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45話目 夕食前の団欒

「おばあちゃん、鶏の漬け込みダレこれでどう?」


「どれ……悪くはないけど、少し濃いかもねえ。燕ちゃんにも食べやすいように、ちょこっと薄口にしようかね」


「おばあさん。衣って、片栗粉でしたよね?」


剣達が帰宅すると、実鳥と小町が夕食の準備を手伝っていた。今晩のメインはどうやら、信州名物の山賊焼きである。


焼き、とは言うものの、タレで味付けした鶏肉に衣を纏わせ油で揚げた料理で、唐揚げに近い料理である。


唐揚げと異なる点は、ぶつ切り肉ではなくソテーやカツ等に使うような一枚肉を素材に、小麦粉ではなく片栗粉を衣に用いる等が挙げられる。カリザクな食感がとても心地よい揚げ物だ。


祖母と孫娘二人が料理を仲睦まじくしている、微笑ましくも和やかな姿がそこにあった。


「じい様……ここが、んっ……気持ちよい……ですか?」


「んほっ!おぉ~……ええぞぉ~。上手ぁなったなあ桜」


一方、居間では畳の上に俯せている勇吾の背に桜が跨がり、その広い背中を程よく力を込めてマッサージしている。これまた祖父と孫娘の心暖まる触れ合いの光景……な筈なのだが、勇吾が漏らす喘ぎ声と、桜のわざとらしい吐息混じりの声と畳との衣擦れの音の所為で、音声だけだとかなり如何わしく聞こえてしまう。画像付きだと、桜が巫女服姿をしているので、更に誤解を招きそうなシーンになっている。


「あ、兄様方、おかえりなさいませであります!」


「おう、おかえり~」


「ただいま。もう、動画の撮影したのか?」


「はい!今回はく○みこに挑戦してみました!やはり、木々の多い場所ならではのコスをせねばと、明日は翼姉様と希姉様にも協力していただき、ひぐ○しをやろうかと」


「田舎風景にピッタリだねぇ~。そう言えば、去年こっち来た帰りにさっちゃんに頼まれてコス作ったっけ。あ、でも……」


言葉を濁らせ思案する梓に、桜は小首を傾げて訊ねた。翼と希のコスを制作したのも梓である。双子はノリが良いので、時々SAKUTANの動画に出演(素顔・声出しNG)してくれていて、今回の旅行中の撮影にも、桜は事前に出演交渉済みなのだが……


「どうされました?何か問題でも?コスはちゃんと車のトランクに積み込みましたし、出演も快諾して下さいましたが……」


「いや、そのね?つばぞみがコスするキャラって、双子のキャラでしょ?巨乳の……」


「はい。姉様方も御承知されていますが」


「それなんだけどねぇ……その設定を活かす為に、けっこうパッツンに作っちゃったんだけど……それがもう一年前でしょ?あの二人、そこから更に育っちゃったから……多分、いや、間違いなく、前が閉じられません!ボタンが弾け飛びます!」


「なっ!?……迂闊だったのです……そこまで育ち盛りでしたとは……たわわな実りは非っ常に喜ばしいでありますが……梓姉様!どうにか仕立て直し出来ませぬか?」


「無理言わないでよ~。小さくするなら兎も角、おっきくするのは無理!そりゃ、背中を切れば前は閉じれるけど……みぃちゃんのは誤魔化し効くけど、しぃちゃんのはどうにもならないなぁ~。制服じゃなくて、原作の私服コスにしとけばよかったんだけどねぇ。それに、そもそも現物が到着してないし」


「予定が……グズグズなのであります……ボクは、どうしたらいいのでありますか……?」


ガックリと力なく項垂れ、桜はそのまま勇吾の背中に俯せてしまった。


「おい、桜や。じいちゃん嬉しいけど、重いて」


……まあ、孫娘と密着して嬉しそうにしているので、剣はそっとしておくことにした。




梓が桜と共に勇吾の話し相手に、剣と遥は夕食準備の手伝いに加わることにした。普段は二人しかいない森岡家の食卓に、今日は十四人も並ぶのである。料理が出来る人間が増えて困る事は無いのであった。


「おや?初めて見たけど、遥ちゃん包丁の手つき良いねえ」


「ドモっす。バイトで簡単な調理補助はしてるんで」


鮮やか……と迄は言えないが、遥は危なげない包丁捌きで野菜の皮剥きやスライスを担当している。


「凄い……お姉ちゃん、いつの間にこんな……」


「は、遥義姉さんが、普通に出来る人だったなんて……」


実鳥と小町の二人も、遥が戸惑う様子もなく野菜を切り刻む姿に見入っていた。聖家では通常、料理のほとんどを光が片付けてしまっているので、遥がキッチンに立つ姿など見る機会すらなかったのだ。


三人に見つめられ、遥は照れ臭そうに頬を掻いた。


「その……こんなの大した事じゃねえって。こーゆー準備とか盛付けはバイトでやってっけど……煮たり焼いたりとか、調理自体はやってねーんだ。『料理』は、アタシよりもお前達の方がずっと出来るって」


謙遜のようであるが、遥にとっては紛れもない事実である。火を使っての調理や味付けなんかは、全くの素人なのである。家で料理をしないので、上達する訳がないのだ。


一方、そこそこ料理をする剣は、コンロ前で中華鍋を振っていた。具材が熱と油で炒められ、食欲をそそる香ばしさがキッチンに満ちてゆく。


匂いに釣られて、実鳥が鍋を覗いてみると、鍋の中では仄かに紅く色付いた米が踊っていた。


「これ……キムチ炒飯ですよね?」


「一寸違うな。こっちの学校給食にキムタク御飯ってのがあるらしいんだけど、それを自己流で炒飯にアレンジしてみたんだ。ま、キムチと沢庵の混ぜご飯を、豚肉と葱とニンニクのみじん切りを炒めて薫りを出したところに、ぶちこんだだけなんだけどさ」


剣は炒飯を一口分を小皿に掬い取ると、実鳥に手渡し味見を促した。


「い、いただきます……美味しい!キムチの辛味に、沢庵の甘味が合ってます!こんな組み合わせがあるんだ……」


「豚とキムチの相性は説明不要だろ?キムチの量を控え目にしたから、燕でも食べられる筈。まあ、味はこれでいいとして、この鍋じゃあ一度に三人前が限界だな……半分は炒飯にしないでもいいか」


今の姉さんには、ニンニクも辛いかもしれないし……とは、口にしなかった。


「兄さん……また適当な思い付きで……どうして普通に美味しく出来ちゃうのよ……」


「マジか……器用な奴だなー」


小町と遥も、大皿に盛られた炒飯をつまみ食いして感想を漏らした。やはり、小町は悔しそうにしている。ここ数年、毎日のように光を手伝って料理をしているのに、気紛れでしか料理をしない剣が、ソツなくこなしてしまうのが納得いかないのである。


余談であるが、剣は鍋を振る際に風属性魔法を使用して具材をバラけさせて舞わせている。これにより、効率よく熱伝導させて米をパラッとふわっとした食感に仕上げているのである。……魔法技術が無駄に高度に洗練されている。


そうして和気藹々と団欒していると、不意に、家の前に車が停車する音が聞こえてきた。


漸く、自家用車ルート組が到着したのであった。




「もうっ……大変だったのよぉ~」


森岡家到着直後、居間で四つん這いになり、光が漏らした第一声であった。


なりゆきで不届きなナンパレンジャーを撃退した結果、警察の事情聴取に協力する事になった光さんは、とってもお疲れなご様子である。


「いや光ちゃん、悪者をアッパーで殴り飛ばしたんだって?その細腕で大したもんだあ!」


「お祖父様……いえ、そんな大した事じゃありませんよ……それより、遅くなって申し訳ありませんでした……」


カラカラと笑う勇吾に、光は済まなそうに頭を下げる。


「無事に着くのがなにより大事だ!それはそうと……敏郎くん。なんでそんなに焼けとるんじゃ?」


「あ、あはは……どうしてでしょうね?……ひいっ!?」


真っ昼間に陽当たり良好なベンチに放置された結果、敏郎の顔面と下腕・膝下は真っ赤に日焼けしてしまい、ヒリヒリしている。今も美鈴に軟膏を塗って貰っているのだが、それが凄く染みているみたいだ。


「はっはっは!夫婦仲も良さそうで何より!美鈴さんも、自分家と思って寛いでくれな?」


「はい。有難う御座います。御義父様」


「はは……もっと気楽に呼んでくれて良いんだがなぁ」


勇吾にとって、美鈴は娘婿の後妻であり、娘の夕樹が不慮の死を遂げなければ、接点などある筈がない存在である。本来、娘がいる筈の場所に収まっている彼女に、思うところが、蟠りを抱かなかった訳でもなかった。


だが、自分を祖父として慕ってくれている敏郎の連れ子達の存在と、梓の父親が生きていたら生まれもしていない桜と小町とゆう実の孫の存在が、勇吾に、麻紀に蟠りを捨てさせた。これも娘と孫達が紡いでくれた縁なのだろうと、そう思う事にしたのであった。


「じぃじ、だっこー!」


「おおうっ?燕は疲れ知らずだなあ!」


懐にダイブしてきた燕をあやしながら、勇吾は短慮な選択をしなくて良かったと目を細めた。夕樹が亡くなった時、梓達、実の孫達を引き取ろうかと考えた事もあったのだ。だが、その選択の先に現在は無かった。自ら聖家との縁を切るような真似をしなくて本当に良かったと、腕の中ではしゃぐ孫の頭を撫でつつ、幸福を噛み締めるのであった。


そんな勇吾に、更なる驚きがもたらされた。


「父さん……まだ、姉さんと仲直りしてないのか?」


剣の何気無い一言が、勇吾の耳に届いたのである。


「何だ?光ちゃんと敏郎くんが喧嘩か?珍しい」


勇吾が敏郎に問いかけると、敏郎はやはり大人気なく、ぷいっと顔を反らしてしまった。なので訝しげに光に訊ねると――


「え……と、私、彼氏が出来まして」


顔を赤らめながら答えた光に、勇吾は満面の笑顔を返した。


「光ちゃんに春が来たか!なんだ、娘が男に取られたと剥れておるんか?……五十にもなって、ガキかいな……」


プライベート的に、唯一目上と認める男からの遠慮無しの言葉は、敏郎の心をズブリと抉ったのであった。


「それでね、お祖父様……出来たのは、彼氏だけじゃなくて……子供も……」


勇吾の眼が、くわっ!と開かれた。


「バーさんや!宴じゃ!赤飯炊いてくれ!」


腹から絞り出すような大声で、台所の麻紀へと無茶ぶりした。麻紀は直ぐに居間へと飛び出して来た。


「な、なんですかいきなり?餅米も小豆も用意してないから出来ませんよ……なんでまた突然?」


「そりゃお前、めでたいからに決まっとろうが。光ちゃんがおめでたよぉ!ワシらに曾孫が出来たんじゃい!」


「あらまあ!光ちゃんおめでとうねぇ!言っといてくれたら、お祝い用意していたのに……あ、でも、赤い御飯は、一応あったわねぇ……」


予期せぬ朗報に、麻紀は喜びながらも、祝福の用意が出来なかったので少し不満気でもあった。


「ごめんなさい、お祖母様。どうしても自分の口から直に報告したくて、剣達にも口止めしてたの……喜んで貰えて嬉しいわ。正直、御二人に喜んで戴けなかったらどうしようかと……」


「何を言っとるんだ?そんなめでたい事を、祝わん不届き者……成る程、一人、おるようだな?」


勇吾は立ち上がると、何処へともなく姿を消し、しばらくすると、酒瓶を抱えてノシノシ歩いて戻ってきた。


「ここ一番の、とっときの大吟醸だ!今日はコイツでとことん呑もう!なぁ敏郎くん!美鈴さん!」


夕食前に、有無を言わせず酒盛が始まった。


「勇吾さん……何処に、そんなお酒を隠していたのかしら……?」


瞳が笑っていない笑顔の麻紀が、こそっと呟いていた。




全員到着!双子は現在台所でなんかやってます。

次回は……ワンシーンに十四人(+四匹)が登場。

とっちらかるだろうなぁ……あ、いつもか?

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