る耕平。それが何故か判らずキョトンとした雀の表情に、誤魔化すように口をへの字にする耕平に気付き、一朗は彼の肩をポンポン叩いて生暖かな微笑みを向けた。
「あ、そゆこと~頑張れよ!」
「い、いや!違っ!……その目をやめろっ!」
純情野球少年の淡い恋心の行き着く先は?一先ずそれは置いておき、SAKUTAN放送局は続く。
『さて、ここでSAKUTANファンへの耳寄り情報だよ!少し気が早いけど……この夏、ラ○カちゃんのコスで逆ピラミッドの同人誌即売会に遊びに行きま~す!どの歌の衣装かは、当日をお楽しみにね!何日目に行くか決まったら、また動画で告知しま~す』
「今年の夏はフロ○ティアか……俺、誰をやらされんの?」
剣はすぐ傍にいる衣装作製者に素朴な疑問をぶつけてみた。
「けんちゃんには、お兄ちゃんらしく、お兄ちゃん役をやっていただきます!」
「すると、傭兵会社のジャンパー姿か……ま、少し暑そうだけど通気性は……ヲイ、何故顔を背けた?」
『ついでに発表!コスプレイベントてSAKUTANを見たことある~って人達は知ってると思いますが、保護者兼SPなお兄ちゃんと、衣装作製者のお姉ちゃんも一緒にコスプレしてくれてるんだよね。そこで、二人の作成中衣装をちょこっと公開しちゃいま~す!先ず、お姉ちゃんはコレ!』
SAKUTANがカメラの死角から取り出したのは、少し淡い青紫色のフォーマルなスーツ。
『はい!分かったかな?分かったよね?お姉ちゃんには、腹黒ラスボスジャーマネやって貰いま~す!SAKUTANの後ろで眼鏡を光らせているからね!撮影マナーを守れないカメコがいたら、即刻中止にされちゃうよ~。そして……お兄ちゃんはコレです!』
「なぁっ!?」
思わず、吃驚仰天しちゃった剣。それもその筈、SAKUTANが取り出したのは……光沢を放つパープルカラーがベースの、肌にぴったり密着しそうな、まるで全身タイツのような……
「お兄ちゃんて……ソッチか!熱血アゴヒゲじゃなくサイボーグの方かよ!」
剣は更に思わず、四つん這いで慟哭した!表面エナメルみたいにテッカテカなんですけど!通気性死んでませんか?汗でムレムレになりそうなんですけど!
『デ○ルチャー!これは……ボディラインがくっきり出ちゃいそう!美男子好きな腐女子&貴腐人な御姉様方、当日は御期待下さい!私のお兄ちゃんは紛れもなくイケメンです!引き締まった良い身体をしてます!SAKUTANが保証しちゃいます!』
「梓~」
どれだけ桜が望んだとしても、実際に衣装を作るかどうかは梓次第である。言い逃れ不能な共犯者である!
「安心して、けんちゃん。汗ぐっしょりになった衣装は、私が責任をもって戴きますので!」
ぐへへ涎を垂らしながら、煌めく瞳で梓はサムズアップした。……共犯者じゃねえ!主犯だ!
「……つくづく、剣ってよくこんなのを嫁さんにしたなって思う」
「剣くんの度量が神。受け入れられてなかったら、アズちゃんは椿ちゃん以上の変態さんだもんね」
「雀、さりげなく私をディスるのヤメテ」
剣達と普通に付き合いのある三人にとっては特別驚くべき事でもなかったが、普段関わりの薄い他のメンバーにとっては衝撃の連続であった。
「聖くんが、コスプレ……身体の線がくっきり出る衣装で……」
「弓さんや~?……脳がオーバーヒートしちゃった?にしても、妹さんの着ているチャイナもアズっちが作ったのかな?クオリティたか~……」
「聖……マジでアレを着るのか?……勇者だな」
『それでは告知はここまで!続いては、ファンの質問に答えてみちゃうぞのコーナー!だよ。事前にツイートして貰ってた中から、SAKUTANが独断で選んで御答えしちゃいま~す。では早速、HNピカリュウさんからの質問!〝SAKUTANこんにちわ!鬼退治にいくなら、お供の三匹は何を連れて行きますか?〟にお答えしたいと思います!』
「……募集してたの、大喜利のお題か?」
録画に対して突っ込んじゃう剣さん。画面の中では、わざとらしく腕を組んで思考するSAKUTAN。こうして、様々な表情を見せるのもサービスの一環……らしい。
ここで一旦、剣は動画再生を停止させた。
「けんちゃん、どうして止めたの?」
「いや、コレさ……俺達も同じお題で遊んでみろって事なんじゃないか?ここで大喜利やれっていう……」
「さっちゃんなら有り得る!それじゃ、発表したい人、挙手!」
聖夫妻から突然の無茶振り!だが、余興の提案に対し、理由なく反対して空気を悪くするコミュ症は……既に布団に引きこもっている一名のみ!
「ハイ!出来ました!」
「お?意外にも一番手は、ずめちゃん!どうぞ!」
「ポメラニアン!アイアイ!鶉!」
全員が「ちっちゃ!」と、声を揃えた。
「あはは!どうやって鬼倒すの!?でも、ちゃんと犬、猿、雉(鳥)の枠を抑えている辺り、ちゃんと考えてて一答目としては模範解答だと思います!ずめちゃん一本!」
盛り下げずに済んで、ほっと胸を撫で下ろす雀。
「やるね、ずめっち!次私ね!……ガー○ィ!マ○キー!ポッ○!キミ達に決めた!」
ボールを投げ飛ばすポーズをしながら、安芽はドヤ顔で答えた!
「……あ、うん。出題者のHN的に、アリだよね」
「ポ○モン、それも第一世代縛りでくるとか……安芽っちって、ひょっとして現役トレーナーじゃね?」
「だよなー。ちょっと暇してアニメ見たとかなら、もっと新世代の名前が出るよな。ルガル○ンとかモク○ーとかさ」
一朗と剣のジト目線が安芽のハートを貫通する。安芽ちゃん、ウケる答えを狙いすぎて墓穴を掘った。
「……そうよ!現役よ!新作出る度2バージョン両方買ってるし、映画も毎年見に行ってるわよぉ~」
意外にも、隠れトレーナーであった安芽。この後、雀とポ○モンGOのフレンド登録を交わして落ち着きました。
「成ってない!鬼退治だぞ?強いの連れてかないでどうする!ライオン!チーター!虎!これぞ最強だろう!」
し~ん。自信満々で解答した椿に、これでもかと白けた視線が突き刺さった。
「いや……強いだけじゃん」
一朗がつまらなそうに呟き。
「全部猫科だし」
梓が「捻りが無い!」と蔑み。
「そもそも、鬼って虎皮着用してなかった?」
弓が常識を突き付け。
「鬼の方が強いだろ」
耕平が客観的事実を述べ。
「椿ちゃん……大喜利、見たことある?」
雀すら呆れ。
「座布団全部没収!」
剣に座布団を持っていかれた。
「な、何故だ!?また正座~!?」
理不尽なり!そう叫ぶしかない椿であった。
「あのさバッキー、大喜利なんだからさ、なにも三匹選ぶだけが答えじゃないんだぜ?例えば……報酬をきびだんご払いにしたら、ブラック上司扱いされて誰もお供になりませんでした……とかでもオッケーなんだぜ?」
「田崎……お前、天才か!?」
「普通だよ!誰だって思い付くレベルだよ!」
ワイワイ盛り上がったところで、剣は動画再生を再開した。
『えー、お供三匹……オシリスの天○竜!オベリスクの巨○兵!ラーの翼○竜!ゴッドエナジーマックスで粉砕!玉砕!大喝采ー!ハーッハッハッハッ!』
いつの間にか、SAKUTANは高笑いと白銀コートが似合いすぎている社長コスに変身していた!
「お……大ボケかましてくれたわね、さっちゃん……」
ここにいるのは、TCGが子供の頃から身近にあった世代である。その中でも、国内トップシェアのカードゲームで最高クラスの知名度を誇る〝神〟を知らない者などいなかった。
そして、SAKUTAN放送局のターゲットは一般人ではなくヲタである!民放だったら「は?」と言われてしまうようなボケであっても、きっとウケる!SAKUTANは、そう確信しているからこそ出来たボケだったのだ!
SAKUTANは、更にここからボケるボケる!拳を振り上げ高らかに!
『KON○MIよ!三幻神を素材として、エクストラデッキより特殊召喚可能なホル○クティを製品化せよ!全世界の決闘者がそれを待ち望んでいる!』
「……桜の奴、めっちゃ私情じゃねぇか」
「仕方無いよけんちゃん。プレミアついて、何万円かはしちゃってるもの」
「カード一枚がそんなにするの!?」
トレカショップが行動範囲に入っていない委員長さんにとっては、驚愕の価格であった。
『さあ、続いての質問を読んでやるとしよう!』
投稿者に対して尊大な態度をとるSAKUTANを、弓は苦虫を噛み潰したような表情で不快感を表している。
「聖くん、妹さん態度悪くない?」
「そう言われても……そーゆーキャラだからなぁ」
「いいんちょさんや、このキャラは自社製品発表会で来客にお礼する前に尊大な演説しちゃったり、テーマパークのオープンイベントに呼んだクラスメイトを強制的にデスゲームに参加させちゃう社長さんだからコレで正解なんだよ」
「……現実にそんな社長がいたら、その会社ブラックどころじゃないわね……」
そんな社長は、左腕に装着している決闘盤からカードを引き抜いた!どうやら、カードに質問メモを貼り付けておいたみたいである。
『HN仮山田大関からの質問だ。〝先日双子のお姉さん達と共演された動画すばら!でした。そこで気になったのですが……SAKUTANには何人姉妹がいるのでしょう?〟だ、そうだ。……馬鹿め!個人情報を簡単に晒せるものか!』
コートを翻し、カメラに背を向けるSAKUTAN社長。
「これはやりすぎでしょ!答えないなら、どうして選んだの!?」
思わず駄目出しする常識人な弓いいんちょ様。が、動画は続いていた。
『な~んてね!自分で選んだ質問だもの、答えられる範囲内でリリカルマジカル答えます!』
放り投げられ、ゆっくり落下する白銀コートの下で、くるくる回っているのは、聞き分けない子をボコッて大人しくさせるのが得意な魔法少女だった!
「これ、何テイクやったんだろうな?」
「ある意味、さっちゃんの編集テクが魔法だよね」
『先程の質問ですけど、流石に人数は答えられないの。なので、これから開示する情報から推測してくれるかな?SAKUTANには、腹違いのお姉ちゃんと種違いのお姉ちゃんと実の妹と腹違いの妹と義理のお姉ちゃんと義理の妹がいるんだ。それぞれが何人いるかは秘密だよ』
「……いや、殆ど個人特定出来そうな情報だろ……」
「見た人から、そう突っ込まれたいんだろうね……」
『それじゃ、今回の動画はここまでです。最後に、一曲歌います!』
動画の再生を終えると、そこかしこから「ふはぁ~」と、大きく溜め息を漏らす音が部屋を満たした。
みんなして、すっかりSAKUTANワールドに引き込まれたようで、妹が称賛される様子に兄と姉は、すっかり御満悦であった。
そうこうしている内に消灯時刻間近となり、女子メンバーは物足りなそうに部屋を出ていった。
すると、瀧が被っていた布団を跳ね上げ、剣に詰め寄ってきた。
「な、何だよ瀧」
「……マジか」
「え?」
「マジで……SAKUTANが……妹……なのか?」
剣にとって旅行一日目の夜は、まだまだ長くなりそうである。
先ず……土下座!
この小説に現在唯一感想を下さっている方のハンドルネームをいじってしまいました!
御本人様が不快でしたら修正します。
超時空シンデレラ→社長→空戦魔導師……うん、趣味に走り過ぎました!
次回から旅行二日目に入りやす!




