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71話目 修学旅行初日 新幹線の中より

ようやく修学旅行開始!

チョコチョコ新キャラ出ます。

「……しまった。富士山を見逃した」


意識があったのは、新横浜辺りだっただろうか……と、剣は思い返す。ふと、目を開けてみれば……既に名古屋を過ぎていたのであった。修学旅行の出発早々、小さなやらかした感に渋い顔をする剣の隣の座席には当然梓が座っていて、剣の肩を枕にして、とても緩んだ……もとい、リラックスした様子で夢の中であった。


「目、覚めたか剣?しっかしよ、よくこんな騒がしい中で寝てられんな、お前等夫婦はよぉ」


剣の呟きに気付いたのか、前の座席から一朗が身を乗り出して声をかけてきた。


「どうにも、乗り物に揺られるとなぁ……特に新幹線って、乗り心地最高だし。普通電車なら、そうでもないんだが……」


「ま、立ちっぱの電車とじゃ違うわな。でもよぉ、普通テンション上がらね?旅行よ旅行!いや、授業ねぇってだけでもアゲアゲだろ!」


「そりゃまあ……う、あぁ~……でも、それと眠気は別問題なんだよな……授業受けてる方がまだ、眠くならないかも」


「ぐはっ!?信じらんね~優等生発言にダメージ喰らっちまったわ……マジ、旅行中に授業の話とか勘弁」


先に授業って単語使ったのはイチの方なのに……そんな事を思いつつ、剣は再度大きな欠伸をすると、周りを見回してみた。成る程、トランプなんかのカードゲームに興じていたり、スマホやガイドブックで情報確認しながら談笑していたり、お菓子をお裾分けしながら普段関わらないクラスメイトとこの機会にコミュってみようと徘徊している者がいたり……中々にざわついていた。


「……賑やかで結構。へぇ、早瀬と舞原も、他の連中に交ざって遊んでるんだな」


「そりゃま、バッキーなんかは興奮して寝てらんねー質だからな。二人を起こさねーように、雀っちが気を効かせてくれたんじゃね?」


「んで、イチは何してたの?」


「お前等が寝ちまって退屈してたっつーの!仕方ねーから別のクラスのダチんとことかで遊んでたよ。普段やんねーけど、こーゆー時のトランプって盛り上がるよなー……って訳で、剣もやらね?」


トランプの束を手に、ニカッと白い歯を輝かせて笑顔で剣をゲームに誘う一朗に、剣は快く頷いた。


「んじゃ、もうちょい面子集めてくるわ。嫁さん起こしとけよ~」


一朗は剣達とは長い付き合いである。気を使って一人だけ寝かせておくよりも、起こして遊びに加えてあげる方が梓は喜ぶと承知しているのであった。


「お~い梓、イチがトランプやろうってさ」


剣に身体を軽く揺すられ、梓は眠たそうに目を擦った。


「……ふわぁ~……目覚ましにチュウが欲しいです」


「すっかり目ぇ覚めてるじゃねぇか。流石に周りに目が多いんだから我慢しろっての」


「むぅ~私は全然気にしないのに」


「……少しは気にしてくれないかしら?聖さん……」


通路に立ち、呆れ顔で額に手をあて、梓を見おろす女子生徒。うっすら染めた長い茶髪に、ヘアバンドがトレードマークのクラス委員長赤月 弓(あかつき ゆみ)である。


「まあまあ、そう不景気な顔しないの弓。今からそんなんじゃ、最終日まで神経保たないぞ~?」


弓の肩をポンポン叩くのは、彼女の親友である蔵田 安芽(くらた あめ)。赤茶色の髪(地毛)をポニーテールにしているのが特徴的な、明るくサッパリした性格の快活少女である。この二人が、宿舎での梓達との同室を承諾してくれた奇特……もとい、善意の塊にしてクラスの良心である。


因みに、この二人はクラス内でトップ2、学年でもスクールカースト上位に位置する人気者な美少女コンビである。


「気にして、と言われましてもいいんちょさん。愛する人と密着していて、キス程度の愛欲が沸かないのは、健康的な少女としてどうかと思うのですが?」


何か問題ですか?みたいな、惚けた表情で応えた梓に、弓は深く、それは深~い溜め息を吐いた。


「……自重してってば。貴女が平気でも、周りが恥ずかしかったり反応に困ったりするんだから……ただでさえ修学旅行で浮わついてる人が多いんだから、影響されて馬鹿なことされたりしたらって考えると……」


弓委員長、今度は胃の辺りを摩りだした。気苦労の多い中間管理職みたいだなぁ……剣はそう思った。


「済まないな赤月。この旅行中、少なくとも人目のある場所で他人から不純異性交遊扱いされる事はしないように気配りするよ。あまり心配ばかりしてないで、お前も旅行を楽しめよ?」


「そ、そうね……聖くんを信用させてもらうわ」


ほんの少しばかりキョドる委員長。それを生温かく細目で見つめる親友さん。心が疲弊しているところに労いの言葉を掛けられたのが予想外で嬉しかったんだね?っことにしといてあげようとゆう目をしていらっしゃいます。


「ま、座ろっか弓。お誘い受けてきた訳だしね」


「……あ、イチに呼ばれたんだ?」


「そだよー。アズっち達と三日も夜を共にするんだし、今から打ち解けとくのもいいんじゃない?ってね。ま、一理あるっしょ。やっぱり夜は、砕けた話もしたいじゃない?」


女子高生が、修学旅行の夜にする砕けた話……即ち、男子禁制の恋バナ、もしくは男子が聞いたら立ち直れなくなるレベルの、女子だけでしか出来ない遠慮ゼロのエロストーク!


「期待してるよ~アズっち。剣んとのラブエロエピソードをこれでもかっ!てのをね」


「くふふ……聞いちゃう?語っちゃっていいのかな?完全にR18になっちゃうよ?生々しい行為の描写を説明しちゃっていいのかな?」


駄目です。この小説はR15設定されているので、過度なエロスは自主規制されております。


「聖さん!過激な発言はやめてちょうだい!そうゆう話は夜にこっそりと……コホン。聖くんもなんとか言って!」


嫁の暴挙を未然に防ぐよう、委員長から懇願されてしまった剣。「このままだと、どんなプレイをしてたりとか、性癖ばらされちゃうわよ!困るでしょう?」と必死な目で訴えられた。


普通の男子高校生なら、自分の性癖なんかがクラスメイト、しかも女子に知られてしまったら、登校拒否るぐらいの精神的ダメージを負い、確実に青春時代に黒歴史の1ページを遺す事になりそうなものだが……剣さんの精神力は、たかだか十数年しか生きていないガキんちょレベルの未成熟さとは比べ物にならない、オリハルコン級の頑強さなのである!


「……梓、あまり盛るなよ」


それだけ!?と、目を丸くする弓と安芽。


「ん?別に隠す事でもねーし、どう表向き取り繕っても、十代後半になれば性知識豊富だろうし、教育上の配慮なんて必要ないだろ?」


幼い妹にさえ聞かれなければ問題なし!なスタンスの剣さんであった。堅物真面目な小町ちゃんにさえ軽蔑されなければ、大抵恥じる事など無いのである!


「剣んって、心が成熟し過ぎてない?マジでタメ?」


「落ち着き方が半端じゃ無いわよね……」


同じクラスになって三年目であるが、この二人に限らず、剣が激しく動揺する姿を見たクラスメイトは皆無なのであった。


「オーっす、お待たせ。も一人追加な」


「よ、よう!トランプやるんだってな?」


一朗が連れて来たのは、身長190㎝オーバーの野球部員で、強面ながら温厚で知られる、スポーツ刈りのスポーツマン左河 耕平(さがわ こうへい)。この旅行中、宿舎で剣と同室となる一人である。


「六人か……ま、座席的に丁度いい人数だな。この人数でやるトランプとなると……」


「やっぱ大貧民っしょ!駆け引きあって盛り上がるし!」


「それはいいんだけど……始める前にルールの擦り合わせしないとね。ローカルルールが多すぎるのよ。ゲーム名ですら、大富豪とどちらが正式なのか定かじゃないし」


大貧民、または大富豪。順番に、より強いカードを場に捨ててゆき、手札を使いきった順番に順位を着けるゲームである。それが基本的な流れなのだが……ババ抜きやポーカーのように、完成されたルールが、日本共通のルールが存在しているのか……学校でも隣のクラスとすらルールに微妙な違いがあったりする混沌ゲームである。


「スタートって、3のスペードからでいいの?私と弓はそうしてるんだけど?」


「今日はそれでいいんじゃない?2ゲーム目からは、大貧民からスタートだよね?」


「カードの強さは3が最弱、2が最強だよな。ジョーカー入れるのか?」


「もち!二枚入れちゃいまーす!」


「それだと……一枚出しだと、ジョーカーでジョーカーに勝てるのね?当然複数出しはアリよね?」


「マーク同じだと、三枚以上で連番出しオーケー?」


決まっている仲間内で無い限り、始めるまでに時間を浪費するのが、このゲームの特徴である。ルール確認の為に会話が必須となるので、ある意味交流には最適と言えるかもしれない……ゲームが始まる迄は。


「やたー!また私が一位であがりっ!」


「マジでっ?嫁さん絶好調じゃん……ああ……また俺っちが大貧民かよ……」


「ふっふ~ん!また納税宜しくね、イッちゃん!」


このゲーム最大の特徴。それは、上位プレイヤーと下位プレイヤーによる、ゲーム開始前の手札交換である。


今回のルールでは、上位から大富豪。富豪。三位と四位が平民。貧民。最下位に大貧民の身分が与えられていて、大富豪と大貧民は二枚。富豪と貧民は一枚の手札交換が行われる。この手札交換が……エグい。先ず、下位プレイヤーは手札交換する上位プレイヤーに手札公開して、望みのカードを持っていかれたあげく、上位プレイヤーから同数のカードを強制トレードされるのである。


即ち、上位プレイヤーにとって圧倒的優位が続き、下位プレイヤーによる逆転が壊滅的に困難な状態が継続されるのだ!


必然的に、搾取され続けていると……心が腐る。


「ちきしょう……十連続大貧民かよぉ……」


「田崎くん……ついてないわね」


「六人もいると、革命の確率下がるしな」


一発逆転のルールである、革命。同じ数字を四枚以上の同時出しして、誰もそれ以上の数字で捨て札しなかった場合に成立する、カードの強さが逆転するルールである!ジョーカーを含めた五枚以上の同時出しを絶対革命とか言ったりもする。


しかし、スタート前に手札を見られたあげくに徴収される貧民と大貧民には、基本的に反乱不可能なのである。


寧ろ、富裕層が自らが抜けた後、場を引っ掻き回して高みの見物する為にやり逃げする事が多かったりするシステムである。


それはさておき、心が腐乱してしまった一朗を余所に、他のメンバーは和気藹々と盛り上がって……いる?


弓と安芽に挟まれた格好で座っている耕平は、恐縮しているかのように大きな身体を縮こまらせていたりとか。


剣と目が合うと、何故か視線を泳がせちゃう弓ちゃんとか。


梓と世間話しながら猥談を引き出そうとしちゃう安芽ちゃんとか。


「いやはや、普段と違う楽しい事が起きそうだねぇ。けんちゃんもそう思わない?」


「そうだなぁ……きっと、誰かが思い出す度に死にたくなる黒歴史を心に刻むんだろうなぁ」


始まったばかりの修学旅行で、既に半泣きの友人を生温かい目で見つめ、古都へと思いを馳せる剣であった。





大貧民、マジで資本主義ゲーム。

他にも、最後の捨て札が2かジョーカーだと負けになるってルールが自分のトコには有ったりします。派生ルール多すぎ!

次回は奈良へ向かいます。

剣達と同室の男子、もう一人登場する予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大富豪に似た、大富豪じゃないゲームの話。 自分の高校ん時は、革命無し、そして革命のハンドは2の後に出されたら即勝ち終了になる(謎)ルールでやったなー。
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