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63話目 悪霊を退治してみる

今回も姉妹は出ません!

次回は出します。

「ちょっと面倒臭いことになったな……」


午後十時過ぎ、自室で真っ黒なジャージに着替え、更に時期外れの黒いマフラーで顔を隠す……そんな厨二病的な忍者チックスタイルに身を包んでいるのは、夜の学校に忍び込む事にした剣であった。


どうしてこんな格好をしているのか?その理由を知るには、話を本日の放課後まで遡る事になる――




「私達三人、ゴーストハンターの見習いなんですよ」


「そうか、専門外だから他を当たってくれ」


普通の、学園異能物が好きな高校生であれば胸が熱くなりそうな告白を受けて、剣はとことんクールに拒絶を示した。


別に、疑っている訳でなく、自身の存在自体が現代日本では架空要素であることを重々承知しているので、突然ファンタジーと遭遇しても「まあ、たまにはそんな事もあるか」程度の心構えは常にしているのだが……本当に悪霊とかは専門外なのである。一応、そうゆう実体の無いモノを倒せる魔法も使えはするが、魔人とかモンスター的なナマモノとの戦闘経験に比べたら霊体系を相手にした回数は微々たるものなのであった。


だが、それはあくまで剣の常識であり、悪霊が専門であるらしい後輩達には〝専門外〟なる単語が冗談としてしか通用しなかったのである。


「またまたぁ、何言ってんですか?ついさっき耀を持ち上げた時だって霊力で体を強化してたじゃないですか?あんな瞬時に予備動作もなくアレが出来るなんて絶対素人じゃないっしょ!」


「そうです。あんなレベルでの身体強化……普通なら数十年以上の鍛練を積み重ねて会得できるかどうか……何処で修行をなされたのですか?」


当然、剣には説明する義理も義務もないので黙秘権を行使した。


埒が開かないので、南耶と錫羽は事情説明を続ける事にした。その影で耀も喋りたそうにしていたが、剣が睨みを効かせて「黙ってろ、残念おでこ」と威圧したので、大人しく地面にお絵描きしていじけている。


「話を戻しますが、私達はゴーストハントの請負をしている探偵の助手……の見習いをやってまして、そこの先生から課題として学校の怪談の調査を命じられたんですよ」


「へ~……この学校にあったの?七不思議とか」


凄く関心無さそうにとぼける剣。もしあったとしたら、ここ二年で、自分が幾つかの不思議を上書きしているかもしれない自覚はあるからだ。


「それはまた追々……それで、調べた結果かなり厄介な奴がいまして……私達だけだと徐霊すんの難しいな~……と」


それは大変だ!俺で良ければ微力でも力になろう!……勇者だったらそんな台詞で、疑うことなく困っている少女の助けになろうとするシチュエーションであるが、そんなお約束は勇者ではない剣には関係ない。


「そんじゃ、退治しなけりゃいいじゃんか」


とか言ってしまうのが、元聖剣のクオリティー。


「「「え!?」」」


これには三人娘、思わぬ返答に驚きを隠せなかった。


「いや、命じられたのは調査なんだろ?手に負えねーなら先生とやらにそう報告すればいいんじゃねぇの?退治する必要ねぇと思うけどな~」


引き際を見極められるかもを含めての課題なのではと、剣は思ったりするのであったが、それを口にするほど親切心でお節介を焼くような親密な相手ではない。一応助言はしたので、後は退くなり、玉砕するなり好きにしろなスタンスである。


だが、見習いだけあって未熟な少女達は、そこまで思慮深くはなかったのである。


「そうは言いますけど先輩。言われたことしかやらないって……無能っぽくないですか?」


「そうです。剣先輩の協力があれば、先生が想定している以上の成果が上げられるんです!」


「人々に害を成す悪霊は即時殲滅!お忙しい先生の手を煩わせるまでもありません!」


(いや……それで俺の手を借りようってのは……どうなん?)


他人の手を借りての成果で満足なのか?剣はそう考えながら、戦力を現地調達するのも、ある意味才覚として認められるのだろうか……そう思い至った。どう採点するかは先生の判断に依るのであろうが。とは言え、剣には未だ手伝う気はゼロなのであった。しかしながら、悪霊とやらが万が一にも妹達に危害を加える可能性が有るとしたら……それを事前に察知する機会を得てしまった以上、何もしない訳にもいかなかったのである。その為には先ず、情報が必要となる。


「……その悪霊、具体的に……どんな害があるんだ?俺が入学してから、怪異じみた事件なんて起きてないんだが?」


「そうっすねぇ……悪霊が力を増すと、精神的な作用が強くなります。ネガティブな思考している奴なんかは、鬱病に成りやすく……だったよな?」


南耶のざっくりとした説明に、錫羽が補足を加えた。


「正確に言えば、繊細で感受性の強い人が、悪霊の放つ負の波動を無意識的に受動してしまい精神に負荷を受け、体調不良をきたすようになります。そこまでのレベルになると、私達の霊力では太刀打ち出来なくて……」


(案外、大したこと無いなぁ)


剣としては、人に憑依し呪い殺すような、井戸から這い出て来そうなのを想像していたので拍子抜けだった。だが、専門家ではないので迂闊に口には出さない。戦いに於いて、僅かな油断が致命的な危機を招く事があるのを、豊富と表現するには膨大にすぎる経験で魂に刻み込んでいるからだ。地球での悪霊との戦闘経験がゼロである以上、どれだけ雑魚な存在に思えようとも、実際に倒せるかは別問題。戦闘では強弱以上に、相性が重要となる場合があるのは常識なのである。


そうなると、最も必要な情報は、抹消方法である。


「具体的に、どんな方法で倒すんだ?」


「基本的には、霊力を身体や武器に纏わせて……ボコります!」


「私は自分の霊力を込めて作った霊符を使用した術で」


「先祖代々受け継がれた破邪の剣で!」


南耶、錫羽、耀の順での答えである。


「要するに……霊力の帯びた攻撃なら、正攻法で倒せるって訳だな?ふむ、祈祷やら特別な手順は必要としないと……それなら俺でも出来そうだな」


確認の為の呟きに、三人娘は助力を得られそうな期待に満ち溢れ、過剰に瞳を輝かせた。


「それで、報酬は?」


「「「は?」」」


「は?じゃねーだろ。まさか、俺にボランティアさせるつもりだったのか?お前らの業界の相場が幾らか知らねーけど、危険手当ても上乗せして、お前らの先生が正式の依頼として受け取る報酬分は払えっつってんだよ」


後輩を恐喝しているように見えなくもないが、言い分は至極真っ当である。一度でも無報酬で手伝ってしまっては、今後も気安く厄介事を持ち込まれかねないからだ。……プロと同等の報酬を要求するのは如何なものと言えるが。


剣の要求に、三人娘は顔を付き合わせて密談を開始した。


「どうするよ?先生の依頼料って……馬鹿高いよな?」


「高校生になって私達もバイト代貰えるようになりましたけど……何ヵ月タダ働きすることに……」


「だから、誘惑して籠絡するべきだと言ったのです!」


喧々囂々と意見を交わす後輩達を余所に、剣は最低限の情報は入手したと判断し、そろりそろりと忍び足で、別れの言葉も告げずに体育館裏をあとにした。報酬を要求したのは便利に扱えない奴だと印象付けする為であり、もし要求に即決で応えられていれば今回限りでの協力とするつもりであったのだが……それが見込めそうにないので付き合いきれなくなったのである。


「さてと、こっちの都合でやらせてもらうか」




そして、その夜。


闇に染まった空を、駆けるように飛翔する黒い人影があった。全身黒ずくめで、風属性魔法による姿勢制御と空中への足場形成。その足場を身体強化した脚力で踏みつけ、トランポリンのような反発力で空を駆け抜けるのは剣である。


剣は現在清央高校に向けて、〝闇夜の空を駆ける忍者〟と化して他人様の屋根の上を通過している。個人を特定されないように全身黒一色にして目立たないようにしているので、少々ケータイや監視カメラに撮影されてSNSで拡散されても別にいいやと思っている。


こうして、都市伝説が量産されてゆくのだが、やはり自分だと特定されなければ構わないので、剣はいちいち気にしていないのだった。


普段なら徒歩で二十分程度の道程を、直線的にショートカットした上、かなり加速していたので三分足らずで学校に到着した。剣は一先ず、校舎の屋上に着地して周囲の様子を伺った。


「さて……この手の魔法はしばらく(転生して)使ってなかったんだが……」


剣は床に手のひらを押し付けると、属性変換していない純粋な無属性の魔力を薄く広げるようにイメージし、屋上いっぱいにまで魔力の膜を敷き詰めると、その膜を校舎に浸透させ、地面にまで降下させた。魔力が浸透した物質の形状を判別する索敵用の探知魔法である。その際、魔力濃度が高い物質に干渉した場合には術者にその反動が伝わるので、大まかな場所や数、動作の有無まで判別が可能である。


「こっちの棟はハズレか……さっさと次に行こ」


霊力が魔力と同意、または同質である以上、探知魔法で霊力の塊である幽霊を察知可能な筈。それが道理であると剣は推測し実際に試してみたのだ。取り敢えず、現在いる教室棟では空振りだったようであるが。この探知魔法の利点は魔力を極薄の布状とし、極力魔力の消費を抑えることで、探知される側に察知されにくいことにある。もし、後輩三人娘も徐霊に来ていて鉢合わせになったりするのは、剣にとって不本意だからだ。


さて、毎朝規則正しく早起きし、愛犬の散歩を日課としている剣が、普段寝てしまっている時間に学校に来ている理由であるが、それは証拠を残さずに悪霊を始末してしまいたいからであった。


後輩達が報酬を用意していなかった以上、協力するのは完全却下に決まっていた。報酬無し、又は報酬額を妥協してしまっては、頭に乗って図々しく(耀辺りが)協力してもらって当然な態度になりそうな気がしたからである。


だからと言って、危険そうな存在を放置するのは剣の主義にそぐわない。だからこうして、人知れず悪霊を退治してしまおうと思ったのである。


本当にそれだけの理由なので、後輩三人娘に対してツンデレしている訳ではないのだ。敢えて言うなら厄介払いなのである!


剣は特別教室棟に跳び移ると、先程と同じように床に手を置いて探知魔法を発動しようとした。しかし、何かを思いつき魔力行使を中断した。


「……無属性じゃなくて、光属性にすればダメージ与えられるんじゃね?」


光属性は、集束すれば高熱のレーザー光線として絶大な破壊力を発生させる事も可能だが、基本的には魔力その物に干渉する属性である。なので、低出力であれば物理的破壊力は皆無であり、魔力の塊でしかない悪霊には軽くダメージを与えられるのではないか?と、剣は考えたのである。


ここで光属性の一般的(剣の前世での経験に基づく)な使用方法を紹介しておく。ネクロマンサー等によって創造された動く死体(リビングデッド)を退治する場合、死体に物理ダメージを与えても時間経過で再生してしまうので、死体内に存在するネクロマンサーの魔力を破壊して元の死体に戻すのが効率的であるとされている。その際、剣等の武器に光属性を付与させておけば、死体を破壊しつつ魔力にもダメージを与えられるので一挙両得とされている。これは過去に、洞窟内で高出力魔法による落盤防止を理由に『無銘の聖剣』所持者が実践した方法でもある。


「当時はどうとも思ってなかったけど……人間になった今思い出すと、凹むなぁ……」


腐った死体の血肉がべっちょりな前世の我が身を回想し、やや気が滅入った剣さんであった。気を取り直し、改めて探知魔法(光属性バージョン)を発動させると、屋上から地上まで特別教室棟が上から順に一瞬、光で白く染まった。


凄く不自然な光を放った訳だが、「俺の仕業とバレなきゃ問題ねぇ」と、都市伝説増産マンは考えておられます。


「ん?これは……人が三人……あいつ等(後輩)か?……鉢合わせると面倒だし……悪霊とやらの手応えもあったし、ヤバけりゃ連中も今ので逃げれるだろ。ま、今日は帰ろっと」


学校の屋上に一陣の風が吹きすさぶ。風が治まったその時、そこには誰もいなかった。




後日、体育館裏で表情を引き攣らせている剣の姿があった。


「剣先輩!貴方の女にしてください!」


「マジで惚れました!先輩が望むなら、どんなご奉仕でも!」


「そ、その……両親に、会って頂けませんか?」


先日の晩、剣がなんとな~く放った探知魔法は、悪霊を一撃必殺してしまっていたらしく、丁度その時三人娘は悪霊との戦闘中で窮地に陥っていたのである。


功を焦り絶体絶命となり、自らの未熟さを痛感し、恐怖に震え、後悔に苛まれて走馬灯すら幻視した……正にその時、彼女達は白き光に包まれ……


光が消えると、目の前で悪霊が霧散していたのだった。


果して、後輩達が弱すぎるのか、剣が規格外に強すぎるのか……兎も角、後輩達は剣に救われたと確信し、剣は後輩達にとって命の恩人となってしまい、後輩達はチョロインと化したのである。


「俺じゃない!悪霊なんざ知るかっ!お前ら、超面倒臭いっ!放っておいてくれぇ~!」


剣の絶叫も、恋する乙女と化した後輩達には馬の耳に念仏なのであった。


思いつきで楽をせず、手間を惜しまず確実に事にあたろうと、剣は自分の心に誓うのであった……




次回から新展開……ですが、舞台は高校のまま。

剣の空中移動の元ネタはプリヤの青い娘です。

因みに、重力魔法でも飛べたりしますが(プロローグではこっちで魔王さんに突き刺さりました)。

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