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50話目 田舎でコスプレ

50話……これからもユルユル続けていこう。

読んで下さってる皆様に感謝してます!

朝食後、剣は特に予定が無いので、そのまま居間でのんびりお茶をしながら寛いでいた。


居間には他に、二日酔いに苦しんでいる敏郎が畳の上でゴロ寝していて、美鈴が膝枕をしてあげている。


帰省する度の光景であるので、剣は心配なんて全然しない。


姉妹達はといえば、桜は翼と希に、何故か実鳥まで伴ってコスプレ撮影へと出掛け、残りは祖父母と共にドライブへ出発していた。


「剣くんは、行かなくてよかったの?」


居残りをしていた事を不思議に思い、美鈴が問いかけた。


「ええ。午後からする事がありますから。あれ?実鳥ちゃんから聞いてませんでした?」


「実鳥から?……特になにも聞いてないわよ?」


「そうっすか……まぁ、俺から伝えても問題ないか?実は……」


ざっくりと要点だけ説明すると。


「あら!実鳥ってば……私にも相談してくれればいいのに」


美鈴は少し、残念そうにしている。


「ま、今回の件は実鳥ちゃん主導なもんで。言ってない以上何か考えが在るかも知れないんで、話を振られるまで知らんぷりしてください。父さんもな」


「……解ったよ……どのみち、私はしばらく動けそうにない……」


「もう少し、威厳どうにかしよう」


剣はおっきく溜め息を吐いて立ち上がると、取り敢えず昼食の準備をするため、食材を確認しに行ったのであった。




青々とした木々に囲まれた小さな神社。静謐な空気が漂う厳かな雰囲気の中、神聖さをぶち壊す陽気な声が響きだした。


「おっはこ~ん!みんなの着せ替えドールSAKUTANで~す!今回も引き続き、帰省先からOTODOKEしまっす!尚、この動画は神主さんに許可を戴いて撮影しています!マナーを守って楽しくコスプレ!」


テンションアゲアゲで、ウィンクてへぺろ横ピースでポーズを決めた桜。本日のコスプレは斧や鉈がとっても似合う水色セーラー服であります。


「今回は特別ゲストを呼んでるんだよっ!……特別とか言いつつ、実はバックダンサーとして度々登場してくれていながら、その正体を明かさずにいた御二方です!どうぞ!」


画面外から、SAKUTANの左右に緑髪の双子少女が現れた!一人はポニーテールで、もう一人は後頭部にリボンを結んでいる。


「おはつ~。ウィングで~す」


「よろ~。ホープだよ~」


ポニーテールが翼。リボンが希である。


「御二方はSAKUTANのリアルお姉ちゃんズなんだよ!どう?びっくりしたかな?かな?更にびっくりするネタを投下しま~す!SAKUTANに比べて、二人のコスはなってないよね?実は……用意していた衣装がキツくて着れなかったんだよね!主に胸が原因で!少し胸を張っただけでボタンがパーンッだよ?これで高一、どんだけ育つの?ってハナシだよ~はぅ~!」


「現在進行形で成長してま~す」


「この一年で、カップが2サイズあっぷ~」


「……成長率が半端ないよねぇ……ま、それはさておきとして、今迄感想・応援のコメントでも『バックダンサーの二人は誰?』『マジカワユス!お名前は?』とか多かったんだけど、御二人の希望でガン無視してたことをお詫びするね!それで、今回情報解禁したのには理由が在るんだよね、マイシスターズ?」


「は~い。私達ウィングとホープは去年の秋からトリオス・ジェミニィとゆうバンドで活動してるのですがぁ」


「バンドの動画アクセス数増加を目論んで出演しました~」


「露骨な告知活動、御苦労様!」


「持つべきものはネットの姫な妹」


「経費ゼロでの絶大宣伝効果なり~」


双子はカメラに向け『トリオス・ジェミニィで検索!』『ライブを見に来てね♪』と書かれたフリップを掲げた。


「まるでバラエティに番宣でしか出ない人みたいだよぉ」


「将来は、そんな人になりたい」


「メジャーになっても、SAKUTANの動画には無料で出演してあげるね」


「それでは御二人のバンド活動については……詳しくはwebで」


「それ、テレビで言うやつ」


「これもwebだし」


「とまあ、winwinな関係でお送りいたしまっす!さてさて今回は冒頭でもお伝えした通り、帰省先で収録してるんだけどぉ……日本の田舎を舞台とした作品のコスには絶好のロケーションだよね?さて、あまり騒ぐと祟られそうだから、ちゃちゃっと歌って踊ってみるぞー!……はい、カット!動画チェックするであります」


主演自らの撮影中断宣言により、カメラが止まった。撮影に使用された桜愛用のハンディデジカメを構えていた実鳥が、それまで我慢していたのか大きく息を吐いた。


「お疲れ様であります♪実鳥たま」


「自分の呼吸音が入らないようにって緊張したよ~。それにしても……桜ちゃんが普通の口調で話してるのって、凄く違和感がある……」


「みどりん、桜の動画見たことなかった?」


「桜はコスで口調が変幻自在」


「似せる以上はとことん似せる!それがリスペクト精神だから!」


くるりとその場で回転して見せる桜。スカートの裾が、ふわりと翻る。


「拘りが凄い……そして、衣装の完成度も凄いよね。こんなの手作りしちゃう梓さんって只者じゃないよね……」


とても可愛らしい出来映えだと感心しながら、実鳥は自分では絶対着ないと決意していた。まだまだ感性が否ヲタである。


「みどりんの目から見ても梓ちゃん凄いんだねえ」


「やっぱり、ライブ衣装作ってもらわないと」


腕組みして頷きあう双子。双子も手先が器用なので衣装を手作り出来ない訳ではないのだが、梓の腕前は双子からしても驚異的なのであった。


「私も、梓さんに裁縫習おうかな……そう言えば梓さんは誰から……あ、何でもないです!」


家事万能なパーフェクトお姉ちゃんな光ですら、縫い物に関しては滅多に手を出さず梓に任せて、梓が縫製した日用品や洋服を愛用している現状から、こと針仕事に於いては梓が光以上であるのは明白である。つまり、光から教わったとは考え難く、それなら誰かと思った瞬間に、実鳥は不躾な疑問を口にしてしまったと気付いたのである。だが……


「梓姉様は天然モノであります。特に誰にも教わっていないのでありますよ」


「本とか読んで、独学だよねー」


「おかーさん、下手っぴだったしね」


返ってきたのは、予想していたのとは全然違う答えであった。


「ええっ?独学?亡くなったお母さんに教わったんじゃなくて?そ……それじゃあ、一人で努力しただけであんな上手に?」


驚愕を隠せない実鳥に、更なる追撃がかけられる。


「家族になった頃から、既に凄腕だった」


「あの頃……四歳?」


「……ナニソレー?なんか……スペック高い人多くない?」


「いや、実鳥たまも充分ハイスペックなのですが?」


翼と希、桜は自身が前世の記憶を持っているが故に、同世代の一般人より知識と経験が豊富である事を自覚している。なので、多少チートスペックな人がいたとしても、無自覚レベルで前世の特技を引き継いでいるのだろうと納得してしまえるのだが、前世の記憶なんて物に覚えがない実鳥にとっては、在る筈もない感覚である。


「私は……少し足が速いだけだよ。競争するの好きじゃないから意味もないし」


宝の持ち腐れと思うなかれ。実鳥は確かに俊足ではあるが、それはマトモな精神状態であればこそ。多くの人目に晒される大会では緊張で実力なんて出せない性格なのであった。


「実鳥たまは、もっと自信を持ってよいと思うのですがなぁ。取り敢えず、オープニングシーンは良く撮れてたのであります。引き続き、キャメラは宜しくであります!」


カメラを再度実鳥に預けると、桜は双子とダンスシーンの立ち位置と振り付けの確認を入念に行い、リハーサルを始めた。三人とも、笑顔を浮かべながらキレのある動きで真剣に踊っている。


(……凄い。ここまで真剣にやってたんだ……)


SAKUTANの動画をマトモに見たことがなく、トリオス・ジェミニィのライブも観たことが無かった実鳥は、初めて本気で踊っている義姉達を見ていた。


「……ふうっ!サビの部分、もう少しスペース空けて動きを大きくしてみましょうか?」


「それ、アリ。それと、最後SAKUTANの笑顔で締めるべきと思う。ラスト、私達の立ち位置やや後ろにしよう」


「それと列の入れ替わりの時、ハイタッチしてみない?もっと楽しく見えるようにしたい」


次々と閃いたアイディアを提案しあい、検討を重ねる桜達の姿が、実鳥にはとても眩しかった。


(好きな事、本気でやってるからなのかな?私も、趣味の一つは見つけないとかなぁ……?)


「さて、それでは撮影再開するであります!実鳥たま、最初は引きの画で、その後ボク、翼姉様、希姉様をアップで。四回通しで演りますので!」


「そ、そんなに!?」


「はい。今回は特別なので、バリバリ編集するのであります!ダンスシーンを撮り終えたら、殺陣もやりますので!」


実鳥の目が、小道具?むしろ大道具でしょ?な大きさの、ツーハンデットソードみたいな鉈に落ちる。他にはエアガンや、これをどう殺陣に使うの?と問いたくなるスタンガンなんかもある。


「死神代行さんの刀より大きそうな……コレで?」


問い掛けられた桜は、満面の笑顔で頷いた。




「いや……だからスペックが高過ぎなんですって……」


正午前、森岡家に帰宅した実鳥が、昼食の調理中の剣に呟いた第一声がソレだった(他三名はダンスと殺陣で汗をかいたので入浴中)。


昼食のメニューは野菜のかき揚げとざるそば。所謂天ざるであった。特に凝った工夫のされた料理ではないのだが。


「普通の高校生は、蕎麦なんて打てませんよ……」


乾麺ではなく、打ち立ての手打ち蕎麦であった。


「いや、小麦粉を二割入れた二八蕎麦だから難しくないって。流石に蕎麦粉だけだと上手く出来る自信ないなぁ。むしろ俺の腕がどうのってより、捏ね鉢や長い麺棒、蕎麦切り用のでっかい包丁なんかの調理道具が揃っていたからこそだよ。じいちゃんが趣味で蕎麦打ちしていたお陰だな」


「いえ……普通は『打つ』って発想しませんって、光さんだって『茹でる』から始めますから」


頑張って、粉を捏ねるトコから始めたのに、何故か呆れられてる剣さん。


「……なにが、悪かったのだろうか?」


「悪い訳じゃないんですけど……剣さんは何事もソツなくこなし過ぎてるんですよ。お蕎麦なんて何度も練習した訳じゃあないでしょう?あまりサラッとやられちゃうと、格の違いを感じさせられちゃうとゆうか……」


それが特別な、非日常なジャンルであるのならば問題ではないのだが、実鳥も毎日手伝いをしている事柄であるが故に、やるせなさを感じてしまったのである。


「格ねえ……そんなこと言ってて大丈夫か?午後は実鳥ちゃんが頑張る番だろ?」


少し落ち込んでいた実鳥であったが、剣の問い掛けに、ハッと顔を上げた。


「そ、そうでした!絶対、成功させますからね!」


「ああ。メシ食ったら、皆で買い物行かなきゃな」


珍しく、熱血キャラみたいに瞳から炎を発していそうな程の決意を見せる実鳥。それを見て剣は苦笑いを浮かべた。


「実鳥ちゃんも、聖家のやり方に染まってきたなぁ」




ダンスの楽曲は、ひデ○ポータブルのオープニングをイメージして下さい。

前書きでも書きましたが、我ながらよく心折れず50話まで書けたものだと……

そんな訳で、次回はストーリー展開とほとんど関係無い特別編をやります。

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