18話目 会議は踊る。そして悶える
フラグ回収回
春休み中の、とある日。
それは、都合良く剣と梓が出掛けていた時に行われた。
「それでは只今より、兄様と梓姉様の、生誕十八年記念祝賀会の企画会議を開始致します。司会はボクこと桜です!」
聖家のリビングには桜の他に、光・遥・翼・希・実鳥・小町が集合している。敏郎は創作活動。美鈴と燕は近所の公園へ遊びに行っている。
取り敢えず、みんなで拍手する。
「ありがとうございます!それでは、どんどん発言よろしくであります!最初の議題は、プレゼント!」
聖家は世間一般の常識に照らし合わせなくとも、大家族である。当然、家族の人数分だけ誕生日があり、当然、祝う。
それが、ほぼ毎月ある。四月は剣と梓の誕生日を合同で祝うのが恒例となっている。大体、剣の誕生日の四月十二日か、その前後の日曜日にバースデイパーティーが実施される。
そして、パーティーの為の会議も必ず実施される。何故なら、各々で用意したプレゼントや余興が被ると悲しい思いを誰かがする事になるからである!
「そうね、先ずはメインのプレゼントを決めましょうか?今回お父さんが欠席だから、早めに予算出してもらって用意しておかないとね」
各々で用意するプレゼントの他に、子供達の会議で決定されたプレゼントを、敏郎が資金援助して用意するのも聖家では恒例となっている。敏郎自身に任せてしまうと、とんでもないお金の使い方をやりかねないからだ。
「梓ちゃんは、お兄ちゃんとお揃な物を喜ぶと思う」
「ペアリングとか?」
「いや、ペアリングは、剣に貰ったらじゃねえか?」
「でも、お揃いは良いアイデアだと思うよ。……剣さんと梓さんが共通して好きな物って……なんだろ?」
「……燕?」
「それはみんなでしょ?あ、でも当日いないのよね……お祝いメッセージの動画を撮っといて、サプライズする?」
「いいですね光姉様!それ、採用致しましょう!ただ、プレゼントとは別枠でありますが」
桜は、アイデアが出る度にホワイトボードに書き殴ってゆく。その様は、如何にも会議っぽい。
「他に兄さんと梓姉さんが好きな物……こだち?」
「確かに二人共、こだちちゃんや猫ちゃん達のお世話を率先してやってるよね。でも、今以上にペットを欲しがってるかな?」
「梓ちゃんが欲しい生き物はお兄ちゃんしかあげられない」
「よって、生き物関連は全部却下」
「「兄さんしか?」」
その言葉の意味に気付くと、実鳥と小町は顔を真っ赤にして俯いた。
遥もなんだか居心地悪そうに視線を泳がせている。
「うーん、これも駄目かなあ」
光がスマホで何かを調べていた。何かを思いついて調べてみたら、結局使えそうになかったようだ。
「光姉様、何を調べてらしたので?」
「アクセサリーとかいいかなと思って、誕生石を調べてみたの。二人共同じ石なら、違うアクセでもお揃いになるから」
「いいアイデアではありませぬか!何が駄目なのでありますか?」
「四月の誕生石……ダイヤモンドなのよ」
全員「却下!」
「よりにもよって……だな。高額過ぎんだろ?高校生の持ち物じゃねえって」
「でも、私アクセはいいと思うな!別に誕生石じゃなくたって、キレイな石が付いてて、カッコいいのとカワイイのなら兄さんも梓姉さんも喜んでくれると思う!」
「私も、小町ちゃんに賛成。誕生石ならよりロマンチックでいいと思うけど……あまり高価過ぎても、困るんじゃないかな?」
「……ググってみたけど、誕生石って、宝石商が決めただけみたい」
「つまり、売る側の都合で決まってる。国によって、種類が増えたり変わったりもしている」
「……夢の無い話であります。では、メインプレゼントはアクセサリーに決定とゆうことで。光姉様、お願いしても?」
「ん~……桜も一緒に来てくれる?貴女のセンス、私より優れているもの」
「では、光姉様とボクで買いに行きましょう。後は各々のプレゼントですが……こんな物を用意したのであります!」
デデーン!と取り出されたるは、何の変哲もないくじ引きボックス!
「この箱の中に、既にボクの方でクジを用意しているのであります!引いた後、全員でクジを確認し、各自クジ通りのジャンルのプレゼントを用意していただきたいのであります!」
「……変なの、入ってないよな?」
「失敬な!ちゃんと、引いた後で確認するのですぞ。小町たまも引くのですから、TPOは弁えているであります!」
「それならいいが……因みに、どんなのが入ってるんだ?」
「それは、引いてからの……と勿体つけず、少々説明致しましょう。〝マグカップ〟や〝Tシャツ〟のように品物を指定していたり、【本屋】【玩具屋】みたいに店を指定するクジもあります。あまり選択肢を狭め過ぎても、面白くないでありますから」
「お題に沿ったプレゼント選び……大喜利!」
「成る程、センスが問われる」
「ハ、ハードルが上がったよぉ……これって、剣さんと梓さんでそれぞれ引くの?」
「いえ、先程も話してましたが、ペアなプレゼントの方が嬉しいだろうと思いますので、二人分同じお題と致しましょう。特に性別に偏ったお題は入っていませんですから」
「……まあ、手っ取り早く決まっていいかもね。桜姉さん。薄い本のお店とか入れてないんだよね?」
「小町たまにまで信用されてない……入れてませんよう!ボクはそんなことしないのであります!入っていたとしたら、きっと翼姉様と希姉様の悪戯であります!」
「やってない……今回は」
「面白いから、次はやるかも」
ややあったが、くじ引き開始。七人全員引いたところで各々確認すると……
「私は……【スカイ○リー】?因んだ物ってこと?」
「やっぱ変なの入ってるな……〝動物モチーフ〟範囲、広すぎないか……?」
「ほう、【百均】とな。この挑戦、受けて立つ」
「【アウトドア専門店】目移りしそう」
「えと……〝ストラップ〟普通だ。良かった……」
「見るのコワイ……〝伝統工芸〟何コレ!?あ、でも兄さん好きそうかも……」
「さてと、ボクの番ですな……?……?……!?な、何故こんな物ぐあぁぁぁ!?入れてない!ボクは入れていないのです!」
頭を抱え、激しく取り乱す桜。キッと翼と希を睨むが、「本当に今日は仕込んでないよ?」と驚いている。
桜が落としたクジを拾い上げ、遥がソレを読んだ。
「……〝肩叩き券五十日分〟コレ……アネさんの字じゃね?」
光御姉様、片手を口に当てて「あらヤダ、オホホ」してます。
「引くときに、一枚入れただけなのに……桜、貴女持ってるわね!」
長女様、素敵な笑顔でサムズアップ。
「い、やぁぁぁ~~!こんな昭和のしみったれた財力無しのお子様みたいなプレゼント。厨二なボクには耐えられないぃぃ~!」
「お姉ちゃん最高!座布団十枚あげちゃおう!」
「この大喜利は、お姉ちゃんが乗っ取った!」
やんや、やんやとはしゃぐ双子と対照的に、遥はゾッと、背筋が凍りつきそうな寒気を感じていた。
「アネさん、パねえ。アレ引いたのがアタシだったらと思うと、笑うどころか震えて泣ける」
「むしろ、光さんの方が持ってるよね……」
「兄さんに肩叩き券渡すとか……十才過ぎたら恥でしかないよ。光姉さん、なんて恐ろしい……」
翼と希が笑っていられるのは、肩叩き券を引いていても、ノーダメージだからである。普段から肩叩き以上の密着接触しているから。……引いていたら、ソレ以上のサービスを盛り込んだプレミアムチケットにグレードアップさせたであろう。
「じゃあみんな、これでプレゼントのテーマは決まりね。各自他の子のクジを踏まえて、被らないように用意しましょうね♪」
桜が光の悪魔的所業により意気消沈して生ける屍と化してしまった為、責任をとって司会役は光が引き継いだ。
「次は、パーティーの内容ね。今回の会場は家だけど、料理はどうしようかしら?それにケーキも」
「ケーキ……まず、手作りするか、買うか、ですよね?」
「わ、私が作る!作りたい!作らせて!」
ケーキ作りに立候補したのは、小町だった。
「三段活用してまで、本気?」
「小町、理由は?」
小町は、不機嫌気味に、唇を尖らせて答えた。
「去年の、私の誕生日に、兄さんが作ったケーキが美味しかったのが、悔しかったから……」
「そういえば、そうだったわね。食べ終わってからネタばらしされて、呆然としてたものね」
「呆然なんてしてないよ!……ほんの少し、驚いただけ」
「小町、負けず嫌い」
「素直に、お返ししたいと言えばいい」
「そ、そんなんじゃない!プライドの問題よ!」
ここぞとばかり、意地っ張り小町ちゃんを弄る双子ちゃん。自立心から甘える事が少なくなった妹を、構い倒すチャンスは逃さないのだ!
「剣って、何でもそこそこ器用にこなすよな。欠点あんのか?シスコン以外に」
(お姉ちゃんも、シスコンだと思うけど……)
「うん。それじゃあケーキ係は小町に一任します!ただし!一人で頑張り過ぎないこと。必要な時は言いなさい。助言も手助けもするからね」
「うん!絶対、美味しいケーキを作るから!」
「小町ちゃん、どんなケーキにするの?」
「目標はフルーツたっぷりのロールケーキ!」
「……普通のホールケーキのスポンジより難易度高いぞ?少しでも固いと、巻くときに割れるから」
以外な人物からの助言に、小町は目をぱちくりさせた。
「遥義姉さん?ロールケーキ作ったことあるの?」
「そ、その……バイト先の先輩がパティシエ目指してて、試食するときに失敗談とか聞かされてな」
うっかりハルにゃん。つい、バイト先での経験(作るトコ見せてもらっただけ)が口に出てしまう。よくまあ、二年近く隠していられたものである。これから数日後、半数程度にバレたが。
「それじゃ、料理は私が担当するわ。当日は、洋食中心の立食形式にしましょうか。メニューは随時受付ます♪」
「私、光さんの助手やります」
「アタシはバイトありますんで。夕方には帰ります」
「私達は、特にないから」
「臨機応変に対応する」
「………………」
返事がない。まだ生ける屍のようだ。
会議はその後、パーティーでやりたいゲームや余興などについて意見を交わしあい、終了した。
数日後、清央高校入学式の日。
光は燕を連れてお出かけしていた。
「……たっか~!ひかねぇ!これすっげぇ!」
「凄いでしょ?今からコレに昇るわよ。今日は良く晴れたから富士山だって見えるわよ~」
訪れたのは、日本一高い建造物。燕の子守りついでに、剣と梓の誕生日プレゼント選びに来たのであった。
光さん、何気に初めて来たのでワクワクしていました。……初めてなので、大した下調べもせずに……
ここには、燕に会わせてはならない奴らの巣があるのだ。
しかも、屋内施設で日本最大級面積のプール型展示で!
「ひかねぇ!ぺんぺんさん!ぺんぺんさんのえ!」
当然、そんな案内板があっても不思議じゃない。観光地だから!
剣達の懇願染みた忠告を、軽視する程浅慮な光ではないが、幼児のつぶらな瞳に勝てるかどうかは……
桜は全く予期せぬところで、光にカウンターをぶち込んでいたのであった……
本当に大きいんですよね、すみだ。
一回しか行ってないけど、一時間見てられた。
次回も長男と二女の誕生日の話。




