55話目 シンデレラな遥ちゃん
明日は大晦日。コミケ最終日ですね!
……ザンタは先週集A社にお布施したのでネット情報をチラ見するだけですけどね……
参加者の皆様、風邪に気を付け、お宝ゲット頑張って下さい!
自分の作品が、待ち時間の僅かな和みとなれば幸いです。
桜が、表情をキラキラ輝かせながら家から出てきた。疑う余地なく「ふうっ!いい仕事したぜっ!」と満足しているのが見てとれる。
「さあ遥義姉様、みんな待ちぼうけですにょ!」
……返事がなく、出てくる気配もない。
桜が玄関を覗き込むと、奥の部屋の襖の影から、ちょこんと片目で見つめ返す遥がそこにいた。
「あ、あのさぁ~……どうしても出なきゃダメか?」
「何を尻込みしてますにょ!?ばあ様の下さった上品なお洋服に、桜が日頃のコスプレで培ったメイクアップの会わせ技!恥ずべき点などある筈ないにょ!」
「いや……ちゃんとしてるんは解ってっけど……それが逆にさぁ……ジーさんとバーさんに見せるだけじゃ……」
「何言っとるんにょー!遥義姉様は聖家の宝にょ!その美しさを他人に見せびらかさないなんて勿体なさすぎにょ!籠の鳥にしておくなんて笑止千万にょっ!」
ばびゅんっ!と、砂煙を上げ、またしても桜は家の中へと飛び込んだ。
「あ!止め!はなっ!?いやっ!やめてぇ~!?」
どったんばったん、大騒ぎが家の外まで聞こえてきた。
「とぅおーっ!」
ビシャーン!ずだっ!ズザザザー!引き戸が強引に開け放たれ、飛び出してきた桜は、地面を滑り削って、静止した。
「……や、やめてって……言ったのにぃ~」
「グズるからですにょ。でもまぁ、そこそこ劇的な登場シーンになりましたにょ」
舞い上がった粉塵が晴れると、そこには……
「お姉ちゃん……?はぁ……素直に出てくれば、余計に恥ずかしくなることもなかったのに……」
遥ちゃん、お姫様抱っこで強制連行されたの図。
「おお!姫降臨!」
「シャッターチャンスと言わざるを得ない!」
翼と希がスマホのシャッターを切りまくる!当然慌てふためく遥だが、その表情こそがレアであると、双子は身内故の遠慮容赦一切無しで、激写!連写!
「や、やめろよぉ~てか、おろせ~」
「るかねぇ?……おひめさまみたい!」
バボンッ!……とでも、漫画だったら効果音的な書き文字が浮かびそうに、遥は赤面化し上気させた。
「本当……遥義姉さんって……こんなに美少女だったんだ……」
プツーン。遥の意識が限界に達した。無垢と純真な感想を前に、成す術がなくなったようだ。
「くくくっ……桜はとんでもない作品を生み出してしまいましたにょ。バースデープレゼントのスカイブルーミニスカワンピをベースに、腰にはベルト代わりにレモンイエローのリボンを巻いて腰の細さを強調。メイクは薄めにアイシャドウを入れ、頬にも僅かにファンデーション、唇は地の色である薄桃色を活かす為にグロスで艶出しのみ。しかし……最大にして最初歩のポイントは……ボサボサ金髪に櫛を入れて溶かして、キラキラ艶々なセミロングにしたことなんだにょ!」
そして、頭の上には小さなティアラをちょこんと乗せた。
「避暑地のプリンセスをイメージしてみましたにょ!」
「桜、グッジョブ」
「三重花丸、よくできました」
赤面して、瞳を涙で潤ませている遥姫は、それはそれは可愛らしく、遥のヤンキー面しか知らなかった田舎の御近所さん達にとっては、空前絶後なギャップ萌え的感情を呼び起こしてしまったのだった!素顔が発覚した以上に!
しかし!それを桜は許さない!
桜は遥をお姫様抱っこをしたままビール瓶ケースに登ると、鼻高々に宣言した!
「フッフッフッ!お前ら三下なんぞ、遥義姉様に近づけてすらやらんにょ!手の届かぬ高嶺の花だと諦めて見上げてるがいいんだにょ~。ああ、遥義姉様はとっても芳しいにょ~♪」
パーティー会場に響く妬み嫉みの呪詛。
その様子を、剣と梓、光の三人は冷ややかに観察していた。
「……なりきってるなぁ」
「下衆で天の邪鬼で高飛車だもんね。でじ○ちゃん」
「そろそろ迂闊が出るかしら?」
そう……キャラになりきるとは……やらんでいいことまで引き寄せてこそ!
「ぐぼうっ!?」
「きゃあっ!?」
案の定、ビールケースから降りたと同時に足を捻ってぶっ倒れた。背中から倒れたので遥は無事、無傷だったが、桜はお腹を圧迫された衝撃で白目を剥いている……
「希……遥ちゃんが「きゃあっ!?」て言ったよね?」
「咄嗟過ぎて、取り繕えなかった?……とっても女の子!」
桜をそっちのけでキャイキャイはしゃぐ双子。桜だから大丈夫!多分!
「天罰だなあ」
「神罰かもね」
「取り敢えず、布団に寝かせてあげましょうか」
「だな。俺が看とくわ」
年長者達の、なんと落ち着き払った対応か……他人から見れば事件であるが、聖家ではなんてことない日常風景であった。
「えー、桜、アウトー」
「桜リタイアにつき、司会は翼と希が引き継ぎまーす」
「「食え!飲め!騒げー!」」
司会(名ばかり)を引き継いで直後、進行を投げやり無礼講な自由時間へ突入した。
遥はパイプ椅子に腰掛け、やるせない表情で涙を流していた。
「ごめんね、お姉ちゃん……その、おじいさんとおばあさんが「たまには孫の誕生日を一緒に祝いたい!」って言ってたから私が企画したんだけど……ここまでお姉ちゃんが嫌がるとは思ってなくて!ホントにごめん!」
「……ううん、実鳥が悪い訳でも、桜が悪い訳でもないんだ……アタシがビビリなのがいけないんだ……恥ずかしがらず、素直に着て見せればいいだけの話だってのに……」
「うんまぁ慣れない格好晒すのは、案外勇気要るかもね。でもさ、似合ってんだから堂々としてなって、はるるん!」
「……てかさ、慣れないのは……こう、ちやほやっつーか、持て囃される感じにムズムズして、場違いな気が……みたいな?」
「ん……私、なんとなく判るかも。生徒会長になったばかりの頃、他のクラスのあまり話した事なかった子とか先生から声を掛けられるのが増えて、無図痒い想いしたっけ……私は堂々としていましたけどね!」
「……ウチには舞台度胸ある奴ばっかだ……」
元モデル!バンド!コスプレイヤー!生徒会長!大なり小なり人前での活動をしている面子ばかりである。遥からすれば、度胸の格上ばかりなのだが……
「舞台度胸なら、遥ちゃんも充分ハイレベルでは?」
「あんなプリティな格好で働いてるのに」
「し、仕事だから!店ん中だけだし!」
その言い訳、無理がある。みんなジト目でそう訴える。
「私、お姉ちゃんは普段も女子力出してくれた方が嬉しいんだけどなぁ……他人様を威嚇するような格好してるの、私の為だったりもするよね?……昔は必要だったかもしれないけれど……もう、いいんじゃないかな?」
今は、実鳥を守ってくれるのは遥だけではなく、実鳥自身も守られるだけの子供じゃない。それは、遥も既に心得てはいるのだが……
「いや、その……今更っつか、学校とか……極端なイメチェンすっと……ほら」
「あぁ、よくある話だよね。長期休み明け、イメージがらりと変わって異性受けが良くなる一方、同性からやっかまれてイジメに発展する、みたいな?確かに、はるるんがこの格好で学校行ったら……事件だね!」
「うん。間違いなく多数の男子を魅了する」
「それに逆恨みした女子から陰険な嫌がらせされる」
梓の想定に、うんうん頷き予想を上乗せするは翼と希。黙っていても思春期男子を魅了してしまうワガママボディの持ち主であるだけに、吐いた台詞が生々しい。
「姉さん達って……そうゆう経験あったの?」
小町の疑問に、翼と希は、口が三日月の様に裂けたかのごとき笑みを浮かべて応えた。
「「き・き・た・い?」」
双子姉の表情に、頭をブンブン振って拒んだ小町ちゃん。
「聞きたくないっ!」
不敵な双子に、遥は結んだ唇を波線のように歪ませた、苦々しい表情を向けた。
「……あれは、相当な仕返ししてるな……想像するだけでコエーよ。普段の愉快犯ぶりが確信犯になるとか……」
「流石、愉快犯に振り回されている人の言葉には重みがあるわね。はい、遥、お腹空いたでしょ?」
遥の化粧や服を汚さないように気を使ってか、具材を一口サイズにしてある串焼き数本を紙皿に乗せて光が持ってきた。
「あ、アネさん、あざっす……そういや、ケーキしか食ってなかったから腹減ってたわ~」
「はるるん、そうゆう言葉使いが女子力不足だから」
「知らん!いただきまーす」
遥は早速、紙皿から塩焼き肉らしき串を摘まむと、ぱくっと頬張った。食事は薄味から順に食べるのがセオリーだと、光にキッチリ食育(調教とも言う)された成果である。
「あれ?何だコレ?……すっげー脂が多いけど、あんましつこくない?それに……柔らかいけど、肉っぽく……魚?」
それは、遥の記憶に一致する味がない食べ物だった。微かに、似たような味を記憶から探ると、肉よりも魚に近い。しかし、こんなにも蕩けるような食感で、くどくない脂が染み出してくる焼き魚に、思い当たる節がなかった。
「あの、コレなんすかアネさん?」
「それ?大トロの炙りよ」
「……大、トロ?」
遥の表情から色が消え、歯がガチガチと打ち合わされる。
「ま、大トロと言っても本鮪じゃなくて冷凍物のミナミマグロだけどね。でも、とっても美味しいでしょ?」
「あ……アタシは、なんて贅沢を……や、ヤバイ……震えが止まらない……」
初めて口にした高級食材に、遥は完全に気が動転してしまったようである。貧しい少女時代を過ごした遥にとって、贅沢をするには覚悟が必要なのだ!
「大袈裟よぉ。お寿司屋さんとかじゃないんだから、一串で一万円まではしないわよ?まあ、四、五千円てとこかしら?」
「牛丼が十杯以上じゃないっすか!?贅沢は敵!」
食べ物の価値基準が牛丼である辺り、遥ちゃんは庶民的であり、言動が女子力不足で残念である。
「遥ちゃん、出来ればお店のメニューで例えるべき」
「ケーキセット十人前って言えばいいのに……」
「し、仕方ないだろ!咄嗟に出ちまったんだから……つか、誕生日だからって、こんな高級なもん食わされても、値段が気になって素直に喜べねーんだよ。そうゆう質なんだよ……」
悲しき貧乏性は、簡単には修正されないのだった。
「しかし、美味なのは真実」
「熱々なうちに、食べきって」
「そうだよ、お姉ちゃん。私が同じ事されても恐縮するだろうけど、残しちゃう方が勿体無いし……みんなの気持ちだから、ね?」
「実鳥……わあったよ……でも、無駄遣いさせてるみたいで、親父さんには悪い気がすんな……」
「あ、遠慮なんていらないわよ。今日の食材費、お父さんには一円も出して貰ってないから。むしろ、お父さんがタダメシしている方だから」
「へ?……いやアネさん、買い物の時親父さんのカードがどうとかって……」
「あれね、方便よ。私達のお金って知ってたら、余計に遠慮しちゃうでしょ?それに、本当の事を言ってたらサプライズにならな」
完全に気を反らされていた事実を知り、遥は呆然すると共に、若干悔しそうな視線を光に向けた。対して光は悪戯成功とばかりに、無邪気(とは言い難い)笑みを浮かべた。その小悪魔スマイルの流れ弾に被弾する男性陣がちらほら……だが妊婦だ!既に婚約済みだ!
「うあぁぁ……全然気付かなかった……どんだけ鈍感なんだアタシわぁぁ」
「いや、ホント。こまたんが大根さんな誤魔化しするからバレると思ったんだけどねぇ」
「ちょっと!梓姉さんは途中で計画忘れて遥義姉さんがバイトでメイドやってることバラしちゃったのに何言ってんのよ!」
………………言っちゃった。大声で。
「こ、小町ちゃん……なんてことを……」
「え?……は、遥義姉さんっ!?ご、ごめんなさぁ~い!!」
小町が自らの過ちに気付いた時、遥は口からエクトプラズムを垂れ流しつつ、真っ白になって放心していた。
そして、メイドとは何ぞや!?と、ざわめく御近所の皆様に事情説明する為、あざとすぎるお出迎えポーズをしたハルにゃんの画像が翼と希によって公開(見せびらかし)されたのであった。こうして、本人が預かり知らぬ間に田舎での遥人気が鰻登りしていたのであった。
余談
双子の愉快犯により、これまた愉快犯な猫耳メイド長へと【姫☆降臨!】と【リアルシンデレラ】なる件名の写メールが送信されました。
どこかのメイドカフェで、爆笑で仕事にならなくなった猫耳メイドがいたそうです♪
秘密って、案外まさかっ!て、トコから漏れるよねってお話でした。
次回で帰省二日目はおしまい。年内更新もこれにて……
元日には更新したいと思います。今日からお休みだー!




