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22話目 剣と梓のバースデー パーティー開幕

四日連続投稿できたー。

明日もなんとか……

パーティーの準備完了を知らせるメールが届き、剣と梓は帰宅の途についた。


友人達のお陰で、とても充実した休日を過ごせて、二人とも上機嫌である。しっかり腕を組んで、仲良しカップルである。


そうして、家の前迄戻ると、二人して不敵な笑みを浮かべた。


「さて、どんなサプライズが待ってるんだ?」


「お姉ちゃん、手綱を握りきれてるかな?」


意を決してドアを開けると……


「おかえりなさいませ。御兄様」


「おかえりなさいませ。義御姉様」


メイドが二人、傅いていた。そして、深々とお辞儀している背中越に、みょんみょんと尻尾が動いている。


「……お店を間違えました。ご免なさい」


パタン。剣は外に出て、玄関のドアを閉じた。そして、一先ず深呼吸して心を落ち着けた。


「そう来たか」


「サプライズでメイドコスプレ……使い古された演出を、何の臆面もなく実行する。やるね、つばぞみ。ハートの強さが尋常じゃないね!」


再度、そっとドアを開くと、双子がにこにこにーな笑顔で待ち構えていた。二人とも猫耳カチューシャを着用していて、髪型をツインテールにしている。とっても、ありきたりな猫耳メイドだ。最早様式美と云える。


ひとつ、ありきたりでないのが、剣と梓に、そのメイド服に見覚えがあったこと。最近行ったことのあるお店の物に、よく似ていた。……よく、似ていたのだ。完全に一致はしていない。


「エロいな」


「かなりね」


双子が着ているメイド服は、『29Q』で見た物より、胸がぐわっと開いている。スカートもかなり短く、立ってるだけでギリギリであった。


「何処から突っ込むべきだか……取り敢えず、ただいま」


「出迎えご苦労!つばたん、ぞみたん」


「「おかえりなさいませ。御兄様!義御姉様!」」


今度は逃さぬ!と、翼は剣を。希は梓をガッチリ捕まえ、強引にリビングへと引きずっていった。


「不覚、もっと見惚れてくれると思ってた」


「来年は、水着エプロンでリベンジしよう」


「俺に何を求めてる!?」


「大丈夫だよ!とってもエロ可愛だったから!」


聞く耳無し!双子はそのまま剣と梓を、リビングへと押し込んだ!


「「「「ハッピーバースデー!」」」」


リビングに入った途端、剣達の視界は色とりどりの紙吹雪で覆われた。因みにクラッカーは鳴ってない。動物達がビックリするから。


「これはまた……盛大な量の紙吹雪で……ありがとう、みんな」


「感謝感激だよ!ありがとね!」


ふと、剣と梓が姉妹達を見返すと、全員猫耳カチューシャを装備していた!桜に至っては、双子と同じメイド服まで着用していた。


「どうです?似合っていますか兄様?」


わざとらしく、剣にしなだれながら問う桜。現役レイヤーなので、色気のある仕種の研究には余念がなく、並の男であったならコロッと騙せそうな魅力はある。


「コラっ!桜姉さん!如何わしい!今すぐ兄さんから離れなさい!」


真面目生徒会長小町ちゃんは、家庭内の風紀の乱れを許さない!


「如何わしくないのであります!大好きな兄様に、ちょびっと大人のおもてなしをしてみただけであります!小町たまこそ、せっかく翼姉様達が用意してくれたのに、メイド服を着ないなんてノリが悪いのでありますよ!」


「猫耳だけでも恥ずかしいのに、そんな……え、え……エッチなメイド服なんて着れないよ!マトモな神経の人が着る服じゃないよ!風俗嬢みたいだもん!」


「マトモじゃない……風俗嬢……」


小町ちゃんの台詞に、じわじわライフを削られる遥。


「着たのは桜姉さんだけじゃない!キャラ的に当然な遥義姉さんは勿論、マトモな光姉さんや実鳥義姉さんは着てないんだからノリ悪くなんてないもん!」


「……マトモと思われてない……」


「……光姉様は、試着はしたでありますが?」


「ええっ!?」


驚愕の声をあげ、光に振り向く小町。


顔を赤らめ、天井の角へ視線を反らしたみんなのお姉様。唇を3の口にして、口笛吹いて惚けている。


「て、適当な事言わないでよ!光姉さんが、そんなこと……」


「証拠なら、これこのとうり」


すいっと胸元からスマホを取り出す桜。胸が開いている服でのデフォルトアクションである!桜のスマホのピクチャーには、しっかりと桜達と同じメイド服姿の光が写っていた。しかも見事なツインテールで!美少女戦士みたいなポーズで!


「な……!なんで姉さんが!?いや、可愛いけど!可愛いけどお!」


小学生の妹が半泣きしているので、光は目を反らせなくなった。そして、モジモジしながら答えた。


「メイド服がね、余りに可愛かったから……それに、若い内じゃあないと、着られないかなあってね?実際に着てみると、胸元が、その、翼達と比べられると……アレだから。本番は断念せざるを得なかったのよ」


光のメイド画像は、既に翼と希にも送信済みで、それは剣と梓にも公開された。


「いや、似合ってるよ姉さん。本当に可愛いって」


「むしろ、つばぞみよりもエッチく見えるけど……」


「それは、胸の開いた服だからであります!胸が小さい事で服との間に空間が生じ、何かの拍子に、大事なところが見えてしまいそうだからなのです!ゆったりしたタンクトップを着ている時に屈むと、巨乳よりも貧乳の方が……」


「桜……黙ろう?」


「い……イエス……まむ」


長女の威圧には、妹の誰も逆らえない。喩え貧乳が褒め称えられていても、貧乳は光様のNGワードなのである。


威圧で桜を黙らせると、光からスッと、闇が抜け落ちた。


「それじゃ、みんなで乾杯しましょう!小町も思うところはあるでしょうけど、今日はお祝いなんだから、喧嘩腰で否定的なのは控えましょうね?」


「は、はい……兄さん、梓姉さん、すみませんでした」


しょんぼり謝る小町に、剣と梓は二人で小町の頭をなでなでして可愛がった。


「いいっての。真面目なのが小町のいいとこなんだからさ」


「私もマトモじゃない自覚あるからね~。こまたんには気苦労かけて申し訳ないね~」


一番の悩みの種である二人にあやされ、なんとも言えずに目を細める小町。この二人、付き合ったりしてなければ文句の付けられない兄と姉なんだけどな~と。


「みなさ~ん。ジュース注ぎましたよ~」


実鳥ちゃん、開始早々カオスなパーティーの中で、全く動じずに紙吹雪を掃除したり、乾杯の準備をしていました。


会話に混ざるより、みんなの役に立ちたいのである。本当に、気の回る子である!


「それじゃ、折角だから、ジュースを用意してくれた実鳥ちゃんに、乾杯の音頭をお願いしちゃいましょう。よろしくね、実鳥ちゃん♪」


「わ、私ですか?えぇ~!?」


「地味ってたみどりんに、イイトコ持っていかせる。お姉ちゃん、ナイス」


「家の長女は、家庭内ボッチを見逃さない」


すかさず、実鳥の両側に貼り付いて、長女の指示から逃さない翼と希。双子の胸に挟まれ沈んだ実鳥の両腕。その胸の大きさと柔らかな感触は、相手が女子であっても魅了する。ましてや、初な女子中学生に、抗える道理など在るわけがない!


実鳥は、双子に連行されて、ソファーの上に立たされた。


「実鳥たま、グラスをどうぞ」


桜から差し出されたグラスを両手で受け取ると、心臓に押し当てるように止め、固まってしまった。凄く、凄く緊張している。


その様子にいたたまれず、遥は実鳥の背後にまわり、背中を擦って落ち着かせた。


「お、お姉ちゃん?」


「んと……あんま失敗とか気にすんな。失敗しても、みんな笑い飛ばしてくれるだろ?まぁ、こいつら、いい奴ばっかだし?」


不器用な励ましだが、実姉からの偽りない励ましは、実鳥にしっかり伝わった。


励ましている遥の方も赤面しているので、実鳥は可笑しな気分になって、少し緊張が解けた気がした。


「え、えっと……剣さん。梓さん。十八歳の誕生日、おめでとうございまひゅ!?……か、かんぱい!」


(噛んじゃった……)


実鳥の乾杯の音頭で、パーティーが本格的に始まった。


「実鳥たま偉いです!あそこまで引っ張ったなら、噛まない方がつまらないのであります!期待どーりなのです!」


噛むことを期待していたと言われて、とっても微妙な気分になった実鳥だったが、遥が言っていた通りになったので、緊張は完全に解けたのであった。


乾杯が済めば、食事の開始となる。本日は立食形式。


唐揚げや、ミニハンバーグ、フライドポテト、グラタン、ペペロンチーノにサラダ等、食べ放題のレストランみたいなメニューが並んでいるが、全部光と実鳥の手作りである。


そして、メインメニューにチーズフォンデュが据えられていた。チーズ鍋の周りには、一口大のパンや、色とりどりの茹で野菜に、ソーセージ等が並べられている。


「チーズは沢山用意したから、遠慮なく、たっぷり絡めて食べて頂戴。少なくなったら言ってね。どんどん追加しちゃうから」


では早速と、皿に手を伸ばした剣であったが、その手を桜に制止された。


「?桜、なんだよ?もう、腹減ってんだけど……」


「まあまあ、本日兄様と梓姉様は主賓ですのでソファーで御寛ぎ下さいませ。料理はボク達メイドがお運び致しますから」


メイドと化した三人の妹達により、剣と梓は強引にソファーに並んで座らされた。


「……持て成し、なのか?」


「……メイドカフェごっこ?」


二人が少し待つと、メイドシスターズが様々な料理を乗せた皿を持って戻って来た。剣は皿を受け取ろうとしたが、翼は皿を渡さない。翼は剣の前で膝立ちになると、チーズをたっぷり絡めたパンをフォークに刺して……


「あーん」


剣に、大きく口を開くのを要求した。


見れば、梓も希に同じ事を要求されていた。


「いかがわっ?むぐっ!」


小町が桜に羽交い締めにされ、口も塞がれていた。……双子と完全に示し会わせている……!


小町の猫耳はビーンと逆立っている!何故か感情変化に反応する、さにゃえメイド長、謎のテクノロジーである!


実鳥は顔を真っ赤にしながらチラ見をしていて、遥は巻き込まれないよう我関せずを貫き、唐揚げとミニハンバーグに大量のチーズをぶっかけている。……フォンデュじゃなくて、ラクレットの食べ方だよ、それは……


光はとやかく言わず、流れを見守っている。『行き過ぎたら止めよう』的なスタンスらしい。


なので、剣はこの遊びに乗ってみる事にした。パクっと、翼が差し出していたチーズを纏ったパンに食い付いた。


濃厚なトロトロ熱々チーズの旨味が口の中で広がり……


「美味いな。ありがとう」


自然に、賛辞と感謝の言葉が口から漏れた。


「おーいしーい!ありがとね、ぞみたん!」


「勿体無いお言葉です、ご主人様」


「恐悦至極です、奥様」


そうゆう、設定らしい。


「お、おくさま……う、うむ!苦しゅうない!憂い者共よのう!さあ、もっと持って参れ!」


奥様なのか、貴族なのか、よく判らないキャラになったが、梓はこの遊びに全力投球する事にしたようである。


一方、小町が桜から開放されていた。


「ぷはっ!……桜姉さん!もう!なんなの!なんなの!?」


「小町たま。兄様達を、よーく見るのです」


「……如何わしい。何で……兄さんは平然としていられるのよ?」


汚らわしいモノを見る目で、兄と姉達を睨む小町。


そんな小町に、溜め息を吐く桜。


「解りませんかぁ……小町たま。心の目で見るのであります。姉様達の服を取り除いて、見るのです」


「もっと駄目だよ!R18だよ!」


「……失敬。改めて、姉様達の服を、普通の服にして見るのであります」


「それは……まあ、如何わしくはないかもだけど……あ、あんなの……恥ずかしいにも……」


「如何わしくないので問題無しであります。常日頃、みんな兄様を頼りにして甘えているのですから、たまには甘えてもらいたいのでありますよ。それで『メイドになって御奉仕』する遊びなのです。……まあ、メイド服のデザインは純粋に悪巫山戯なのでありましょうが」


「だよね!メイド服だけでもエッチなのに……あの尻尾は何?それに猫耳!これが変態性を高めてるのよ!」


「……へんたい……」


遥が流れ弾に被弾した!悪意なき言葉の弾丸は、バイト中の比ではない威力で精神をガリガリ削ってゆく!


「お姉ちゃん?どうしたの、気分悪い?」


「……大丈夫、少し、葛藤してるだけだから……」


「バイトの後なんだから無理しないでね?少し、座って休んだらいいよ」


「ありがとな、実鳥」


ここで、実鳥に変なスイッチが入った。


そして、光にそっと耳打ちすると、二人で姿を消したのであった。


数分後。リビングに戻って来た光と実鳥は、メイドだった。


「な……な……んな~っ!?」


信じられないっ!そんな叫びを小町があげた。ムンクだ。


「プレシャス!とっても可愛らしいです実鳥たま!ヤバイ……ハァハァが止まらんのでありましゅ……」


「お姉ちゃんも……吹っ切れた?」


「しなやかスタイル。一番猫っぽいかも」


光は少しだけ、実鳥は茹で蛸レベルで顔を赤く染めての登場。


そんな二人を呆然と見ている遥に、光と実鳥は軽く目配せした。それで、遥は察した。光には既にバイトバレしているし、実鳥が知らない事にしてくれていることも……


義姉と実妹が、自分のやるせなさを共有しようとしてくれたのだと!


こうなると、やはり実の姉妹か、遥にも変なスイッチオン!


小町は再び目を疑った。今度は叫びも上げられず、口からモヤッとした発光する気体らしきモノを漏らしていた。


トイレから戻ってきた遥も、メイドになっていた。


メイクをギャル系に変更し、イメージ的には、奉仕する気の無さそうな、傲岸不遜なツンメイドがやって来た。


「お姉ちゃん……」


「実鳥までやってんだから、アタシもやんなきゃノリが悪いだろ?……死なば、もろともだ」


開き直れば、既に二年のキャリアのあるメイド。恥じらい・葛藤、何処行った?な、実に堂々とした振舞いである。


「遥義姉様。実にバランスの良いスタイルでありまふ!……はて?見覚えがあるような?」


「そう言えば私も……似ている人を何処かで……?はるるんに……はる?……ハル?ハルにゃん?ハルにゃんだ!?」


「……そうだよ……アタシがハルにゃんで悪かったな!」


ハルにゃん、カミングアウト!


「言っちゃった~。言っちまったぁ~。うぅ……」


「あのハルにゃん様が遥義姉様……超絶ギャップ萌えであります!では、あれが遥義姉様の素顔?……あんな可愛いのに普段変なメイクして!勿体無いのであります!」


「カミングアウト~」


「おめでとう~」


「ハルにゃん、誰かに似てると思ったんだよね~。こうして見比べると……どりりんと姉妹なんだな~って納得したよ」


「めでたし、だな。……姉さん、小町は?」


「落ち着いたわ。少し休ませましょ」


完全にマイノリティな立場となった小町が、メイド服に着替える事になるのも、時間の問題であった。



次回はプレゼント発表。

バースデーの最終回……あくまで予定。

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