65話目 相談する相手を間違えている 後編
ユニークPVが5000突破しました!
自分の妄想が五千人の目に触れたのか……?
まあ、ほとんど2、3話で見限ってくれてるけどね!
それでも有り難う御座います!
「三人揃った。取り敢えず、正座」
「先ずは軽く、説教する」
耀と南耶が屋上に到着するなり、翼と希は二人を錫羽の横に並ばせ、固い床の上で正座をさせた。
「な、なんです、いきなり……?」
口ごたえする耀であったが、双子の普段以上に無機質な声音と、自他共に認める人気者が見せてはいけない、完全に人を見下している、凶悪な細い目付きで睨まれ、すごすごと従った。
「よくも、お兄ちゃんを利用しようとしてくれた」
「貴女達が人生終わりそうな目に遭う危険に、無償で巻き込もうとした罪を知れ」
実際巻き込まれたとして、剣にとっては危険どころか、蝿や蚊をはたき落とすよりも簡単な作業でしかなかっただろうが、事もあろうに敬愛する兄を都合よく振り回そうとしてくれた命知らずに、一言物申してやりたかったのだ。
「全く、小賢しいのは無知より始末が悪い」
「一つ間違えば、悪霊云々以前に、お兄ちゃんにボコられていた」
「そもそも色仕掛けでどうこうしようとか……」
「私達とゆう妹のいるお兄ちゃんに、浅知恵にも程がある」
「あぐぅ!?」
ぽよんっ!と震える双子の豊満な胸を間近で直視し、耀が羞恥に顔を紅く染めて心臓の辺りを手で抑えた。耀は双子とクラスが違うので、正直双子の美貌を嘗めていた。元々自意識過剰気味な性格であったため、直接見比べれば自分の方が上であると、根拠無き自信を抱いていたのだ。その自信は、たった今完全に粉砕されてしまったが。
「だからやめとけって言ったんだ。耀ぉ~」
やりきれなさそうに耀を非難する南耶。
「ほんと、ウチの残念おでこが無礼な真似してスンマセンっした!友人として、暴挙を止められなくてマジ謝罪しゃすっ!」
そして、易々と罪状の大半を擦り付けた。無論、気安い友人関係故の、冗談半分であるが。
耀もそれは解っているので、南耶に恨みがましい視線を向ける程度で済ませる。
「え、えーとね、耀ちゃんは剣先輩にも散々残念扱いされて、それなりにお仕置きもされてるから……許してあげてくれないかなぁ?」
事実、耀の襟首を覗けば、うなじには剣の指型の痣がくっきり紫になって残っている。にゃんこ掴みされた痕跡だ。
「うぅ……だって、私の方が絶対に梓先輩より美人だし……南耶と錫羽だって可愛いもの。三人でなら落とせない男なんていないと思ったんだもの……」
それここで口にするか!?南耶と錫羽が眼を大きく見開いて表情を青ざめさせた。そして、虫けらを睥睨するように見下す翼と希に対して「私達はそんな事思っていません!」と言いたげに、ブルンブルンと高速首振りを披露して見せた。それはもう、二人に挟まれ正座している耀が、冷や汗の飛沫でびしゃびしゃになる勢いで。
「そう……私達の前で、梓ちゃんをディスるとか本当にいい度胸してる」
「梓ちゃん自身が自虐的ネタにするのは仕方無いけど、他人の分際で言葉にするか」
双子にとって、梓は義姉であると同時に、最も付き合いの長い親友である。
翼と希は、前世での感情を持つ事が許されない殺伐とした生体兵器な記憶と知識を持っていた影響で、生後間もなく地球の文明レベルの低さに愕然としていた。それで「私達でこの星征服しようか?」と本気で考えていたりもしたのである。
そんな独裁者まっしぐらな思想を変えたのが、剣と梓であった。超絶先進文明の産物をして、剣の使う〝魔法〟は驚異にして脅威であった。将来的には前世の知識にある兵器を再現すれば剣を排除するのも可能だと考えもしたが、兄として自分達を惜しみ無く愛し、守ろうとしてくれている剣を敵に回してまで世界征服に拘るメリットは、一切無いと気付いたのである。むしろ剣を味方にしておく方が、何をするにも圧倒的なアドバンテージであると確信したのだった。
その為、双子は家族に素直に甘える子供を年相応に演じる事にしたのである。しかしながら、感情を得たことにより、甘えるとゆう行為自体の心地良さに、次第にそれが素になってしまったのであるが……
そんな折りに、敏郎の再婚で新たな義姉が家族に加わる事になったのが、梓である。当時の双子は「幼児の思考を誘導して、都合のいい手駒にするなんてチョロい」と、大した問題とは考えていなかった。
だが、梓は双子の想定外だった。
敏郎の再婚相手である夕樹との初顔合わせの場での事、夕樹に隠れるようにしていた梓は、緊張した面持ちでひょっこり顔を出した瞬間に、双子を含む聖家の面々が頭に?マークを浮かべる程に、その表情を熱で浮かされているかのように蕩けさせたのである。そして、夕樹の心配する言葉にも気付かず、フラフラとした足取りで剣に歩み寄ると……そのまま唇を奪ったのである。
一目惚れからの、告白すっ飛ばしディープキス(当時四歳同士)であった。
これにはその場にいた誰もが度肝を抜かれた。誰も理解が追い付かなかった。母親である夕樹ですら我が子の行動に首を傾げて冷や汗をかいていたし。光は真っ赤な顔でハワハワしてたし。剣ですら、初めての経験にどうしていいか判らず、無抵抗でされるがまま。そして双子は「チョロいって言葉すら生易しい」想定外過ぎる存在の梓に、転生後初めて、何の特殊能力も持っていない人間に一目置いたのである
そして、それまで家族が自分達を大切にしてくれていたのに比べて、梓の双子への関わり方には決定的に欠けているものが在った事が、双子にとっては、とても衝撃的であった。
梓も光や剣に劣らず双子を可愛がったのだが、そこには一切の義務感が無かったのである。単純に、双子が可愛くて仕方無く、義妹が出来た事を無邪気に喜んだのである。
剣と光、敏郎にとっても翼と希は、芽生が命と引き替えに遺した大切な家族であり、「何があろうと護らねばならない」と責任感や気負いがあったのも事実であった。それは決して悪い事ではないし、双子にとっても心地悪い訳ではなかった。
だが、梓から与えられた純粋な好意からは、それが全く無かった。その無邪気さは子供だからだと言ってしまえばそれまでなのだが……当時の双子にとっては、梓を受け入れるのに不足ない理由だった。
そして双子にとって最大の計算違いは、梓は四歳にして『愛情』を行動原理として確立させていて、容易く思考を誘導できるような柔な性格をしておらず、逆に双子の方が『愛情』を中心に据えて思考するまでに影響を及ぼされたのであるが……
ひょっとしたら、地球人類は一人の少女の底抜けの愛情により、悪魔的頭脳を持つ双子の支配する未来を回避したのかもしれない。
そんな有り得たかもしれない平行世界の話は置いといて、普段は軽口を叩きあいながらも、双子は梓の愛情深さを尊敬し、今生最初にして最高の親友にして、大切な兄に寄り添う義姉として相応しいと、ある意味崇拝すらしているのである。
長くなったが、双子にとって梓はかけがえのない、とっても大切な存在である。その梓を目前で他人にディスられて、怒りが軽~く沸点に達したとしても……しょうがないよね?
「はぎゃっ?痛い痛い痛いっ!止めて!ち~ぎ~れちゃうっからっ!」
「……今しばらく、断罪と必罰の時間」
「暴れると、本当に千切れる」
耀に執行されている処刑は、右耳を翼に、左耳を希につままれての人間綱引きの刑であった。既に裁きではなく処刑中である。お奉行様がいないので公平な判決は成されなかったのだ!
涙目ウルウルな耀ちゃんであるが、あまり暴れるとリアル芳一さんになってしまう可能性が高いので是非とも大人しくしてほしい。まあ、暴れたくとも腕も背中でクロスした状態で捻られ関節を極められているので、余計に痛くなるだけなのだが。
「ご、ごべんなざいぃ~許じてぐだしゃいぃ!」
「ん、反省したようで宜しい」
「今回はこの程度の拷問で許す。飽きたし、本題に入る」
飽きなかったらどうなってたの?拷問を目の当たりにしていた南耶と錫羽も涙目でガクブルしていた。三人組は半端にも生死の掛かった戦いの経験をしている為、本物の死線を何度も潜り抜けた経験を持つ者が放つ殺気を敏感に感じ、萎縮してしまっていた。
「さて、それでは相馬と伏美に問う」
「菱守がお兄ちゃんに惚れたらしい。どう思う?」
乙女の恋情に配慮無しのストレートな問い。そして呼び捨て。双子は三人組を完全に下位存在として認定したのだ!
「錫羽!抜け駆けしたのか!?」
「昨晩結んだ協定を無視したの!?」
「ち、違うよ!聖さん達に先輩の好きな食べ物聞いただけで……情報は共有するつもりだったの!」
『協定』その単語で、双子は大方察した。三人纏めて墜ちてやがると。
……実に、楽しい展開だ!
「因みに、相馬と伏美にとって、お兄ちゃんの印象は?」
「説明が明瞭でシンプルであるほど、私達に好印象」
痛みに耐えながら考えを纏めようとしている耀に先んじて、南耶が興奮しながらハイテンションで答えた。
「強い!クール!格好いい!もう、憧れがとまんねっす!」
「……うむ。とても単純で結構」
「もう少し語彙力が欲しい」
双子の結論。コイツの恋愛観は小5。
「解ってないわ南耶!剣先輩の魅力はその程度ではありません!」
耀が胸を張って立ち上がり、鼻息荒く、ふすっ!と息を吐く。仁王立ちして見せたものの、長く正座をしていた所為か、脚がプルプルしていて今一格好付かないのが残念。
「剣先輩のチャームポイントは……ツンデレです!あんなに私に冷たくしておいて、実は助けてくれる気満々だったのよ?なのに、素直に手助けすると言えない恥ずかしがりやさんで!影ながら私を見守ってくれたのよ。だから絶妙なタイミングで私を助けられたのよ!もう……その気があるなら言ってくれればいいのにぃ❤」
「……流れるような御都合解釈」
「むしろこの子がツンデレ」
陶酔している耀に、双子の呆れ百パーの呟きはスルーされた。なので、黙らす為に双子奥義『腹パン&ハートブレイク同時ショット』が炸裂した。取り敢えず、耀はもんどりうって蹲った。
「まあ、三人の気持ちは解った」
「それで?お兄ちゃんには既に梓ちゃんがいる。貴女達では、梓ちゃんに勝ち目は無い」
それには、南耶と錫羽は黙るしか無かった。義姉と義弟での恋人関係が家族に公認されていて、同居しているのである。アドバンテージが桁違いなのだから。
それでも、苦悶の表情を浮かべながら耀は何ごとか言いたげにしている。しかし、これ以上喋らせるとマジで命が危ういと、南耶と錫羽の二人がかりで羽交い締めにされた。これ以上無いファインプレイに、双子は両手でサムズアップ。親指が四本並んで立った。
「まあ、慌てず聞くべし。略奪愛するつもりなら私達は絶対許さないけど……」
「そうでないなら、片手間に助言程度はしなくもない」
言ってる意味が分かりません!三人組は、揃って「は?」と発声したまま、口をポカ~ンと閉め忘れた。
「紡いだ絆。その為の時間と労力。何より、誰よりもいち早くお兄ちゃんの器を見抜いた梓ちゃんの、本妻座は誰にも奪わせはしない」
「しかし、側室。愛人。妾。肉奴隷。なれるものならなるがいい!……と、言わせてもらう」
実妹からの、二号さん推奨発言に、慌てずと言われていても、慌てないでいるのは無理な話であった。
「いや……それ、どゆことっすかっ!?」
「梓ちゃん、ハーレム肯定論者だから」
「むしろ、嫁を増やしたいと言ってた」
「ええ~?梓先輩、なんてアブノーマルな……」
不潔だよ!と、言いたい錫羽であったが口を噤んだ。言ったらどうなるか、耀が身をもって示しているのだから……
「愛の形は人それぞれ」
「現代的倫理観に拘るならば、諦めるべき」
「み……認めません!それは……梓先輩の価値観でしょう!剣先輩自身はどう思ってらっしゃるのですか!?ぐへっ?」
吼える耀に、「余計な事、言うな馬鹿!」とばかりに南耶がチョークスリーパーを極めて黙らせた。ペチペチペチペチ!高速タップが響き渡る。
「お兄ちゃん?……「結婚なんて、ただの制度だろ?」ってスタンスだけど?」
「少子化問題に対し「重婚を公的に認可すれば、多少は子供増えるんじゃね?」とも言ってる」
※注 剣さんは異世界に長くお住まいの経験がありますので、身分の高い人達がハーレムを築くのは当たり前だとゆう価値観が出来上がっているのであって、女性蔑視な考えをしている訳ではありません。異世界には逆ハーレムだって沢山あったのです!
「しかしながら、お兄ちゃんは真面目で誠実。遊びで女に手を出すようなチャラさは皆無」
「梓ちゃんを大事に想っているし、梓ちゃんと仲好くなれない女は門前払い。難攻不落」
そう、剣はハーレムを肯定しているが、自分の嫁を無理に増やそうとは思っていないのである。後宮を肥大させ、国すら自滅させた色ボケ君主だって沢山いたのだ!
「……さて、ヒントはあげた。諦めてないなら、玉砕覚悟でアピールしてこい」
「骨は拾って……あげない。何度でも立ち上がれ。根性無しには、お兄ちゃんの女になる資格無し」
訳すと「どうせこっぴどくフラれるだろうけど、それで諦める女にお兄ちゃんは興味持たないからね?心折られて落ち込む姿を、何度も見せて私達を楽しませてね!」である。
こうして、双子に焚き付けられた三人組の剣への猛烈アピールが開始されることとなった。
一つ言える事があるとすれば、錫羽がもっと勇気を出して、双子ではなく梓に先に相談していれば、愉快犯な双子に、事ある度に振り回されずには済んだであろう……多分。
他人に対して性格悪いなこの双子(笑)
でも、さりげな~く剣の攻略法(遠回りだけど)を本当に教えてあげているので親切かもしれない。だろうか?
次回は、姉のバイト先に妹(実の)が遊びに行ってみた話にでもしよう。
 




