17話目 むしろ危険人物は……
PVが2000いった!
他と比較したこと無いから早いか遅いか解らんが
なんか嬉しくてギリギリ連日投稿間に合った!
ありがとうございます!
入学式はトラブルもなく、無事に終わった。
普通の入学式と異なる点があるとすれば、翼と希の双子が並んで入場した時、式場内が少々ざわついた(主に男子生徒)ぐらいであった。
そして、入学式終了後の3‐B教室。
翌日以降の行事の説明や、新しい教科書等の配布も終わり、本日の日程は、教壇に立つ、ゆかりの言葉で締めくくるのみとなった。
「え~、では~、今日の、予定、は~、おしまい、です。高校最後の、一年を、元気、に~、過ごしま、しょう、ね~。では、お気をつけ、て、さようなら~」
本日は午前中で日程終了。部活をする生徒もいるが、剣と梓は無所属の帰宅部なので、このまま帰るだけである。
「走れ!梓!」
「了解!けんちゃん!」
ゆかりの挨拶が終わった瞬間、剣と梓は教室から全速力で飛び出していた。その理由は、当然翼と希の事を、興味本意で根掘り葉掘り質問されるのがウザいからである。
普段、大して近い距離感でもないクラスメイトに、打算丸出しで近寄られるのは気持ち悪いからなのだ。
そして、それを察していた距離感の近い友人は、打ち合わせてもいないのに、剣達とほぼ同時に席を立って二人を追いかけていた。
校門横の壁を背に、剣達五人は寄りかかって身を隠した。こうしていれば、校内からは見つかり難いからだ。幸い、剣達のクラスは解散が最も早かったらしく、周囲の人気は少ない。
補足すると、走ってきたのは四人。雀は椿の小脇に、下駄箱まで抱えられてきた。ちっちゃいから、歩幅が狭くて走るのが遅いのである。
「……よく解ったな、お前ら」
「何年の付き合いだと思ってんだよ?剣が誰にでもサービスいい奴じゃないってこと、俺には常識だぜ!」
「まあ、その通りだな。有象無象に気を使う義理なんてないし。……つか、クラスの連中、普段の態度を省みりゃ、妹を紹介なんてする筈ないって判らんもんか?」
「うむ!全くもってその通り!私と梓の距離感ですら、写真すら見せてもらってなかったのにな!」
「……けんちゃん、バキ子につばたんとぞみたん会わせたくないっす。セクハラかますの目に見えるし」
梓は剣の背中と壁の間に身を隠している。椿の事を本心では嫌っていないが、その性癖と性格が相性的に最悪で、とても苦手なのである。
「まあ、そう言うな。俺は椿の事を嫌いじゃないし、こうゆう奴は、放っておいても直接会いにいっちまうんだ。だったら目の届く範囲で会わせた方が安全だろ?」
「そうかもだけど……ま、けんちゃんがそう言うなら……」
「椿ちゃん。危険人物扱いされてる……本当、自重してね?」
「うむ!梓の妹達に、私がどれだけ梓を愛しているか、誤解なく伝えねばな!」
雀は椿の顔を見上げ(椿は伸長180㎝ある。雀とは50㎝差)て、『あ、コイツやっぱり解ってねえ』と、呆れ果てた。
「恋は盲目、恐ろしいね」
「雀っちは恋どーなん?いいなって奴いねーの?」
「どうしても、自分の体型気になって心にブレーキかかっちゃうから……今日も、新入生どころか駅で小学生に間違われたし……小三で成長止まってるから仕方ないけど……」
「すんません。藪蛇っした。ま、恋する時期なんて人それぞれだしな。俺も今は剣達を観察してるのが楽しーし」
「趣味悪いかもだけど……私も楽しんでるかも。椿ちゃんじゃないけど、アズちゃんの笑顔って、誰より素敵だと思う」
「だよなー?剣達を妬みで見てる奴等は、その辺り気付いてねえんだよ。なんつーの?見てるだけで微笑ましくて、そんだけで幸せ気分になるんだよ」
本人達を前にして、褒めちぎりあう一朗と雀。勿論、わざとである。
「あ、あははー!イッくんとずめちゃんてば、もっと言って!もっと言って!」
「悶える梓……かわゆすぎる!」
「流石に俺でも……照れるんだが」
剣様の、激レアちょい照れ表情いただきましたー!
撮影された写真は、後程梓ちゃんのスマホに全て送信されて、有意義に活用されました。
帰宅する生徒や、入学記念の写真撮影をする新入生で、校門付近はにわかに賑わい始めているなか、剣達五人は、翼と希が下校するのを待っていた。
予め、朝の内に待ち合わせの約束をしていたのである。
校門横で談笑しているわけだが、通り過ぎて行く新入生が、例外なく二度見していた。
客観的に考えれば、異様なグループではあった。
中性的なクール系美少年。
美少年にピッタリ侍る少女。
長身の引き締まった身体の女子生徒。
小学生サイズの女子高生。
若干チャラい感じの男子生徒。
個性バラバラで、非常に目立っていた。
「なんか、注目されてるな。翼と希、早く来てくれねーかな?」
「早速トラブってるかな?あの子達、目立つのもおだてられるのも、場を盛り上げるのも大好きだし」
「黙ってても目立つよな。いや、久々に見たけど……けしからん育ち方しちゃったでしょ!この二年で何があったん!?」
「……神様は不公平です」
「見事だったな!流石は梓の妹だ!」
「いや、私と血は繋がってないから。原材料はけんちゃんと同一だからね」
「光さんとも同じ親のDNAだけどな。うん、神様不公平。どうしてああなったって感じだな」
「読モのヒカリさん、だよね?確かに、双子の妹さん達と対極なスタイルだよね。……どちらもいい意味でだけど」
「そうだな!私の好みのタイプではないが、確かに美しい!梓の姉だけのことはある!」
「だから、お姉ちゃんも血が繋がってないから。けんちゃんの先行ロールアウトだから」
「しゃあねえって、剣ん家の家族関係はややこしいかんな。毎回赤点ギリギリの脳筋には覚えきれねって」
「うむ!その通りだ!」
「そこは堂々としないで……反省してよ椿ちゃん……」
毎回テスト勉強に付き合っているのが雀ちゃんである。クラス内で五本の指に入る優秀な彼女の助けがあっても、椿の成績はギリギリ(長期休みの補習込み)なのである。
それから待つこと数分。
「あ!お兄ちゃんいたー!」
「?梓ちゃんが、お兄ちゃんの横じゃなくて後ろに?」
翼と希(と、両親)が到着した。そして早々に、双子は違和感どころではない異常に気付いた。
「よ、お疲れさん翼、希。こいつら、俺達の友人でな。他に友人はいないから、ちゃんと覚えて友人詐欺に引っ掛かるなよ」
「……三人だけ?」
「……超選抜メンバー?」
息子と義理の娘の交友関係の狭さに、敏郎は渋い表情をしているが、「三人も、友達いたのねえ」と、美鈴が嬉しそうに呟いたので、咳払いして襟を正した。
「はじめまして!蒼天に舞う自由の翅!聖家四女、聖翼!」
「漆黒の絶望を屠る希望!聖家五女、聖希!」
「「聖姉妹ウイング&ホープ!」」
突然の事だった。双子がとっても痛い名乗りをした。横ピースのウィンク付きに、シンメトリーな仁王立ちで。完全に変身ヒロインノリで。
当然ながら、兄も義姉も両親もその他大勢も呆気に取られている。ポーズと名乗りの見事さに反比例して、場の空気は静まりかえっていた。
「……よし!機先を制する事に成功した」
「ここからは、私達のターンだ!」
モノは言い様である。すべって凍結した空気を、強引に自分達で持っていっただけなのだ。正に言ったもん勝ち。
「あれあれ~?みんな黙っちゃったゾ~?」
「う~ん。元気に挨拶してくれないと、お姉さん達悲しいな~」
「今度は、ヒーローショーの司会ノリかっ!」
「ナイス突っ込み!いいねえお兄ちゃん!」
「それでこそ私達のお兄ちゃん!愛してるぅ!」
双子はそれぞれ剣の腕を完全ホールド。背中に梓。左右に双子。女子高生三人に密着されて、ハーレム男子高校生の出来上がりである。周囲からヒソヒソ声が聞こえ、剣のハートはちょっぴりコールドした。
「言い訳しても、無駄だろうな……」
逆に、開け直れそうな気がした剣であった。
敏郎と美鈴は明日からの海外での仕事の準備もある為、一朗達に軽く挨拶をして先に帰った。とゆうか、カオスな状況になる未来にしか想像出来なかったので剣が帰らせた。双子が剣にばかり密着しているのを、怨めしい目で見ているのが鬱陶しく感じられたのも理由の一つであるが。
「えー、改めて、おれの右腕にヘバリ着いてるのが翼」
「翼でっす!双子のプリチーな方です!」
「で、左腕に纏わり着いてるのが希」
「希でーす!双子のキュートな方だよ!」
「いや、全然見分けつかないっしょ」
「それより、これでじうごさい……」
雀は自分の胸を手でペタペタしてみる。柔らかく沈む感触も押し返す弾力も感じられない。ダイレクトに肋骨の硬質感が手に伝わる。……泣きそうになった。
「翼、希、そっちのちっ……小柄なのが舞原雀な」
「剣くん!今、ちっさい言おうとした!?それともちみっこですか!?チビだけは許しませんよ!」
起こっても全然迫力ありません。
「雀先輩カワユス」
「なんてプレミアムな存在」
双子には、雀は好印象なようである。
「ねえねえ翼ちゃん、希ちゃん。俺の事は覚えてる?」
「……イチ先輩。記憶の片隅に」
「忘却寸前でした」
「だよね~。……だよねー!」
基本的に、男はどうでもいいのだった。
「……でだ。コイツは早瀬椿。危険人物だから気軽に近付かないように、接近を許さないように注意してくれ」
「危険人物?」
「爽やかスポーティー女子みたいなのに?」
「うむ!只今旦那殿に紹介して戴いた早瀬椿だ!はじめましてだ我が将来の義妹たちよ!」
「「!?」」
双子は揃って剣の顔を見上げる。お兄ちゃんは高速で首をブンブン振っていた!と、お兄ちゃんの背中に隠れているお義姉ちゃんから「ひっ!」と怯えを含んだ声が漏れ、身震いが伝わって来るのを感じたのであった。
「私は君達の姉である梓を愛している!心の底から!故に君達は私にとって妹同然……いや、妹だ!」
「……不思議な野生のナマモノが現れた」
「色違いのクレ○リアよりレアな存在かも」
「やはり梓の妹!とても愛らしいではないか!よし!親睦を深めようではないか!」
バッと両腕を広げ、双子を抱き締めようとせまる椿。このままでは剣まで抱き締められる事になるが、椿にとって、そんなのは些末に過ぎないらしく、気にする様子はない。
対して、翼と希は、あまりにも想定外の事態に身体を硬直させてしまっていた。あと、椿の恍惚とした表情がかなり気持ち悪かったから。
「ちいっ!」
突風。そんな風が吹き抜けた。
否、それは蹴圧だった。剣の脚が直上に振り上げられていた。
「……マジで見えんかった」
「ま、まさか……そのまま椿ちゃんに踵落とし……しないよね?」
剣は雀に微笑で応えると、ゆっくり脚を戻した。
「大丈夫。もう終わってる」
「え?」
直後、椿の膝が崩れた。
「な、何……?クラクラする……」
「爪先で顎を掠めて、脳を少し揺らしただけだ。すぐに直るし、痛くもなんともないだろ?」
「軽々しく超絶技使うなよ剣ぃ!」
一朗の突っ込みは完全無視して、剣は椿に忠告……ではなく、最終通告した。
「椿、一瞬であろうとも、俺の妹をよくも怯えさせてくれたな。梓の事を大目に見てるからって、調子のってんじゃねぇぞ、解ってんのか?あぁ!?」
「ひいいぃっ!?」
いつも無表情で表情変化の乏しい剣さんが、誰が見ても明白に顔を歪めて、椿に憤怒をぶつけていた。椿は、それを直視してしまい、本気で泣きが入って悲鳴をあげた。
「俺は仏ほど寛容じゃねぇからな、赦してやるのは今回こっきりだ。例えダチであろうと妹の敵なら手心は加えねえ、二度目は再起不能になるまでボコる。三度目があったら……死ねない不幸ってやつを骨身に刻んでやるよ」
未遂で食い止められたのに……椿は今までの人生で味わった事のない恐怖の渦に呑まれていた。あれ?旦那殿って、こんなキャラだったっけ?……なんて考える余裕もなかった。
「……ヤッベぇ。久し振りに見たわ剣の魔剣モード。中学ん時あれやられた奴、不登校になって結局転校したんだよな……」
「だ、大丈夫かな?椿ちゃん……見てるだけの私ですら、怖くて震えてるのに……」
「……あれで後、二段階先があるって言ったら?」
「……むしろ緊張が解けました」
「……ごめんなさい、ひぐっ……調子にグスッ……のってました……うぅ……もう、しません……あああぁぁん!」
「ならばヨシッ!赦す!」
女子高生を、土下座で涙ながらに謝罪させている剣さん。既に周りは野次馬だらけである。面倒臭いのは嫌いだが、行動の邪魔にならない限りは放置する方針なので気にしない、。騒ぎを聞きつけ教師が来ても、当事者を生け贄に置いていけば問題ないのである。
「……けんちゃん、カッコいい❤」
「アズちゃん、そうゆう反応なんだ……」
赦しを得ても、女の子座りのまま啜り泣いている椿の前に、翼と希がちょこんとしゃがんで話し掛けた。
「ごめんね?お兄ちゃん過保護だから」
「名前、椿さんでしたよね?」
「……あい」
これでは、どちらが歳上なのか……?双子は、椿をあやすようにしながら、疑問をぶつけてみた。
「梓ちゃんを愛してるって、本当?」
「うん……その気持ちに、嘘はない」
「でも、不思議なんだけど?こうなる前から、お兄ちゃんに敵意ないよね?邪魔とか思わないの?」
「……私が魅了された梓の笑顔は、剣の傍に居てこそなんだ。剣がいなくなったら、あの笑顔は永遠に失われる。だから……」
(希、この人……)
(うん。梓ちゃんと類友だよ……)
「あの……翼ちゃんと希ちゃん?私からも質問いいかな?」
「「カワユス先輩!」」
「……その呼び方やめてくれるかな?私、VRMMOが実現したら、絶対高身長のアバターで廃ゲーマーになるんだ……」
「「陳謝致します」」
「お、おほん。……えっとね、剣くんて、普段は椿ちゃんがアズちゃんに絡んでも直ぐには止めないのね。でも、二人に触れようとしただけで、あんなに怒って……なのに、アズちゃんが全然気にしてなさそうなの……どうしてかな?」
「んー、雀ちゃん先輩は、椿さんが梓ちゃんを好きな理由知ってますか?」
「知ってるなら、椿さんと梓ちゃんは類友ってこと」
「え、と、知ってるけど……?」
椿は剣が好きな梓が好き。
梓は妹に過保護な剣が好き。
梓にとって、梓よりも妹を優先しない剣なんて剣じゃない。
「と、なるわけです」
「梓ちゃんが椿さんに怯えてたの、近親憎悪かも。ある意味、姉妹の誰より梓ちゃんに似てるのかも」
「なんか……納得」
今回の一件は後に『入学式校門外の変』として尾ヒレ付きで清央高校内と近隣で広まってゆく。剣はシスコン(事実)ハーレム野郎(誤認)女子にも情け容赦皆無の腐れ外道(不本意)等のレッテルが貼られる事となり、剣を恐れて翼と希に直接的なアプローチをする男子生徒は噂の拡散と共に減少してゆく事となった。
一方、剣の方には「罵って下さい!」「奴隷にして下さい!」等、ドMな女子生徒からの人気が高まったりして、無表情ながらに、額に血管が浮き出る日が増えるのであった。
噂はどうあれ、事実上に問題がない為、剣を処罰出来ない教職員たちが。
「またか!また聖家があぁぁぁ~~!」
と、叫んだのは剣達の知る処ではない話。
読んでくださってる方に感謝しかない!
これからも、ちょこっと笑って戴ければと思う
今日この頃。
次回からは、剣と梓の誕生日関連アレコレです。




