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19話目 変態はやっぱり変態

「アズちゃん、お誕生日おめでとう!剣くんはまだだけど、二人にバースデープレゼントです!」


入学式の翌日、朝のHR前の教室で、雀は可愛くラッピングされてる小さな包みを、梓と剣に手渡した。


「ベタだけど、クッキーを焼いてきました。保存料とか入れてないから、悪くなる前に早く食べてね」


「ずめちゃん、ありがと!」


「ありがとな、雀。じゃ、早速……うん。普通に美味い」


包みの中身は、ごく普通のバター風味のクッキーと、チョコ風味の焦げ茶色のクッキーが入っていた。星やハート等に型抜きされていて、手作り感が溢れている。


「普通に……かぁ。まぁ、レシピ通りに、特別な材料も使ってないからね……驚く程の味にはならないよね……」


雀さんは〝美味い〟の枕詞に〝普通に〟が付けられたので、ダメ出しされた気分になってしまった。


「何をガッカリしてるんだ?美味いぞ。レシピ通りに、普通の材料でこんだけ作れりゃ、質のいい材料を使うだけで、もっと美味くなるって事だぞ」


この通り、剣としては含みなく誉め言葉だったのだが……


端からは、女子からの手作りお菓子のプレゼントにダメ出ししている傲慢男に見えたり(特にロンリーボーイズから)するので、複数の怒りと妬みを込めた視線が剣の背中に向けられている。真っ直ぐ正面から視線で射ぬける勇者はいない。


「うん!美味しいよ、ずめちゃん!けんちゃんから美味しい引き出したのは、大したもんだよ!妹達にだって、お世辞を使ったりしないんだから」


「そうなの?……昨日のアレを見たからか、とても信じられないよ……」


クッキーをモゴモゴしながら、剣は雀の疑問に答えた。


「失敗を教えてやらなきゃ、何度も同じ間違いを繰り返すかもしれないだろ?勘違いは後に成る程ダメージ大きくなるんだから、俺は絶対本当の意見しかしたくないんだ」


「でも、不味くても、全部食べちゃうよね?」


「気持ちと味は別物だからな」


「……不味い言いながら全部食べるのも、勘違いさせると思うなあ、私は」


「いや、全部ったって、我慢出来る限りでだぞ?いくらなんでも、黒焦げだったり、健康を害する程の塩が入っていたら食べられないからな?……ん、最後の一枚か。ついつい手を伸ばす程には美味かった。……ご馳走さまでした」


剣さん、完食しました。


「御粗末様でした。……て、もう?」


「すいすい食べれる。それこそ美味しい証拠だよね。私のも終わっちゃったよ。ありがとうございました、ずめちゃん♪」


梓さんも完食致しました。


「う、うん。どういたしまして……」


(早く食べてねとは言ったけど……速すぎるよ!もう一寸勿体つけてくれても……と思うのは贅沢かな?二人共、美味しいって言ってくれたんだし、満足しないとだよね!)


「はよっす~!って何?甘い匂いするけど?」


一朗、登校するなりクッキーの残り香を感知し、剣達の手元にある空の包みを発見。


「コレか?誕生日のプレゼントに貰った。完食したけど」


「嫁以外の女子から手作りお菓子貰っちゃうとか、どんだけ恵まれてんの?リア充め!俺にも恵みを!」


「いや、誕プレを横流しとか、それこそ最低じゃないか?」


「そりゃごもっとも!あーでも、雀っちの手作り、俺も味わいたかったー」


チラッと雀に視線を流す一朗。とっても期待を込めて!


「え、えっとね、割れちゃったのならあるから、それでよければ、お昼時に……」


とっても定番、期待を裏切らない普通な女子である。


「雀っち、女神!有り難く戴きます!っとそうだ。俺も誕プレ用意してたんだった。ホイ」


一朗は、一応綺麗に包装されてる、薄い封筒サイズの物を剣に手渡した。


「なんか、スッゲーついで感。まあ、貰うけどさ」


「あ、中身は映画のチケットな。それでデートにでも行ってくれや」


「イッちゃん気が利いてるぅ!」


「それは有り難いな、ちょくちょく観に行ってるし」


「だろ!いや、色々考えたんだけどさぁ、これなら誰かと被っても問題ないじゃん?系列の映画館の何処でも使えっしさ」


「そうか……じゃあイチの誕生日には、テーマパークのペアチケットでも贈らせてもらうよ」


「二回独りで行けと!?」


「私からは、展覧会のペアチケットあげるね」


「だから、ペア貰っても相手がいねーの!」


一見イジメに見えるが、三人のやり取りは、当然冗談でやっている。中学生の頃からの、気心知れた間柄故の、即興漫才的なコミュニケーションを楽しんでいるのである。


「そういや、椿っち来てねーんな?剣が怖くて、布団から出れなくなっちまったかな?」


「メールしたら、来るって返信あったけど……」


脳震盪状態で、ダークサイドな魔剣モードの剣に、本気で威圧され脅された椿は、普段の自信に満ちた態度は何処へ行ったのか、幼子の如く泣いて許しを乞うたのであった。


その原因が『妹達(翼と希)を脅えさせた』からなものだから、剣には全然反省がない。今も無表情で、しれっとしている。やり過ぎなんて、全然思っていない。


「ったく、バキ子もアレで反省して、エロスな行動を控えてくれるといいんだけど……無理だろうなぁ~。同性愛を公言しているタフな精神力だもん。しばらくしたら、元に戻っちゃうだろうなぁ~……」


梓は、椿に無駄な期待なんてしない。完全に諦めている。何があろうと椿の気持ちになんて応えられないので、さっさと諦めて他の恋愛対称を見つけてほしいのだが。


「あ、椿ちゃん!」


教室に入って来た椿を、雀が逸速く見つけた。


「や、やあ……おはよう……」


教室内が激しくざわついた。


普段なら一目散に梓に駆け寄る椿が、自信たっぷりに変態的言動を巻き散らかす椿が、もじもじしながら怯えた様子で、大人しくしているのだ!


「や、やべぇ……エクスカリバーを激怒させて土下座させられた噂は本当だったのか……」


「いや、拷問されたって聞いたけど?」


「少なくとも泣かしたのは本当。俺見たし」


「どちらにしろ、ドSカリバー」


「……椿もああしてると普通にイケるな……」


「いや、ナイ」


剣が何気なーく椿と目を合わせると……


「ひぃっ!」


と、小さな悲鳴を上げて後ずさった。相当トラウマらしい。


「あー、もう怒ってないから気にすんな……っつーのも無理か。これだけ言っとく……怒らすなよ?」


「はっ、はいぃっ!勿論です旦那殿、いえ!陛下!今後一切、妹様方には指一本たりとも触れません!ですので……どうか……どうか!……梓には今迄道理の愛情表現をお許し下さい!」


「…………………………………………」


長い、沈黙。3-Bの教室から音が消えた。


沈黙を破ったのは――


「けんちゃん……私、今、とーっても重くて大きい鉈が欲しい気分なんだけど……可笑しいかな?コレって、空気を読めず、空気を読もうとする努力も出来ない脳筋女よりも、私の頭の方が病んじゃってるのかな?かなあ?」


梓は、夜でもないのに真っ暗な表情で、虚ろで焦点が合っていないのに、何故か眼光だけ鋭い……まるで、幽鬼になったかのようであった。


「椿っち、弱気になってんのに全然ブレてねえ……どう思うよ?雀っち」


「……死んでも直らないと思う」


雀ちゃんも、諦めました。


「つか、陛下って何だ?」


剣が、心底めんど~臭そうに立ち上がった!周囲から「お前が元凶だろうが!なんとかしろ!」との視線による無言の訴えが、乱れ撃ちである。当人の心に一発も命中してないけど。


それでも立ち上がったのは、一応だが、椿を友人だと思っているからである。なんか、気持ち悪いままなのが嫌だったから。陛下なんて呼ばれ方、とてもむず痒かったのだ。


取り敢えず、ほんの少しの刺激で殺意を爆発させてしまいそうな梓を宥める事から始めた。


「梓、鉈はすぐには無理だから、野球部に金属バットを借りに行こう。俺も一緒に行くからさ」


そう言うなり、梓の腕を掴むと、強引に教室の外へと引き摺っていった。


それから五分後。


剣と共に戻ってきた梓は、嘘みたいに輝く程の笑顔になって帰ってきた。金属バットは持っていない。


「ずめちゃん、イッくん、ただいまー♪」


「お、おかえりアズちゃん……」


「剣……()()してきたん?」


「御機嫌とりしてきたんだよ。少し長めにキスしてきただけだって。後、軽く揉み解したぐらいだ」


「うん。平然と言うな。「おのれリア充!」な怨念がそこかしこに充満してっから。恋人いない男女の方が多数派だから、充分エロ話題になってるから」


「見せ付け過ぎだよ、二人共……」


反感なんて慣れっこなので、剣と梓は気にも留めない。むしろ剣は「後ろからでも、刺せるもんなら刺してみれば?」なスタンスである。


クラスメイトの大半が嫉妬で怒りに染まるか、羞恥で紅く染まるかに表情を変化させているなか、椿だけは、だらしない笑顔で、涎まで垂らしていた。


「梓の艶々笑顔……ぷらいすれす……グヘヘ……」


ハッキリ言わなくても、気持ち悪い変態さんでした。


「バキ子……台所のGちゃんより不快だから、冷蔵庫と壁の狭間に挟まって、一生出てこないでくれる?」


さっき迄の狂気は無いが、梓は蔑みの目で椿に言い放った。


「梓の家の冷蔵庫になら、喜んで❤」


「んな不気味なモン挟んでられるか!家にはちっちゃい子もいるのよ!間違った成長するわ!」


「椿っちー、愛が屈折してるわ。何言っても嫁さんの神経逆撫でしてるって、気づけー」


「自分の気持ちばかり押し付けちゃ駄目だよ~……相手の気持ちも考えないと……そうだ!アズちゃんの誕生日プレゼント、用意してるんじゃないの?」


「おお、そうだった!受け取ってくれ、梓!私の愛を、コレでもかと詰め込んである!」


梓の表情にはありありと「受け取りたくねえ~」と書かれているようであったが、受け取らずにいるままなのも、受け取るまでウザくなる筈なので、渋々受け取った。


「ん?この匂い……お菓子?」


「うむ!マドレーヌを焼いてみたのだ!私の特製手作りな逸品だ!是非とも食べて、感想を聴かせてくれ!」


「……ん~、ヤダ!」


梓はツカツカと教室の隅へと歩くと、マドレーヌを容赦なくゴミ箱へとポイっちょした。


教室中から、驚愕染みた怒声や非難が狂乱した!


まあ、当然の反応かな?と、梓自身も自覚はしている。だから、この事態に茫然自失している椿に対して、確信している事を言葉にして叩き付ける!


「バキ子……アンタの手作りなんて安全性が疑わしいモノなんて食えるか!どーせ汗とか唾液とか血液とかその他諸々の分泌液や、精力剤や媚薬なんか混ぜてんでしょ!黒魔術的な呪い(まじない)絶対やったでしょ!?」


「…………てへ☆」


やったんかよおぉぉ!?クラス全体、一斉にドン引き状態。


「やっば……俺もう、本命の女の子からの手料理しか食えねぇ」


「コワ……早瀬、マジで病んでる……」


「つか、そんな発想に至る聖嫁って……」


非難を浴びていた梓だったが、正当性は証明された。なんだかんだで思考パターンが似ているので予測出来てしまうのである。超!不本意ながら。


「……剣くん、私が言うのもアレだけど、椿ちゃんがアズちゃんの近くにいるの、よく受け入れてるよね……」


「ん?ま、いざとなれば物理で楽に排除可能だからな。さっきのだって、梓が気付かなかったら、俺が止めてたし」


「解ってたの?」


「変態ってのは、普通は躊躇う事をやるもんだろ?梓には俺ってブレーキがあるけど、椿にはないからな……その内やるかもとは思っていた」


「はぁ~……流石は剣くん。器が大きいね」


「それ言ったら雀もだろ?あの二人と友達やってんだから」


「私は二人から性的対象に見られてないから。どっちも真っ直ぐだから、むしろ安全なので。……で、どうするの?椿ちゃん、アズちゃんに踏んづけられて気持ち悪い笑顔になってるけど」


「……そろそろ先生来るし、自然に終わるだろ。……つか、昨日のアレで、ドMを加速させちまったかな……?」


「そうなったら剣くんの責任だね。一生アズちゃんの奴隷として傍にいさせてあげないと」


「……どうしてこうなった……て、ヤツだな」


反省も後悔もしていない剣だったが、面倒な友人を作ってしまった事には、感慨深くなるのであった。






ちょっとやそっとで治ったら変態じゃないよね?

次回も引き続き誕生日のアレやコレ。

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