12話目 末っ子と遊ぼう会議
また、グダグダしてます。
それでも読んで下さる方に感謝します!
リビングで、実鳥の制服撮影会が盛り上がっていた頃、キッチンでは光を中心にして、剣・梓・小町が朝食の準備を手伝っていた。美鈴は実鳥の入学式を参観する為の自身の身支度と、敏郎の身支度の手伝い(敏郎さんは自分でネクタイを結べません)をしている。
撮影会の様子を見て、小町は少々ムスッとしている。
「来年は、お前の番だぞ小町」
「絶対やらないから!」
とても真面目な小町は、桜が手伝いもせずに撮影に興じているのが腹立たしいのである。そして、それを誰も咎めようともしない事にイライラしているのだった。
「懐かしいねぇ。私とけんちゃんの高校入学の時も、アレやったもんね~」
「あん時は、小町も面白そうに参加してたけどな。最近ピリピリし過ぎじゃないか?」
「別にっ!至って普通ですから!」
明らかに、平常心ではない。
「小町。少し落ち着きなさい。貴女は生徒会長なんだから、些末なことで感情的になっていたら駄目よ。怒ってばかりの人には、誰も連いていきたくないものでしょ?」
「はい……光姉さん」
〝長女の貫禄〟が発動。小町は優しく諭された。小町は光に対しては反抗出来ない。幼少期に叱られた時のトラウマが、今もまだ残っているのである。
それゆえ、恐怖心から二度と叱られないように、光を手本として日々を過ごしてきた小町は、今では誰より光を尊敬している。小町が家族で一番好きなのは光なのである。
「それとね、私は誰にも手伝えなんて言ってないし、料理だってやりたくてやってるんだから。桜が手伝わない事にストレスを感じるなら、貴女もやらなくていいのよ?」
「そんなことない!私は姉さんの手伝いしたいもん!」
聖家では、料理は基本的に光が作っている。それは、光が料理好きで誰に頼まれなくとも作ってしまうものだから、自然と任せるようになってしまったからである。
光が用事で作れない時は、「代わりに誰かがやってね」「各々自己責任で」とゆうスタイルである。
食事を用意してもらえるのは当然な事ではないのである。
「うん。小町が手伝ってくれるのは嬉しいんだけどね。それを桜に強要するのは駄目よ。大人に甘えるのは子供の特権で、とても幸せなことなんだから」
そこで、光は剣をジト目で睨む。
「甘えさせるばかりで、ちっとも甘えない子もいるけど」
「いや、誰に甘えろってんだよ?もう高三なんだから、今更ガキ扱いされても恥ずいだけだっての」
「……そうなのよねぇ……気づいた時には、手遅れだったのよ」
光が知る限り、剣は大人に甘えた事がない。二歳で実母の芽生を亡くし、それから二年後に敏郎が夕樹と再婚して程なく、桜が生まれた。幼い頃からずっと、光から見れば、物心ついたであろう時には、剣は兄である事が当然として生きていたのである。
実際には、生まれる前から人格が成熟していたのだが。
「そんなわけだから、梓、貴女は剣に甘えるばかりじゃなく、ちゃんと甘えさせられる女にならないとね」
「ふえっ!?ど、努力はしてるんだけど、難しいよぉ~。だって、けんちゃん慰めなきゃならないような失敗しないし、私よりずっと包容力あるもん。そんなトコが大好きです❤」
顔を赤らめ、言われた傍から剣の背中に抱きついて甘える梓。
「朝からゴチソウサマねぇ、あら?また口を尖らせちゃったわね、小町」
「……頭では兄さんと梓姉さんは血が繋がってないから問題ないって解ってるけど、それでも心が納得してないんだよね。だって、私にとっては実の兄と姉なんだもん」
「小町は、二人が将来的にどうなればいいと思う?」
「解んないけど……梓姉さんが兄さんから離れて生きていけるとは想像出来ないよ」
「私もそれが不安。ねぇ、剣。貴方は自分にもしもの事があったら……どう考えてるの?」
剣は「ん?」と、首を傾げて、僅かな間黙考すると。
「なにも」
それだけ答えた。
「いや、もっと他にあるでしょう?」
「無いよ?今までだって、梓は自由に生きてんだし、俺が先に死んだとしても、俺の意思で梓の人生を縛る気はない。俺が死んで生きる理由が無くなったなら、自殺するのも自由だろ」
「剣ね、それはちょっと……」
「言っとくけど、俺が先に死んだらの話だぞ?逆に、梓が先に死んだ場合、俺はとっても困るんだ。梓は好意の表現が露骨で過激なところはあるが、我儘や押し付けはしないからな。一緒にいて、こんなに居心地いい女がそうそういるとは思えない」
冷酷じみた答えから一転、真顔で惚気としか思えない意見を述べる剣さん。伊達に、十四年も直向きな好意を受け止めてはいないのである。
「えへへ~。けんちゃんは、一目見たときから梓の王子様だよ~。ずっとず~っと、愛してるよ~」
光と小町には、飛び交うハートが幻視出来るレベルでのイチャラブっぷりである。こんなのを見せられては、苛立ったり、心配したり、するだけ損である。
「あー馬鹿馬鹿しい!恋愛脳にだけはなりたくないね!……光姉さん?」
「え?そ、そうね……あんなに、周りの目を気にしなくなるのは、少し恥ずかしいかもね」
小町は、光が剣と梓を羨ましそうにしていたのを見逃さなかった。この時、僅かに嫌な予感がしたのだが、光は今年で二十二歳。恋人がいたとして、妹が大勢いる家に連れてくることも出来ず、気を使わせないため秘密にしてても不思議ではない。
そう思い、この場で追及するのは止めた小町だったが、嫌な予感は、遠くない未来に的中してしまうのだった……
朝食後、小中学生が登校し、リビングに明日から登校の高校生達(メイドを除く)と、もう少し休みの大学生、毎日休みの幼女が集まっていた。
「さてっ!私と希が明日からめでたく高校生です!」
「そうゆう訳で、本日は入学の前祝いをしてください!」
なにが、そうゆう訳なのか。聖家では既に受験の合格祝いをやっているし、本日は実鳥の中学入学祝いを夕食にする予定で、光が腕を振るって豪華ディナーを作るつもりでいる。それで充分な前祝いにも成る筈なのに、尚更要求するとはこれ如何に。
「遥は今日もバイトかー。頑張るなー」
なので、剣はわざとらしくスルーした。今日もハルにゃんは猫耳装備で営業スマイル!
「だ~か~らぁ、今日で春休み終わりでしょってこと!」
「最後に特別なことして遊ぼって話だよ!」
そんなわけで〝何して遊ぶか会議〟が始まった。
光はもう料理の下拵えに入った為、不参加である。
「どっか連れてってお兄ちゃん!」
「普段行かないトコ行きたいです!」
「いきなり直球だな!……いや、普段行かないトコなら、お前達も昨日行ったんだろ?」
普段どころか、生まれて初めてだったが。
「うん。あれはイイトコでした」
「意外な真実に感動した」
猫とメイドと義姉の素顔に加え、双子は二十も年の離れた友人をゲットしたのであった。
「意外な真実?何かあったっけ?」
梓さんは気づいてなかった。藪蛇したくないので、剣は会議を進行させる。
「二日続けるのもな……それに、けっこうな出費だったし。どっか行くにしても、金かかんないトコじゃないと」
「にーたんたち、きのー、どこいった?」
「えーと……猫さんが沢山いるお店だ」
正確に言えば、猫さんのコスプレをしている遥お姉ちゃんが働いているお店でもある。
「ん~、にゃんこはおうちにいるので、ほかのどうぶつさんがいいです!」
一先ず『29Q』は候補から外れた。ハルにゃんは普段通りに働けそうである。
「動物か、そういや、ここ数年動物園に行ってないな。最後に行ったの……あれ?小学生のころか?」
「……本当だ!デートの定番なのに六年も行ってないよ!どうしてだろ!?」
簡単な話、小学生の入園料は安かった為、何度も利用していて飽きただけなのである。
「どーぶつえん……ばめ、いったことない!」
「そうなの?じゃあ、水族館は?」
「お魚さんが沢山泳いでるトコだよ!見たことある?」
「およいでるおさかな……おまつりでみた!」
「「「「……………………」」」」
四人は絶句した。今まで、自分達は末っ子にどんな教育をしていたのかと!
(これは、不味い!教養が不足している!)
(情操教育しなきゃだよ!)
(リアルな生き物見せないと!)
(ペット飼ってればいいって訳じゃないよ!)
「と、取り敢えず、燕に生きてるナマモノを沢山見せるって事を基本方針って事でオーケー?」
「それがいいね!ねぇ、ばめたんは見たい動物さん、いる?」
「えーとね、ぺんぺんさん!」
「……どっちにもいるね」
「水陸両用だもんね」
数少ない、動物園と水族館の両方にいるのが普通な人気者、その名はペンギン。歩く姿は愛らしく、水中を泳ぐ姿は空を飛ぶが如く。そして、単体ではなく多数で展示されるのが常。
パンダが動物園のスーパースターなら、ペンギンはグループアイドルなのである!
「優遇されてるな、ペンギン」
「他にどっちにもいるのは……カワウソかな?最近人気だよね。ネットで総選挙やってたし」
「かわうそ?みたことない!」
燕は話の流れから、ペンギンに会いにいけると察して、ずっとソワソワして落ち着けなくなっている。お兄ちゃんとお姉ちゃんズは、末っ子の期待を絶対に裏切れない!
「水族館は暗い所もあるから、もう少し大きくなってからがいいかも知れない。実際、小町は泣いたし」
「深海生物とか、クラゲとか、ああゆうのに可愛さを見出だすには、燕の人生は短すぎる」
「……おぅ、具体的な意見ありがとな、じゃあ、動物園行くとして……上野、かな?」
剣は早速、スマホで上野の動物園を調べてみる。万が一にも、休園日だったりして、着いてから燕をガッカリさせたりはしたくないのである!
「……休園日じゃないし、ペンギンもカワウソもいるな。よし、総員直ちに準備せよ!これより我等は、動物園へと遠足に出発する!」
妹の為なら、コスプレもするし、ライブの送り迎えもするし、遠足の引率者にもなる。ノリの良い過保護な兄、それが剣。
「けんちゃん先生!おやつは幾らまでですか?」
「上限はありません!現地の売店やキオスクで各自の判断で購入して下さい!」
「お兄ちゃん!お昼ご飯はどうしますか!」
「園内にレストランがあります!お小遣いを忘れずに!」
「お兄ちゃん!お姉ちゃんが羨ましそうにこっちを見てます!」
「餌を与えてはいけません!」
台所から、風を切って飛来したお玉が剣の頭に直撃した。
「ふう、ちょっと休憩っと」
食材の下拵えを終えて、光はリビングのソファーに腰を下ろした。陽当たりの良い窓際で猫達が日向ぼっこをして、柴犬のこだちが足下に寄り添って来た。
「静か……たまには、こうして一人でのんびりも……いいかな」
オレンジジュースに入れた氷を、ストローで回してカラカラと音を立てて楽しむ。
「動物園、私も行きたかったけど」
剣の、あの場のノリでの悪意の無いジョークに、思わず物理的突っ込みをしてしまったくらいには、光も一緒に遊びに行きたかった。
それでも、夕食の下拵えの片手間に、五人分のサンドイッチを作り、お弁当を持たせてあげたのだから、主婦力半端無い、優しいお姉ちゃんである。
「一人の時間……か、今は、満喫しとこっ。そんなこと、言ってられなくなるかもだし」
そう言って、光は自分のお腹を慈しむように撫でた。
自分が作中の動物園に行ったの、二年前ぐらい。
次回は思いだしながらゆるゆるで書きます。




