10話目 ハルにゃんの長い一日 後編
後編です。猫メイドの話は一区切りします。
「いやはや、御迷惑おかけしましたにゃん。不埒者は店外追放しましたので、皆様どうぞおくつろぎくださいにゃーん!」
両手を振って、天真爛漫に安全アピールするさにゃえメイド長。そこへ、翼と希が駆け寄り。
「メイド長、お見事です!ちっちゃいのに凄いです!」
「私達のお姉ちゃん以外で、リアルに強い一般女性見たの初めてかも!」
「いやいや、てれますにゃ~♪」
その様子を、ハルにゃんは少し離れて眺めていた。
(メイド長の小さな体のどこに、あんなパワーがあんだろう?前に関節技されたことあるけど、あの腕力人外じゃん。バイトの先輩達がメイド長を絶対怒らすなって言ってたの、こうゆうことだったワケか……)
そして、どうせバレてる以上仕方ないかと、自ら口を開くことにした。
「メイド長。またしても私の家族が……すみませんにゃ」
「ハルにゃん?いーにゃいーにゃ、常時有効にゃ誘惑スキルの所為じゃあ仕方ないにゃあ。……ふむ、やっぱり双子ちゃんはハルにゃんの義妹さんだったんにゃあ。ちと、確信なかったにゃん」
「え?……メイド長スキルは?」
「だってあの写真、三年前のにゃん?光ちゃんはそんなに変化にゃかったけど、お胸の成長が驚異的にゃんよ」
「……ハイ、ソーデスネ」
翼と希が横に並ぶと、小玉スイカが四つ並ぶ。ハルにゃんも日本人の平均以上の立派なモノをお持ちであるが、見比べてしまうと、多少の劣等感を抱いてしまったりする。三年前は、双子の胸は特別大きくはなかったのだが……
ふと、ハルにゃんは双子が自分を見上げているのに気づいた。二人共、何故か瞳をウルウルさせていた。
「ま、待て!なんか、泣かすようなこと言った?」
翼は小さく頷き。
「言った。遥ちゃんが、私達の事、自分の口で〝家族〟って」
希が涙を指で拭いながら。
「ちゃんと〝家族〟扱いしてくれてた……」
何言ってんだろう、この娘達?と思ったハルにゃんだったが、双子が繰り返した〝家族〟とゆう単語を反芻し「しまった!」とばかりに片手で顔を覆った。しかし、指の隙間からは、しっかりと夕焼けよりも赤くなった表情が見てとれた。
「いやぁ~。今日はハルにゃんの可愛いトコが沢山見れて役得ですにゃあ~!」
「メイド長?今のは、そにょ」
「わかってっからみなまでいうにゃ~。ずーっと似合わんメイクしてツッパッてたけど、内心とっくにデレてたんにゃん?なのにぃ、自分から歩み寄る勇気のないヘタレっぷりで、素直になれずタイミング見計らってたらそのままズルズル。今更ハズくて、隠れツンデレしてたんにゃあ~?」
ほぼ間違っていない為、何も言い返せず「あああううぅぅぅ」と、呻き声をあげ体育座りして顔を埋めるハルにゃん。
これ以上は確実に泣かすと判断し、さにゃえはターゲットを双子に変更した。
「ところでハルにゃんの妹様方、ウチでバイトしてみないかにゃん?」
何もいわずとも、その瞳が語っていた。この娘達の猫耳メイド姿が見たいっ!
「えと、学校遠いから、平日ムリです」
「土日も、バンドの練習とかライブあるので」
「にゃ?バンド?」
そんなことやってたんだー。初耳ー。といった感じでハルにゃんが顔を上げると。さにゃえが目を擦っていた。
「ましゃか!?『TJ』のツインボーカル!ウイングちゃんとホープちゃん!?そのキュートなルックスに背格好にお胸……何故に気付かんかったにゃんっ!ファンですにゃん!サイン下さいにゃし!」
メイド長、従業員達の目前で本気土下座でお願い。
「困りますぅ!頭あげてぇ!私達、結成して半年程度のシロート同然ですよ!?」
(あるぇ?アンタ達、受験生だったよね?)
「サインなんてしたことないよ!ライブだって一回二~三曲だしカバー主体だし、インディーズの入り口に立ったばかりだよ?」
「そうにゃん?ライブ見に行った知り合いに動画見して貰ったけど、とても良かったにゃんよ?最近じゃ『TJ』のライブは早く行かないとライブハウス入れにゃいってボヤいてたにゃん。次の予定はいつにゃん?今度こそ、臨時休業にしてでも生で見たいにゃん!」
「メイド長。店より自分の欲望優先しないでほしいにゃ。店の評判下がると困りますにゃ」
ハルにゃんが冷静なツッコミをするが、さにゃえの猫耳はプイっと後ろ向きになり、都合の悪い事を聴こえないことにした。
「え~っと、先になるけど、リーダー達の大学で学祭ライブは演る予定です。それ以外だと基本不定期な土日ですね」
「一応公式ブログありますので、活動情報はそちらで確認してください。……遥ちゃんに伝令お願いします?むしろ、遥ちゃんも一度来てみる?」
「いや、私は……」
双子の期待を込めた無言の視線。ハルにゃんには「行かない」なんて、言える勇気はなかった。
「ハルにゃんとライブデート決定にゃん!」
「何故に一緒に行く事になってるにゃ!?」
さにゃえメイド長のハルにゃん弄りに、「遥ちゃん愛されてるなぁ~」と翼と希は実にほっこり顔を浮かべたのであった。
その後、双子はふわとろなオムライスに舌鼓を打ち、食後に再度、少しだけにゃんこと戯れると帰って行った。その際、さにゃえメイド長はハルにゃんに隠れて双子とケー番やメルアドの交換をしていたりした。
それが、聖家と『29Q』がズブズブな関係となる一歩目だったのだが、ハルにゃんがそれを知るのはまだ先の事であった。
普段のバイトとは比べ物にならない心労を負い、ようやく勤務時間が終了して、ハルにゃんは遥に戻った。
ただし、普段のヤンキーメイクをする気力もなく、素顔のまま、ヘルメットを被って一階駐車場のスクーターへ向かった。
(メイクしないの無用心かもだけど、メットしたまま部屋に入ればいいよな……にしても、今日は、なんだったんだ……?)
既に、何度思い返したか定かでない疑問を胸に、愛車に跨がる。そして、エンジンに火を入れたところで、店のドアからひょっこりとさにゃえメイド長が姿を現した。
「遥ちゃん、今日はお疲れにゃんでした」
「あ……いえ、オーナーこそおつかれっす」
互いに店外ではメイドネームで呼び会わない。一応、メイドネームはプライバシー保護とゆう建前があるので。早苗のべしゃり方はプライベートも変化しないが。
「いやはや、今日は遥ちゃんの家族さんが沢山来て大変だったかにゃん?」
「聞かんでも判ってっしょ?……幸いにも、小町とか義親父が来なくて良かった……程度っすね。マジ、ギリギリでしたよ」
多少、オーナーの所為でもあります。視線で訴える遥ちゃん。
「にゃはは……まぁ、火にガソリン注いだ自覚はあるし、趣味入ってたのも否定はせんにゃあ。ただまあ、この機会に遥ちゃんの家族、少しでも知っときたかったんにゃよ。それで、とっても安心したにゃあ」
「安心……すか?」
「んにゃ。遥ちゃん、ウチに面接に来たときの事、覚えてるかにゃん?」
「……アレを忘れるとか、不可能っすよ……」
遥にとって、正真正銘の黒歴史であった。
「とっても場違いな娘が来た!そう思ったもんにゃあ。昭和風ヤンキーメイクの失敗作な見た目だし、椅子の座り方とか態度悪いし、履歴書の写真は証明用じゃなくて普通な写真からの切り抜きだし目付き悪いし、誤字脱字だらけで平仮名ばっかだし、仕事なめてたし、「やる気あんの?」って聞いたら恫喝して胸ぐら掴みに来るし」
「そしたら、巴投げされて、関節技を二十種は極められて泣かされたんすよね……」
普通なら、こんな面接をして雇われるバイトなどいない。
「んで、泣かしたまま正座させて説教したにゃあ。ま、それで吐かせた志望動機が妹さんの為だったから雇う事にしたにゃんね。母親が再婚したけど相手を信用出来ない。また離婚するかもしれない。そうなったら金銭面で母親はアテにならない。だから今の内にお金を貯めて妹の学費にしたい………今時マジでこんな奴いるんかと、逆にこきつかって人を舐めきった態度を叩き直してやろうと思ったにゃん」
「ひどっ!アタシも大概だったけど、ひどっ!」
当時、早苗は遥の境遇に同情したかのような台詞で採用を告げていた。明かされた真実に、遥はトホホな涙目である。
「だからまあ、普通なら新人には練習させてからやらせる接客ポーズも、ぶっつけでやらせて根性試したにゃん。正直驚いたんにゃよ、スタッフみんな、遥ちゃんが出来ると思わず、仕事ほっぽって逃げると考えてたにゃん。でも、ぎこちなくもやってみせて、その後隅っこで恥ずかしくてメソメソ泣いてて、次の日ちゃんと遅刻せずに来て、顔真っ赤にしながら接客して、……この娘本気なんだって判ったんにゃよ。だから心配にもなったにゃ、お家のことも、本気で言ってたんだろうにゃって」
「心配させてたみたいで、すんません。あの頃、まだ余裕がなくって」
「そんなこと判ってたにゃあ。遥ちゃん、滅多に家族の話してくれないし、精々実鳥ちゃんのことだけだったにゃん。義理の姉妹と上手くいってないんかにゃーって時々思ってたけど、実際会って話してみて、もう大丈夫って思えたにゃん。なにより、遥ちゃん自身があの娘達を〝家族〟として受け入れられるようになったみたいで、安心したにゃん」
「あ、その……〝家族〟ってのは、言葉のアヤで……」
往生際の悪い遥に、早苗は思いっきりジト目で睨んだ。
「その台詞、ウイングちゃんとホープちゃんに面と向かって言ってみやがれにゃん」
「……うぐぅ」
言い返せない。ここで反論してしまっては、義妹達に対してあまりにも大人げなく、申し訳ない。
「言えないにゃん?それが答えにゃん。ここのバイトをバレたくない理由が、いつの間にか敵意じゃなく『変な奴だと思われて嫌われたくない』にシフトしてた筈にゃん!」
「~~~~~~!」
返せる言葉は無かった。ヘルメットの中は赤面からの発汗でムレムレになっている。
「それと……これは気付かんことにしといた方が優しさにゃん」
「なんすか!すっげぇ気になるんすけど!?」
ここで早苗さん。とても意地の悪い顔になりました。
「にゃら言っちゃうけどぉ、家族仲良好な遥ちゃんが『29Q』でバイト続けてるのは、猫耳もメイド服もストレス感じないくらい好きになっちったからにゃん?」
「…………!?な、無いっすから!今更別のバイト探すのメンドーなだけです!か、帰ります!それじゃっ!」
スクーターを急発進させ逃げ帰る遥ちゃん。その背を見送り、早苗は独り呟いた。
「図星にゃん。高校卒業前に正社員登用持ち掛けてやるにゃん。あんな面白い娘は逃がさんにゃん。……しまった。剣たんとの関係を弄るの失念してたにゃん。テンプレなら一番美味しいトコを忘れるとは……なんとも迂闊者にゃん。ま、今後のお楽しみにしとくにゃん」
遥は帰宅すると一目散に自室(実鳥と同室)へ滑りこんだ。
部屋の中ではパジャマ姿の実鳥が四脚テーブル(こたつになるタイプ)でノートを広げて勉強していた。
「た……だい、まー実鳥」
「おかえりー、お姉ちゃ……なんか、凄く疲れてない?」
遥の実妹である実鳥は、幼少期の家庭環境が特異(劣悪)であったが為、唯一絶対の味方であった遥の変化に人一倍敏感なのであった。その実鳥をして現在の遥は「フルマラソンでもしてきた?」レベルの疲弊っぷりだった。
「シャワー浴びたら、すぐ寝る。……できれば、マッサージしてくれない?」
最早、燕を抱っこする気力もなくなっていた。
「その前に水分補給だよ!スポドリ持ってくるから待ってて!
もー、無理するんだからー」
「ん、悪い」
「そう思うなら、自分の事をもう少し大事にしてよぉ。……あ、コレさっき剣さんがお姉ちゃんに渡しておいてくれって持ってきたんだった」
実鳥はテーブルに置いてあった茶封筒を遥に手渡した。
「んだコレ?用事ならメールで済むだろうに……封までして」
「こんなの初めてだよね?明確に、お姉ちゃんだけへのメッセージだよね?まぁ、剣さんのことだから私が心配する事じゃないだろうけど。問題なかったら、後で教えてね」
部屋に一人となった遥は、取り敢えず封筒を破いた。
「……まぁ、手紙だよな?どうしてまわりくどい……っ?」
以下、手紙の内容
遥さんへ
スクーターのナンバープレートが店舗正面側から見える位置に駐車されていました。バイト先を秘密にしたいのならば注意してください。入店前に気付きました。
仕事を全うしようとする姿勢は好感が持てました。コスチュームも似合っていましたし、薄化粧も相まってとても可愛らしかったです。
メイド長さんの人柄も明るく、職場環境はとても感じが宜しいですね。
この度、このような伝達手段を用いたのは、梓と桜が多分気づかなかったからです。二人とも、自分のスマホを勝手に弄る悪癖があるので、此方の不手際で本件が漏洩するのは互いに不本意であろうと考えたが故にです。
出来る事なら、貴女の口より姉妹達へ伝えるのが最善だと思います。
不可能なら、全力で秘匿して下さい。及ばずながら、相談程度は可能ですので……
追伸
ケーキとコーヒー美味しかったです。猫達の愛想も良く居心地の良いお店でした。改めて寄らせてもらおうと思いました。
「あ……あぁ……う……あぎゃあぁぁぁぁっ!!」
手紙をグシャグシャに丸め、奇声を上げると、畳に倒れると、じたばたもがいて転がる遥さん。脳内思考処理が限界に達し、そのまま気を失ってしまいました。
ヘルメット着用のまま倒れている姿を見た実鳥ちゃんは後に、「まるでバイク事故にあったみたいだった」と証言しました。
そして、丸まっていた紙屑は実鳥ちゃんにより発見され、メイドをしている事が実妹にバレたのですが、優しい実鳥ちゃんは紙屑を隠滅して「手紙?見てないよ」とゆうことにしたのでした。
翌朝、復活した遥さんと翼ちゃん・希ちゃんの距離感が近くなっていることに、なにかを察した実鳥ちゃんが嬉しそうにしていました。
実鳥ちゃんの中学生初日は、幸先良さそうです。
次回は中学生のお話。




