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11話目 実鳥の中学初登校

毎度の事ですが、脱線しまくりです。

終わってしまうと、短く感じる春休み。


本日より小町の通う開礼(かいれい)小学校と、桜・実鳥が通う放明(ほうめい)中学校は新学期が始まる。


故に、聖家の本日の主役は、新一年生の実鳥である。


真新しい制服、白と濃紺色をベースにしたシンプルなデザインのセーラー服である。そこに、淡い青のスカーフが映える。


「いいです!実鳥たま実にいいっ!あ、一寸ソファーに座っていただけますかっ!?膝をくっつけてハの字に開いてっ!」


そんな実鳥を、アグレッシブなカメラマンとなって激写しまくる桜。被写体になるのと同じくらい、撮る方も好きらしい。


その桜も同じセーラー服を着ている。ただしスカーフの色は淡い緑色だ。放明中学校では、スカーフの色と運動着の色が学年別で異なり、進級すると使用色がそのままスライドし、三年間同一の色を使用する。


昨年度卒業した翼達は赤いスカーフと運動着だった。現在の三年生はオレンジである。


「なんで、そうなったのかな?三年毎で使い回していれば、翼さん達のお下がりで良かったのに」


「ボクにも真実は知り得ませぬが、有力な逸話……むしろ都市伝説ですが、こんなのが。数十年前は全学年共通の運動着だったのですが、卒業する先輩が後輩に運動着や諸々を強引に売りつける事案があったりなかったりとか。昔は体育会系の年功序列な横暴が横行してましたから」


「暴力的なのは、やだなぁ」


「現在は直接的な暴力に厳しい時代ですので、むしろ運動部の方が気を使っているかもですな。現実的な話をすると、お下がりを使い回されると服屋が儲からないのが原因かと。少子化も進んでいますし」


「世知辛いねぇ」


以上、JCのどうでもいい会話でした。




「おー、ノリノリだね、桜」


「これ、明日の私達の姿じゃない?」


絶賛撮影会中のリビングに、翼と希が姿を現した。高校の入学式は明日なので、二人とも私服である。


「……記念、私も実鳥ちゃん撮っとこ」


「うん。初セーラー服記念。誰の写真が実鳥ちゃんの結婚式で使用されるか楽しみ」


「希さん!?気が早すぎですっ!」


一般人が披露宴で成長の足跡をスライドで映すのは、いったいダレトクなのであろうか……


それは兎も角、カメラマンが三人となり、スマホカメラの様式美でしかないシャッター音が、五月蝿い事になっている。


「ちょ……朝から騒がしいな。どうせ校門前とかでも写真撮るんじゃねーの?」


遥さん、燕ちゃんを抱っこして登場。昨晩の分も纏めて、イモウトニウムの補給中である。見た目はヤンママ。


「遥義姉様、中学はケータイ関係持ち込みNGであります。今!この時こそが!ボクにとって最高のシャッターチャンスなのです!どうか御理解戴きたしっ!」


「……程々にな。気持ちは解らんくもないし。なー燕、実鳥ねーちゃん可愛いよなー?」


「あい!どりねぇ、かーいー!」


マジ天使な燕の笑顔に、皆して顔がほっこり。その時突然、桜に悪魔的閃き!


遥に対し、いきなり正座からの土下座で懇願。


「遥義姉様!どうか、どうか燕たまを実鳥たまに抱っこさせて下され!お願いするであります!」


「いや、そんなに頭下げんでも……実鳥、抱っこ交代な」


「うん。……桜ちゃん、代わったよ?」


がばっと頭を上げた桜。すると、そこには――


「思った通り!幼女とセーラー服JCの組み合わせ!尊し!」


鼻から幸せの赤い雫を垂らしつつ、シャッターを切りまくる桜ちゃん。いったい何が尊いのか解らず、全員ドン引きである。


「桜、なにが尊いのか説明して?」


「流石に、ツボったポイントが解らない」


双子ですら困惑顔である。意見に同意し、遥と実鳥もコクコク頷いている。


何故解らぬかっ!とばかりに桜は片手で顔を隠しつつ、指の隙間で目を見開く厨二定番のポーズを極めた。鼻の穴にティッシュを捩じ込んでるので締まらないが。


「解りませぬか!セーラー服JCと幼女、この組み合わせは世間一般的に激レアなのです!考えてもみて下さい!街中で見れますかこの光景が!中学生の姉が保育園へ妹をお迎えする以外、こんなシチュエーションがありますか?そんなに年の離れた姉妹がそうそういますか?いませんよ!もしいてもJCなんて、恋だ部活だ受験だと、妹なんて二の次三の次!お迎えなんて親に任せて、滅多にやらんでありましょう!つまり、日常生活に於いてあっても不思議ではないのに、実際みるには保育園の前で数日張り込みしても無理じゃね?なレベルなのです!実姉妹に幼女とセーラー服JCがいるからこそ可能なシチュなのです!更に付加価値として幼女とセーラー服JC双方に〝美〟が付いているので殊更尊しであります!」


自分、いいこと言った!言い切った!的に、天を仰ぎ、右手を掲げ、左手を心臓に添える桜。全身で神への感謝の意を表現しているようだが、何処にも感謝される筋合いのある神様はいないことであろう。


「あー……一般的に珍しいのは解ったけどさ、こないだまで翼と希もセーラー服で燕とハグッてたろ?そんときゃ別に騒いでなかったじゃんか?」


くるっと、背中を向けて、全員の視線から逃げる桜。


「……翼姉様と希姉様は中学生として規格外なので。実鳥たまなら純粋に可愛いのですが、姉様方はエロかわなので、どうしても不純な妄想まで沸き立ってしまうのであります!つまり、求める可愛さの質が異なるのであります!」


拳を握りしめ、背中で語る桜。当然エロ可愛い双子姉様が大好きである。しかし、今はソレジャナイ。エロス成分小数点以下の〝性的対象にならない〟女の子の可愛さに萌えたいのだと力説しているのであった。


「ふむ、言いたいことは解るぞ桜よ。確かに我々はエロい体をしている。この胸が男性を滾らせるのは、事実であるから仕方ない」


「対して、実鳥ちゃんが大人しい性格で清楚な外見なのも誰もが認めよう。姉妹九人で、大和撫子に尤も近き存在であると」


「だが!」


「しかし!」


翼と希が見事にシンクロした動きで背中合わせとなり、桜に向かってビシッ!と指差す。


「「ウチで一番乙女なのは、実は遥ちゃんだ!」」


完全シンクロステレオ発声で、衝撃の事実(昨日知った)を叩きつける。


「な……何を申されるか姉様方。外見的に、遥義姉様は誰よりもかけ離れていますでしょう?」


「解ってないね桜。外見に惑わされ、本質を見失うなんて貴女らしくもない」


「金髪もメイクも、本質を隠す為のフェイクに過ぎない。つまり、遥ちゃんはとっても慎み深いんだ!」


そう、遥とゆう女は。


「「誰よりも恥ずかしがりやさんなんだよ!」」


二人並んで胸を張る。ぼよんっと胸が波打つ。


呆然とする桜に、双子は更に追い打ちを仕掛ける。


「何故、そうまで言えるって顔してるね桜?」


「その答えは、私達が、遥ちゃんの素顔を見たからさっ!」


「な、なんだってえぇぇぇ!?」


お約束な驚き方をする桜。但し、翼と希が言葉にしたのはトンデモ推理ではなく、自ら見聞きした現実である。


「お、おい……昨日のことは……」


遥さん、バイトのことまでバラされないか内心ヒヤヒヤです。


「わかってる!私達は、見ただけだから!」


「それ以外の情報は完全秘匿!約束は守る女ですので!」


ほっと息を吐く遥。そのことが、双子が遥の素顔を見たことが事実であると裏付けていた。


程なく、ガックリ項垂れる桜ちゃん。


「遥義姉様の……素顔ッ!!家族旅行で温泉行った時にすら見れない程ガード固かったのにっ!姉様方、なにゆえぇっ!?」


見れていないことが、心底悔しい感じな桜。


(いや、お前も見てんだけどな。本当に気づいてないんか……)


「流石は実鳥ちゃんの姉って感じだったよね」


「にゃんこっぽい可愛さでした」


約束は守る。しかし、ギリギリは攻める女。翼と希。


(そりゃね!耳と尻尾が着いてたからね!)


明らかに遥を弄っている翼と希。そして、桜から顔を反らして困った表情をしている遥を見て、実鳥は胸の奥がじんわり暖かくなるのを感じていた。


()()()は、ちゃんと前に進めているのだと、互いに歩み寄れているのだと。




中学校までの通学路を、桜と実鳥が両親とともに歩いて行く。ふと、桜がなにやら思い付いたのか、一瞬悪戯ッ子な顔となった。そして、表情を平然に戻すと、後方の父親に振り返って。


「そういえば、おじさまは、何処のどちら様でしたっけ?」


などとのたまった。真顔で。


「桜ちゃん!?何言ってるの?桜ちゃんのお父さんですよ!パパだよ!ユア ファーザー!!」


敏郎さん、実の娘に他人扱いされて大慌てである。


実鳥は、桜が振り向く前の表情を見ていたので「ああ、お義父さんを弄りたくなっちゃったんだね」と判断したので、必要に応じて相槌打とうかな?と思っているので落ち着いている。


美鈴は、咄嗟の判断が苦手な人なのでオロオロしている。


「お父さん?……ああ、父様でしたか!こいつはうっかりしておりました。いえ、一話目辺りで名前と生存だけ明らかにされてましたが、その後全然出番が無いので、某天才美少女魔法使いの、田舎でウェイトレスをしている姉君と同様、物語に直接関わらない存在かと思っておりました」


「酷いよ桜ちゃん!あと、そうゆうお年頃なの判ってるけども、うっかりって言葉で他人扱いしないで!小説のト書きだけの存在にしないでよう……(泣)」


「そうは言われましても、神様(作者)がまだ父様の外見について情報開示していませんので、正直、視覚からの知覚が不可能なのです。それは大いなる神々(読者様)の想像力に頼る以外なく」


あー、すっかり忘れてました(嘘)。敏郎さんは現在五十歳で、細身で貧弱体質。白髪混じりのオールバックで長髪をうなじ辺りで縛っています。黒渕の丸眼鏡を愛用していて、実年齢より十程度若くも見られる優男であります。


「あ、突然父様を認識出来るようになりました。……もう少し、メタ発言ごっこで遊びたかったのに……むしろ神様に弄ばれた気分であります」


ちらっと実鳥に視線を送る桜。しかし、実鳥は……


「ごめんね桜ちゃん。実鳥には高度な遊びすぎて、どう突っ込めばいいか解らないよ……」


「いえ……実鳥たまは悪くないのです。悪いのは父様に意地悪したボクと、的確な突っ込みを思い付かない神様ですので」


「やっぱり意地悪だったんだね!お父さん、桜ちゃんに嫌われるようなこと、なんかしちゃった!?」


「した。正確にはこれからするのであります」


「これから?……あ、もしかして」


「なに?実鳥ちゃんは解るの?」


実鳥に縋るように敏郎は問い掛けた。一家の大黒柱たる威厳は、この父親には皆無である。


「えっと……お義父さん達、明日の翼さんと希さんの入学式が終わったら、お仕事で外国じゃないですか。多分、それで」


パッと明るい表情となる敏郎お父さん。


「なぁんだ~。寂しくて、拗ねちゃってるんだぁ桜ちゃん?」


「いえ、燕ちゃんも一緒に行っちゃうのが寂しいんだと思います(キッパリ)一番可愛がってるの、桜ちゃんだから」


「実鳥たまの言う通りであります(断言)。父様一人で行けばいいのに、美鈴義母様に甘えたいが為、燕たままで連れて行ってしまうのが腹立たしいのです。我が家の天使と一月近く離ればなれになると思うと、諸悪の根源には、むしろ一人で逝ってほしいのであります」


「辛辣だよ桜ちゃん!解ってるでしょ?お父さん、寂しいのに耐えられない人なんだよぉ!」


「そんなことは当然解っております。一家の収入源は大切にしなければと、言い換えれば、それだけでありますが。家族の為に、たんまり稼いできやがれであります。それだけが父様の存在価値なのでありますから。駄目父なこと、もっと自覚してほしいものなのです」


「ううぅ……桜ちゃんに、こんなに嫌われてたなんて……」


「別に嫌ってはおりませぬ。ただ、事実を述べてるだけであります。本当に嫌っていたら、こうして一緒に歩いたりなんてしていないのであります。とゆうか、好かれる要素があるとでも思っていたのですか?」


愛娘の口撃に、敏郎お父さんの精神的残りライフは一割を切っている!足はフラフラで、奥さんに支えられて、どうにか歩けている状態である。


学校も近くなり、通学路には登校中の新入生とその保護者、在校生も増えてきていた。そんな、入学式という我が子の晴れの日であろうに、廃人同然な状態で歩く敏郎は明らかに怪訝な目で見られていた。


「桜ちゃん、やり過ぎだったんじゃない?」


「……父様の打たれ弱さがボクの計算以上になってました。具合悪そうにしていた方が、余所様に構われなくて好都合かと思っていたのでありますが……まあ、別にいいのです、父様だし」


敏郎は、それなりに顔が売れているデザイナーであるため、不必要に人を集めてしまう事がある。それに加え、その子供達が放明中の卒業生であり在校生であることも周知の事実となっている。そこに有名人がいればファンでなくとも一目見たくなるのが人の心理。


そんなわけで、他人が近寄りがたい雰囲気にしておこうと落ち込ませたのだが(燕を連れていかれる八つ当たりが理由として八割強)、敏郎の打たれ弱さは並みのスライム以下だったらしい。




「さっちん、おっはよー」


「さくっち、おひさー」


多くの在校生が、桜に気付くと気軽に声をかけてくる。


「おはろーさまでありまーす」


桜も、そんな彼・彼女らに馴れた調子で挨拶を返して行く。


「桜ちゃん、人気者だね!」


「ん~、ボクがというより、翼姉様と希姉様が大変人気者だったのですよ。それはもう、アイドルでありました。ボクの人気など、おこぼれみたいなものであります」


「あの二人なら、納得だね。……私、一応義妹だし、変に期待されたりしないか不安だなあ……」


「新入生は姉様方を知らないでしょうから、あまり気になさらず。上級生に何かされたらボクに報告するのですよ?物理に精神、あらゆる手段で排除してやりますから」


「それは、別の意味で不安だね」


実鳥は、桜が口にしたことを曲げない、オレンジ色の忍者と同じ信念を持っている事を知っている。だからどうか、私が苛められることで、桜ちゃんが犯罪者になりませんように……!


そう祈らずにはいられなかったのである。


そして、実鳥はこれからの中学生活で、いままで家で義理の兄姉達から聞かされていた中学時代のやらかし話が、氷山の一角でしかなかった事を知るのだが、それはまた別の機会の話。




校門の前に立ち、実鳥は目を閉じ、一度深呼吸をした。


目を開き、そこに見える景色は、目を閉じる前と同じ中学の校舎と、自分と同じ新入生達の姿。


(あぁ、夢じゃ、ないんだ)


実鳥は、額の左側を軽く撫で、見ているものが現実であると確かめ、嬉しそうに前を向いた。


聖実鳥 十二歳 今日から中学一年生です!





次回は、一方その頃な話。

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