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37話目 実鳥と中学のお友達

更新に一週間かけてしまった……

もう少し、ペースアップせねば……

四月も終盤となり、実鳥が放明中学校に入学してもうじき一月が経とうとしていた。


入学前に抱いていた不安は何処へ行ったのか、クラス内に友人も出来て、無事にぼっち状態の回避に成功していた。


朝のホームルーム前、実鳥は友人二人と他愛ない雑談を楽しんでいた。


「もうすぐゴールデンウィークやね~。みっちゃんはなんか予定あるん?」


のんびり口調な、中華風お団子髪の浜乃 夏彩(はまの なついろ)が気怠げに実鳥へと問い掛けた。


「う~んと、多分だけど信州のお祖父さん家かな。毎年、そうだから」


「みっちゃんの田舎信州なんだ?自然多くていいよね。……虫とか食べるの?」


興味先行な質問をしたのはポニーテールな藤間 星和(ふじま せわ)。夏彩とはご近所の幼なじみである。


「食べないよぉ。信州でも、虫を食べるのが一般的なのは南信の方だけらしいし。それに、私の田舎って訳じゃないし」


「どゆこと~?」


「うんとね、信州のお祖父さん家は、桜ちゃん達のお母さんの実家なんだ。……家族構成が複雑なんだよね」


「そういえば、二年の桜センパイとは親の再婚で姉妹になったって言ってたね。確かに似てはいないけど……達って言った?他にも兄弟いるの?」


「うん。一男九女で、私は……七女だよ」


星和はけっこうびっくりしてるが、夏彩は動じた様子がない。


「賑やかそうでええな~。ウチもせっちゃんも一人っ子やから、なんや憧れるわ~」


「なっちゃん、賑やかで済ます多さじゃないってば。てか、女ばっかじゃん!ヤバイ……みっちゃんの家庭事情に興味津々だ」


「せやね~。特に、そんなに姉妹に囲まれてなはる男性がどんな方なのか気になるわ~。詳しく教えてな~」


思春期な少女の興味に火が着いてしまった。こうなると、質問責めが止まらない!


「そうなん、高三の義理のお兄さんなんな~。ぶっちゃけ……みっちゃんは義理のお兄さんとの恋愛はアリ派?ナシ派?」


「え!?……な、無いよ!私が剣さんとなんて無い!剣さんには梓さんがいるから!」


「お兄さん彼女いるんだ?……大変だなー、家に大勢妹がいるんじゃ、中々連れ込めないじゃない」


すっと目を反らす実鳥。


「何?お構い無しに、堂々と連れ込んでんの?」


「いえ……そもそも一緒に住んでるので……義理のお姉さんなので……」


のんびりしていた夏彩が、くわっ!と瞳を見開いた。


「義姉弟恋愛……キタ!ギャルゲやん!ラノベやん!少女マンガやん!ウチ、大好物や!……みっちゃんが羨ましいわ~。今度、みっちゃん家に泊まり込みで取材させてくれん?ええ作品創れそうやわ~」


「さ……作品?」


「なっちゃん漫画家志望なんだよ。主な作風はファンタジー世界での逆ハー系恋愛物……この説明で判る?」


生粋ヲタな桜と仲良しな実鳥には、当然理解の内である。


「女の子主人公の周りに、複数の美男子が集まってくるジャンルだよね?ファンタジーなら主人公は女勇者かお姫様?最近だと悪役令嬢が流行りなんだっけ?」


「思ってた以上にみっちゃんが詳しい。まあ、桜センパイが義姉さんなら当然か」


桜がヲタであることは、実鳥が義妹であること以上に、入学から一月も経たないこの時期で、一年生にも周知となっていた。


「桜ちゃんは、話題作には片っ端からチェック入れてるから……私は、ファンタジー系よりも暴力や恋愛要素の薄いゆるふわな日常系なのが好きかな」


「みっちゃんは平和主義なんやな~。お家ん中がドラマチックやから、創作物には安らぎを求めとるんかなぁ?……勿体無いわぁ。ウチやったら血の繋がらんお兄さん出来たら、絶対火遊びするんやけどなぁ~」


「いや、絶対は無いだろなっちゃん。おっさんみたいな兄さんじゃあ無理だろ?」


「せやな、但しイケメンに限るなぁ。……とか言いつつ、ブサメンにアブノーマルなプレイを強要される妄想に耽ってまうウチ……業が深いんなあ」


ぽや~んと、ほんのり頬を火照らせ、蕩けるような表情で朝の教室に相応しくない言動を垂れ流す夏彩。


「……みっちゃん。コレと友達止めるなら今のうちだよ?」


「口で言ってるだけなら害無いから平気だよ」


実鳥は変人に高い耐性がある!義理の姉達がみんな突き抜けたキャラをしているから。


「心が広いな、みっちゃんは。私の身に何かあったらなっちゃんの事を頼むね。言葉にすると可哀想なんだけど、なっちゃんの女友達って他にいないから……」


「……切実!?」


「せっちゃん幼なじみやからって、みんながウチを変態扱いするのに避けんでくれてんなぁ。ありがたいことや~。でも、ウチに構っとった所為で、せっちゃん友達少のうなってしもてな~。みっちゃんが友達なってくれてホント良かった思うとるんよ」


「良かったのは私の方だよ。私なんて友達いなかったもの。自分から……声かけられないから」


聖家に来る以前の苦い記憶から、中々他人と打ち解けられなかった小学生時代。


それは、家庭内でも同様であった。


実鳥にとって現在の自分があるのは、義理の家族が誰も実鳥を見捨てず、仲良くなろうと努力するのを諦めなかったからこそであると、実鳥は自覚している。


だからこそ、家族に報いる為にも前向きに生きようと思ってはいるのだが、一度心身に染み着いてしまった臆病さと男性不振は中々削ぎ落とせないのであった。


「なんか、湿っぽくなっちゃったね。なっちゃんとせっちゃんの連休の予定は何かあるの?」


「明るい話題に転換せんとやんな~。ウチは旅行とかはせんけど~、ニコ超観に行きたい思てんねんな~。中学生なったから親が解禁してくれたんよ」


「私は特に無いなあ。連休中も親は仕事だろうし。基本、夜更かしして昼過ぎまで寝る生活を楽しむと思う。毎日炭酸ポテトでグータラする!」


「せっちゃん……リアルでやると、絶対太るし将来成人病になるよ?バランス的な食生活しよ?」


「あかん……ウチも偏っとるわ。休みの日ぃは主にカロメで済ませてまうし。お湯沸かすんも面倒やから、カップ麺すら作るの手間やと思てまうもん」


「……今度、御飯作りに行こうか?」


実鳥の哀れみ混じりの提案に、夏彩と星和は両手を挙げ、ハイタッチして喜んだ。


そこへ、実鳥にとっては見慣れない男子が近づいてきた。短めの髪で、日焼け気味のスポーツマン系の背の高い少年である。


「あーいたいた。夏彩、星和、どっちか数学の教科書貸してくれよ。一限目が終わったら直ぐに返すからさー」


「中学入っても変わらんな~。ちょいまちや~、みっちゃん、コイツもウチらの幼なじみなんよ。りゅうちゃんゆうんよ」


「初対面者に仇名で紹介すんなよ。俺は……」


実鳥と面と向かった瞬間、途端に口ごもったりゅうちゃん少年。実鳥が訝しそうに上目使いで見上げると、日焼けして濃くなっていた顔色をさらに濃くして、夏彩が用意した教科書をひったくるように受けとると、ダッシュで教室から出ていった。


「……急いでいたのかな?」


キョトンとした顔で呟く実鳥を、夏彩と星和は細い目で見つめていた。


「いや、凄く解り易いでしょ」


「みっちゃんは、ウチらが守ったらんとな~」




「や……やばいわ~。50メートルて、こんな長かったけか~?しんどいわ~」


本日、体育の授業は体力測定で50メートル走である。


インドア派な夏彩は、冬からこっち、激しい運動をしていなかったので短距離走をしただけでバテバテになっていた。しかも、記録は13秒オーバーと、かなりの鈍足振りをクラスメイトに認知されてしまい、若干いたたまれなくなっていた。


「あうう……なんや恥ずかしわぁ……かっこわるぅ。ウチがクラスで一番遅いんかなぁ?……次は、みっちゃんとせっちゃんの番か。せっちゃんは昔から運動得意やけど、みっちゃんはどうなんやろ?大人し娘やけど、ウチよりは早いんやろな……」


体育教師の笛の音が鳴った瞬間、グラウンドにいる誰もが、目を疑った。そのなかでも、星和は誰よりも自分の目が信じられなかった。


スタートした瞬間から、視線の中に小さな背中があり、全力で走っているのに、その背中に追いつけないどころか、その背が小さくなってゆくからだ。


(な……なんで?みっちゃん……私より10㎝は背が低いのに!)


星和の足が遅い訳ではない。むしろ、ここまでのクラス女子の平均記録よりは早い。だが、実鳥は中学生女子の常軌を逸して速かったのである!


正に、疾風と称すべき速さで50メートルを駆け抜けたのだ!


「ご……5秒62……?」


ストップウォッチの表示を見つめたまま、硬直する記録係。あまりに速すぎる記録だった。ストップウォッチの手押しによる誤差もあるだろうが、50メートルの世界記録に届きそうな速さで実鳥はゴールしたのであった。


少し遅れて星和もゴールした。記録は7秒58。女子としては充分な速さではある。


「先言ってよ、みっちゃ~ん。半端ないってば!」


「えへへ、走るのだけは昔から速かったんだ。他の運動は、てんで駄目なんだけどね」


実鳥は別に謙遜してはいない。事実、ボール投げでは明後日の方向にボールを投げ飛ばすし、棒高跳びでは毎回バーに接触して失敗していたのだ。だからこそ、実鳥の足が速いなど、誰も想定していなかったのである。


なので……こうなる!


「聖さん!陸上部入らない?いえ、入って!」


「50メートルで5秒62……?このままスピード乗れば、100なら10秒台いける?」


「凄いって!オリンピックいけちゃうよ!」


クラスメイト達に囲まれる実鳥。普段大人しく、目立つ事を避けている性分なので、こんな風に注目を浴びたり持て囃されると……容易にテンパってしまう。


「あ……あぅ……ご、ごめんなさい!部活とか無理なので!日陰の存在でいたいのですっ!」


脱兎の如く、全速力で逃げ出す実鳥。当然、誰にも追いつけはしないのだが……独走する女子一人を大勢が追いかける光景は、結果として校内の生徒や教師の大半に目撃される事となった。




体育終了後。


「……目立っちゃった。私は地味な生き方したいのに……」


教室に戻ってから、実鳥は机にうつ伏せていた。周囲の視線から自己防衛する為だ。


人付き合いが苦手な性格をどうにかしたいとは思っているのだが、多人数を相手に一人で対応するのは実鳥にはハードルが高過ぎるのだ。故に、部活なんて無理なのである。


「もしもしみっちゃん?驚いたわ~。あんな足速なんて、ウチ、羨ましいわ~」


実鳥が顔を上げると、夏彩が覗き込んでいた。


「なっちゃん……ありがと。でも、注目されても、しんどめんどいだけなんだよ……」


「みっちゃんさあ、なんで陸上部入らなかったの?マジで全国クラスいけると思うけど?」


「……練習に時間割くほど、走るの好きじゃないから。そんな事より、今は光さんに料理を教わる方が楽しいから」


「そっかぁ、才能あっても、好きか嫌いかは別問題やもんなぁ。得意な事を敢えてせんのは、贅沢で羨ましいわぁ。ま、ウチも練習してまで鈍足をどうにかする気はあらへんしなぁ」


「それはどうにかしようよ。この先、体育祭とか球技大会だってあるんだから」


「球技大会……私、運動は本当に走るだけなんだよね。投げたり蹴ったり、ボールが何処に飛んでくか自分でも解んないし」


「テニスとか、バドはどうなん?」


「そう言えば、ラケット使うスポーツはやったことないかな?でも、自信ないなぁ。上手く出来るイメージが沸かないよ」


「……私は、イメージ沸いたな。テニスやってるみっちゃん、凄く絵になるよ。でも、テニス美少女は男共がほっとかないからね~。やらない方が身の為だね」


「美少女?……私が?……せっちゃん大丈夫?」


「みっちゃん、過ぎた謙遜は嫌味で悪徳になるで~?」


身内以外との関わりが薄い為、その身内に超級の美女と美少女がいる為、自身の容姿に自覚が無いのが実鳥である。


「謙遜なんかじゃ……美少女っていうのは、翼さんと希さんみたいな人の事だよ?ああゆうアイドル的な要素、私には無いもん」


「それって、三月に卒業した噂の『聖姉妹(セイントシスターズ)』?あれ?聖って、もしかしてみっちゃんのお姉さんだったりするの?」


「そうだけど……言ってなかったっけ?」


「聞いてへんわ~。せやけど、桜ちゃんセンパイも含めて、みっちゃん家凄いなぁ。みっちゃん自身も只者やあらへんし、なんや、特異点みたいなお家やなぁ」


言われてみればな話。確かに聖家の面々は実鳥から見ても常人離れしている。……他人から言われて改めて気付くとか、自身が大分聖家に染められていたのだと、実鳥は苦笑いしつつも、少し嬉しい気持ちになったのであった。


「にしても、周りが目立つ人ばかりやったら、みっちゃんが目立つんも時間の問題やったんちゃうかな?桜ちゃんセンパイの妹ゆうだけでも、気にする人は気にしとんちゃうん?凄い人気者やもん」


「本人は、翼さん達のおこぼれ人気だって言ってるけどね」


「そうとは思えないけど……みっちゃん、桜センパイに紹介してくれない?てか、昼休みに教室行ってみよう!」


「えぇ!?」


実鳥は内心「上級生の教室行くの抵抗あるんですけど!?」等と思い、やんわり断ろうと後付け理由を考えたりしたのだが。


「ウチも紹介して欲しいなあ。ヲタな会話が弾みそうやもん。……思い立ったら善は急げやな。みっちゃん抜きでも、ウチは昼休みに会いに行くわ」


「……ちゃんと、私から紹介するから……」


友人の熱意に折れ、二年生の教室(アウェイ)へ行く事となった実鳥。


正直、恐ろしい。桜が中心人物となっている教室は、どんな魔窟と化しているのだろうかと……

次回は今回の続きです。

オープンヲタの楽しい学校生活です。

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