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4話目 お風呂掃除と一番風呂

帰宅するなり、桜は玄関で俯せて、倒れ込んだ。


「重かったのです~。腰が痛いのであります~」


光より罰として与えられた『10㎏米二袋運搬』を、一度も地面に落とさず桜はやり遂げた。


その米袋を、剣は軽々しく二袋とも抱えてキッチンまでもって行く。既にエコバッグ四袋を置いてきた後である。


「兄様は、化け物なのです。体力がエイ○ブリアクター並みなのでありますよ~」


「さっちゃんも、女の子としては結構凄いと思うよ?ダンスとかで運動している効果は充分あるって」


梓は割りと運動が苦手で基礎体力低めなので、正直に桜を凄いと思っている。


桜の方も、梓の突き抜けた生き方に感化されている事を自覚し、尊敬している。


「よい……しょと、明日筋肉痛になりそうなのであります。梓姉様~、部屋まで抱っこして下さいませ~」


「……さっちゃん、お米より重いよね?自分で歩こ」


去って行く梓の背中にすがり付きじゃれつく桜。やっぱり女の子が、それに増して姉が大好きなのである。


梓も、桜を振り解こうとはしない。妹からの好意は嬉しいのである。なんとも相性のよい仲良し姉妹なのであった。




光達が買い物に出掛けている間、家では双子が燕の世話を。美鈴が洗濯を。実鳥と小町はバスルームの掃除をしていた。


聖家のバスルームは広い。バスタブには大人三人が余裕で入れてジャグジー機能まである。その掃除となれば、大仕事である。


もうすぐ春休みも終わり新学期となるので、人手の確保が容易な内に済ませてしまおうと小町が提案し、実鳥が協力を申し出たのであった。


二人は濡れるのが前提の格好、小学校の体育用水着(つまりスク水)に着替えて戦闘準備を整えた。


「流石にこれで着納めだね。サイズも厳しいし」


中学生になれば学校指定の水着も変わる。着る機会が無いのは当然である。


「それじゃ、私の予備用に貰っちゃうね。私も去年着てたの少しキツイや」


因みに、桜が着用していた水着はコスプレ用に改造された為残っていない。某カエル軍曹を折檻するのが役目となっているお姉ちゃんの、フルアーマーとなっている。


バスルームの掃除は効率重視で進められた。


天井から壁に至る迄温水を撒いてから、洗剤を含ませたモップやスポンジでひたすら磨く。タイル張りの洗い場は、ブラシで溝の一本毎を見逃さずに。


最後に、もう一度水を撒いて洗剤の泡を全て洗い流し、天井と壁を空拭きして水滴を取り除く。


ここまでやると、二人共水と汗と泡でずぶ濡れである。


故に、掃除をした者に与えられる権利を行使する。


「ん~♪やっぱり綺麗にしたばかりの一番風呂って格別だね!実鳥義姉さんもそう思うでしょ?」


「うん!たっぷり動いた後だしね。お掃除も、二人でやると楽しいし」


二人共、表情を緩ませ湯に身を任せている。当然だが、水着は脱いでいます。


「なんかな~。最近、家族の中で一緒にいて一番リラックス出来るの、実鳥義姉さんかも~」


「そうなの?そう言われて悪い気はしないけど……。実のお姉さん達を差し置いちゃうのは、どうなのかな?」


「いや、ウチの姉さん達って、みんなして押しが強いじゃないですか。その上、変人ばかりだし」


「あはは……、確かに変わってる人達だと思うけど、みんな優しくて仲良しなの素敵だなぁって思うけど?」


「仲良き事は美しき哉なのは否定しないです。でも、生徒会長やっている身としては、マイナスイメージになりそうな人達ばかりだから……」


「それって、お姉ちゃんもだよね?ごめんね。不良さんみたいな格好してて……」


「いや、その、遥義姉さんは見た目がアレなだけで、悪い人じゃないって判っているから。……あのメイクだけでも、どうにかならないかなって思うけど……駄目かな?」


「難しいなぁ。今更素顔を見せるの、凄く恥ずかしいんだと思うの。弱味を見せたら負けみたいな考えの人だからー」


「勿体ないなあ。絶対、可愛い顔だと思うのに」


実鳥は、実母の美鈴によく似て童顔である。美鈴は今年三十七歳だが、二十代と言われても違和感がない。


その美鈴の実子である遥が実鳥に似ていない筈は無いと、家族の誰もが思っている。


「むしろ、可愛いから問題なんだよ。ここだけの話、お姉ちゃんの顔は私より幼く見えるから。反応が怖いんだろうね。特に、剣さんの」


「気持ちは判らなくもないけど、兄さんは動じない気がする。とゆうか、一番反応薄いと思う」


「うん。お姉ちゃんの方が意識し過ぎだと思う。悪い意味でなく男の人を気にするのって、初めてだから自分でもどうしていいか解らないんじゃないかな?」


「気にする?……遥義姉さんが、兄さんを!?え?なんで?」


「?同い年の男の子が同じ家に住んでれば、普通は気にすると思うよ?私、変な事言ってる?」


「あ、そ、そうだよね。普通だね、普通。気にするイコール恋愛感情にはならないよね。早とちりして恥ずかしい思いをしちゃったよ。……無いよね?」


「……無い……とは、言い切れないね。お姉ちゃん、剣さんに凄く引け目があるし。何か切っ掛けあれば堕ちちゃうかも」


「やめてほしい……。兄さんがハーレム野郎になるのも。義理の姉妹で昼メロになるのも。……文○砲コワイ……」


お湯に浸かっていながら、小さく縮こまる小町。


築き上げた社会的信用が、身内のスキャンダルで崩壊したら、たまったものではない。


「大丈夫だよ。もしかしたら程度の話なんだから。お姉ちゃんの本当の気持ちなんて私には解らないもん。……仮に、お姉ちゃんが剣さんを好きになったとしても、自分からは何も出来ないんじゃないかなあ?」


暗に、実の姉を素顔も晒せないヘタレと揶揄する実鳥ちゃん。


「実鳥義姉さん、肉親には遠慮しないね」


「肉親だから、遠慮しないんだよ。……思い返してみれば、家族だからって気遣いするのも程々じゃないと駄目だったんじゃないかなって気が、今はするんだ。……前の、お父さんの事なんだけどね」


遥と実鳥の父親と美鈴は離婚している。離婚の直接的理由は父親の家庭内暴力で、主にその被害者は実鳥だった。


その為、実鳥は父親を恐れ、男性恐怖症となった。遥は実鳥を守ろうとして攻撃的な言動をし、それに合わせて外見も変えていった。


「私は子供過ぎて、何も判ってなかったんだよね。どうして、お父さんがあんな人になっちゃったのかが。……それだからって訳じゃないけど、最近の小町ちゃんは、見ていて少し、もどかしいかな?キツイ事言ってるようで、本当に言いたい事は言えていないみたいで」


「そっ、そんなこと……ないし」


とは言いつつ、図星なので顔を反らす小町。最近、兄や姉達に素直になれず、細かな事で反発している自覚はあったのである。


「そんなことより!実鳥義姉さんはどうなの?兄さんの事、好きになったりしてないよね?恋愛的な意味で!」


「してないよ~。親愛的な意味では好きだけどね。優しくて、頼れるお兄さんだよ~」


今はまだ。なんだろうなと小町は思った。


小町から見ても、剣は優しく頼れる兄である。スポーツ万能で学業優秀。常に冷静で妹の誰に対しても横暴な態度を見せた事も無い。加えて、容姿の整った美男子である。


欠点を挙げるとすれば、姉妹に対して甘い事。梓が所構わず侍る事を容認している事である。


「……シスコン入ってるよ?」


「それも含めて、かな?お姉ちゃんも、私に過保護なトコあるし。私、そうゆう人に安心するのかも」


「安心……まあ、その点では一番、かな」


「小町ちゃんも、剣さんの事好きだよね~」


「まあ……でも!一番尊敬してるのは光姉さんですから!」


「光さん素敵だもんね~。見惚れるぐらい綺麗だし、家事が何でもこなせるなんて、憧れるよね~」


そうなんですよ!と、ばかりに胸を張る小町。光は自慢の姉なのである。勿論、実鳥にとっても自慢の義姉である。


「……小町ちゃん、私より、胸、育ってない?」


咄嗟に肩まで湯に浸かり、胸元で腕をクロスして隠す小町。


「にゃ、にゃにを言うんですか!?そんなことないですって!」


「でも……この前、洗濯した時に小町ちゃんのブラを見た光さんが「小町にまで、抜かれた?」ってブツブツ言ってたよ?」


小学生の妹に、胸の発育で負けてしまった光さん(大学生)の胸中や、如何に。


そして、勝ってしまった小町の胸中は?


「やだなぁ……。おっきくなっても馬鹿男子にセクハラされるだけだし。私は光姉さんみたいになりたいのに……」


光お姉ちゃんが聞いたら、血涙流しそうな悩みを抱えてました。


「男の子に見られたくないのは私も同じだけど……。翼さん希さんみたいに形が良ければ大きいのも悪くないと思うな。実際、最近の二人って、凄いし」


「二人が並んで歩くと、正常な男は100パー見るよね。……そうゆう視線を、全然気にしないんだよね、二人共。あのメンタルの強さはどこからくるんだろう?」


「私なら、怖くて泣いちゃうかも……。ライブとか、大勢の前で歌ってるのも、凄いよね」


「ハートの強さだったら桜姉さんもパない。コスプレして踊ってるの、動画投稿してるんだもんね。イベント行ったら何十人にも囲まれたり、並ばれて撮影されてるって……」


「恥ずかしくないの?って聞いたら「ちやほやされるのが気持ちいいのであります!」だよ。私には、心の仕組みから違うとしか思えないよ」


「お義父さんの血なのかな?私もいい意味でなら目立つ事に抵抗ないし。……血は関係ないかな。積極性最強は梓姉さんだし。むしろ、梓姉さんを見て育ったからかな?」


「私も、血じゃないと思う。思いたくない。外見的な事は仕方ないけれど」


「そ、そうだよね。あ、見た目っていえばお義母さんて凄く綺麗だよね。肌なんて白くてスベスベだし。二十代って言われても違和感ないよね。とてもアラフォーには見えないし。実鳥義姉さんも、肌綺麗だよね」


「えへへ、そうかな~?小町ちゃんこそ美少女さんで可愛いよ~。お義姉さん達の中で、光さんに一番似てると思うよ~」


「う~ん?あまり実感ないんだよね。クラスの友達ほどオシャレとかに興味ないし。実際、男子からはブスって言われるし」


「それ、照れ隠しだと思うけどな~。生徒会長選挙で六割以上の票取ったんだよ。男子票入らなきゃ無理だよ~」


「下級生票じゃないかな?私、優しいお姉さんに見られたいから年下の子達の前だと基本的に猫被るし。選挙活動前から、同級生の男子票は無い物として考えてたしね」


「対立候補さんが可哀想になる話だね……実際、他の二人は二割以下だったもんね。圧勝だったもんね……」


「知名度高かったのは事実だから、卑怯だったかも。……姉さん達がやらなかった事をしようとして、姉さん達の名前を利用したみたいになったのは不本意だったけどね」


小町の兄姉(遥以外)全員、同じ小学校の卒業生であり、それぞれに色々と(実鳥以外)やらかしていた。その噂は彼・彼女らの弟妹に少なからず伝聞されていた。


つまり、生徒会長選に立候補した時点で、他候補とは注目度が段違いだったのである。勿論、元々目を引く容姿であったが、小町本人は意識していない。


美形だったり、才能に恵まれたり(転生によるアドバンテージ持ちだったり)している兄と姉達に囲まれた為、自分に自信を持ちきれず、故に向上心を絶やさない。それが現在の小町の持ち味となっている。


「でも、小町ちゃんが頑張ったからこそだよ。そもそも出るって決断しないと当選なんてしないんだから。結果がどうだったとしても、私は小町ちゃんの事偉いなぁと思うよ」


「あ、ありがと。嬉しいな……本当、実鳥義姉さん相手だと素直になれて楽かも」


「私も嬉しいな。小町ちゃんは私の自慢の義妹だよ。……家族になったばかりの頃から、臆病だった私の事を気にかけてくれてたよね?ありがとうなのは私の方だよ。だから…ね?甘えてくれたりすると、嬉しいな。私をお姉さんにしてくれたの、小町ちゃんだから」


照れ笑いする実鳥に、小町は恥ずかしげに顔を反らしながらバスタブの中を四つん這いで移動すると、実鳥の横に座り、軽く体を預けた。


そして、顔を反らしたまま。


「す、少しだけ、甘えてみる……」


と、顔を真っ赤にして呟いた。


(意地っ張りなのが、お姉ちゃんと似てて親近感沸くっていうのは黙っておこ。小町ちゃん、大好きだよ!)


小町を背中から抱き締め、実鳥は小町に頬被りした。ますます顔を紅く染める小町……否、全身が火照っていた。湯中りして熱中症になりそうである。


慌てた実鳥に抱えられて事なきを得た小町ちゃんでありましたが、買い物から帰宅した梓と桜に脱衣室で(全裸で)寝かされている所を鉢合わせ、全身くまなく冷やしタオルで拭かれるとゆう、無様な姿を晒す事となりました。


この日の午後、小町は部屋に閉じ籠もり、小町の部屋の前で、しょんぼりしている実鳥の姿が見られたのでありました。




お風呂回でした。またその内、姉妹全員で……

次回は双子の話です。

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