表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/241

46話目 夜会のはじまり

「い~い感じに煮えてきた~」


「グッツグツ鉄鍋味染みる~」


山梨県名物のうどん的料理、ほうとう。それが鉄鍋でグツグツ煮込まれている。調理の担当は翼と希。SAでのお土産屋を物色中に衝動買いしてきたのである。


普段は全く料理をしない二人であるが、自ら食べたくなった物に対しては、決して手間を惜しまないのであった。


「作らないのに……兄さんより作らないのに……」


上機嫌で、即興で歌いながら、手際良く料理をする双子を、小町は愕然とした表情で見つめていた。


生体CPU兵士な前世の頃ほどではないが、双子はとても記憶力が良いので、レシピを簡単に記憶しているのである。そして、前世で刃物の取り扱いは学習済みであるので、動かない食材を正確に、高速で切断するなどお手の物なのである。


即ち、双子にとって料理とは、解りきった結果を実証する科学実験でしかないのだ。


反面、独自の味付けをさせると失敗するのだが……


「隠し味とか入れたりしない~」


「初めての料理はアレンジしない~」


「「人に食わす物で~冒険すんな~」」


適当に調味料を放り込んで、紫色の物体Xを錬成するなんて言語道断!全てのラブコメヒロインは、先ず味見をしろ!と、言わんばかりに、徹底してレシピ遵守で料理をする双子であった。


双子のほうとうの完成を以て、本日の夕食は完成した。


「では、いただきます!」


全ての食材に感謝を込めて勇吾が合掌すると、一拍遅れて全員が「いただきま~す!」と合唱した。


「バリバリザクザクが堪らないのであります!」


早速、メインに桜がガッついた。


「小町ちゃんが味付けしたんだよ」


「おばあちゃんのアドバイスが良かったからね。ま、満足かな?あ、光姉さん、大根おろしかさらし玉葱と一緒ならさっぱり味で食べやすいでしょ?」


「ありがと小町。それじゃポン酢もかけて……うん、いい味ね。……妊娠してから、体がホントに酸味を欲するわぁ~」


しみじみ味わう光を余所に、剣はちゅるんと麺を啜った。


「翼と希が作ったほうとうも美味いな。同じ味噌煮込みうどんでも、名古屋風のとは違った風味で……俺はこっちも好きだな」


「この鶏もつ煮も甘辛くておいしっ!これも高速で買ったんだよね?」


「どっちもSAで物色した。勿論、信玄餅も買ってきた」


「あと、おとーさんが酒の肴にアワビの煮貝を」


両親と祖父母は、日本酒と甲州ワインで飲み食いしている。


「はい、お義父さん、お義母さん、御酌しますね」


「はは、美人に酌してもらうと、何倍も美味く感じるわ!」


「あなたったら……はい、美鈴さんもコップが空ですよ。返盃しますよ」


「有難う御座います……あぁ美味しい。煮貝には日本酒が合いますねぇ」


「甲州ワインでもいけますな!おや?敏郎くんは……もう潰れちまったんか?」


「つい、昼にも飲んでしまいまして……一寸御飯をいただきます。……これは、キムチと沢庵ですか?へぇ、辛味と酸味、僅かに甘味もあって酒にも合いますな!これも娘が手伝って作ってくれたと思うと百倍美味い!」


それ、剣ちゃんが一人で作りましたよ?


麻紀は、喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。知らぬが仏。義理の息子に、夢を見させてあげる優しい義母であった。


「おいしっ!おいしっ!ちゃーはん、おかわり!」


「燕、もう三杯目だぜ?お姉ちゃん達の分がなくなっちゃうってば……」


剣作、キムタク炒飯は、相当燕の御気に召したらしい。燕の右手は、スプーンをぐっと掴んで離さない!


「つぎは、おなべのしるかけで!」


「聞いちゃいねぇし……しかも、幼児らしくねぇ注文まで……」


ぶつぶつ言いながらも、炒飯を盛ったお椀にほうとうの汁をかけてあげる遥お姉ちゃん。ぱっと見、面倒見のいいヤンママのようである。


そんな賑やかな食卓を、空腹を堪えて見つめる一対の瞳。剣の愛犬にして聖家の守護者である、柴犬のこだちちゃんである。


「……剣さん、とても罪悪感が……」


「ダメ。人間の食事が終わるまでは餌をあげてはいけない。我慢して」


動物虐待に見えるかもしれないが、歴とした飼い犬に対する躾なのである。犬は、犬種にもよるが群れで生きる習性があり、自身を含め、飼い主一家に序列を付けるのだ。それにより、自身より序列の低い者に無礼に扱われたと感じると、噛みついたりしてしまうのである。問題行動を起こす飼い犬とは、躾の出来ない駄目飼い主の産物なのである!


それで、犬にとても解りやすく序列を認識させる躾が、食事の順番を最後にする事なのだ。野生の狼も食事の順番は群れのボスからなのである。人間が先に食事をすることで、飼い主との格差を教え込まねばならないのだ。


それはさておき、猫にして意味のある躾はトイレくらいである。基本的に、自分一番な自由な生き物なのでやりたい放題。畳で爪を研ぎ、障子を破って突っ込んだり、食卓にも昇るし、ノートパソコンの上で寝る。怒られたって直ぐに忘れる。飼い主は召し使い!そんな感覚で生きているのが猫なのだ。


であるからして、こだちがおあずけされてる間に、にゃんこ三匹は柔らかく煮込まれた鶏のササミを鱈腹食して、思い思いに寛いでいる。……猫が優遇されているのではない!犬と猫は習性の異なる動物であるが故、扱いが異なるのは当然なのだ!


人間達の食事終了後、こだちちゃんは猫達と同じササミと牛の赤身モモ肉ステーキをいただきました。躾に影響しない限りでは、激甘飼い主な剣さんであった。




夕食後、居間には八つの布団が敷き詰められた。聖家九人姉妹全員揃っての女子会、即ち。


「ぱじゃまばーてぃー!」


ハイテンションでペンギン……もとい、梓お手製ペンギン型パジャマを纏った燕が布団の上を跳び跳ね廻っている。


「い、妹様が、かわいすぐるのであります……」


感涙している桜は、Tシャツにジャージズボンと女子力低めな格好をしている。Tシャツの表には『YDK やればできる子』と書かれている。背中には『やっても駄目な子もYDKだよね』と、皮肉られている。


「我ながら、いい仕事しました!でも、明日の朝着替えてくれるか心配だね……」


梓は普段通りのパジャマでなく、何処ぞの温泉宿のような浴衣を着ている。


「梓姉さん、どうして何時ものパジャマじゃないの?」


小町はごく普通の、普段から愛用している水色のシンプルなパジャマを着用している。真面目な小町らしい、飾り気の無いパジャマ姿である。


「うん。畳に布団で寝るの久しぶりだから、雰囲気を大事にしたいと思って。それと……夜這いするにもされるのにも脱ぎやすいし脱がされやすいでしょ?」


何処からともなく出現したハリセンが小町の右手に収まり、鮮やかな弧月の軌跡を描いて、スパーン!と梓の後頭部を凪ぎ払った。


「教育的指導!燕がいるんだから控えてよね!」


「あたた……こまたんってば、けんちゃんが夜這いに来る訳ないじゃない?そうなったらいいなって願望込みの冗談だってば」


「冗談でも!聞かせていいかを考慮してよ!……まぁ、ペンギンごっこに夢中で聞いてなさそうだからいいけど」


布団を海に見立ててか、燕はもぞもぞ潜っては掛け布団を跳ね上げるのを繰り返している。


「あれじゃあむしろアザラシだな。いや、モグラか?」


「綺麗に敷いたお布団がぐじゃぐじゃだよぅ……」


末っ子の無邪気な姿をほんわか見守りモードな遥は、ジャージ姿である。しかも、中学校で着ていた物であるので、かなりヨレてくたびれているジャージだ。更に女の子座りではなく胡座なので極限的に女子力が低下している。……女子校の運動部合宿ではないのだが……


対して、末っ子にきっちり揃えてスケートリンクの如く敷いた布団を、割れ砕けた流氷のようにされてしまった実鳥は、しょんぼり悲しい気持ちになっていた。その実鳥は、襟や袖口に控え目な小さいフリルの付いた可愛らしいパジャマ姿である。実年齢より多少幼く見えるロリパジャマだ。


「まあ、そんなに気落ちしないで。姉妹水入らず、全員揃って一緒に寝るなんて滅多にないからテンション上がっちゃってるのよ。実鳥ちゃんも今晩は無礼講だからね!」


そう言う光も上機嫌であった。お祖父様の尽力により、敏郎の機嫌が多少だが良くなったからである。尤も、妊娠から婚約までの諸々を妹達が概ね好意的に受け止めているので、敏郎が仏頂面を続けていても、家庭内で孤立を深めていただけなのだが。


まあ、父親が年頃の娘に邪険に扱われるなんて、珍しくもなんともない話なので棚上げしておくとして、長女様のパジャマ姿の紹介させていただきます。光はゆったりとしたワンピースタイプのパジャマを着用していて、とても御嬢様な雰囲気をも纏われておられます。


「まだ、お腹は目立ちませぬなぁ?」


「もうじき三ヶ月ってとこだもの。夏になったら目立つだろうけど……今年は海で水着は無理ねぇ」


「お姉ちゃんなら綺麗だから問題ないと思うけどなぁ。でも、夏になったら海には行こうね!水着にならなくたって波打ち際では遊べるし!」


「直射日光と砂浜からの照り返しはノーセンキューでありますが、美女に美少女に美幼女の水着姿が眺め放題なのは最高であります!」


「ナチュラルに変態発言すんなよ、通報すっぞ?」


遥は実鳥を抱きかかえて桜から遠ざけた。


「だ、大丈夫だよ、お姉ちゃん。桜ちゃんは変態さんかもしれないけれど、覗きとか犯罪になることはしないよ」


「その通りなのであります!海水浴場で水着の女性を凝視しても合法なのであります!見られて困るのならば隠せばいいだけの話なのです!」


「……桜姉さんの変態的正論はほっとくとして、恥ずかしいなら露出度高い格好しなきゃいいだけなのには同意。……てゆうか、翼姉さんと希姉さんと一緒に海やプールに行くと、別の意味で色々と恥ずかしいんだけど……」


「あれはねぇ……実の妹ながら確かに目のやり場に困るわ……同じ両親から生まれて、どうしてこうなったの……?」


自身の胸に視線を落とし、暗い表情で項垂れる元モデル。


「落ち込まないで下さいアネさん。そりゃアイツ等背が低くて胸デカイから男受けはいいっすけど、アタシはアネさんみたいな細身な体型が格好良くって憧れます!」


「遥……そんなの、慰めにはならないのよ……いくら自分の容姿が大勢に評価されても、本当に欲しかったスタイルはコレじゃないの!ちゃんと脂肪の纏わり付いた胸が欲しかったのよ!てゆうかぁ……アンタに言われたくないのよ遥ぁ!」


ぐわっ!と、光は遥に飛びつくと、背後から組み付き、遥の胸を揉みしだいた。


「程よく手に収まるし、柔らかいし、谷間も出来るし……羨ましいったらありゃしないわ!しかも素顔はロリ顔なのに……日常生活での女子力の低さが勿体無さすぎる!……嫌味か!」


「あっ……アネさん……は、激しすぎ……や、やめ……はうんっ!」


遥、悶死寸前。遥の筋力では、光からは逃れられない。


「何だか……修学旅行ノリになってきたね」


「れ、冷静でありますね梓姉様……ボクは、何だかいけない気分になってきたのであります……」


「んー……あの程度見るだけなら興奮しないなぁ。さっちゃんは小学校の修学旅行で発育のいいお友達のを巫山戯て揉んだりしなかった?」


「……少し。あ、あんなに激しくはしなかったでありますよ……」


「お姉ちゃーん!光さん、もう止めてあげてー!」


「ひかねぇ!ばめも、るかねぇもみもみするー!」


「!燕っ?らめぇー!」


事もあろうに、燕は遥のジャージに潜り込んだ。燕の小さな手が、遥の胸を、素肌に直で触れる。遥の口から嬌声が漏れ――


「いい加減に……しなさいっ!」


正義執行。本日二度目のハリセン一閃。音だけが強烈な人道的打撃兵装は、妊婦が相手でも遺憾なく威力を発揮し唸りを上げる!


「あ~いいお湯でした~……あら?」


「しばし入浴している間に……成長したね、小町」


双子が風呂から戻って来たのは、小町が光の頭をハリセンでスマッシュした直後であった。


「まさか、おねーちゃんに物理ツッコミ出来る迄になるとは」


「この容赦の無さ、おにーちゃんに似てきたかな?」


現在の室内状況を説明すると、梓と桜は傍観モード。燕はいまだに遥のジャージ内でモゾモゾしていて、その遥は紅潮した表情で半泣き。実鳥は遥の傍でオロオロしている。光はハリセンの衝撃によって前のめりで突っ伏し、小町はハリセンを振り抜いた姿勢のままで硬直している。


そして今、双子の声に反応し、油の切れた歯車仕掛けの機械の如く、ゆっくりと振り向いた小町の顔は、やっちまった的な悲愴感すら漂わせていた。


「ど……どうしよう?私、なんてことをしでかし……?……?ヲイ、なんて格好ばしとっとー!?」


悲愴感を漂わせていたのに、双子の姿を見るや、そんなのはドラゴンブレスで吹き飛ばされるかのように霧散した。


「何故か博多弁が出た」


「クッキン○パパでも読んだ?」


小町の疑問に答えず、疑問で返す双子。何故なら、小町が双子の姿に示す反応なんて想定内なのだったから。


「ほう……そうきたか……つばぞみの無駄セクシーさんめ!」


「有り難う御座います!とってもエロスであります!」


「お……大人過ぎるよぉ~」


さて、双子がどんな格好をしているかと言うと、翼は黒、希は赤のお揃いのデザインの……ネグリジェである。極薄でシースルーな、スッケスケのアダルティーなネグリジェなのである。


「は、破廉恥だよっ!だ……だって……」


「むっ、何処が破廉恥か」


「普段(就寝時)より露出度低いのに」


双子がパン一か全裸で寝ているなんて小町が知るところではない。なので、破廉恥かそうでないといえば、ネグリジェから透けて見えるその素肌に、着けても穿いてもいないのであるから……言わずもがなであろう。


確信的愉快犯な双子によって、聖家九人姉妹のパジャマパーティーは最初からクライマックスな盛り上がりで始まるのであった。




その頃森岡家の離れにて、聖家の長男は愛犬とにゃんこ達に囲まれて、既に安らかな眠りに包まれていたのでした。




ハリセンは亜空間から取り出せる……嘘です。

こんなこともあろうかと……です!

次回も姦し×3なパーティーが続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ