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69話目 人生相談 遥の場合 後編

前編に続き、1対1での会話だけです。

「つうか、どうして俺に相談しに来たんだ?」


「いや、お前女の子にモテるじゃん。中学ん時とか、バレンタインデーに下駄箱や机の引き出しがスッゲェ事になってたし」


敏郎と美鈴が再婚し、それを機に遥は剣達と同じ放明中学に転校したのが中学二年生の頃。当時、遥は剣達と深く関わらないように過ごしていたのだが、人並みに噂を耳にしたり、その行動を目にしたりしていたのである。


「あぁアレな。正直面倒だったなぁ……鞄に入りきらないから平等に手紙とか個人を特定可能なアレコレを抜き取って、職員室まで提出しに行くのが本当に手間だった……」


「……かなり、酷い対応してたんだな」


「そうか?担任の先生は学校にチョコ持ってくんなって言ってたぞ?どうゆう訳か、義務教育ってそうゆうトコ変に厳しいよなー。普段、漫画とかゲーム持ち込んでるのが見つかると没収されたりすんのに、チョコにだけ甘くなるのって、なんか違うと思うんだよな。だから、自主的に不法投棄された不審物を提出しに行ってただけだ」


剣は奔放に生きているようで、自身が不快でない限り、属している集団でのルールは守る。なので、校則に『バレンタインデーのプレゼント持ち込み可』と明記されていない以上、どんな理由があろうと受け取る訳にはいかないのである!添付されてた手紙等は、下手に捨てると個人情報の漏洩になるので、家に持ち帰って内容の確認後にシュレッダーしたが。


「どんだけマジメ君だよ!チョコを贈った子達が気の毒になってきたぜ……」


「解せぬ。不審物の持ち込み主が特定されぬように手間を惜しまなかったというに」


「いや、不審物とか言ってるからな!きっと、思いの丈を込めてのプレゼントをな!」


遥は、姉妹内では小町に並ぶ常識的な感性の持ち主である。当然、剣よりも女子寄りの考え方をして感情移入してしまったのだが……


「……そうゆう優しさって、必要か?」


「ん……いや、それは……」


反論、しようもなかった。今現在抱えている問題が、自分の正義感的なお節介が原因だとも言えなくもなかったから。


「そ、それはそれとして……それで、上手く振れたのかよ?」


「いや、全然!」


「駄目だったのかよ!」


「そりゃま、なんも関係ない女子から非難轟々だったさ。「チョコぐらい受け取ってあげなさいよー!」的な?あれは腹が立ったなー。どうして親しくもない連中から勝手に人の下駄箱やロッカーや机の引き出しに入れられた原材料不明の食い物を有り難く受けとらなきゃいかんの?手作りチョコなんて安全性保障されてないのにさ」


「そうゆう、他人を悪者に出来る時に連帯する女子っているよなー。あれは確かにアタシも苦手だけどよ。でも、安全性って……あれか?普段料理しないのに、こんな時だけ頑張り過ぎちゃった感の、ラブコメ的な殺人級不味さのとかか?」


そんなの、現実的に有り得ないだろ?と、遥は失笑気味に茶化したのだが……


「いや、前年度に同じ目に遭った奴等が、リアルに下剤を混入させたりしてたみたいでな。覚えてないか?バレンタインの翌日、教師が何人か欠勤してたろ?」


「……あったわ~……」


因みに、剣はチョコレートを職員室に届け「処分してください」と頼みはしたが「先生方で召し上がって下さい」とは一言も言っていないので、何一つ悪くない!


「まぁ、だから、アレだ。後腐れなく女を振る方々なんて俺は知らない訳だ。なんで、波風立つのを覚悟して心をへし折るつもりで対応してるな、俺の場合は」


「心をへし折るとか、平然と言うかよ……」


遥は、それが出来れば苦労は無いと肩を落とした。遥が相談に来た理由であるバイトの後輩みやみゃーこと、学校の後輩でもある春乃宮 都(はるなみや みやこ)は、御都合解釈思考者である上、癇癪持ちでもある真性厄介ちゃんだったのだ。


なので、可能な限り迅速に問題解決を図りたく、家族内で一番恋愛事で頼りになりそう且つ、真面目に相談に乗ってくれそうな剣に、羞恥心やプライドを押し退け、恥を承知で相談を持ちかけたのであった。


しかし、思っていたような劇的な解決法や、せめて有効な助言すらも得られず、遥は落胆していた。そんな遥に、剣は「はぁ~~……」と、重く溜め息を吐いた。


「何だよ、呆れたのか?」


「いや……これはそうじゃなく、同情……寧ろ、共感だな。俺の方も、最近やたらポジティブなのに付き纏われてるからさ」


しかも、三人である。


「っとにさぁ、とんでもない誤解と思い込みされてんだよ。……結果的に助けたのは事実ではあるんだけど、それが偶然だったて説明したのに、謙虚だの奥ゆかしいだの御都合解釈してくれやがって……本当に疲れんだよなぁ」


「それ、アタシも分かるなぁ……こっちの言葉よりも、激しい思い込みを真実だと信じきってる感な。しかも、アイツは変態なんだよ!普通、初めて口聞いた相手の手を撫で回したりしねぇだろ?」


直ぐに同意を得られると思った遥だったが、剣は顎に手を当て思案する素振りを見せ。


「……まぁ、少数派ではあるだろうな。でも、梓に比べれば大した事もないかな?初対面で、いきなり唇を奪われた身としてはそう言わざるを得ない」


剣の真顔での返答に、遥は思わずミニテーブルに頭を打ち付けた。


「……梓って……マジなんなん!?お前らが出会ったのって四歳そこらだったよな?ああ、そういや梓は昔からああだったって、言ってたっけか……」


「そうだなぁ……ま、受け入れちまえば変態がいるのも日常の一部でしかないからな。それに、変態だって人の一面でしかない訳だし。そう考えると……義妹扱いしてやれば満足して制御しやすくなるかもしれなくね?」


「いや、そもそもアタシ百合っ気ないから。運命感じてないし!完全にストーカーだしアイツ!つかさ……この家を発見されんの時間の問題だと思わねぇ?」


「……ん、それは確かに厄介だな。運命のお姉様が、血の繋がらない姉妹と一つ屋根の下で暮らしているなんて、百合系の少女から見たら羨ましくて嫉妬するしかない状況だもんなぁ」


遥から聞いた話の限りでは、都なる少女の恋愛観は個と個の間で在るべきらしく、独占欲も強そうである。もし、妹達に嫌がらせでもされたりしたら……そうなる前に、事前に策を講じるべきだと考えるのが、妹大切お兄ちゃんの剣である。


早速、対抗策を思案する剣に対して、遥から突き刺すようなジト目視線が向けられた。


「……あのさ、剣。順番が……間違ってないか?」


「へ?何が?」


「いや……普通、嫉妬の対象になるのって……男のお前の方じゃないか?」


「……………………あ!成る程!」


剣さんは、遥ちゃんを恋愛対象として認識していなかったので、すっかり常識的判断をしていなかったのだ!


「いいけどさ!同じ家で生活してる分には安心だけどさ!そう思わせないように振る舞ってたけどさ!……女としてのプライドにヒビが入ったよ!」


ヒビどころか、割れ砕けそうな亀裂が走ってるかもしれない。遥は内心そう思った。


「……これで、女に対してナチュラルに『可愛い』だの『綺麗』だの言うんだから……そりゃ誤解もされるわ……だからモテるんだな、きっと……」


「?……よく分からん」


剣は(前世や魔法関係以外)基本的に心を偽らないので、普段ほぼ素の反応しかしない。ツンしたり恥ずかしがって本心と反対の感想を口走ったりしないので、感想を求められたら、感じた通りの真実しか述べないのだ。よって、女性に対して『可愛い』とか言ったとしても、それは好意があるからでも、ましてや下心からでもない。言われた側からすれば「もしかして、気がある?」と思ってしまう台詞であっても、剣にしてみれば感情を込めずに客観的事実を述べたに過ぎない……つまりは、天然発言でしかないので、それが好意を抱かれる要素であると言われても、実感が掴めないのであった。


「しかし……そうか、遥を独り占めしたいソイツにとっては、俺の存在は面白くないか。事実として何も無いと説明したところで、思い込みで湾曲させた妄想を真実と誤認しそうなキャラだよな……ま、俺をターゲットに嫌がらせでもしてきたら、逆に早期解決出来そうだけどな」


僅かに口角を上げて笑みを浮かべる剣。明確な悪意を以て敵対した相手に、この男は容赦しない!それが、年下の美少女であろうとも!


「な……何するつもり、なんだ?」


「そりゃ……二度と馬鹿な真似しないように、トラウマに成るほどの恐怖を魂に刻み込むのさ。例えば……口の中に石を詰め込んで、顎を蹴りあげるとか?」


「発想が極道!」


想像し、顔を青ざめさせる遥。そんな事をされたら、確実に顎が砕けて歯がボロボロになり、一生固形物を食べられなくなってしまうかもしれない!


「地味だけど、爪を剥ぐのもアリだな」


「痛い!痛いってば!」


「手足を縛って、裸に剥いて、男子便所に放置」


「過剰防衛の域すら逸脱してる!それ犯罪!」


「やっぱり、焼いて砕くのが確実か」


「そうだな……な訳ねぇだろ!ナチュラルに鬼畜発言すんなよ!」


「まあ、通報して警察が仕事しなかった場合の話だから」


「日本の優秀なポリスメン!どうかストーカー犯罪に真剣に取り組んで下さい!防犯大事!」


この時、遥は本気でそう願った。先日目撃した、多人数を圧倒する桜の戦闘力。それを育て上げたのが、剣なのである。遥自身は剣の実力を見たことはないが、最低限でも桜と同等以上であることは容易に想像出来た。その、容赦の無さも……


「アタシがどうにかしないと、春乃宮の人生、終わるな……」


相談しにきて、望んだ答えは得られぬものの、重大な情報は得られたと感じた遥であった。


どう考えても好きになれない変態ではあっても、酷い目に遭ってしまえと思うほど憎んでいる訳でもなく、そうなった場合にいい気分でいられるような図太い神経はしていないのだ。


「あんがとな、相談に乗ってくれて。当面自分でなんとかしてみるわ。ヤバいと思ったら、また話にくるからよ……」


「そうか?まあ、お互いに難儀なことだなぁ。まさか、こんな悩みを遥に聴かされるとは思わなかったけど」


「アタシも、こんな悩みを抱える日が来るとは思ってなかった……人を遠ざけて生きてたのにさぁ……」


それが、他者を寄せ付けぬように非行少女な装いをしていたのに、何故かお姉様と呼ばれて慕われている……世の中は不条理である。


「……でも、これまでは上手くいってたんだろ?なら無駄な生きざまだった訳でもないだろ。神様でもないんだから、突発的なイレギュラーの出現まで想定するなんて不可能だって、あんまし気に病むなよ?」


「無駄じゃなかったか……そう言われてほっとしたよ。それはそうと剣……言い回しが厨二っぽくね?」


「そこを弄るなよ……桜の影響だから苦情はそっちにな。そういや、この事って他の皆には?」


「実鳥には言ったよ。……思いっきり苦笑いされたけどさ。それで、誰かに相談するなら剣が一番頼りになるって助言されてさ」


「実鳥ちゃんが?」


「ああ、アネさんは恋愛初心者だし。梓は相手の娘に共感しちゃいそうだし。翼と希は、事態をかき回すだろうし、桜は現実離れした創作物を事例にしそうだし、小町は……悩みを増やすだけだからってさ。アイツ、案外皆の事を見てるし、言うようになったよなぁ……」


「普段、一歩引いた立ち位置から俯瞰してる感じはあるよな。それと、本人無自覚だろうけど、身内に対して遠慮しなくなってる気が。小町を直情型ツッコミとすると、実鳥ちゃんは冷静判断型ツッコミ……みたいな?それにしても、消去法で俺とか……それでいいのかウチの姉妹は……」


遠い目をして呟きながら、剣は、実鳥の間違っていない人選をしていることに、ちゃんと家族を見てくれて、馴染んでくれていることに安堵したのであった。


「……一応、姉さんと翼と希にだけ、俺から説明しておくよ。家周辺の警備態勢を強化するには姉さんの協力が必須だし、双子は……ほっといても『29Q』に遊びに行くだろうから、遅かれ早かれって奴だ。案外、アイツ等が悩みを解決してくれるかもな」


「いや、火に油を注ぐイメージしか浮かばないんだが?」


「大丈夫だって、二人とも遥の事を好きだし。困らせはしても、洒落にならない悪戯を家族に仕掛けたりしないからさ。まあ、注ぐのは油は油でも、灯油……或はガソリンかもしれないが」


「……既に悪戯の域越えてる!灯油やガソリン喩えにする悪戯って何?テレビのドッキリレベルかよ!?」


「上手い事を言う。ま、物の喩えだし、実際に火事やら爆破をしたりはしないから安心しろって……のも無理か。気休めに、修学旅行で御守りでも買ってくるからよ」


「……恋愛成就とか買ってきやがったら、顔面に叩きつける」


遥は剣を睨んだ。膨れっ面で、スッゴく睨み付けた。まるで「双子みてーな真似すんなよ!」と。ただし、バイト明けの、限りなく素顔に近い顔で、である。


なので、剣はありのままの、事実としての感想を述べるのみである。


「そんな可愛い顔で凄まれても、ちっとも迫力ねーぞ?」


「だ!……だから!……気軽に可愛いゆーなっての!」


顔を真っ赤にした遥が部屋を飛び出したことで、初めての義妹の人生相談は終了したのであった。


「……やれやれ、乙女心は難しいものだな。何千年と生きてはいても、女性になった経験の無い自分には理解不能なのかもな」


理解していれば、もっと上手くやれたのだろうか?


この夜。前世の世界に残してきた少女を想いつつ、その後の幸福を祈りながら剣は眠りに着くのであった。




都ちゃんの運命や如何に!?

それはさておき、次回は修学旅行!の前日の話。

修学旅行が終われば、五月の話も終了です。

六月……どんだけ先になるかなぁ?

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