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33話目 ハッピーバースデー

どうにか今回で締めました。

「凄かったぁ……何よりも音だよね!音楽!耳だけじゃなくて、体の全部で感じるみたいな大音量!これは、こないとわからなかったよ。感動しちゃった!」


興奮冷めやらぬ様子の実鳥。つい先程パレードの最後尾が観覧場所を過ぎ去ったばかりである。


「直に見ると、こうも違うんだな。そりゃ、近くで見る為に何時間も前から待つ奴もいるワケだ」


遥も感動しているようで、忌憚ない感想を漏らした。


「ほえ~……たのしかった~」


普段活発な燕は、終始きらびやかなパレードに目を奪われて呆然と眺め続けていた。


初めてパレードを見た三人が満足している様子に、剣は場所取りをしていた甲斐があったと、安堵の思いであった。


「……ねえ、兄さん」


ここ最近、見た覚えがないような、とびきりご機嫌な笑顔で小町が剣に微笑みかけた。


「夜も、よろしくと?」


「流石兄さん、ご明察!」


因みに、夜のパレードまでは四時間はある。


「ま、構わないけどさ。場所は、またこの辺でいいのか?」


レジャーシートを折り畳みながら小町に確認していると、翼が手を差し出してきた。


「次、私達が代わる」


「お兄ちゃんと梓ちゃんも、遊んで」


どうやら、翼と希が場所取り役を交代してくれるらしい。


「いいのか?」


「ん、今から二人で『スプ○ッシュマウンテン』行ってくる」


「戻ってくれば、丁度場所取りにいい時間」


「そっかあ。ばめたんいると、乗れないもんね」


パレード中から終了直後までは人気アトラクションの待ち時間も多少は短くなる。ファストパス無しで並ぶには丁度良いタイミングなのである。そして、身長制限があるアトラクションなので、必然的に燕と別行動しなければならなくなるのだ。


翼と希と別行動となり、一同はパレードを追いかけるように【世界市場】方面へと移動を開始した。




パークのメインエントランスに戻ってきた。今度の目的はキャラクターグリーティングである。アトラクションやショーにばかり夢中になっていると気付かないが、メインエントランスでは開園から日没前までは誰かしらキャラクターがいるものなのである。ディ○ニーキャラとの記念撮影は、来園記念にはずせないイベントだ。特に幼子連れであるのなら。


「おー!ミッ○ーさんです!○ッキーさんが来ましたよ燕たま!」


そして、パレード終了後等はミッ○ーやミ○ー、○ーさん等の人気キャラクターが登場するタイミングの狙い目なのである。何故なら、パレード終了後に来た体になるから。キャラクターは一人ずつしかいない設定になっているから。パレード中に同時に存在する筈がないから。


大人は、子供の夢を守るべきなのである。


ミッ○ー達一部の人気キャラクターとの記念撮影は順番待ちとなる。ちゃんとキャストが列整理をしてくれて規定の組数迄で制限してくれるので無駄に並ばなくていいので安心である。なにしろ○ッキーはスーパースターなのでスケジュールはキツキツなのだ。決して、中の人が熱中症になるからだとか口にしてはいけないのである。


ミッ○ーとの記念撮影を終えると、燕はすぐに他のキャラクターへと駆け出して行こうとするので、皆でそれを追いかけて行く形となった。


その最中、剣は光にパレードの場所取り中に何をしていたか訊ねてみた。


「剣達と別れてから?先ず『ミッ○ーのフィルハーマジック』でしょ。その後『蒸気船マーク○ゥエイン号』で『カント○ーベアシアター』行って『魅惑の○キルーム』ね。お昼にはハンバーガー食べてきたわ」


「へー、けっこう充実している内容だね。待ち時間少ないとはいえ、相当タイミングも良かったのかな?」


「それね!本当に神がかってたわ。どれも五分待ちぐらいだったもの。欲張らないのが良かったのかしら?」


「ま、小町がちゃんと予習してたって事じゃない?今日の小町はいつになく張りきり方が子供っぽくて、可愛らしくて見てて楽しくていいよね」


「家の皆で来る機会なかったから、余計に張りきっちゃってるわよね。好きなんだとは思ってたけど、ここまでとはねぇ。好きな物に手加減ないのは、夕樹義母さんの血筋なのかしら?」


「梓はそうかもしれないけれど、桜は、前世からだけど?」


「そういえばそうだったわね。って、その設定にまだ付き合ってあげてるの?」


設定ではなく、事実なのだが。


「別に害はないし。桜の知識量からすれば信じてもいいんじゃない?」


「確かにね。でも、それを言ったら剣と翼と希の方が、私的には何で?って思うこと多かったけどね」


それも当然、その三人も前世持ちなのだから。しかも、どれ程長い時を生き長らえたか不明な聖剣と、超先進文明で製造されたハイスペックな人造生命体であるので。


「そこはホラ、俺も翼達も前世の記憶があったりするから」


「はいはい、そうゆう事にしておきましょうね」


光は常識人なので、こういった話題になると冗談だと思って済ませてしまう。勿論、前世持ちの四人が信じてもらう為に必死に説明しようとしないからであるが。


「なに?けんちゃんとお姉ちゃん、何の話してるの?」


燕を構っていた梓が、剣と光が会話を楽しんでいるのを見て、混ざりに来た。


「何って……俺がパレードの場所取りやってた間の事とか、今日の小町は頑張ってて可愛いなとか……何て事ない話だけど?」


「あ、私もさっちゃんから聞いた。あ、でね、朝昼とパンが続いたから夕食はお米食べようかって話してた」


「お米かぁ、日本人よねぇ。ま、その辺りも小町が考えてくれるんでしょうけど」


当の小町は、実鳥達と共に燕に振り回される形で、エントランスにいるキャラクターと片っ端から握手やハグをしつつの記念撮影を繰り広げている。


「やっぱ幼児の体力って凄いな」


「でも、そろそろガス欠じゃない?」


「もうじき十七時だもの。もう十一時間起きっぱなしだから、とっくに限界突破しているわね。気をつけて見てないと、突然倒れちゃうかも……」


光達の予想通り、燕は突然大きな欠伸をすると、その場に座り込んで寝てしまった為、ベビーカーに乗せられた。


「こんなに長い時間起きてたの初めてじゃないかしら?よっぽど楽しかったのね」


静かな寝息をたてて眠る燕。とても幸せそうな寝顔に、思わず兄と姉達の表情も綻ぶのであった。


「天使より尊い寝顔なのであります」


「さっきまでのお転婆振りが信じられませんよね」


散々振り回されながらも、桜と実鳥は燕の寝顔に癒され、まだまだ元気一杯に表情を輝かせている。対して、遥には少々疲れの色が出ていた。


「遥義姉さん、疲れましたか?」


「ああ……一寸な。出来れば、少し休みたいな」


「では、少し早いですけど晩御飯にしましょうか?」




小町隊長の案内でやって来たのは【世界市場】から【未来の国】に入ってすぐにあるライスボウル(洋風丼料理)をメインメニューとしているレストランである。


注文した料理をカウンターで受け取り、ゲスト自身が空席を探す、王国では最もポピュラーなタイプのレストランである。この店は席数も多く、パーク出入口に近くて移動するにも便利な為、休憩所にもうってつけなのである。


注文を光と小町に任せると、遥は早速、椅子に深々と座るのであった。


「は~……落ち着く」


「お姉ちゃん、本当はとても疲れてた?」


「……まあ、こんなに遊ぶの初めてだからな。小町の手前、実鳥より先にバテてたら恥ずかしいからさ……」


遥さんは、本当に意地っ張りの恥ずかしがりやさんである。


「先に、少しポップコーン食べる?」


遥にバケットを差し出す梓。珍しい光景である。この二人、()()()仲が悪い訳ではないのだが、姉妹間でも、一番会話が少ない間柄なのである。


「ん、貰うわ。……あれ?チョコじゃないな」


「パレードで待ってる間に空になったからキャラメル味に詰め替えしたんだ。味はどう?」


「チョコより好きかも。飴状に固まってる部分の歯触りが気持ちいいな」


「でしょ?ここで豆知識、かつて王国には塩味のポップコーンしかなかったのですが、二つ目のフレーバーが、このキャラメル味なのだ!今では塩味のワゴンを探す方が大変になっちゃってるんだけどね!」


梓の話を、素直に感心した様子で聞く遥。普段、家での二人は必要最小限の、二言三言を交わす程度の会話しかしない。剣だけでなく、実鳥と桜も少し驚いている。


「……これが、魔法なのでありますか?」


「お姉ちゃんが、梓さんと普通に喋ってる……」


「家でもこうなればなぁ」


三人の呟きに、梓と遥は顔を見合わせると、急にお互い視線を遠くに向けて、照れ隠ししたのであった。


ゆったりと食事をしながら体を癒していると、外はどんどん暗くなってゆき、パーク内はライトアップされてゆく。目映い光の魔法に演出される時間の始まりである。




ナイトタイムパレードの開始前、翼と希に聖家一同は無事に合流した。


「お疲れさん。チキンレッグと飲み物買ってきたぞ」


「「ありがと、お兄ちゃん」」


昼休みのパレードとほぼ変わらぬ場所に陣取れていたので、快適な状態で観覧出来そうである。


「姉様方『スプラッ○ュマウンテン』はいかがでしたか?」


双子はチキンを頬張りながら、行儀悪く答えた。


「はいふぉう(最高)」


「ひゃひんふぃる(写真見る)?」


『スプ○ッシュマウンテン』は、外側から見て一目瞭然な、滝壺に落っこちるアトラクションである。体験中に、都合三回急降下する。最後にして最大の落下時に写真撮影され、体験終了後に写真を購入することが可能なのである。専用の台紙に大判写真を入れて貰えるのでとても記念になるのだが、撮影されると判っているゲストは〝如何に撮られるか〟に凝ったりするのである。


「え?これ狙ったんですか?二人で手を繋いでハートに?」


「狙ってんな。完全にカメラ目線じゃん」


「あら、バーから手を離すなんて、良い子も悪い子も真似しちゃ駄目ね」


このように、拘るのである。だが、安全のために安全バーは手離さない方が良い。手離すのは自己責任だ!


そうこうするうち、周囲のライトが一斉に消えた。


ナイトタイムパレードの始まりである。




パレードの最後のフロートを見送ると、徐々に消えていた灯りが、再度点灯されてゆく。周りのゲストが次の行動へと移る中、聖家一同は余韻を楽しむかの如く、誰も立ち上がろうとはしていない。


「……キラキラ!すごキレーだった!」


パレード開始直前に起こされた燕は、光の腕の中で開始直後は半覚醒の夢見心地だったのだが、終了までにはごらんの通り、完全に目を覚ましていた。


「何度見ても、良いものは良いな」


「コレだけは、王国来たらはずせないよね」


「いやはや、実に久し振りに堪能したのであります」


「座り見極上」


「最前列至高」


「本当、素晴らしかったわ」


「んーっ!最高だったぁ!どうです?実鳥義姉さん?遥義姉さん?」


実鳥と遥は、小町に話しかけられるまで呆然としていた。実鳥の瞳からは、一筋の涙が流れ落ちていた。


「……凄いね。お昼のパレードも音の凄さは感じてたけど……光が、テレビと直接見るのとは全然違って……もう、感動的だったとしか言えない……」


「なんつーか……ここまでとは思ってなかった事ばっかだな。完全に、まいった」


二人は圧倒されるばかりであったようだ。初めて見たナイトパレードが座り見での最前列だったのだから仕方無いが。目前に邪魔する物がなく、下からフロートの全体像を見上げた場合の迫力は、本当に凄いのである。


「……えと、動かないんですか?」


パレードが終了し、人の移動が落ち着いても、小町隊長は移動の指示を出さず、全員その場で佇んでいた。


「うん。この辺りが、丁度いい場所なんです」


実鳥と遥が何が丁度?と疑問に思うなか、十分程でその解答が大音量の音楽と爆発音、夜空に咲く大輪の花で示された。


「……イメージ的にお城の後ろで打ち上げてる様に思ってたかもしれませんが【開拓時代の国】のパレードルート周辺からが、とても大きく花火が見えるんです」


ディ○ニーミュージックのリズムに載せて、連続で打ち上げられる花火を皆で見つめる。正に、一日の締めくくりに相応しい感動のフィナーレである。


そして、花火の終了を告げるアナウンスが流れると同時に剣が音頭を取り。


「それでは改めまして」


「「「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」」」


「でとう!どりねえ!」


そう、今日は実鳥の誕生日企画だったのである。突然のバースデーコールに、示し会わせてもいないのに、偶然近くにいただけのゲストやキャストからも拍手が贈られる。


「……あ、ありがとう……ございます……こんなの……最高の誕生日じゃないですか……う……うあぁぁぁ~ん」


感極まり、人目も憚らずに号泣する実鳥。そんな実鳥を、遥が優しく抱き締める。


「お、おねえちゃ~ん!」


「良かったな、実鳥。……ったく、あいつらときたら、こんなことするの、花火の最中まで私にも黙ってやがった……恥ずかしくてしゃーねーよ。……でも、嬉しいもんだな」


実鳥にだけ聞こえるように、そっと囁いた。


「……うんっ!」


ただ、その場にいた人々からも〝おめでとう〟の言葉が贈られる。実鳥にとって、遥にとっても初めての、とてもくすぐったい経験であった。


「さあ!今日はまだ終わりじゃないですよ!キャッスルショーを見ながら移動して『モンス○ーズインク ライド&○ーシーク』のファストパスもありますから!閉園まで、遊び尽くしましょう!」


聖家一同は小町隊長の後に続き、まだまだ遊び倒すのであった。










無理をしない王国プランでした。

次回は、光姉さんに惚気て戴く話。

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