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30話目 王国に進軍する

舞浜が大好きだー。

ゼー○ペインのネタは無い。

時は三月。


聖家の子供達全員が春休みを迎えたばかりの頃のある日。


日本一人の集まるリゾート。その玄関口たる舞浜駅に剣と九人の姉妹が降り立った。


時間は午前七時になったばかり、本日は夜まで丸一日、夢と魔法の王国で遊び倒す予定である。


「本当に来ちゃった……い、いいのかな?」


期待以上に不安で胸を一杯にしているのは、聖家七女の実鳥。今回がディ○ニー初体験であり、今日の主役である!


「ま、まあ、あれだ。素直に好意に甘えてもいいんじゃないか?チケットの払い戻しも面倒だろうしな」


実鳥の実姉である遥も、この度デ○ズニー初体験なので、少々気持ちが高揚している。素っ気ない口振りをしているが、今日を楽しみにしていた事は、姉妹達にバレバレである。


「そうよ。名目上は実鳥ちゃんへの誕生日プレゼントだけど、私達みんな、一緒に遊びに来たかったんだもの。ここまで来て遠慮はナシ!精一杯はしゃいでくれた方が嬉いんだから。そうでしょ?剣」


「ま、そーゆー事だから気兼ねしないでくれ。誕生日とホワイトデーに加えて小学校の卒業祝いも兼ねてるし、ついでに翼と希の高校合格祝いでもあるからさ。それに、お金の事で遠慮してるならむしろ逆だ。今月までなら小学生料金でインパ出来るし、チケット代は値上げされても値下げは一度もない。今後、今回以下の出費で十人で遊びに来るなんて不可能だからさ」


「けんちゃん、入る前から夢と魔法ぶち壊しだね!」


無粋な突っ込みは、サラッとスルーする。


今回のパークチケット代は剣持ちである。実鳥の誕生日は三月十四日、ホワイトデーであり、今年は他にも色々重なった為、思いきって奮発したのである。


「お兄ちゃん太っ腹!」


「流石、ハーレムの主たる器!」


「美姉と美妹に囲まれての○ィズニー……超リア充イベントなのであります!兄様はゴッドなのです!有り難う御座います!」


双子と桜、三人でハイタッチして兄を讃える。


「駅のホームではしゃぐなんて恥ずかしい……燕、お姉ちゃんの手を離しちゃ駄目だよ?」


「あーい!」


もう一人、燕も初めてのデ○ズニーであるが……駅のホームで既にトップヒロインのネズ耳カチューシャが装着済みである。更に、お姉ちゃんと繋いでいる反対側の腕には熊のヌイグルミであるダッ○ィーが抱えられている。当然、どちらもお手手を繋いでいるお姉ちゃんの私物である。


そして、お姉ちゃんは○ッフィーのパートナーである女の子熊のシェリー○イをリュックの口を開いて覗かせている。……実は一番ノリノリである。本日のコーデなテーマは『冒険とイマジネーションの海から遊びに来ました!』に違いない。


……しっかり者だけど小学生の女の子だもんね!好きなんだから仕方無いよね!




舞浜駅から王国までの通り道にある、大型ショップ【ボン・○ヤージュ】に一行は立ち寄った。パークオープンの一時間前から開店していて、二つのパークの主だったグッズが売っているので、ここでお土産の目星を着けたり、買い逃したグッズを退園後に探せたりと、非常に便利で有難いお店である。


そんなお店に立ち寄った理由は、開園前の時間潰し……ではない。春休み真っ只中のこの日、入場ゲートは既に長蛇の列である。今から並んでも開園時間から三十分待ちはザラである。


ならば何故寄り道をするのか?その答えは、パークに入ってからどのみちする事を済ませられるからである。そう、本気でディ○ニーを満喫するためのアイテムを入手しに来たのだ!


ズバリ、なりきりグッズだ!


燕が装着しているカチューシャタイプやキャップ、パーカー等の被り物からミッ○ーマウスの手袋まで、その種類は多岐に渡る。外見から世界観に浸るにはもってこいなアイテムだ。当然普段の生活での実用性はゼロに等しく、社会人にとっては宴会の余興で使えるかどうかでしかない。しかし!


「郷に入りては郷に従え。その場のノリでこそ出来る遊びをしてこそ贅沢なのであります!」


そうゆう事である。他所では恥ずかしくても、舞浜駅を降りたらそこは別世界。頭に大きな丸耳が着いていても、誰も気にしはしない。むしろ周囲に溶け込めるのだ!


そんな訳で、なりきりグッズのチョイスからが今日一日の始まりなのである。


「ミ○キーの帽子にするかな?ファン○ジアの奴」


「けんちゃん、おそろにしよ!」


「今日は、双子らしく行こうか?」


「つまり、チプデだね?」


「私は……○ーさんにすっかな?実鳥はどうする?」


「ミ○ーちゃん。やっぱり憧れてたから……でも、○ニーちゃんだけでも沢山種類あって、迷う……」


「ボクはス○ィッチのファンキャップにするのであります。頭をパックリされてるみたいで、エサ気分なのであります。シ○タローさん気分なのです」


「……カタカナでパーク名をデカデカと書いてある野球帽なんてあるのね……他で被れないって意味なら……コレもありよね!」


「光姉さん、アリです!私はモンス○ーズ・インクのヘルメットにします。日本が初のアトラクションとして、一度は押さえておかないと」


「こまねぇ、てぶくろかって!」


思い思いのグッズを身に着け、これで準備万端である!




「凄い人……クラクラしそう」


実鳥が呟くのも無理はない。周りは入場待ちの、人・人・人である。ざわざわガヤガヤ、ドローンを飛ばして上空から見れば人がゴミの様に見えるであろう。


「実鳥、大丈夫か?」


「うん。でも……一人じゃ来るの無理だったかも……」


実鳥は娯楽への欲求がとても低い。それは、幼少期にのびのび遊べるような家庭環境でなかった事に起因している。友達を作り、共に遊ぶ事も皆無であった為に、そもそも〝遊ぶ〟とゆう行為に対して引け目がちで受け身がちになっていたのである。


テレビ等で、かのリゾートの特別番組を目にして心を踊らせる事はあっても、何処かで住む世界が違うような、大袈裟に表現すれば、中学二年生が剣と魔法のファンタジー世界に憧れるようなレベルで現実離れした世界の、一生縁の無い場所だとすら考えていたのである。


そんな幸福のハードルが低い身内がいる事を、剣は黙って放置してはいられない。どうにかして連れて行きたいと考えて、昨年の夏休みからコツコツとバイトをして資金を貯めていたのである。だが、実鳥だけを連れて行こうとしても、遠慮されては御仕舞いだし、間を持たせられる自信も無かった。なので、全員を連れて行く事とし、年末年始もバイトに明け暮れたのである。この計画の事実を知るのは剣以外は光と梓だけである。


なので、こうして姉妹全員を連れて入場待ちをしている今になって、剣は安堵しているのであった。


「どうにか……なったな」


「御苦労様でした。でも、本番はこれからだからね!」


そう、まだ入園すらしていないのである。


「そうです兄さん!効率良く遊ぶには開園してからの一時間を如何に迅速に行動出来るかなんです!気を緩めていたら、ダラダラ過ごすだけになりますよ!」


「了解です。頼りにしてますよ隊長さん」


入園後の計画立案は小町が担当者である。剣がホワイトデーにパークチケットを全員にプレゼントしたのは小町にとって、正に青天の霹靂であった。完全にサプライズされてしまったのである。


変わり者の多い聖家の中で、小町は至極真っ当(本人はそう思っている)な感性を持っている小学生の女の子である。だから当然、東京ディ○ニーリゾートが普通に大好きである!


しかし、ここ数年家庭内がゴタゴタしていた事もあり、燕が生まれてからはお姉さんぶっていた事もあり、自分から連れて行ってほしいとは言えなかったのである。


父親の敏郎は人ゴミと行列が嫌いなので、旅行には連れて行ってくれるものの、基本的に待ち時間の発生しない観光地や温泉宿になってしまうのである。


なので、敏郎と美鈴は夫婦水入らずで留守番なのである。隊長の計画を阻害する隊員はいらないのだ!


やがて、開園五分前となると、待機列前方より、突然歓声が沸き上がった。


「な、なんだ?もう入園開始したのか?」


「いえ、遥義姉様。おそらく着ぐるみ様方がゲストのお出迎えにいらしたのでしょう。以前、ほぼ先頭で入園待ちをしたときに見た覚えがあるのです」


「みんな、もうじき列が動くから、チケットを手に持っててね!スムーズな入園に協力するのよ!」


「チケットのQRコードをゲートで読ませる」


「その後、マップとガイドを取り忘れずに」


教科書通りの入園マナー&ルールである。特に、前売り券で入園する際はチケットブースでマップとガイドを貰えないので、ゲート出口で貰うのを忘れないこと、コレ大事!


開園から二十分ほどで、聖家の面々は晴れて王国へ入園を果たした。遥と実鳥にとっては、夢にまで見た夢の国である。エントランスプラザでは、良く見知ったキャラクターがゲストを出迎え握手をしたり、ポーズをとっては撮影に応じたり。花壇には色とりどりの花が咲き、程よい音量で音楽が流れている。そして何より目を奪うのは、王国を構成する七つのエリアの一つにして王国の玄関口である【世界市場】の荘厳な入口である。


呆けたように周囲を見回す遥と実鳥。テレビで見るのと実際現地で感じるのでは情報量が段違いなのであった。だが!スタート地点で感動に浸らせて足を止めさせるほど、隊長の計画は甘くないのである!


「はい!遥義姉さん実鳥義姉さん。チケット渡して!」


言うや否や、小町は二人からもぎ取るようにチケットを回収して、全員分のチケットを剣に手渡した。


「兄さんはファストパスをゲット!ハニー○ントね!」


「あいよ。じゃ、行ってくる」


剣も言うや否や、一人でパーク内へと進んで行った。とてつもない早歩きで、すいすい人の間を抜ってゆく。


「梓姉さんと桜姉さんはポップコーン買ってきて!味別々で、バケット忘れずにね!」


「了解であります!ボクはベ○ダー卿をゲットしてくるのであります!」


「ベイ○ー卿はバター醤油味だったよね?それじゃ、私は甘いフレーバーのを選んでくるね」


桜は軽い足取りで、梓はマップを確認しながら各々目的のポップコーンを購入しに。


「翼姉さんと希姉さんは人数分のホットドッグ買ってきて!」


「はいは~い」


「おまかせ~」


「じゃ!残りはみんなでベビーカーを借りに行きます!」


テキパキ指示を出す小町に、兄と姉達は異を唱えずに従う。その様子に、遥と実鳥は呆気に取られるばかりである。


「こまねぇ、かっこいい!」


「今日の小町は絶好調ねえ」


「……って?ベビーカー?なんで?」


「なんでって……燕がおねむになってからじゃ遅いでしょ?レンタル料金は一日分のプランしかないから、朝一で借りといた方がお得だもん。燕が乗らない間は荷物を運べばいいんだし」


「そ……そだね。ベビーカーのレンタルまで、調べておいたの?」


「まあ、料金は調べたんだけど……知ってたから。その……私も、ここで乗ったことあるから」


言葉を濁す小町に、それを見て口許にてを当て『あらあら』する光。それを見て遥は察した。つまり、ベビーカー絡みで小町は過去に、何かやらかしたのだと。


「まあ、小さかった頃なんだろうし、失敗ぐらいあんだろ。それより、そのお陰で覚えていたかもしれねーんだから、ちっとは無駄じゃあなかったんじゃねーか?」


不器用丸出しのフォローであったが、小町は口答えせずに、足早にレンタルコーナーへと進んで行った。


「……アタシ、怒らせた?」


「むしろ、嬉しいんじゃないかな?小町ちゃん、お姉ちゃんに負けず劣らず素直じゃないから」


「全く、二人とも大概よねー?」


「そうですねー?」


「ちょっと、ソレどーゆーコトすかアネさん?実鳥!?」


何だか通じあってる光と実鳥に焦る遥。


何はともあれ、王国での一日は楽しげに始まったのであった。




王国、何話かかるか解りません。

次回、初アトラクション。何だろう?

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