108話目 聖家の七夕
マジで残業連チャン……
捗らない……
日中の暑さとうって変わり、素肌に心地好い涼感を与える風が吹き抜ける七夕の夜。聖家の屋上では七夕バーベキューパーティーが行われていた。
炭火に炙られ、網焼きされている肉から滴り落ちる脂と肉汁、醤油ベースの自家製甘辛タレが混ざりあった煙からは、食欲をそそる香ばしい匂いが撒き散らされている。
本日、炭火コンロの番をしているのは剣である。こればかりは男の仕事であると、バーベキュー奉行をしているのであった。
黙々と、焼く。肉を、魚介を、野菜を。そして、食べ頃に焼けたら、誰も取りに来ていなくとも即座に取り皿へと移す!食材を無駄にすることを許さず、ストイックな職人のように!
「美味。お兄ちゃんに任せれば間違いない」
「絶妙な焼き加減。外はこんがり、噛んだらジューシー。正に、マジカルコックさん」
剣が焼いた肉を、遠慮せずに頬張りながら称賛する翼と希。そう、このバーベキューでも、剣は地味に魔法を使用しているのである。炭火で蒸発した脂が食材に臭みを付け過ぎないように、風魔法で煙を適度に逃がしているのである。その為、余計な臭みが付いていなくて、若干であるがカロリーオフで後味もスッキリしているのだが……素人舌には微妙な違いでしかない、ほぼ無駄な魔法調理なのであった。
とは言え、普通に美味しく焼けている事には変わりなく、黙々とバーベキューマイスターをしている剣を余所に、聖家の面々は和気藹々とバーベキューに舌鼓を打っているのであった。
そして七夕パーティーなのであるから、当然用意されている物がある。そう、笹飾りがなければ七夕とは言えないであろう!
屋上の手摺に括り付けられる形で、その笹飾りは設置されていた。高さが3メートルはある、個人家庭で用意するには立派が過ぎるといえるレベルの竹である。敏郎お父さんが娘達の為に、サプライズしようと頑張りすぎた結果、こうなったのでありました……当然年長のお姉ちゃんズは呆れ顔だったのであるが、純粋に感激してくれた燕の姿にパパさんはホッコリ笑顔で満足したのでありました……少し前までは。
「つばめちゃ~ん……そんなこと言わずにぃ……」
「やーです!ばめはがいこくいきません!」
もう数日後には、敏郎は仕事の都合で海外に出発する予定となっていて、美鈴も付き添う事から当然、燕も同行すると思っていたのだが……燕が海外行きを拒絶したのである。
「ねぇ燕。どうしても……行きたくないの?」
やんわりと美鈴ママが反意を促すが、燕の頑固さは筋金入りなのである!
「やなの!にぃたんと、ねぇたんたちとあそぶの!パパ、おしごとであそんでくんないもん!」
敏郎が燕を連れて行きたい理由、それは仕事の合間に娘に癒されたいからとゆう、我儘、自己満足の為だったりするのである。勿論、親として子供の世話をするのは当然の責任ではあるのだが、既に成人しているお姉ちゃんすらいる訳で、連れていかなくても保護者としての責任を問われるような問題ではないといえた。
更に、燕は物心が付いてきた事により、海外生活がとても退屈に思えてきたのであった。聖家は、とても賑やかな家庭である。しかし、海外では治安の関係上あまり外出出来ず、構ってくれる相手が美鈴だけでは、物足りなさが過ぎるのであった。
その上、前回の仕事中に敏郎が怪我をして療養期間を設けた結果、今回の海外渡航期間が八月一杯にまでなると聞かされた事により、ばめたんは敏郎に同行することを全力で拒否る事に決めたのである!
どうしても折れない燕を前に、敏郎の心が、先に折れた。
そして現在、敏郎は屋上の隅っこで、美鈴に慰められながらヤケ食い&ヤケ酒しているのであった……
「う~ん……お父さんに同情しなくもないけど……燕に非があるとも思えないから困ったものね……」
「言っちゃ悪いっすけど、親父さんより剣の方が、燕にとっちゃよっぽど頼りにされてますしね……いや、皆か」
「まあ、お父さんの自業自得だよね」
誰も敏郎をフォロー出来なかった……
サラサラ音を立てて揺れる笹の葉と、折り紙で作られた七夕飾り。用意した食材を全て焼き終えて、剣は自分で焼いた肉を食みながら、ソレを眺めていた。
笹越しに見える夜空には、僅かばかりの星と月が輝いている。折角の七夕であるのに、都会の空は、満点の星空を見せてくれず、少し残念な思いをしていた。……魔法で視力を強化すれば天の川程度は問題なく見れるのだが……一人だけ無理に見ても意味がないと、無粋な事はしない剣であった。
「いやあ、織姫も彦星もよく見えなくって残念だねぇ」
「梓……そうだな。似たような事を考えてたよ。お前……心の声が聞こえたりしないだろうな?」
「ふふふ……けんちゃん限定で実は……とか言ってみたり。こんな日に、星の少ない夜空を見上げてたら、そう思う人は多いんじゃない?それにしても、七夕の伝説って……凄く理不尽だよね!」
「真面目な勤労青年に御褒美として嫁を宛がって、そしたら働かなくなったから引き離して、一年に一度しか会わせないって話だよな?……完全に、夫を怠け者にさせて一緒に遊び呆ける嫁を選んだ神様のミスだよなー」
「それでペナルティーを受ける謂れは無いよねー。そんなんじゃ、元々怠け者な人達はどんな目に遭わされてるのか……怖い世界観だよね……」
毎日一緒にいる恋人同士なだけに、七夕の伝説にロマンを感じる要素を見つけられない二人であった……
「……ま、そんな事より、何処から由来があったか知らないけど、短冊に願い事を書いて笹に吊るすと叶うって話の方が、夢があるよな。そういや、まだ一つも書いてなかったな……」
笹には既に、願い事が記された色とりどりの短冊が飾られている。剣は参考までに、皆がどんな願い事をしたか見てみる事にした。
〝ぺんぺんさんとおよぎたい ばめ〟
歪んだ平仮名だけで書かれた燕の願い事を発見し、子供らしい無邪気で夢のある願い事にホンワカしつつも、実現困難な願望に、剣はちょっぴり苦笑いを浮かべたのだった。
「全く……燕100パーセントだなぁ。……ペンギンと泳げる場所なんて……あったっけ?」
「少なくとも、日本にそんな施設は無いだろうね~。衛生的にどうとかでさ。……水族館や動物園のペンギンプールに飛び込んじゃいそうで怖いね……」
末っ子の、恐ろしいまでの意思の強さと行動力は、絶対に過小評価してはならないのであった……
〝光さんが、無事に出産できますように 実鳥〟
「……いい子かよ」
「さっき、お姉ちゃんがどりりんをギュッしてたの、これだったんだぁ」
〝イベチケ当たれー! 桜〟
「欲望丸出しだな」
「まあ、さっちゃんだしね」
〝娘たちに優しくしてほしい 敏郎〟
「……何て言ったらいいのだろうか?」
「余所のおうちよりは、パパりん恵まれてると思うけど」
〝平凡な人生 遥〟
「……切実だな!」
「はるるんに限らず、ばめたん以外、ここまで波乱に満ちた人生だから解るけどね!」
〝ディ○ニーシー行きたい 小町〟
「珍しく年相応な」
「小学生にとっては、金銭的に気安く行けないもの。星にも願っちゃうよ」
〝世界平和 翼〟
〝戦争根絶 希〟
「凄く白々しい」
「この願いによって、ソレス○ル・ビー○ングが設立されたのでした……」
その組織の真の目的である異種との対話は、既に聖家内にて達成されていたりするっぽいが。
〝新婚生活の障害となる邪魔者を排除して下さい 光〟
「……神罰希望?」
「お姉ちゃん……幸せ手に入れた反動で、ダークサイドも強くなっちゃってない?」
案外独占欲が強かった光さんは、愛する明良くんに害虫が近付く事が不安でならないのであった……
「明良さん、姉さんしか女性経験ないみたいだからなぁ……いきなり義妹が八人も出来て、精神不安定かもな」
「ちょこちょこ会ってるけど、まだ落ち着かない感じだしね……荒療治すべきかもね」
〝子供達が、ずっと仲良しでありますように 美鈴〟
「心の底から安心する願い事」
「いや、実際鈴ママは善きお母さんだからね、うん」
〝無病息災 梓〟
「これまたシンプルだな?」
「欲望は自分で叶える主義ですので。病気や災害みたいな、自分でどうにもならない事こそ、神様にお願いして叶えてもらわないとね」
「確かに、自分で実現出来る願いなんて、誰かに頼んで叶えてもらうなんて、勿体無いもんな。ま、ささやかな願いなら、短冊を見た誰かさんが、然り気無く叶えたりも出来るって訳だ」
短冊を飾るのは、そこに記された夢や願いを知ることで、それを叶える手助けを、誰もが出来るようにする為なのかもしれない。
……聖家の場合、頑張りすぎちゃうお父さんがいるので、お父さんの力(財力)で叶えられちゃう願いは叶えられてしまうので、この後、光と剣は敏郎に五寸釘を刺すことになっている。刺さなければ、今度こそ聖家にペンギン用プールが増設されかねない……
「さて……それじゃあ諸々踏まえて、自分の力だけでは、絶対に叶わない願いを、星に捧げてみるとしますかね……と」
剣は筆ペンを手に取ると、サラサラッと短冊に願いを書き記し、即刻笹に吊るしたのだった。
「どれ?けんちゃんは何を願ったのかなぁ?」
「期待するな。取るに足らん、つまらぬ願い……とも言えない、十八年の人生で、ずっと疑問?いや釈然としていなかった想いに、終止符を打つべくと……そんな願いだ」
「……けんちゃんがそうやって勿体ぶる時って、何かを誤魔化すか、本当に意味が無いかのどっちかだよねぇ~……わぉ。これは……意味は無いけど面白い!」
〝七夕の全国的食材・料理が決定しますように 剣〟
「これは確かに!七夕って、これって食べ物、決まってないよね!七夕って元々中国から来た風習だと思うけど……伝来して何年経ってるのかな?今更、定番料理とか……まず、決まりそうにないし!」
「だろ?ずっと疑問だったんだよな。節分とか雛祭り、端午の節句とか、昔から日本にある風習って、けっこう定番の食べ物があるのに、七夕って何も無いなーって。ま、どうでもいいことなんだけど」
どうでもいいと言うわりに、顎に手を当てたりして、剣はけっこう考える素振りを見せていた。なので、梓はこの話題を存分に楽しむ事にした!
「定番があると、気分もアガるしねぇ。時期的に……素麺とか、冷たい料理がいいよね!」
「ツユを夜空に、麺を天の川に見立てて……悪くはないが、インパクトがいまいち……何か七夕に因んだ具材を加えれば……」
剣と梓がそこそこ真剣に無駄な話題で盛り上がっていると、他の姉妹達も面白半分で口を挟み始め、大いに盛り上がるのであった。
一方その頃、剣の自室。
机の上に、一振りの小刀が取り残されていた……
血の滴るお肉を焼くのに、邪魔になるからと置き去りにされてしまった、ヒナである。
『……七夕ですかぁ。いいなぁ、楽しそうで……本当に聖家の皆様は仲良しで……こうゆうのを〝尊い〟と表現するのが現代の常識なんでしたっけ?』
翼・希・桜による現代知識教育は、やはり偏った方向へと順調に進んでいるようだ……
『しかしながら、短冊に願いを記せない我が身には、願掛けすらも叶いませんが……我ながら、卑屈ですねぇ。……暇だなぁ、早く主様戻ってこ~ないかなぁ~?』
どんどん現代っ子化してゆくヒナ。暇は最大の敵なのである
『主様のように、自由に動かせる身体欲しいな~。私も、刀身が砕けたら、人に転生出来たらなぁ~』
(その願い……叶えちゃおっかな?)
『あれ?何か聞こえたような……?有り得ませんか、気の所為ですよね!』
ヒナは自分の思い込みだと判断したのであったが……
だが、そこには宙に浮かびながら、ピンクの髪を靡かせる、とても気紛れな女神様の姿が……
(本当、剣ちゃんの周りには面白い子が集まってくるなぁ。ヒナちゃん、この先剣ちゃん達に君の力が必要になるときがきっとくる。……なーんて、神様っぽいこと呟いたり!)
『何故でしょう……?どういう訳か、微妙にイラッとする感覚が……』
(さてと、折角七夕に地球に来たのですから、綺麗な星空でも見に行きますか……南国リゾート辺りで!)
この瞬間、屋上にいる剣も原因不明のイラつきを感じていたのであった……
現実の7月以内に更新間に合わず……
ま、月遅れの地域もあるし(誤魔化し)
盆には纏まった休み(予定)があるので、そのあたりでペース上げたいです。
今話のラストであの方を出したのは……そろそろ、やるやる詐欺に終止符を打つからです。
と、言いつつ、次回から聖剣くんと九人姉妹は……海へ遊びに行きます!




