56話目 神頼み
あけましておめでとうございます!
ギリ、元日更新出来ました!
……遅筆。
まぁ、生きてる限り投げ出さず執筆しますので、気長にユルユルとお読み下さいませ。
遥が灰どころか、高純度の備長炭化していた頃、桜はどうにか意識を覚醒させていた。
「うぼおぉ……蘇ったのでありますぅぅ……」
「お、ご苦労さん。見事に汚れキャラをやりきったな」
桜が横たわっていた布団の傍には、剣が付き添っていた。
「兄様……バレていましたか……」
「当然だ。無理矢理にでもオチをつけなきゃ、お前、単なる変態で嫌な奴だろうが?適度に痛い目に遭ってこそ、憎めないキャラなんだろう?」
「なはは……しかしながら、遥義姉様のヒップが思いの外クリティカルヒットしたのは計算外でありましたが」
遥を着替えの為にお持ち帰りしてから、足首をぐねって尻餅を頂戴するまで、全て桜のシナリオ通りなのであった。
「よくやるよな。痛みが伴うのが承知の上で……あぁ、それも所謂『御褒美』なんだっけ?」
キラッキラーン!桜の瞳に星が瞬いた。
「勿論であります!それに、勢いに任せてお着替えの手伝い中、合法的に遥義姉様の美しき肢体を拝見させて戴けたのです!役得以外の何でありましょうか!?」
「……うん。どっちにしろ変態は確定してたな」
復活早々、煩悩有り余る妹の姿に安心した剣は、すくっと立ち上がった。
「まあ、もう少し安静にしてろ。何か、食い物持ってきてやるよ。あんだけバタバタ動いたんだから腹減ってるだろ?」
「ありがとうございます!出来れば、塩気の強いのが欲しいのであります!サッパリしたのがいいのです!」
剣は少し思案すると、台所へ向かった。
数分後。
「お待たせ。昼の残りもついでにな」
剣が運んできたのは、かけそばと海鮮串焼きであった。
「おお!兄様の手打ち蕎麦!まだ余っていたのでありますか!兄様の汗を吸収し、手指から剥がれた皮膚片が練り込まれた蕎麦、有り難く戴くのであります」
「言い方」
「兄様のDNAを、ボクの胎内に取り込み混ぜ混ぜ融合させるのであります!」
「表現な。後、体内な」
桜が蕎麦をちゅるちゅる啜っていると、梓が様子見にやって来た。
「さっちゃ~ん、大丈夫?て、どうしてお蕎麦?」
「塩気が欲しいとお願いしたら、兄様が茹でて下さったのです。兄様の手打ちで、とても美味しいのであります!」
「けんちゃんの手打ち!?何それ私も食べたい!けんちゃんの手汗と手垢と爪垢配合のお蕎麦!至高と究極を超越した至極の逸品じゃないの!」
「梓……取り敢えず海○先生と士○さんに土下座しようか?」
そして、手打ち麺や、握り寿司を食事中の方々失礼しました。熱湯で茹でられた麺は殺菌されていますし、シャリに使用されている酢には殺菌作用がありますので、衛生的に問題はありません。安心して御召し上がりください。
「二人して似たり寄ったりな思考とか、どんだけ仲良し姉妹だ」
「梓姉様を見て育ちました故」
「さっちゃんのオススメ作品に毒されてるから!」
駄目な部分が相互作用されています。もう、治せません。
「で……桜の様子を見にきたのなら御覧の通り大事はない。あっちの方は盛り上がってそうだな?随分騒がしそうだが」
「いや、そりゃもう。はるるんのメイドがバレて大騒ぎ」
「それは……御愁傷様でありました。まあ、隠しきるのも無理がありましたでしょうなぁ……」
「翼と希辺りがポロッと溢したのか?」
「いや、それがねぇ……こまたんなんだよ意外なことに。全然わざとじゃなかったんだけど」
「そりゃ……遥もノーマークだったろうし、口を塞ぐ間もなかったろうな。気の毒なことだが……遥より小町の方が心配になってきたな……」
慎重で堅実派な小町にしては、珍しい凡ミスである。その結果、現在遥が真っ白になるほどショックを受けているのだから、小町が自身を責めているのは当然であった。
「俺がとやかく言っても逆効果かな……どうにも、小町との距離感は上手く計れないんだよな……」
その理由は、剣自身も気付いているが、今更どうにもならないことでもあるし、一足飛びに解決出来る訳でもなく、都合の良い解決策などある筈もない事案なのであった。
「……普通の女の子の感情ってのは、どうにも難しいな」
剣に細い目で眺められ、梓と桜はなに食わぬ顔で目を反らした。二人とも、自分が特殊であることを十二分に自覚しているので失礼な台詞だとは反論出来ないのである。
そして、主役が意識を飛ばしている間に夜は更け、パーティーは終了となった。眠り姫と化していた遥を家の中に運ぶ役目は当然、一家の頼れる男手である剣なのであったが、お姫様抱っこで運ばれている最中に目を覚ましてしまい、この日最高の茹でダコ表情となり……
「やっぱ、普通に女の子するだけで凄く可愛いよな」
なんて言葉を掛けられ、遥は口からだけでなく、頭部のありとあらゆる穴から魂魄エネルギーを垂れ流すことになったのだった。
「わぁー……けっこう混んでますね」
長野市を代表する観光名所である善光寺に向けて歩いている途中、実鳥が思わず声を漏らした。ゴールデンウィーク真っ只中、レジャー施設でないとはいえ、当然それなりに観光客が訪れている。
「みどりん、人混み平気?」
「はぐれないよう注意」
「……だ、大丈夫です。とゆうか……」
人混みになってるの、翼さんと希さん所為もありますよね?と言いたい実鳥であった。二人ともただでさえ人目を引く容姿をしているのに、暑くなったからとキャミソールにミニスカート姿で、かなり肌色面積が広い格好である。前を歩く男性がチラチラ振り向くし、擦れ違う人も足を止めて魅入られたりしている。そうして、歩道に局所的な停滞を度々発生させたりしているのであった。
「男って……ホント馬鹿ばっか」
「お懐かしいクール系ツンデレちゃんの名台詞をありがとうございます」
双子の後ろを歩く小町からは、その様子がありありと見てとれた。それ故に漏れた台詞は、偶然にも桜にとって前世の青春時代で大きな存在感を放っていた美少女キャラの口癖であったので、思わず感謝を口にしてしまったのだった。
「ったく、これでまだ序の口なんだろうからな……」
最後尾から五人を見守るように歩く遥がうんざり気味に呟いた。今のところ、直接翼と希に声を掛ける者はいないが、どうにも時間の問題に思えて仕方がないのである。
その遥の本日のコーディネートは、白ワイシャツにデニムのロングパンツにスニーカーと、飾り気の無い男性的な格好であるが、髪は普通に櫛を通してサラサラヘアーに、唇にワインレッドのルージュを引いて、大人びた雰囲気を醸し出している。そこへ更に漆黒のサングラス装備!とってもクール系なお姉さんに仕上がっているのだった!
なので、少なからず遥にも視線(女子率高め)が集まっているのだが、本日の遥さんは保護者役に集中しているので気にも止めないのであった。
さて、善光寺へ向かう一行であったが、特にやりたい事があるわけでなく、強いて挙げれば、見物するのが目的であった。そして、神仏に対する信仰心などある筈もなく、参拝よりも、仲見世の土産物や食べ物に目移りするのは必然的であった。
「先ずは……おやきでも食うか?」
時刻は正午を過ぎたばかり。昼食にしても良いのだが、通り道の食事処は何処も店外まで待ち客が並んでいたので、軽い物でその場しのぎをしようと遥が提案した。
「名物であり定番でありますな。しかし、具の種類が多くて迷うのであります」
「けっこう大きいね。私、一個食べたらお腹いっぱいかも」
「それじゃ、半分こしようよ実鳥義姉さん。他にも色々食べたいし」
「希、甘い系と塩辛い系でシェアする」
「当然。ここは野沢菜とカボチャで」
購入したおやきをそのまま店先で、六人纏まって立ち食いした。そしてここから、腹減り姉妹の進軍が始まった!
小一時間後、一行は近場の公園で休憩することにした。
「買い食いグルメ堪能したり」
「お土産も沢山買えましたー」
「いや、蒸したて熱々のそばまんじゅうを試食させてくれるとか、太っ腹な土産物屋さんなのであります!」
「焼おにぎり美味しかったね。つい、味噌ダレ買っちゃたよ」
「りんごソフトも美味かったな~。次の機会には冒険して味噌ソフトを食ってみたいな」
姦しく仲見世散歩の感想を述べあう中、一人だけ浮かない顔でベンチに腰掛けているのは……小町である。
「小町ちゃん、どうしたの?お腹痛い?」
「実鳥義姉さん……その、思い返すと……この三日間、カロリー摂りすぎだったなと……」
小町のここ三日。電車でお菓子。パジャマパーティー。サイ○でヤケ食い。バーベキュー。仲見世買い食い……見事に暴食であった。
「しばらく、摂生しないとぉ~……体重がぁ~……体脂肪がぁ~」
生徒会長様は、外見がとても気になるお年頃な乙女なのであった!
「そんなにすぐ影響出ないと思う」
「普段、おねーちゃんの栄養バランス料理食べてるから平気」
「そうなのかな……?でも、お母さんが割とふくよか体型だったから、遺伝的に……」
「運動しろ、運動。汗かくのが一番確実だっての」
「だよね。食べなければ当然痩せるけど……不健康になるだけだから」
「しかしながら、少し太っただけでも、子供は残酷でありますからなぁ……大人以上に、小学生は体型に注意が必要かもしれないのであります」
「不安にさせないでよ桜姉さん……」
桜に向けて、視線だけで射殺しそうな睨みを効かせる小町。相当ストレスを溜めていそうな様子に、遥はふと、疑問をぶつけてみた。
「つうかさ、小町って普段自制出来てるよな?どうして今回の旅行じゃそんなに食い過ぎてんだ?」
「小町ちゃん、何か……学校とかで嫌なことでもあった?」
「んと……」
小町は言葉に詰まった。嫌なこと、と言われたら、思い当たることばかりだからだ。特に、小学校でのことは、尊敬していた(一応今でもしている)光のキャラ崩壊がどーでもいいとすら思えるレベルの、悩み事だらけなのである。
「……何かありそう」
「小町、お姉ちゃん達に話せないこと?」
双子から、スッと朗らかな雰囲気が抜け、空気が張り詰めた。
「つ、翼さん?……希さん?」
双子の変貌ぶりに、実鳥は息を飲んだ。それは、遥と小町も同様であった。基本的にちゃらけていて、事を面白可笑しくする印象が強いからに他ならないが故の反応である。
「敵がいるのなら……潰す」
「家族を脅かす存在、徹底排除」
だが、その印象は平穏に過ごせている状況にあるからこそなのである。剣と同等、或いはそれ以上に人間の残酷さを知っているからこそ、家族愛に満ちている聖家の尊さを大切に想っているのだ。だから、大切な妹に明確な敵が存在する可能性を看過出来ないのである。
しかし、前世でとはいえ実際に人間を殺傷していた者の放つ殺気は、一般の日本人女子には刺激が強かったようで、小町は完全に腰が引けてしまっていた。
そこに、桜が助け船を出した。
「翼姉様、希姉様、まあ落ち着いて下さいませ。小町たまは生徒会長でありますし、責任ある立場上口外し難い事案もあるのでしょう……しかしながら、解せぬ事もありますな」
「桜ちゃん、どうしたの?」
「いえ、開礼小は遥義姉様以外、我々聖家一同の母校であるわけでして、小町たまに危害を及ぼすような命知らずな愚者がいるとは思えず……」
桜は自分が卒業した後も、弱気な実鳥がイジメに遭ったりしないよう色々と根回しをしていたので、小学校の教師達が小町にも気を回していないとは思えなかったのである。
「まぁいい、少し調べれば判ること」
「その結果次第では、社会的に抹殺する」
「ちょ……姉さん達、冗談……でしょ?」
「「そう、見える?」」
いえ、鈍い光を放つ四つの瞳は、そうは見えません……
この日、善光寺の本堂では財布を逆さにして賽銭箱に小銭を全てぶちまけ、一心不乱に祈りを捧げる美少女がいたらしいのですが、何をそんなに祈っていたのでしょうねぇ……?
帰省終了からの、今後への引きでした。
次回からは(なるべく)小町ちゃんメインの話にしようと思ってます。
さて、小学生頃の記憶を掘り起こすか……




