16話目 友達と雑談して死闘
フレンズ登場回
「よ、つーるぎ、久しぶり」
「お、イチ、おひさ」
春休み中の話題で盛り上がる教室の中で、今しがた登校したばかりのクラスメイトの一人が剣に声をかけた。
彼の名は田崎一朗。数少ない、中学時代からの剣の友人である。
「イっちゃん、おはよー」
「おはよう、嫁さん。春休みはラブってた?」
「当然!幸せ過ぎて、死ぬかと思った❤」
両手を紅く染まった頬に当て、腰をクネクネさせて恥じらい身悶える梓。クラスの御一人様男子が歯軋りしたりして悔しがる中、一朗は平然と笑っていた。
「いやあ、本当仲いいなあ。ところで春休み中どっか行った?」
剣は、一朗の妬み嫉みを感じさせない、過剰にエロい話題に持っていこうとしない、さっぱりとした性格に好感を持っている。
「ああ、それなりに。昨日は久し振りに動物園に行った」
「へー、デートか?」
「どっちかっつーと、家族サービス。末の妹が、まだ行ったことなくてさ。梓と、双子の五人で行ってきた」
「楽しかったけど、ちょっとしんどい事もあってね……」
「ふーん?ま、暇があったら詳しく聞かせてくれよ。それよりその双子の翼ちゃんと希ちゃん。ここに入学したんだよな?」
「あ、そっか。イチは中一ん時のアイツ等知ってたな」
「中学以来会ってねーけど、今もやっぱ可愛いのか?」
「ああ、より可愛くなった」
躊躇なく、神速の反応でビシッとサムズアップする剣。
「……嫁さん、コイツのシスコンどうにかならね?」
「ならないよ?私も妹達が可愛くて仕方ないし」
「そうだった……シスコン夫婦だったなお前ら」
「姉妹を大切にして何が悪いか」
「大切な物が共通、ベストパートナーだね☆」
「……シスコン馬鹿ップルめ。天然か(笑)」
「うっせえわ。で?イチは休み中何してたんだ?」
「ラーメンの食べ歩きしてた。ジロリアンやってた」
「二郎の食べ歩きって……いや、美味いけどさ。二郎系は食べ歩きには重くないか?」
二郎とは、野菜(主にもやし)山盛り、焼豚ドーン!ニンニクガッツリ!脂ギラギラ!麺太目が基本なカロリーモンスターなラーメンの総称である。
「その分、歩いていたからな。一日平均20㎞ぐらい?お陰で太らねーし、足腰も強くなったぜ!」
「多分、後々内臓にくるけどな」
「あ、そういやアキバで桜ちゃんに会ったぜ。一人で堂々と豚野郎の大盛り完食してたよ」
「……まあ、アキバ好きだからな桜は。そういや、謎の女子高生がラーメン食べまくるアニメにハマってたか……」
「確か、アキバのそのお店の回もあったよ。聖地巡礼したくなっちゃったんだね」
「でも、いくらアニメの影響でも、JC一人でラーメン屋に入るとか度胸あるよな。言っちゃなんだが、おしゃれな店じゃあねーのに。そんな安い訳でもねーし」
元々の精神性がおっさんなので、ラーメン屋は、むしろホームなのである。
「それはね……さっちゃんけっこうお金持ちだから」
「アイツ、小学生の頃のコスプレ衣装をネットオークションで売ってんだよ。自分のブログで宣伝して、未公開写真をオマケに付けたりしてさ。一着最高で十万とか越えたらしい」
「マジで!?」
「うん、マジ。でも、半分は家に入れて、その残りから半分制作費として私にくれるんだよ。はっちゃけてるけど、とてもいい子なんだよ~」
「……は~、末恐ろしい子だな。只者じゃねえ。つか、そんな高額落札すんの絶対変態だよな?……写真付ける時点で、そっちの顧客狙ってるよな?」
「そりゃそうだろ。俺より桜の方がサブカルチャーの知識あるし。見てないトコでなら、どんな用途で使用しても気にならないらしいしさ」
「ちょっと、女の子の感性からはズレてるよね~。私はけんちゃんだったら脱ぎたての下着を嗅がれてもいいけど❤」
「ナチュラルに変態扱いされる発言すんな」
「いや、嫁さんが変態なのは手遅れだろ。剣スゲーわ。可愛くても変態だったら俺は無理だわ。そこに痺れて憧れるわ」
「ちっともリスペクトされてる気がしねえ」
馬鹿話が盛り上がる中、ハッピー&ラブなハートを時折放出して、近寄り難い(たくない)変態性を醸し出している梓に、忍び寄る影がひとつ。
「あーずーさっ!久し振りー!会いたかったぞー!」
「みぎゃー!?やめれー!」
突然背後から抱きつき、その両手は梓の乳房をしっかり捉え、アコーディオンを演奏するかの如く指を滑らかに這わせ……
「ぷぎゃら!?」
抵抗した梓の高速裏拳ラリアットで側頭部を強打され、痴漢……ではなく痴女は床に倒れ伏した。
「あー、もう。だから止めようって言ったのに……」
満足そうな顔をして倒れている残念な人を、トホホ顔で介抱する前髪の長い、内気そうな少女。舞原雀は、梓の数少ない友人である。
「おはよう、アズちゃん。剣くん。一朗くん」
軽く挨拶を返す剣と一朗。
「雀、そこ退いて、ソイツ殺すから」
「あはは……ダヨネー」
前髪の奥で、目を泳がせる雀。「こうなるの、解ってたのに」その呟きが聞こえたのか、むくりと起き上がる痴女。もとい、梓のもう一人の貴重な友人?早瀬椿。
「うむ!素晴らしい感触だったぞ梓!やはり男に愛され幸福に満ちている女の身体は一味違うな!人数ばかりのビッチな雌豚とはモノが違う!」
「黙れ!よくもけんちゃんの前で辱しめたな!」
「わっはっはっ!登山家はそこに山があるから登る!梓がここにいるから私は揉む!習性なのだ、仕方なかろう!」
「だったら、しぶとい害虫を駆除するのは妻の性だー!」
このように、早瀬椿は梓が大好きである。多分に性的な意味を含んで。つまりは、ユリ属性である。
「懲りないなあ椿っちも。いや、ドMに目覚めたか?」
「アレに比べれば、梓がノーマルに見えるから不思議だ」
「ちょっとぉ~……椿ちゃん駄目だよ~。アズちゃんに謝って~」
フシャー!と、猫みたいに威嚇する梓を、それすら可愛くて顔を綻ばせる椿。ジリジリ距離を詰めて梓が飛び掛かると、椿はするっと避けて、待ってましたと今度は横から抱きついた。
「みにゃっ!?は~な~せ~っ!」
「ああ、やっぱり梓は肉付き良いなあ!この程よいプニり具合が堪らない!痩せてる女子は美しいが、この感触には及ばない!肌艶も最高!んちゅ~!」
「ひぎゃー!?」
ほっぺにキスをされて、梓は顔面蒼白、鳥肌ブツブツで、椿の拘束から逃れようと足掻いている。しかし、中学時代に柔道部だった椿が油断せずに組ついては、格闘経験皆無の梓が振り解くのは容易にいかない。
「やれやれ、頃合いだな」
いつの間に席を立ったのか?クラス中が目を疑った。ボソッと呟いたと思ったら、次の瞬間には椿の背後に剣の姿が。
そして、首トン一閃。
「あぐぅ!?」
グラリと崩れた椿から梓を開放した。右腕で梓の腰を抱えると、左手で椿の首根っこを掴んで、顔面から床にバッタンするのを難なく防いだ。
「休み明けだからか、普段より激しかったな。ずっと会えなくて溜まってたんだな……」
「けんちゃ~ん。もっと早く助けて~。バキ子苦手~」
梓ちゃん、本気で涙目。本当に怖かったらしい。
「まあ、そう言うな。俺だって梓と初めて会った頃は、愛情が理解出来ずに困ったもんだ」
暗に「お前も昔はああだった」そう申している剣さん。
一方、クラス内は剣の首トンでざわめいていた。
「マジ漫画だろ。リアルで首トンて」
「本当にアレで気絶すんだ。聖の手刀、マジエクスカリバー」
「それより早瀬さん、元柔道部でしょ?聖くん、何者なの?」
「馬っ鹿しらねーの?二年前の俺達の入学式の日に、アイツ一人で不良な先輩二十人をボコッたの!」
「そういや、学祭の時、生徒会から警備責任者を任されてたような……」
「一部の教師が、廊下で聖に道を譲るらしいぞ」
「俺、校長が聖にペコペコしてるの見たことある」
根も葉もある噂が教室を駆けめぐる。……根も葉もあるから仕方ないけどね。
それはさておき、剣の首トンは単純な手刀ではない。首をぶっ叩くだけで気絶させるさせる繊細な否殺傷技術なんぞ剣は持ち合わせていない。実は、予め手刀に目立たない程度の電撃魔法を纏わせていたのである。つまり、打撃と同時にスタンガン効果を与えていたのだ。過去に剣と敵対した、愚かで憐れな敗北者達の尊い犠牲(殺してないよ!)により完成した平和的な制圧技である。
「よいしょ、と」
ぼへっとしている椿を梓の前の席に座らせ、剣は梓の後ろの席に戻る。新年度初日なので席順は出席番号順なのである。
「後ろは天国、前は地獄~ぅ!忘れてた!こうなること、すっかり忘れてた!」
「嫁さん、本当にバッキー苦手だよな。あんなに好かれてんのに」
「だから困るの!好かれること自体は……悪い気しないもん。程度の問題なのよ。程度の!」
「アズちゃん。多分それ、言葉のブーメラン……」
雀の席は梓の右隣である。そして、的確な指摘である。
「だなー。人が早朝散歩に行ってる間に、布団を暖めるのは止めてほしい」
「むぐぐぅ……」
「……え、えっとね、そうだ!今年は修学旅行だよね!この五人で一緒に行動しようね!」
高度な男女関係について行けず、強引に話題を転換させた雀ちゃん。見た目130㎝の幼児体系の彼女は、見た目そのままの清純派女子高生なのだ。
「俺はモチオッケー。で?何処だっけ?」
「去年と同じなら、京都・奈良じゃないか?」
「ねーねーゆかりん!修学旅行どっこ行くの?」
他の生徒と話中に、突然質問された羽佐和先生。因みに、梓が椿にセクハラされているのを微笑んで「仲良し、ね~」と傍観していた。
「修学旅行、です、か?三泊、四日で、京都と、奈良ですよ~。5月、末の、予定です、よ~」
「ありがとー!やっぱり京都・奈良か~。定番だね!」
「まあ、日本人なら一度は行くべきなんだろうな。日本史の中心だし。基本は神社や仏閣の見学だよな」
元・異世界生命体の剣さんは、日本文化に関心がおありの様子。京の都に行ってみたかったのである。
「うーん?寺とか仏像見て楽しいかあ?映画村とかなら少しは面白そうだけど」
平凡な男子高校生は、こうである。
「い、一朗くん!京都はお寺だけじゃないよ。幕末の舞台なんだよ。維新志士とか、新撰組とか!」
「あれ?ずめちゃんがいつになく……志士萌え属性?」
「い、いえ……その……あの……」
両手を前に突き出して否定しても、前髪の下は真っ赤であった。
「私は舞妓姿の梓が見たい!」
「げっ!もう復活してる!?」
「いーだろぉ~?三人で舞妓体験しようじゃないか!」
「そんな時間があったら、けんちゃんとお寺デートする!」
「剣ぃ、自由行動で大坂行ってみねえ?551の豚まん食ってみてーんだけど」
「食こそ旅行の醍醐味だよな。名物・名産は外せない。関西方面には詳しくないし、最新版のる○ぶでも買うかな」
「わざわざ本買うの?スマホでいいじゃん」
「いや、旅行誌見ながら計画考えるの楽しいんだよ。ウチは大家族だから、旅行の前にはそうやって盛り上がるんだ。旅行を楽しむコツは、集めた情報から外せないスポットを二つ三つ決めておいて、時間に余裕を持たせる事だな。現地で、どーしても気になるナニカを発見する場合もあるからさ」
「意外です。剣くんは、キッチリ計画通りに行動したいタイプだと思ってました」
「本能と興味のままに行動する妹達の所為でそうなった。それに、臨時休業する店や、道路工事や交通事故で渋滞したりと予定なんて崩れる方が当然と思っておかないと、ガッカリ感が半端ないからさ。ディ○ニーリゾートで花火が見れないなんてよくある話だし」
夢と魔法は、自然の強風に勝てないのである。
「でもまあ、集団行動の予定がはっきりしないと、自由行動の計画なんて決めようもない。……椿、そろそろ自重してくれ。梓が警戒緩められなくて話に参加出来てない」
椿の復活から、梓はシャドーボクシングの如く、ジャブで椿を牽制していた。楽しい話題には積極的に関わりたがる性格なのだが、一切余裕がないのであった。
「むむむ、旦那様に叱られては仕方がないな。解った。今日のところは引き下がろう」
素直に両手を挙げ、降参の意思を示した椿。しつこく絡んでいたのに、引く時は驚くほどアッサリしている。
「けんちゃん……もっと早く命令してよ!けんちゃんの言うことなら聞くんだから!」
「椿に困らされてる梓が可愛くてな。許せ」
「なら許す❤」
「「……馬鹿っプル」」
「ああ!やはり剣にむける梓の笑顔は輝いている!シャーイニングッ!!」
恍惚な表情で身悶える椿ちゃんは、クラス全体で完全放置する方針とした。とっても気持ち悪いから。
そうこうするうち、チャイムが鳴った。
「は~、い。みな、さ~ん。体育館に、移動です、よ~。入学式が、始まり、ま~す」
ノリだけで書いてたら、更なる変態が現れた。
……暑さで脳がやられたか?
次回は、痴女と双子が遭遇する。




