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74話目 修学旅行初日 宿舎の夜

部屋でゆったりしたり、お風呂に入る話です。

「いやあ、いいお湯でした」


「天然の桧風呂なんて、私初めてだったよぉ」


大浴場での入浴後、浴衣に着替えて自室に戻った梓と雀は、布団に仰向けになって寝そべりながら、たった今迄満喫していたユートピアへの賛辞を自然に漏らしていた。


「それじゃ、私達もお風呂に行きましょうか」


「アズっち~、スズっち~、見張り宜しくね~」


二人が戻って来たのと入れ替わりに、弓と安芽が大浴場へと部屋を出ていった。


部屋の中には梓と雀、そして……布団とロープで簀巻きにされた椿が残された。


「断固抗議する!これはイジメだぁ~!」


まな板の上に乗せられた、活きの良すぎる魚の如く、ビッタンバッタンもがく椿。あんまりな扱いをされているので当然だが、とっても憤慨して居られます。


「ごめんね~椿ちゃん。でも……女子の総意だったから……」


「ガチ百合を自重しないアンタの自業自得でしょうが。寧ろ、そうしてればセクハラで訴えられないんだから大人しくしてなさいっての」


「うがぁー!だからって……こうまでする必要あるか!」


「……けんちゃん呼ぶ?」


ピタリと押し黙る椿。この度、椿を簀巻きにしたのは女子の運動部員有志一同であるが、女子の総意など無くとも、梓が本気で剣にお願いしていたら、同じように簀巻きにされていたのは明白だと、椿自身が理解するところであった。


「いいんちょが戻ったら解放したげるから、広いお風呂を独り占めして、伸び伸びして来なさいな……あ~羨ましい」


「修学旅行で独りぼっちとか、悲しすぎるぅ!」




一方その頃、男湯。


「くそうっ!期待外れだ!」


「をっ?イチ、どうしたいきなり?」


並んでゆったり湯に漬かっていた剣と一朗であったが、突如として一朗が水面を激しく叩いて落胆の叫びを上げたのであった。


「ここの風呂場は……女湯と隣接してねぇ!」


「……いや、訳がわからん」


「分かれよ!定番だろ!修学旅行で女湯から女子達が戯れるキャッキャッウフフな妄想掻き立てる笑い声とか、嬉し恥ずかしムフフなトークが聞こえてくるとかさぁ!その策を乗り越えた先がパラダイス!みたいなさぁ!ロマンがねぇんだこの風呂には!」


ロマンを解する同士達が、感銘を受けたように頷いたり、よく言ったとばかりに拍手を贈る者まで現れた。


「……こいつら、〝透明になったら女湯覗き隊〟か」


とっくに大人の階段を踏みしめている剣には、健全男子のエロマンを共感出来なかった。その呆れを含んだ目付きは、年齢=彼女いない歴の少年達には蔑まれているようにしか見えなかった。


「聖めぇ!嫁がいるからって余裕ぶりやがって!」


「やっぱり脱童貞してやがるのか!」


「まさか……最近追っかけやってる後輩にも手を出してないだろうな!?」


「地獄に墜ちろ!ハーレム野郎!」


「……やっかましいわ」


後輩を摘まみ食いしてるとか、完全に事実無根である。そんな憶測フェイクニュース野郎共には、漏れなく剣さんから抱腹の温水指弾が放たれることとなった。


「あだっ?」


「いてっ!」


「あり得ねぇ……パシャンじゃねぇ……パチンて鳴ったぞ?」


「やっぱバケモンだ聖は……」


広い浴槽の奥から放たれた温水指弾は、一番遠距離で7メートル以上離れた洗い場にいる男子の額にまで命中し、若干(輪ゴム鉄砲程度)の痛みを与え、音を立てて弾けていた。


種明かしすれば、当然指の力だけでなく魔法を併用している。水属性魔法により形成した水球の表面に、更に極薄の水の幕を形成して包み込み、着弾と同時に魔法が解除されるようにして指で弾いたのである。名付けて〝お仕置き水鉄砲〟……剣がもといた世界の魔法使いからしてみれば、目をひんむくレベルの高度な魔力制御技術を超無駄遣いしている、存在意義を見出だせない無意味魔法である。


「風呂はリラックスする場所だろうっての」


あったか~い風呂場に響く、身震いしそうな冷たく重い怒気含みの声。どちらの組の親分さんですか?そう問いたくなりそうな威圧感を放つ眼光を受け、騒いでいた男子生徒達は、一瞬で大人しくなりました。


「ふう、ようやくヒトの生み出した文化の極みを堪能できそうだな」


「……あいつら、湯船に漬かって尚、ブルってっけどな」


「少し熱いくらいなのに、不思議だなぁ」


「お前の仕業だってば」




風呂上がり、剣と一朗が男湯から出たのと同じタイミングで、女湯から出てきた浴衣姿の弓と安芽に鉢合わせた。


「お、そっちも出たトコか?」


「剣、これがロマンだ……風呂上がりでほんのり汗ばんだ肌、半乾きでうなじに貼り付く髪……そして浴衣姿!同級生女子のこんな姿は修学旅行でしか見れん!プライスレスっ!」


一朗くん、ここに来て報われる。弓と安芽のみならず、周りにいた女子全員が引いてるけども。


「イッチー……アンタの正直な性格悪くないとは思うけど……声を大にしてはしゃぐ?……ないわ~」


辛辣な評価をされようと、一朗のテンションはアゲアゲなままである。何故なら、学年トップレベルの美少女二人の湯上がり姿に、偶然遭遇したからだ!


対して、剣は少しも浮かれず無表情である。一朗の一割も弓達に感心を示している様子が無い。


「……イチ、俺売店でコーヒー牛乳買ってくるな」


剣さんは色気よりも食い気。大浴場での入浴後には、冷たい○○牛乳的な飲物が欲しくなる人だったのだ!本音を言えば、湯上がりにタオル一枚腰に巻いた状態で、腰に手を当ててグビグビいきたかったのだが、生憎脱衣場には売っていなかったのである。


そんな剣の背中を、自分の浴衣姿にちっとも反応されなかった弓は、安心半分残念半分な神妙な表情で見つめていたのだが……


「……あのセンスは……どうなのかしら……?」


剣は浴衣ではなく、Tシャツに学校指定のジャージズボン姿をしていた。それに加えて首掛けタオルをしているのだが、弓から見て、問題は表面に〝東大寺〟の筆文字、背中に大仏のリアルイラストがプリントされているTシャツにあった。


紛れもない学校一の美男子が、堂々と観光感丸出しの御当地土産のTシャツで旅行をエンジョイしている姿は、かなりシュールであった。




「聖さん!聖くんの服装センスはどうなってるの!?」


「ほへ?」


部屋に戻って開口一番、梓を強目の剣幕で問い詰める弓。梓にしてみれば何を言われているか判らない訳で、間の抜けた声で応えるしかなかったのだが、弓にはそれが馬鹿にされたように思えて腹立たしくなった。


「おかしいでしょう!どうして……あんな残念なTシャツ着ているの!?」


弓ちゃん的に、格好いい男子がダサい服を着ているのは我慢ならないらしい。つまり、観光Tシャツが剣のセンスとは思いたくなく、梓に勧められて着ているのだと思い込んでしまったのだった。


しかし、梓に弓の気持ちを慮る思慮も配慮も在る筈がなく、素直に応えて残酷な真実を知らしめるだけであった。


「Tシャツって、けんちゃんが今日買った大仏の?けんちゃん旅行先であーゆーの買ってすぐ着ちゃう派なんだよね~。形から入って楽しむみたいな?」


剣はある意味、海外どころか異世界からの観光客である。旅行で様々な文化に触れる事が堪らなく楽しく、見て気に入った風景やら建造物が描かれている衣服を身に着ける事で満足感を得るのである。本人自身は、ダサいとか全然思っていないのである!


「てゆーか、けんちゃんの服装センスで、なんで私がいいんちょに怒られるの?」


「そ……それは、その……」


剣に仄かな想いを抱いているからだとは、横恋慕しているようで、口が裂けても言えない真面目な弓ちゃんである。


「あ~、それより先にさぁ、バッキー解放しない?なんか、そっちのけにされて泣きそうだし」


「な、泣かない!泣いてないし!」


弓の心中を察している安芽(しんゆう)により、場の空気が一旦リセットされたのでありました。


小一時間、布団に巻かれていた椿は、全身汗でムレムレになっていて、哀れな姿であった……


「椿ちゃん……ほんとにゴメンね!明日は一緒にお風呂入れるようにお願いするから、だから自重してね!」


流石に悪いことをした……部屋にいる四人ともそう思った。


「……ま、まぁ絶対触らないって誓うのなら……妥協しよう」


愛しの梓からの御許しに、椿の表情がぱあっと明るくなった。


「本当だな?肢体を網膜に焼き付けてよいのだな!?」


「椿ちゃん!自重だよ!」


「さっさと汗流してこい!酸っぱい!」


雀からの注意は届いているのか否か……椿は嬉しそうに大浴場へとスキップして行ったのであった。




剣達が部屋で寛いでると、梓からのメールが剣のスマホに着信した。


「何だろ?……こっち来ていいか?だって」


消灯時刻まではまだ一時間以上ある。それまでは一応男女で部屋を往き来しても良い(ドアのキーロックは禁止)ので、特に問題は無いのだが、室内のメンバーで反対者がいたら、断るのが暗黙のルールではある。


「いんじゃね?嫁さん達なら気楽だし」


「瀧と左河は?」


「好きにすれば?」


瀧は興味無しとばかりに、スマホをいじいじしながら返答した。


「ほ、他に誰が来るんだ?」


反対に、耕平はソワソワして若干落ち着きがなかった。


「来るメンバーによるのか?昼間のメンバー以外は来ない筈だと思うけど……一応、確認しとくか?」


「いや!そこまでしなくていい!問題ない!」


「そ、そうか?じゃ、返信するけど」


「おう、じゃ、俺着替えるな。女子が来るなら、ちょっとだらしないからな……」


耕平は浴衣を着ていたのだが、上半身はかなりはだけていて、脛毛ボーボーの両足も露出していた。確かに、女子に見せるべき姿とは言い難い姿ではあった。


耕平は浴衣を脱ぐと、急ぎ自分の荷物からジャージを取り出そうとした……したのです。


「お邪魔しま~す……あら……」


「梓……お前、部屋の前で待機してたのか……」


直後に訪れる悲劇と喜劇を悟り、剣は頭を抱えた。


「失礼しま~……」


「どうしたのだ雀……ほう」


「男子の部屋とかドキドキす……」


「安芽?何固まって……!?」


女子の目前には、パンツ一丁の大男…………


そして、女子五人の内、三人は、男の裸を見馴れている訳でも、男に性的興味を持たないガチ百合でもない……常識的感性を持つ乙女な女子高生達だった!


「「「嫌あぁぁ!変態ぃぃい!」」」


「違う!違うんだあぁぁぁ!」


叫び声が室内で反響した。


梓が入室した時点でテンプレ展開を予測していた瀧は既に、すっぽりと布団に身を隠しており、一朗は涙を流して耕平に合掌していたのだった……




余録


巡回している教師や宿舎の従業員、他の生徒を呼び寄せてしまいそうな絶叫は、剣が咄嗟に部屋の出入り口を覆う真空空間を魔法で作り、遮音したので事案発生には至りませんでした。





スミマセン土下座します。

女湯の描写無しでゴメンなさい!

二夜目か三夜目ではきっと……

次回は梓のけんちゃん語り其の壱をやります。

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