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51話目 普通に観光旅行

桜達が神社での撮影に勤しんでいた頃、光達は祖父母と共に松本市街の散策を楽しんでいた。


「おしろ!かっけぇ!」


「燕!走ったら危ないから!」


駆け出した燕を追いかける小町。訪れたのは、市のシンボルとも呼べる観光の目玉である松本城だ。お堀に囲まれているのだが、景観のためか内堀には柵がない。ウッカリすると、緑に濁ったヘドロに沈んでさあ大変である。いっぺん水を抜いてみるべきかもしれない。


「ははは!無邪気で元気がいい!」


「孫が戯れているのを見るのは和むわねぇ」


勇吾と麻紀は、慌てずのんびりと後を追う。光と梓と遥も同様に落ち着いたものである。


「こまたんは心配性だなぁ」


「小町の中では、あれが『しっかりしたお姉ちゃん』なのかしらねぇ」


「無関心よりか、ずっといいんすけどね」


三人とも、燕は小町に任せておけば安心だとばかりにリラックスしている。小町を信頼しているが故である。


「こまねぇ!こいさん!こいさんいっぱいいる!」


「そんなに覗き込まないの!ホントに落っちゃうから!」


鯉に手を伸ばそうとする燕を、小町は後ろから羽交い締めするように抱き上げた……今のはマジで頭から転がり落ちそうだった。


「こまたんファインプレー!」


「いや、そんな落ち着いてないでよ!凄く焦ったんだから!」


「大丈夫よ。落ちたってワニやピラニアがいる訳でもないし。全身泥塗れになる程度で済むから」


「でも、だからって……」


「てゆーか、ここじゃないけど。こまたんは実際に落ちた事あったよね?おねーちゃん」


「そういえばあったわね。あれは……諏訪湖の桟橋からだったかしら。全身緑のプランクトンに染まったのよね」


「はあ!?なによソレ?覚えてないんですけど!」


突然、見に覚えのない失態を暴露され、妹が落下しそうになった時より、狼狽しちゃった小町ちゃんは、その妹を抱き締めている両腕に思わず力を込めてしまった。


「あぎゅ!?ぎぶ!こまねぇぎぶ!」


「あ!ご、ゴメン!燕!」


小町の腕から解放されると、燕はダッシュで小町から離れ、遥の背中によじ登った。


「燕……靴を穿いたまま人に登るな。痛いし汚れっから」


「るかねぇ、めんご!」


妹に逃げられ、小町ちゃんは若干涙目だ!


「うぅ……いつの話よ……」


「こまたんが二歳のとき」


「燕に劣らずお転婆だったからね。今と似たシチュエーションで、桟橋の下を覗いた瞬間にドボン!だったわぁ。お堀よりずっと深いし、危険度なら小町の方がずっとよ」


「そんなこともあったなぁ。何が起きたか直ぐには理解出来んでのう!」


「だったわねぇ。咄嗟すぎて、どうすればいいかって……」


勇吾と麻紀も、当時を思い出して苦々しい表情を浮かべる。


「んな事あったんかよ……でも、無事に助かって良かったな」


「そりゃ、聖家にはヒーローがいますから!」


むっふんと胸を張る梓。聖家のと言いつつ『私の!』とも主張していらっしゃる御様子だ。


「そうだったなあ。大人ですら戸惑っていた状況で、迷いもせずに湖に飛び込みよってな。いや、剣は昔っから大した男よ!」


「……兄さん……命の恩人じゃない……」


驚きながら、ムスッとふて腐れた顔をする小町。自分の命を救われた大恩を知らずにいたこと、それを今まで知らされていなかったことに、憤りと羞恥心がない交ぜになっていた。


「ああ、それから。翼ちゃんと希ちゃんも偉かったのよね。誰もが水面にばかり気を取られてる中、二人が救命用の浮き輪を持ってきてくれたのよ!」


「なんつー冷静な……ん?小町が二歳ってこたぁ……剣が八つで双子は六つか?……なんて末恐ろし……くなったもんだ」


「我が弟妹ながら、あの三人は幼い頃から度胸と状況判断が並外れていたのよね……私が戸惑っていた間に、迅速に行動していたんだから……姉として情けない限りだったわ」


「いや、お姉ちゃんはつばぞみが投げ込んだ浮き輪のロープを引っ張ってけんちゃん達を引き揚げたじゃない。私なんて祈るしか出来なかったもの」


「姉さん達……いや、それが普通だからね!寧ろ光姉さんなんて、大人任せにしてないだけでも凄いってば!」


「だな!敏郎くんなんて、腰を抜かして夕樹にしがみついていたからなあ」


事件当事者ではない遥が、とてもげんなりした表情となった。


「……例によって……すか」


遥におんぶされてる燕がつぶらな瞳で。


「パパ、ぼんくら?」


純真100%な感想を宣った。


「燕……どこでそんな言葉を……桜姉さんね!」


燕と一番(同レベルで)遊んでいる桜のニコニコ笑顔が小町の脳裏に浮かんだ。小町から見て、桜は余計な知識の宝物庫なのである。


「ま、雑学っちゅーか、下らない情報なら桜だからなぁ……?そういや、さっきまでの話の中で、桜が出てきてねぇよな?」


遥が訝しみ光と梓に問い掛けると、二人は苦笑いを浮かべ微かに視線を交わすと、やはり気まずそうに乾いた笑いを漏らしたのであった。


「そのぉ……なんて言うべきかなんだけど……実は、さっきの話には、まだオチがありまして……」


「オチ、と言うか……落ちた、なんだけど……この話って実は、小町以上に桜にとって、黒歴史なのよ」


「ど、どうゆうこと?」


「実はねぇ、さっちゃんもこまたんを助けようとして、けんちゃんとほぼ同時に飛び込んだんだけど……溺れちゃって」


「まあ、小町と一緒に剣が助けた訳なんだけど……ね?剣に倍の手間をかけさせて、私達にも倍の心配させちゃったりで、桜にとっては不名誉なエピソードなのよ。だから、話題にしたこともなかったんだけど」


「そんな訳で、ここで話したことはさっちゃんに内緒な方向で宜しくね?さっちゃん的には苦々しい失態でしかないから」


「うん……でも、私的には……少し嬉しい……かも」


実際に役に立てず、逆に迷惑行為になってしまったのだとしても、自分の為に必死に行動してくれた事実は嘘偽りではない。小町は桜に感謝したい想いでいっぱいになっていた。


自らの預り知らぬ処で妹からの評価が上がっていた本人はその頃、神社でエアガンの弾を大鉈を盾にして駆け回るとゆう罰当たりな遊戯を楽しんでいたりしてるのであったが。


※エアガンの弾は、自然分解される環境に易しい素材を使用しています。


その後、一行は城内見学に赴き、本丸天守閣から展望を楽しんだりした後、昼食を採るために市街地散策に向かったのであった。




「……いいんだけどね。人数多いから仕方ないしね!」


いいとか言いつつ、不満たっぷりな小町。


「まあまあ、折角旅行に来たから名物料理を食べたいって気持ちは当然だけどね?でもさ、こんな機会でもないと、おじーちゃん達はこーゆー店に入らないんだって思おうよ」


やはり、信州で観光を楽しむのであれば、食事で蕎麦は外せないのが人情であるのだが、そんなのは知識によって刷り込まれた常識でしかない。


しかし!常識知らずのお子様には〝名物料理〟なんて概念は通用しないし理解の範疇外なのである。


で、あるからして、末っ子は自身の記憶にある〝おいしーたべもの〟と、それを食べたお店を見つけた瞬間に、持ち前の執着心を発揮させたのであった。


「ま、小町の気持ちも解らなくねーよ。なんせ……サイ○だからな。東京にいくらでもあるからなぁ……」


ここは、みんな大好きサ○ゼリアである。聖家の地元では珍しくもないファミリーレストランなのである!


「はんばーぐ!ちーずのはんばーぐたべるの!」


「燕ちゃんはハンバーグが好きなのねぇ」


「それじゃあじぃじは目玉焼きのハンバーグにしようかな。分けてやるからな!」


ちっちゃな孫をあやす祖父母は、幸せ一杯に朗らかな笑顔を浮かべている。


「はぁ……同じ階にお蕎麦屋さんもあるのに……」


「ま、蕎麦は明日にでも食えばいいじゃんか。あまり不機嫌な顔すんなって」


遥は解りやすくチラチラと視線を勇吾と麻紀の方へと向けた。自分の気持ちより、二人に対して気を使えと。


「分かってるわよ……ヤケ食いしてやるんだから!私イカスミパスタとマルゲリータ!それとホウレン草炒めとチョリソーも!」


オーダーを済ませた後の雑談中。


「しかしよ……剣と梓が別行動するとか珍しいよな?」


「そう?普段だって四六時中一緒な訳じゃないけど?」


「そ、そうだよ!ほら、梓姉さん職人的なトコもあるから!針仕事になると熱中しちゃうし!」


「?小町、なんか焦ってないか?」


「ぜ、全然!なにも慌てたりしてないから!」


「……怪しい」


「まあ、今回はおじーちゃんおばーちゃんに楽しんでもらうの優先だからね。さっちゃんがコッチに来ないんだから、私までアッチだと、実孫として色々アレかなぁと」


「そんなもんかねぇ?」


懐疑的な態度の遥であったが、続く梓の台詞にげんなりした。


「それにぃ、明日は私が殆どけんちゃんを独り占めだからぁ、今日はさっちゃん達に甘えさせてあげないとだしぃ❤」


「……さよで」


明日の帰路。剣と梓は双子と入れ替わりで光の運転する車に乗って帰宅する事になっている。なので、独り占めと言われればあながち間違いでもなかったりするのであった。


そして、電車メンバーは塩尻から直接東京方面へは向かわず、長野へ寄り道してから新幹線に乗車して帰る予定なのである。


「遥、貴女が一番年上になるんだから、ちゃんと皆を引率するのよ?特に……翼と希には注意して」


「アネさん……嫌なフラグ立てんで……」


本人達に悪意も害意もなくとも、トラブルやアクシデントを招き寄せる双子の存在は、遥にとっても頭の痛い問題なのであった。ただ観光して歩いているだけでも、ナンパしに寄ってくるモブ男くんが出没することが、容易に想像出来てしまうからだ。


「はるるん、明日は当社比三倍増しで目付きの悪いメイクをしないとだね!」


「しゃあねぇかなぁ……あんまキツくすっと、一般人にも微妙な顔されちまうんだけど」


「あの……元々微妙なメイクだと思うんだけど……」


「小町、そこはつっこまないであげて!」


「敢えてハルにゃんモードになって、逆な意味的に近寄り難い雰囲気を出してみるとか……?アキバでもなければ、メイドをナンパしようとする勇者なんていないんじゃ?」


「……いや、私が一緒に歩きたくないってば」


「うん。遊ばれてるのは、よーく解った」


果たして、遥の一日おねーちゃん(一番年上)行動や如何に。


「ま、いいや。ところでアネさん。メシの後はどうします?」


「ここまで来たのだから折角だし、安曇野まで足を伸ばしてみましょうか?遥は行ったこと無いわよね?」


「はい、まあ。安曇野って、何があるんですか?」


「見るべき所は、やっぱりわさび農場かな?水が澄んでて綺麗なトコだよ~。そして、忘れちゃいけないのは……ワサビソフトクリーム!」


「……罰ゲーム的な響きだな」


罰ゲームというワードに、何故か小町は苦虫を噛み潰したかの表情で身震いしていたのでした。


食後、安曇野へ移動して、わさび農場で食べたワサビソフトは、想像に反して拍子抜けするほど辛さが無く、わさびがほんのり香る、後味の良いソフトクリームでありました。



特産品がソフトクリームになってる確率高いと思います。ワサビソフト……食べたの二十年以上前だっけか……

次回は今回の直後からです。

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