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26話目 私、ママになります!

「それでは、臨時家族会議……もとい、姉さんの吊し上げ尋問会議を開催します」


剣が姉妹達をリビングに集めての第一声であった。


因みに、光が剣の部屋に弟成分を補充しに来ていた間に、他の姉妹達は入浴を済ませてパジャマに着替え済みである(遥だけTシャツとショートパンツ)。


七人も寝間着姿の女子がいると、まるでパジャマパーティーの様相であるが、これから始まる会議は、布団の上でまったり転がりながらのテンションでいられるものではない。


光は一人用のソファーに座らされ、剣はその横に立っている。光の右手側のソファーには梓・翼・希・桜が。左手側には遥・実鳥・小町が、光から見ての順で座っている。


全員、剣にわざわざ呼び集められたのだから、ただ事でなさそうなのは察しているし、光が上座に座らされているのだから、それが夕食時の光のぶっちゃけに関してであろう事は、想像に難くないことであった。


「えー、さっき姉さんから告白された事を全員に伝えます。今日の夕食の時のアレやコレ関連で、正直俺はけっこう動揺してます。なので、皆にとっても衝撃的だと思うので、覚悟して聞いて下さい」


剣は一息吐くと、光から告白された事を、一気に捲し立てた。


「姉さんと彼氏は既に婚約者だそうです!それと、産婦人科で検査して、妊娠確定したんだって!」


皆、目が点になって沈黙した。


そして、その目が光に向けられると……


「え~と~……私、ママになります!エヘッ☆」


高威力な、空気破壊的台詞が炸裂した。


そして、妹七人の絶叫が聖家内に響き渡った。にゃんこ達が驚いて部屋の隅で縮こまったり、こだちは逆に全速力で駆けつけて来たりな、近所迷惑レベルな絶叫であった。


その後の反応は、各々個性的であった。


「嫌あぁぁ!光姉さんだけはっ!そんな事しないって思ってたのにいっ!」


「落ち着いて小町ちゃん!今時、未婚のシングルマザーだって普通だからっ!」


「お姉ちゃんに先越されたっ!悔しいっ!でもおめでとう!」


「実姉攻略ルートが消滅したのであります……期待されてた近親エロス好きな皆様に謝罪するのであります……」


「やったー。初甥?初姪?」


「どちらでもめでたい。……年末には、叔母化?」


「まあ、デキ婚なんて珍しくもないけどさ……そうか、叔母ってことになるのか……叔母かぁ……」


正に悲喜交々。特に、小町がかなり悲である。特に光を慕っていただけに、ショックが大きすぎる様子だ。実鳥が精一杯、宥めようと頑張っている。


妹達の様子を眺めて、光は冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべていた。流石に、小町に対しては気の毒な事をした自覚はあったようである。


パチンッ!


場を一旦静めんと、剣は手の平を大きく叩き会わせた。


「さて……各々に思うところはあると思うが、俺もさっき言った以上の話は知らない。なので、これから姉さんに一つずつ質問しようと思う。ちゃんと情報共有しておくべき案件だからな。異論はあるか?」


全員、首を横に振った。一刻も早く、疑問を解消したい気持ちは一致しているのである。


「姉さんも、文句は無いな?」


「ええ、今度彼も交えて……と、思っていたのだけれど、待たせちゃうのも酷だものね。でも……今迄我慢していた分、惚気ちゃうかもしれないけれど♪」


頬に手を添え、モジモジする光。そんな光を見て、小町の瞳が瞳孔を収縮させていた。


「こんなん、光姉さんとちゃう……」


余程混乱してか、関西弁ぽくなっていた。実鳥による精神ケアは続行されている。


「……さて、まあ一番肝心な質問からさせてもらうけど……相手は何処のどちら様だ?」


「大学の後輩よ。知り合ったのは、家庭教師のアルバイトが切っ掛けだったけどね」


ぶっちゃけ一発目から、特大爆弾発言。


「か、カテキョに綺麗なお姉さんが来るだけでも、男子にとっては儚き夢であるというのに!その上エッチな関係になるとか夢を叶えすぎなのです!……未だ見ぬ義兄は、一生の運を絞り尽くされているのであります。きっと、若くして不治の病を患ってしまうのであります……」


「婚約ほやほやなんだから、不吉な事言わないで!」


「つーか、相手は俺達の一個上?大学生になったばかり?……そのタイミングで婚約?……結婚とか、どーすんの?」


「まだ全然未定よ。私としては、子供が産まれてからでもいいかな~って。彼には、ちゃんと大学卒業までしてほしいから、籍を入れるのはその後でも構わないと思ってるわ」


「……それがいいかもですね。焦って碌な事にならなかったのが身内にいますからね……」


それは、美鈴の事である。美鈴は大学在学中に遥を身籠り、大学を中退して結婚したが、それが元で実家から絶縁されている。その後は……実鳥が生まれる前後辺りから転落続きな人生だったのである。


「うん。彼が卒業する迄、子供一人を養えるだけの貯金は充分あるもの!絶対足なんて引っ張らないから」


「成る程、お姉ちゃんの子育てスキルなら金銭問題クリアしてれば心配いらない。私は応援する」


「私も同意する。子供については。結婚に関しては、相手の人柄による。徹底的に、厳しい目で見る」


双子は驚きはしたものの、精神的ダメージは皆無で、概ね祝福派である。但し、大切な姉をそんじょそこらの凡骨にくれてやる気は毛頭無い。気に入らなければ徹底排除!な、心構えでいるのであった。


「だ、そうですけど。姉さんのお相手は、どんな方なのですか?」


「どう、かぁ……一言で言うと……可愛い!」


「あ、アネさん……頼りがいあるとか、格好いいとかじゃなく、一言目が……ソレ?」


「うん。とっても可愛いの❤身長は私より低くて、とっても恥ずかしがりやさんなの!それが、こう、庇護欲とゆうか、母性本能を擽られちゃうみたいな?今迄、全然傍にいなかったタイプで、もう、なんかほっとけないの!どうやら私、守りがいありそうな男の子がタイプみたい!」


「けんちゃんが、しっかりし過ぎていた反動かな?てっきり、お姉ちゃんのタイプは甘えさせてくれる人だと思ってたけど、逆だったんだね~」


「俺の所為にしないでくれ。……まぁ、経緯と人格的については判った。……でも、大丈夫なのか?その……家庭教師先の子とそんな関係になって。あちらの親御さんとかは」


「剣さん、一般的なお父さんっぽい……」


「兄さん……本当に、梓姉さん事案以外では常識的で、頼りになるよう……」


剣は思った。実の父親が不在で良かったと。もし、この場にいたら、動揺しまくった挙げ句、現実を認められず光の話に、聞く耳持たずであっただろうと。……頼りにならねぇ……


「それなんだけどね。彼方の御母様にはずっと前にね。「息子さんの事を好きになってしまいました。問題があるなら解雇して下さい。私が家庭教師を続けて息子さんが受験に成功したら、結婚を視野に入れての交際をさせて下さい」って、お願いして許して戴いてるわ。問題あるどころか、それ以来私にとても良くしてくれてるわよ?」


恐るべし、しっかり者姉さん。先に外堀を埋め立て済みでした。


「……それは、何よりであります……ですが、その、御懐妊発覚が今日となると、時期的に……合格発表前に……でありましょう?落ちていたら、どうするつもりでありましたか?」


「別に変わらないわよ?それならそれで、何度でもお願いするし。子供が出来たら産むとは決めていたもの。中絶なんて選択肢、私には最初からないもの」


「……まあ、姉さんは、そうだよな」


光の発言に同調する剣に、小町からの訝しげな視線が刺さった。


「何で?お父さんのいない子産むのは、可愛そうじゃないの?」


それは、遥と実鳥のかつての家庭事情を慮っての優しさから出た言葉であった。それは、間違っていない意見である。


「小町の意見は判るよ。悲しいけど、世の中には生まれた子供に愛情を与えられない、親になるべきじゃなかったと思わせる人が、たくさん悲惨な事件を起こしてるからな。……でもな、小町のその意見だけが正しい世界なら、翼と希、それに梓も、生まれることすら許されなかった事になるんだ」


剣の言葉に、小町は絶句するしかなかった。剣はとても優しい口調だったが、小町の正しさを認めた上で、否定したから。そして、その正しさがある意味、姉達を殺すと言ったからだ。


「今の、どういう事だ、剣?アタシ、馬鹿だから遠回しに言われても理解出来ねんだけど?」


遥は、かつて実の父親からの暴力に晒されていた過去があり、その怒りや憎しみは、まだ晴れていない。


小町の意見は、遥にとって共感できる理屈であったのだ。小町を否定する剣の言葉は、遥をイラつかせるには充分であった。


そんな遥の手に、実鳥がそっと手を重ねた。


「お姉ちゃん。私、昔は嫌な事ばかりだったけど……今は、生まれて良かったって、心から言えるよ」


「実鳥……そうだな。……うん」


遥と実鳥がいい雰囲気になってしまったので、剣はなんだか語り出し難くなってしまった。剣のやるせない様子を見兼ねて、正妻(予定)様が口を開いた。


「こまたん、それにさっちゃんにも話してなかったね。……ママがパパりんと結婚する前シングルだったのは、私のパパが、私がママのお腹の中にいた頃に、死んじゃったから、なんだよね」


初耳な母親の事実に、桜も小町も言葉が出ない。


「まだ、ギリギリ堕ろすのに間に合う時期だったらしいんだけど、苦労するの判りきってたのに、ママは私を産むのを迷わなかったって。他人から見たら自己満足な綺麗事かな?さっちゃん。こまたん。どう思う?」


「母様に、そんな過去が……言葉が、ありませぬ……」


「ママが……でも、光姉さんとは、全然事情が違うし……」


梓が剣にアイコンタクトで「これで話し易くなったでしょ?」と語りかけた。梓の話は嘘偽り無き真実であるが、剣の内では残念な事に台無しにされた気分である。


「……小町、俺や光姉さんの母さんが、翼と希を産んでから間も無く亡くなったのは、知ってるよな?」


「う……うん。病気だったって……」


「その病気な、出産を諦めて治療に専念すれば、助かる可能性は有ったんだ。高い確率でな」


「嘘……それじゃ……兄さん達のお母さんは……」


「ああ、言葉の彩なんかじゃなく、母さんは自分の命と引き替えにして、翼と希を産んだんだ」


剣は語り出した。十六年前の母との別れと、現世での生き方の根幹となったとも云える思い出を。




次回は初の過去回。

どたばたや笑いは極少……かな?

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