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60話目 小町の部屋 憂鬱編

姉妹でかなり普通な二人の会話、はじまり!

夜七時過ぎ、遥義姉さんがバイトから帰ってきたところに居合わせた。


「おかえり、遥義姉さん」


「おぅ、たーいま」


相変わらず言葉遣いは粗野だけど、最近、声そのものは丸くなったように感じられる。いい傾向です。


「夕飯もう食べた?まだなら用意するけど」


「ああ頼むわ。先に軽くシャワー浴びさせてもらうからよ」


十分程して遥義姉さんは戻ってきた。頭にタオルを乗せ、髪を乱雑に拭きながら、ノースリーブのシャツに短パン姿で。湯上がりなので、顔や露出している素肌がほんのりピンクに火照っている。……同級生の男子達から見たら、かなり刺激的だろうなあ。


「ふうっ、さっぱりした。わりぃな、メシ作ってもらっちまって。つか、アネさんいないのか?」


「うん。翼姉さん達を車で送るついでにバンドの練習を見学してくるって。もう出来るから、座って待ってて」


因みに他の人達はと言うと、お義母さんは燕の寝かしつけ中。桜姉さんは屋上でダンスの練習をしていて、兄さんと梓姉さんもそれに付き合ってるみたい。実鳥姉さんは自室で勉強中かな?遥義姉さんが気にしてなさそうだから、多分部屋にはいるんだろうな。あ!後、お父さんは朝からずっとアトリエに籠って創作中だった。芸術家特有の悪い癖なのか、集中すると時間を忘れて没頭しちゃうんだよね……夕食届けに行ったら、お昼のうどんがカチカチに乾燥して手付かずでした……私、将来は絶対に、寝食忘れる人とは結婚したくない!


「はい、お待ちどうさま。これで足りるかな?」


「おろしぶっかけか、熱いシャワー浴びたところに丁度いいじゃん。そんな夜更かししねぇし、これで充分だよ」


遥義姉さんはお箸を手に取ると、大根おろしが満遍なくうどんに絡むようにかき混ぜ、丼に直接口を着けて汁を啜った。……とても、女の子らしくない、爽快な一口目です。


「ああ……どうしてこう、醤油と大根おろしが混ざると美味くなるのかなぁ……これだけでも、飯三杯はいけるもんな」


台詞がオッサン的だけど、美味しく食べてくれるのは嬉しいな。作った甲斐があるというものです。


続いて、麺を一度に何本も豪快に音を立てて啜って下さりました。麺の端っこが、ちゅるんっ!と踊って吸い込まれ、唇が突き出された形になったのが、若干艶かしいな、なんて思ったり。


「美味しそうに食べるねぇ」


「実際、美味いし。これ、あれだろ?梓が駄々を捏ねて剣が打ったんだろ?」


「知ってたんだ?……妙な器用さあるよね、兄さん」


「変な奴だよなー。悪い奴じゃねぇけど」


昔は、お義母さんと実鳥義姉さん以外に警戒心ピリピリだったのに、本当丸くなったなぁ……特に、兄さんとお父さんには、実鳥義姉さんを近寄らせないようにしてたのに。


「……遥義姉さんって、兄さんのこと好きだったりする?」


「ぶはっ!?げほっ……ごほっ……何を……藪から棒に……」


凄く素敵なむせ方です。鼻からうどんは出てません、乙女の鼻からは絶対に出ていないのです!出たと証言する者が存在しない限り!


「ほら、田舎でパーティーした時に、兄さんに「可愛い」って言われて気絶したでしょ。職業柄、お客さんに言われ慣れてるだろうにどうしてかなぁ……と」


いちいち故障してたら、お仕事にならない筈。するとやっぱり、兄さんに対して特別な感情があるんじゃないかと邪推しちゃうんだよね。


「いや……まぁ、なんつーか……好きとか嫌い以前に、同じ家で同じ歳の男が暮らしてて……ちっとも気にしねーとか、無理な話だと思わねーか?意識せざるを得ねーだろ?」


「まあ、当然だね。小学校入る前ぐらいじゃないとね」


「だから、その……あれだ、不意に異性として意識しちまう事もあったりする訳で……それに、店で客が「可愛い」だの言うのはノリとかだったりもあるしさ。なのに、剣って素じゃん?いや、素に見えてるだけかもしれんけどさ」


そっか、巫山戯てる感じもなく、真顔で歯の浮くような台詞を聴かされたら、真に受けて焦るかも……


実際、兄さんをどう思っているか突っ込みたいけど、あまり追求すると困らせちゃうよね?少し、話題の方向性を変えてみようか。


「それにしても、あんなに恥ずかしがりなのに、よくメイドカフェのバイトなんてやってるよね?どうして?」


「時給いいから」


即答!単純至極だ!


「まぁ、元々は接客じゃなくて調理場希望してたんだけどさ、適性見るとか、人手が足りないとか……結局メイドにされちまった訳さ」


「……よく、続けてられるね」


「まあ、店の先輩がいい人ばっかだし、無茶なシフト組まれたりしねぇからな。猫にも癒されるし……服の方も、仕事と割り切れば……知り合いにさえ見られなければ、けっこう平気だな」


そうだった、猫カフェでもあるんだっけ。それなら男性客ばかりでもないのかな?


「でも、嫌らしいお客さんもいるでしょ?」


「ん~……ま、見られたり、お触り無しのサービスに関しちゃ給料の内だかんな。慣れ……ってか諦めかな?ストレス以上に金は貰ってるし。ウリだの援交に比べりゃ合法で健全な店だしさ」


「いや、比べるとかの問題じゃないから!絶対やっちゃ駄目です!」


「安心しろよ、やったことねーから。てか、そーゆうの生理的に無理だし。同級生でやってるっぽい奴いるけど、よく怖くねーよなって思うわ」


ほっとした。やっぱり、遥義姉さんはマトモな人です!


「そうだよね。根本的に、未成年の女の子とそうゆうことするのって犯罪だしね。犯罪者と行動を供にするようなものだよ。むしろ、片棒担ぐようなものだし」


「ま、やりたい奴は勝手にやって痛い目見ろってトコだな。アタシは友達いないから大丈夫だけど、小町は気を付けろよ?綺麗な黒髪の美少女小学生で生徒会長なんて、ロリコンの大好物だからな。ダチに遊びに誘われたら、それが援交だったり……とかあり得るからさ」


「いやいやいや!私を陥れるような悪い子友達にいないし!」


失礼しちゃうな!私の交遊関係疑うなんて!


「いや、援交ってさ、遊んでたり頭の軽いビッチだけがやってる訳じゃねーんだよって話。悪い奴ってのは、いい子を罠に嵌めるのが大好きだってことさ。普段仲良くない子に突然誘われたら、小町だって警戒すんだろ?」


「それは……そうだね」


「まわりくどいけど、騙しやすい奴から順番に……とかな。行為中の動画なんて撮られちまったら、子供に成す術なんてねーだろ。いいなりになるしかよ」


「……すっごく嫌な想像だね。現実的が過ぎる……」


「アタシが小学生ん時、アタシのクラスで実際にあった話だからなぁ」


ちゅるる~♪


「んあっ!?……平然とうどんを啜らないで!大事件じゃん!どうしてそんなに他人事!?」


「実際、他人事だったしなぁ。言ったろ、アタシ友達いないって。ま、何故か知らんけど表沙汰にならなかったけどな」


「隠蔽体質!?腐敗してるよ!」


……被害者の心情を慮ってなのかもしれないけど。


「つまんない話しちまったな。でもまぁ、頭の片隅に留めておくに越したことねーだろ。胸糞悪い現実が、案外近くに転がってるって知っただけでも用心深くなるだろーしな」


あれ?私、心配されてる?……でも。


「もし、そんなことが身近で起きたら……どうすれば……」


「さあな。ただ、アタシだったら取り敢えず相手をボコるかな。それで気が済むとも思えねーけど、泣き寝入りする主義じゃねーからさ」


う~ん……遥義姉さんらしい答えだけど、私はそうゆう荒っぽいのは苦手だなぁ。


「ふぅ、ごっそさん。美味かったわ。ま……あんま難しく考えんなよ。人生なんて、結局出たトコ勝負だからさ」


「あ、お茶淹れるね」


そうは言われても悩むだろうなぁ。無駄かもだけど。……こんな悩み、無駄に終わるのがベストだけどね。さて、お茶請けには信州で買ってきた蕎麦饅頭を用意しよっと。


「熱い緑茶に、甘い饅頭……日本人に生まれて良かったって思うわぁ~……小町は食わねぇのか?」


「……糖分、制限することにしたので」


睡眠三時間前には、食事するなって言うしね。


「あまり我慢すっと逆に体に悪いからほどほどにな。お前、家で一番イライラしてんだから気ぃつけろよ?」


「遥義姉さんから見ても、私ってそんなイメージ?」


「他の連中、滅多に怒らねぇじゃん」


……その通りだ。少なくとも家の中で、私の前で兄さんや姉さん達が本気で怒っている姿を、私はここ最近見た覚えがない。うあ……自分の心をちっちゃく感じる……


「あ~……気に障ったんなら悪いな。あんま落ち込むなって」


「うん。平気だから……もっと、自分を省みないとだけどね」


「ま、焦らずやんな。アタシは小町の真面目なトコ、いいと思うぜ」


「……遥義姉さんだって、真面目さんだと思うけど」


「な、何故そう思う!?見た目、ガチで不良だろ!言葉も汚ねぇし!」


「だって、原付乗ったの免許取ってからだし。煙草吸わないし。お酒も飲まないし。バイトから帰ってから外に夜遊びしに行かないし。学校休まないし。それに……処女でしょ?」


高校、女子高で、友達いないから男子と接点ないもんね。


「そ、そうだけど……それは別に真面目だからじゃなく……男を信用できねーだけでだな……したいと思わねーだけだし!」


顔真っ赤にしちゃって……可愛いな。遥義姉さん、マジ美少女!


「そ……それにだな、煙草や酒は金がかかるし、夜遊びだって無駄遣いになるし、学費払って貰ってんだから卒業しねーと……頭悪い分、出席日数で内申稼がねーと……」


「マジメだよ!模範的だよ!不良さんの欠片もない答えだよ!てゆうか……遥義姉さん、髪を染めるのとコスメ以外に大してお金使ってないよね?部屋に私物がほとんどないじゃん……」


梓姉さんがあげたヌイグルミとか、かなりお気に入りだったりするし、普通に可愛い物好きだしね。


「ちゃんと自分の稼ぎが有るんだから、もっと趣味に費やしてもいいと思うけど……何の目的でバイトしてるの?」


「いや……もしもの為に……貯金を」


「堅実!」


「だってさぁ……また離婚したり、親父さんが仕事出来なくなったりしたらって考えるとさぁ……もしもの場合、実鳥を大学までアタシが行かせてやろうかと……」


実鳥義姉さん、想われてるなぁ……てか、遥義姉さんも、兄さんに負けず劣らずシスコンさんだよ!


「それに、こう満ち足りた生活してると……貧乏が怖くて仕方ない……高校卒業したら一人暮らしするつもりだし、貯金は多い方がいいだろ」


「え?遥義姉さん、家を出る気だったの?」


「まぁな。自立したいんだよ。あんま、甘えていたくねーからな」


「そうなんだ……みんなけっこう、将来考えてるんだ……」


兄さんも農大に進路決めたし、翼姉さんと希姉さんは芸能……桜姉さんはネットでもう収入あるし……私って、特にやりたいこと無いんだよなぁ……不安、なのかなぁ?


そこいくと、梓姉さんは凄いと言わざるを得ない。四歳で人生の伴侶を決めちゃったんだから。


……依存も貫けば信念と呼べるのかも。


「だから……色々焦るなって、おもいっきり不安が表情に出てるっての。小町って、案外面倒臭い性格してるな」


……今日一のクリティカルヒットきました。


いや、解ってたけどね!(泣)


バツの悪い顔して、遥義姉さんは自室へ戻って行きました。




気晴らしに屋上へ桜姉さんの様子を見に行って、私はドアの隙間から、自分を疑う光景を目にしてしまった。


「せいっ!てやあっ!とりゃ!」


桜姉さんが、兄さんに向かってパンチやキックを放っていた。素人目に見ても、手加減してるとは思えない鋭さで。


それを兄さんは、ほとんど移動せずに、身体を少し反らすだけで避けて、たまに腕で防御をしても、左手だけで捌き、汗も殆ど流していない。


対して、桜姉さんはとても呼吸が荒く、汗だくになっている。攻撃の際の掛け声も必死に振り絞っている感じで、先日の農業青年達を相手に大立ち回りをしてみせたのが、余裕たっぷりの悪巫山戯だったように見えてしまう。


だって……技名叫んでないもん!


「あきゃあ!?」


あっ!桜姉さんが手首を掴まれたと思ったら、もう地面に転がされてる!合気道なの!?


うわ……上着が、汗でべちょべちょで、ブラが透けてるよ……どんだけの運動量なのよ?……どうして学校指定の運動服なんだろう?そして何故、履いてるのが学校指定のスパッツでなくブルマなんだろう?……ハリセンで突っ込みたい!


「はい!そこまで~。さっちゃん残念でした~」


「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……うぉ~、たぁ~……ぷり~ず」


梓姉さんからペットボトルを受け取ると、桜姉さんは浴びるように一気に飲み干した。


「ぷはぁー!生き返ったのであります。兄様、本日も御指導ありがとうございました!」


「ああ。風邪引く前に風呂入れよ。夜更かしもほどほどにな」


「了解でありま~」


「ちょっと!今のなんなのよ!?」


思わず、スルーしきれず、私はドアを開け放った。


「す?……小町たま!?」


びっくりしている桜姉さんに構わず、兄さんに詰め寄った。


「なにと言われても……鍛練としか」


「そうなんでしょうけど……どうして兄さん涼しい顔してるの!?大人数人をボロカスにしちゃう桜姉さんが雑魚扱いじゃない!なんなの、そのチート臭い強さは!?」


ん?兄さんの表情が、珍しく困った感じになってる?


「こまたん、こまたん」


「何?梓姉さん、今、兄さんに質問を」


「その前に、アレなんとかして」


梓姉さんが指差す先を見てみると、体育座りしていじける桜姉さんがいたのでした……


「フフ……フフフ……愛する妹様に雑魚と言われてしまったのです……戦闘力5のゴミなのであります……」


「桜姉さん……私、そんなつもりじゃ……凄かったから!もうシュバッ!とかゴウッ!とか効果音が聞こえちゃいそうだったから!兄さんがどうかしてるだけだからー!」




結局、お風呂で背中を流してあげることで機嫌を直して戴きました。


その間に兄さんは就寝してしまい、直接答えは聞けませんでした。


部屋の明かりを消し、ベッドの中でイライラしながら、桜姉さんから聞き出した鍛練の理由を思い返し、言葉にしてみた。


「異世界召喚に備えてって……何処まで厨二病なのよ……!もっと真面目な理由だと思ったのに、兄さんまで悪巫山戯に付き合って……あ~!腹立つ!」


……この時、私はもう少し冷静になるべきでした。


桜姉さんは巫山戯て冗談を言うことはあっても(その冗談も殆ど私が冗談だと誤解していた真実だった)、私に悪趣味な嘘を吐くことはなかったのにと。


兄さんに腹を立てたままで碌に口を利かず、出鱈目な強さの秘密を追及しなかったこと。


翼姉さんと希姉さんが、そのヒントを与えてくれていたこと。


私がそれらを後悔したのは、もう少し先の未来の――


ファンタジーと呼ぶには血生臭過ぎる。


異世界で、でした。



でっかいフラグを突き立てました。

しかしながら、異世界召喚はも少し先の話です。

その前に修学旅行とかもありますので。

次回は久々に、主人公の兄さんメインで連休明けの何気ない話です。

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