43話目 梓と遥のワリとマトモな会話
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ユニークと比べるとアレなんですが……
兎も角感謝です!
水田や畑が広がるのどかな農地風景の中を、一人の少年と二人の少女、剣に、梓と遥である。聖家の、他の家族からしてみれば、一瞬「あれ?」と、思われるような編成だ。
それは何故かと理由を述べれば、遥がこの組み合わせになるのを避けていたからに他ならない。だって、恋人同士の傍に独りでいるのって気不味いじゃん!邪魔者だろう!?
そんな気遣いと居心地悪さから、剣と梓が二人きりの時には、積極的に避けていたのだった。
それが何故か現在、遥は梓に手を繋がれて歩いているのだ。梓の反対側の手は、当然剣と繋がれているので、三人で横並びになっている。
「……なあ、なんでこんな……幼稚園児みたいな……」
遥は恥ずかしそうに赤面して梓に問い質したが、梓はニコニコ笑顔でどこ吹く風、全然恥ずかしそうにしていない。
「い~じゃないの、たまには。なんてゆーか、実家に帰ると童心に戻る気しない?」
「それで、仲良くおてて繋いで?……まあ、童心にってのは解る気もすっけど……アタシら高三だぞ?恥ずいだろ……」
「なんで?見てる人なんていないよ?」
時刻は既に午後三時過ぎ、周囲の畑では農作業をしている人すらまばらな時間で、三人に注目している人は誰一人として存在していなかった。
「いや、見られてるかの問題じゃなくてさ……」
その行為自体が……と、遥は伝えたいのだが、普段から他人の目を気にせず、剣や双子と仲良く登下校をしている梓には通じない。勿論、幼少期から梓と共にいる剣も羞恥心は無い。小学生の頃には面白がって冷やかしてくる同級生等もいたのだが、そういったつまらない連中は、物理で捩じ伏せて黙らせてきたのであった。
「こんなウザいのと、よく付き合ってられるな?」
「慣れだ慣れ。それに、梓のウザさはイコール愛情だからな。今更ウザくなくなったら、そっちの方が気持ち悪い」
「……ウザいのは否定しねぇのな……」
剣も一応、梓の行動と性格が世間的に〝ウザい〟に相当する事は理解している。だが、時々イラッとさせられる事はありつつも、それが梓の持ち味であり、裏表無い好意の表現だとも理解しているので、嫌悪感を抱いた事は無いのであった。
「まあ、幼稚園の頃からモブキャラに梓がウザいキャラ扱いされてるのはずっとだからな。でも、俺が嫌じゃないんだから問題無い。それに、家の姉妹は梓に負けず劣らず濃いキャラしているからな。ウザい程度気にならん」
「だよねえ、聖家には一人も普通な娘はいないね!」
即座に剣に同意を示す梓。一応、自分が特異であると認めているようだ。
「……待て、アタシも普通じゃないってか?」
釈然としない遥さんに、梓は「ヤレヤレだぜ」と、呆れ顔で反論した。
「普段は語気強めなヤンキーもどきを演じていながら、バイトでにゃんにゃん言ってるメイドさんが何を仰ってるにゃん?」
遥に、ハルにゃんに返せる言葉なんて、有る筈が無かった!
「でしょ?で、おねえちゃんはモデルやってた超美人だし。つばぞみはロリ巨乳でグングン伸びてるバンドのボーカリストだし。さっちゃんは現役の人気チューバーだし。こまたんは優等生な生徒会長だし。ばめたんは異常な執着心を持ってる事が判明した訳なのですよ!それに、はるるんの最愛の妹であるどりりんは、一番普通に見えるけど……闇が深いよね?」
「梓……そこに踏み込むかよ……やっぱ、ウザ……」
それは、遥にとって、誰にも触れられたくない過去の傷だった。実鳥に刻まれた一生消えない傷痕と、いつになったら癒されるのか解らない心の傷。それはそのまま、遥にとっての後悔でしかないのだから。
だがしかし、梓もそんな事は解りきった上なのだった。
「はるるん、ハッキリ言うよ!もう充分待ちました!はるるんとどりりんが家族になってから四年だよ、四年!過去の事を思い出すのも辛いとか、時間が癒してくれるのを待つとか……正直飽きた!てゆーか、もう荒療治してもよくない?家族なんだから、あんまり遠慮するのもどうなのって思う!」
「……ズケズケ言うな。お前に、何が解るってんだよ!」
「わっかんないよ?だから、解りたくて話して貰おうとしてるんじゃない?……別にさぁ、興味本意で聞こうとしてる訳じゃあないのよ?でもさ、知らないと何気ない会話の中で地雷踏んじゃうかもしれないじゃない?そうゆうのって、時には悪意があるより痛いと思わない?」
「む……それは……」
今、正に痛い所を突かれてしまった遥。他者を威嚇し、関わる事を拒絶する意志の現れが、自身の姿に他ならないからだ。
「まあ、はるるんが話したくないなら仕方ないかあ~。気は進まないけど、どりりんに聞くしかないかぁ~」
「なっ?……梓、それ脅迫かよ?」
「人聞き悪いなあ。はるるんの顔を立てて先に訊いているんじゃない。でも……これでどりりんがあっさり過去バナしちゃったら、はるるんの方がビビりってことになっちゃうかな?」
……正に、脅迫であった。そもそも、遥が梓に口数で勝てる筈も無い。ビジネスでしか他人と喋らない遥と、常日頃から剣や姉妹、数少ないが友人とも積極的に関わっている梓では、人との対話の場数が段違いなのである。
だが、遥は極度に意地っ張りで、恥ずかしがりやである。このまま言い負かされては、プライドが邪魔をして余計意固地になりかねないと、剣は直感した。なので、遥に助言する事にした。
「遥、梓がこうなると絶対折れないから、諦めた方が賢明だ。梓のしつこさは、俺が一番知ってるからな」
「説得力……パねぇ……」
「それにだ。どーでもいい奴相手だったら、気を悪くすると解りきってる事を訊こうとはしないさ。それでも……まだ話す気になれないなら、今日の所は俺が黙らすが?」
「それはそれで……剣に借りを作るみたいでヤだな……ま、しゃあねえか……どっかで、腰を下ろして話すか……」
三人はしばらく歩き、小さな商店の店先に設置されているベンチに座ったのであった。
「まあ、簡単にぶっちゃけると、クズオヤジの家庭内暴力が全ての原因だな。それで……えーと、終わり!」
「はるるん……簡略化し過ぎだよ!推理モノで犯人の名前だけネタバレされた気分なんだけど!?」
「つってもなぁ……お前らより格下の学校行ってるアタシが懇切丁寧に説明したりすんのは無理がなくね?」
「が、学力の低さを逆手にぃ~!」
悔しそうに歯噛みする梓を見て、遥は困ったように顔をしかめた。遥は一応、ちゃんと話すつもりはあったのだが。
「いや、なんつーか……言葉にすんのってムズいわ。ホント、あのクズ野郎の所為で酷い目に逢わされたってのは確かなんだが……実鳥なんか、それでアタシや母さん以外……特に、大人の男には怯える程になっちまったし……」
「そういう事を言おうねってハナシ!てか、実の父親に暴力振るわれてたんだね……そうかぁ、道理で、どりりんがパパりんと普通に話すようになるまで時間がかかった訳だ~。てか、娘がそんな状態で、よく再婚する気になったね鈴ママは。はるるんは反対しなかったの?」
梓の返しに、遥は呆れ顔で応えた。
「そりゃ反対だったさ。七人も子供がいる相手だし、その中にはアタシと同い年の男まているって聞かされてんだぜ、実鳥を想えば当然だろ。上手くいきっこないってよ。だから……まぁ、盛大に失敗すりゃ今度こそ思い知るだろって、母さんには無関心を装ってたな」
「ほほう、それが予想外に上手くいってしまったと」
「なんだよなー。ま……嬉しい想定外ではあるけどさ。実鳥がアタシと母さん以外とも普通に過ごせるようになったし、新しく妹が生まれたり……普通……じゃねぇかもしれんけど、家族……にはなったかな」
「確かに、最近距離が近づいた感はあるよね。つばぞみなんて、バイト先によく行ってんでしょ?遠いのに」
「ああ、こないだなんて、臨時バイトにまで入ってきやがって……聞いてねえっての!てか、初バイトと思えねーぐらいのリラックスっぷりで……何なんあいつら……」
「気にしちゃ駄目。あの娘達は天才だから。海外だったら飛び級出来るレベルだし。ま、なんとかと紙一重でもあるけどね。てかさ、はるるんが素顔見せるようになったのも、つばぞみの思惑通りだったよね?」
「……だな。完全にのせられた……」
「どりりんもノリが良くなったよねー。どりりんの猫耳メイド、眼福でした。出会ったばかりの頃の、オドオドした態度からは想像出来ない変貌だよね~」
「それに関しちゃ……同感だし、みんなに礼をするしかねえって気分だよ。聖家の環境が良い影響を与えてくれたってのは、認めるしかねえし」
「ま、はるるんは兎も角、どりりんにはみんな注意してたからねえ。あんな壊れちゃいそうな娘、家にはいなかったから」
然り気無く、遥はディスられた!
「どーせアタシはガサツで頑丈ですけどー」
「加えてうっかりもあるけど。で、どりりんの左側頭部にある大きな傷痕は、父親のDVの痕跡なのかな?」
「……気づいてたのか?」
「そりゃ気付くでしょ。誰かさんと違って、何度も一緒にお風呂入ってるんだから。みーんな知ってるよ」
「み、みんなって、まさか……剣もか?」
ベンチに座ってから、だんまり決め込んで空気になってた剣に、遥が顔を真っ赤にして、慌てた様子で問い質した。
「……まあ、知ってたけど……問題あるか?」
「あ、あるだろ!知ってるってこたぁ……実鳥と……」
何を考えているかを察し、剣は溜め息混じりに返答した。
「入ってねえよ。てか、いきなりそんな発想に至るところがうっかりの所以だな。梓とかから相談されたからに決まってんだろうが……」
「はるるん……けんちゃんにラッキースケベ属性は皆無だよ。四年も一つ屋根の下で暮らして、お風呂やトイレのドアを開けられた事……ないでしょ?」
「……無い……一度も」
ラブコメの主人公にあるまじき体質である。
「で・しょ!てゆーか話を反らさない!……どりりんの傷痕の話だよ!あんなの見たら……こっちだって、そうそう気軽には訊けなかったんだよ。でも、私達は家族……なんだし。どりりんは今も昔の事を気にしてるみたいだから……力になりたいって思うのは当然じゃない?」
「いや……既に充分力になってるって、大げさに聞こえるだろうけど、家族揃って毎日食事ができたり、誕生日を祝ったり祝われたり……そーゆーのが普通に出来るってだけでも、実鳥にとっちゃあ奇跡的なんだからさ」
「……一体、どんな生活してたん……?」
「仕事もせず飲んだくれて暴力振るう父親。ギリギリの生活費を稼ぐのが精一杯で疲れきっていた母親。つまり……貧乏だったんだよ……パンの耳とか、味付けすらしてないオカラとかが主食な生活してたんだよ……」
「絵に描いたような貧乏だね……そりゃ、愛想つかされて離婚されるの当たり前だわ」
しみじみ納得した様子で頷く梓に、遥は異を唱えた。
「梓、それ少し違う。いや、勿論それも原因なんだが、もっと直接的な理由があってな。実鳥が……殺されかけたんだ」
実の父親に殺されかける。
遥が口にしたあまりの出来事に、梓は二の句を告げられなかった。
次回も遥&実鳥姉妹の不幸話が続きます。




