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107話目 はるか防衛戦線!⑥

はるか防衛戦線最終話です。

「さて……それでは生徒指導を始めたいと思います。春乃宮都君。貴女の行動に、とても迷惑している人がいます!その辺り、徹底的に追究しようと思います!」


赤縁フレームの眼鏡をクイクイッ!と軽く上下させ、都を威嚇するのは、スパルタ女教師に扮する梓である。その眼鏡のレンズはつり目に見える逆三角形型になっていて、まるで語尾に〝ザマス〟を付けて喋りそうなマダムっぽくも見える。そんなマダム、日本な実在するかどうか定かではないが……


場所を館内のファストフードショップに移し、その二人掛けテーブルにて対面で座る梓と都。個人面談である……とは言え、隣のテーブルには桜と実鳥と小町が面談の様子を観覧しているのであるが。


だがしかし!この状況に追い込まれてもなお、都は遥に対する自身の好意と行為が原因であるとは、ちっとも気付いていないのである!


「私……誰かに迷惑なんて、掛けてません!」


「ハイ!見事に自覚がありませんね!それこそ本当に迷惑な証しなんです!なので……ここで残酷な現実をお知らせしましょう……貴女の行為によって被害を被っているのは……ウチのはるるんなのです!もう……毎日帰宅する度にやつれ指数が割り増しされてて……その原因が、都ちゃん貴女です!」


「……意味が解りません」


本気でキョトンとしている都。その都を、信じられないモノを見たかのように、げんなりした表情でジト~と見詰める小町。


「うぇ……信じらんない……マジないわ~……」


「無自覚だから出来たんだろうけど、女の子が公然とあんな顔晒しちゃ……駄目だよね~」


小町に同意して頷く実鳥。遥のハートフルな笑顔に心の底から魅了されていた都の表情は、二人から見て、邪に、淫靡に、ぐちょゆるに歪みきっていたのである!


「完全に猥褻物だったし」


「そりゃ、お姉ちゃんも引く訳だよ……」


「出ました!今現在、はるるんの実妹であるどりりんからの都ちゃんへの評価は……星ゼロ!ドン底です!はるるんはどりりんを自分の命より大切にしてるからねぇ……都ちゃん、終わったね……」


面談開始早々の死刑宣告である。当然、都は慌てて異議を唱えた。


「ま、待ってください!私の何がいけないんですか!?」


「ふむ、原因を知らぬままでは再犯に繋がっちゃうかもしれないしね……では、これは私がはるるんから聞き出した情報なのですが……」


梓は懐から手帳を取りだし、遥から聞き取り調査した情報を記したページを開いた。開かれたページは、ビッシリと文字で埋められている……


「では、ソフトな奴から……はるるんが賄いを食べた後の食器を片付けてくれるそうですが……その食器を舐め回している……事実ですか?」


「一発目からベリーハードであります!」


思わず、桜がボケキャラであることを忘れて突っ込んだ。小町と実鳥は蔑むような目で都を一瞥した後、直ぐに目を反らした。


「な……舐め回してません!……ちょこっと……フォークを咥えたりはしましたけど……」


都の返答に、質疑した梓が目を丸くしていた……


「舐め回している~の下りから、完全にカマ掛けだったんだけど……先生呆れ半分、困惑半分です。都ちゃん……貴女、正直すぎない?正直は悪いことではないけれど、何事も時と場合だからね!……まぁ、好きな人が使った食器をしゃぶりたくなる気持ちは解らなくもないけどね、私にもそんな時期があったからなぁ……」


感慨深く、都に対して若干の理解と同情を示して頷く梓。


「……どうしましょう実鳥義姉さん。リアル姉が変態と同じ穴の狢でした……」


「考えてみれば、愛情の強さに絞って見ると、この二人って似てる?……相手が受け入れているかどうかって、重要な問題なんだね……梓さんが好きなのが剣さんじゃなかったら、多分、変態さんの括りに入ってるよね……」


「その度量、海よりも深し!流石は兄様なのであります!」


「……みんな、言いたい放題だなぁ……確かにけんちゃんへの私の愛に限界は無いし、積極的なアプローチも致しますが……私はけんちゃんが嫌がるような事まではしてないよ!ちゃんと、機嫌を損ねないように考えてるからね!」


そう、梓の愛情表現は世間一般に比べて過剰ではあるが、それで剣に怒られた事は、ほとんどないのである。それもまた、剣の人間離れした器の大きさ故であると言えるのであるが……


「それで……都ちゃんは、ちゃんとはるるんの気持ちを考えて愛情表現していたかな?ま……考えていたとしても、それが見当外れだったから、こうして私達が出庭っている訳なんですが……そもそもの話……都ちゃんは前提条件が解っていないんだよね」


「な、なんですか前提条件って?私が女なのが問題ですか?性別の垣根なんて、愛があれば乗り越えられます!」


「いや、勿論はるるんは同性愛者じゃないんだけどね……そこは大きな問題じゃないんだよ。何と言いますか……はるるんはね、恋人を作りたくないんだよ。恋愛とかする余裕がないんだよね、あの娘は」


頭を掻きながら、梓は苦笑いしながら答えて続けた。


「はるるんはさぁ……育った環境がアレだった所為で、対人関係に臆病なヘタレなんだよね。その上言葉足らずで口下手だし、不幸自慢するのは弱みを晒すのと同然だと考えてるから、自分の身の上を他人に話したりしないからねぇ……正直な話、恋愛以前に、それなりの信頼関係を築くことすら難しいよ?そこに、愛があったとしてもね」


梓の言葉は、都の心に小さく、それでも確かに響いた。都は今迄の遥に対する行動の数々を屁理屈的に揚げ足取り(都の主観)され、頭ごなしに謂れのない(都の主観パート2)非難をされるとばかり思っていたのだが、そんな側面も確かに感じる一方で、梓の言葉からは、助言めいた物すら感じたのである。


「……大丈夫です!私の愛は、如何なる困難にも負けはしません!」


梓に期待されていると勘違いし、都は見当違いな決意を声高に叫んだのだった……


「ナニコノヒト?マジキモインデスケド……」


「大変!小町ちゃんの目が完全に死んじゃってる!」


「途方もない勘違い系ヒロインであります……だが、それがよしっ!可愛ければ変態であるほど萌えるといえるっ!」


「桜ちゃんは普段に増して絶好調だよ!誰か助けてぇ~」


壊れる小町に、暴走寸前の桜に挟まれ、てんやわんやでパニック寸前の実鳥……


「うん……見事にこちらの気持ちが通じてないね!……はるるんは重い愛に耐えられる程、強くはないって説明したつもりだったんだけどなぁ……このままだと、惨劇になっちゃいそうだし、仕方ないか……ねぇ都ちゃん……はるるんの過去に何があったか……聞きたい?」


「!……はい!」


即座に応える都。梓が実鳥に目配せすると、実鳥は少し困ったような思案顔で黙考すると、梓に頷き返した。


「本当は、話したくないんだけどなぁ……後ではるるんに目一杯土下座して、スイーツビュッフェ奢って、服を作ってあげて謝らないとだね……」


気が進まない様子ながらも、梓は剣による直接暴力的であったり、双子による社会的抹殺系な惨劇を防ぐ為に、出来る限りの手を打つ事にしたのであった。


斯くして、梓は先月の連休中に遥から聞き出した過去の出来事を、自身の主観も交えて語ったのであった。それは、桜と小町にとっても初耳な内容も多く、実鳥にとっても、今迄知り得なかった遥の心情を知る機会となったのであった。


「……とまあ、実の父親による暴力とか、家庭環境の劣悪化で学校でも友達だと思っていた子達から手のひら返しされて孤立しちゃったりとか……そりゃ、他人を信じられなくなるってもんですよ」


語られた事実に、誰もが表情を固くして、胸の内で怒りを燻らせ、或いは悲しみに揺れていた。


「……実鳥義姉さんの頭の傷痕……なんとなくは、想像していたけど……そんなことって……!」


「許すまじ……実の親とか関係無いのであります……もし、ボクの目の前に現れたら、即!滅殺なのであります!」


「その通りです!遥お姉さまと妹さまを酷い目に遭わせておいて逃げっぱなんて許せません!お姉さまの御心が安らかであるように、島流しにでもして一生接触禁止にするべきです!」


「……そだねー。はるるんの為に、都ちゃんも直接間接問わず、接触しないでほしいなー……そもそも、そーゆー意図でお話ししたんですからね!」


どうしても、都合よく曲解されてしまい、梓はどうしたものかと腕組して唸るのであった……


そこに、決意を秘めた瞳を見開き、立ち上がったのは……実鳥だった。


「梓さん、ありがとう。お陰で、あの頃のこと、お姉ちゃんがどう思っていたのか……少し、解った気がしました。だから……ここからは私が……お姉ちゃんの分も頑張る番です!」


「どりりん……コレ、強敵……なんでもない、がんばれ!」


実鳥の迷いも揺らぎもない瞳を信じ、梓は実鳥に都と対面の席を譲った。そして、実鳥は臆す事なく正面から都と視線を会わせると……ゆっくりと頭を下げたのであった。


「春乃宮さん、お願いです。友人としてなら構いませんが……それ以上を姉に望まないで下さい。姉は、どうしたらいいのか本気で困っています。どうか……関わらないであげて下さい」


一瞬、誰もが、実鳥が何をしたのか理解が追いつかなかった。


ここまで散々、罠を仕掛けたり、尾行したり、尋問したりした挙げ句……真っ向から誠心誠意、礼を尽くしての嘆願であった。


ダークなビジュアル系厨二少女な見た目で。


小細工なしの、直球勝負に出たのであった。


「……私は、お姉ちゃんに守られなければ、多分、今生きてはいなかったと思います。そして、聖家の……家族の皆と出会っていなかったら、こんな風に、自分の意見を言えるような……そんな強さを持つことすら出来ませんでした。今の私は、お姉ちゃんを……守れる!だから、春乃宮さんが行動を改めてくれないならば、私が貴女からお姉ちゃんを守ります!どんな手段を使っても!」


何者にも臆さない、勇気を宿した瞳に射貫かれて、都は漸く理解が追い付いた。どうしてなのかは解らないけど、遥の姉妹達が、遥にとって自分が邪魔であると判断しているのだと……




『……どんな手段を使っても!』


「等と、妹が見事な啖呵をきってますけど、お姉さん?」


スマホのスピーカーから流れてくるのは、都と姉妹達のやり取りである。梓が実鳥に席を譲った直後から、ずっと剣のスマホに通話を繋げていたのであった。そして丁度、実鳥が都に決意をぶつけたタイミングである。


「実鳥……本当に、強くなったなぁ……なのに、私は……」


話が通じないと、自分が早々に諦めた手段(会話)を、実鳥が試みていた。生理的不快感や、弱味を握られたような心地悪さから逃れたいと思うのみで、マトモに都と向き合おうとはしていなかったと、遥は今更ながらに気付いたのであった。


「剣……今日は色々ありがとな。アタシ……いくわ」


「そっか……あんなのをマトモに相手にする必要もないと思うが……ま、やってみて駄目なら、また頼ってくれていいからな」


「だから、またそーゆう……この無意識イケメンが!」


「何故怒られてるのか、解せん」




後日談。


遥は徐々に普段の調子を取り戻しつつあった。その様子から、変態後輩との関係に少なからずの改善が見られたのだと思う。どうやら、俺が直接手を下す必要も、葛乃葉に物騒な依頼をする必要なくなったようで、めでたしめでたしだ。


……ひとつの懸念を除いて。


桜に、新たな友人が出来ていたとゆう事実だけが……




連日の残業で更新が遅れました……切腹。

これにて遥と都の話は一応決着……したかな多分。その内桜も巻き込んで何かやらかしそう……

さて、次回から7月編。

先ずはお遊び的なエピソードを入れたいです。

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