105話目 はるか防衛戦線!④
今回も終わりません!
「……な、なにかしら?今、凄い悪寒を感じたのだけれど……」
「お姉さまもですか?私もです……」
黒髪ロングストレートから、茶髪ゆるふわロングにイメチェンした光と、金髪ロングツインテールに魔改造された遥が、二人して二の腕を掴んで、言い知れぬ不安を感じて身体を震わせていた。
「ねぇたんたち、さむい?らーめんたべたら?」
唯一人、邪気に充てられなかった燕が、二人を心配するように剣の味噌ラーメンの丼を、ずりずりと押して差し出した。
「あ、ありがとう……大丈夫よ」
燕を安心させようと、光は燕の頭を撫でた。何処からどう見ても母娘……
「この寒気……まさか、奴が既に?」
遥は、おぞましさすら感じる気配に、とても覚えがあった。ここ最近、ストレスの原因となっている生理的に無理な波動そのものだったからである……
「おまたせ~。小鉢借りてきたぞ~」
遥の危機感なんて何処吹く風とばかりに、呑気な調子で、小さなプラ製カップ(にゃんこのイラスト入り)を手に、剣が戻ってきたのであった。そして早速味噌ラーメンを取り分けてあげると、燕はすぐさま食い付き、美味しそうにかっこんだのであった。
「さて……と、どうやら遥も気付いたみたいだな。来てるぞ。すぐ近くに」
「や……やっぱり?……それで、これからどうする……?」
「別にどうもしないぞ。俺達は計画通りに、何も知らないフリしてデートを続行するだけさ。あまり不安そうな顔をすんなって、小声を聴かれる距離じゃねーけど、これが偽デートってバレたら、そんな可愛らしい格好までした意味が無くなっちまうからな?」
「また自然に可愛いとか、この男は……にしても、メイドとも大分イメージ違う変装したのに、私だってよく判るもんだ……ガチで怖い……」
相変わらずな剣の様子に少し落ち着き、遥は冷静に現在の状況を自己分析してみて……余計に恐怖感に苛まれた。
「重症ねぇ……早いところ、なんとかしてあげないと」
「アネ……お姉さまは、もう平気なんですか?」
遥と共に鳥肌していた光であったが、既に平静さを取り戻していた。
「久し振りだったから驚いちゃったけど、初めてじゃないもの。高校生の頃とかモデルやってた頃には、熱狂的なファンの娘がけっこういたもの。適当にあしらってたけどね。こう、首をロックしてあげると幸せそうな顔で眠ってくれたり……」
「トンデモナイ事を口走ってません?お姉さま……」
「大丈夫よ。寧ろ御褒美らしいし……物理的説得で外傷残した事はないから……女の子相手には」
「……男相手だと、いや……いいです……」
物腰柔らかな聖家の長女サマの物理攻撃力は、転生チートな弟に匹敵するのであった!遥は先だって、光が婚約者の明良を剣達に紹介した際の顛末を実鳥から伝聞されていた為、その時の実鳥の冗談皆無な様子から、光の言葉を疑う余地はなく、現実逃避気味に視線を反らすのであった……
「……ばめちゃん、叉焼食べる?」
「いただきます!」
遥は心の安定を計る為、無邪気100パーセントな妹を甘やかす事で癒される事にしたのであった。1センチの肉厚にぷるぷるコラーゲンな脂身たっぷりな叉焼を小鉢に載せてもらい、燕は遥に上機嫌な表情で笑みを返した。それを見て遥も微笑み返し、燕の頭を優しく撫でたのだが……
「ハァ……ハァ……幼女を慈しむ聖女のような遥お姉さま……プライスレス……私もあやされたい……」
柱の陰で、そんな事を呟くデンジャラスガールの放つ禍々しい気配を感じて、遥の表情は一気に青冷め、引き攣って冷や汗を垂れ流すのであった……
フードコートで遥が都の気配に脅えているのと同時刻、作戦本部である聖家ワゴン車内では、翼と希が小町から報告されるリアルタイム情報から、各自への次の指令を検討していた。
「お姉ちゃんと燕をぶっ込んだら、こうなったか……」
「マイナス思念を萌えが上回ったみたいだね。感情の起伏が激しい感じ」
一先ず修羅場に発展させずに済んで安心している双子であったが、気配だけで遥だけでなく光にも怖気を感じさせる都の偏愛強度に戦慄すら覚えていた。
「マジヤバ……遥ちゃん、変なのに好かれちゃって気の毒すぐる……」
「愛情の一方通行……恐ろしい……」
「恋愛未経験の遥ちゃんが、一人で対処しきれる相手じゃなかった。相談してくれてよかった……」
「なんだかんだで、遥ちゃん優しいからね~。私達に迷惑だと思っていたんだろうけど……放っておいたら拉致・監禁される可能性あったかも……」
二人して、冗談にならない思いで乾いた笑いを浮かべていた。そして僅かに黙考すると、メールで剣に次の指示を送ったのであった。
「取り敢えず、お兄ちゃんと遥ちゃんにはラブラブな姿を見せ付けて貰うとしよう」
「お姉ちゃんと燕は一旦撤収。小町とみどりんは、少し間をおいて追跡続行……と。さて……待たせたね、梓ちゃん、桜」
そう、相手を脅威と認めた以上、出し惜しみは無しである。
聖家最強の恋愛脳と、最高の変態性が、遂に現場へと参戦するのであった。
翼からの指示で剣達が足を運んだのは、学生のデートスポットとしては定番中の定番といえる、様々な電子音がけたたましく鳴り響く、旧くには盛り場とも表現された場所。無論、現代に於いては老若男女誰もが健全に遊び楽しめる遊技場であり、ショッピングモール内にあるのだから暗い雰囲気なんて微塵も無い……つまりはゲームセンターである!
遥は普段倹約家なので、ゲームセンターに来ることは滅多に無いが故に、物珍しそうにゲーム筐体を眺め、落ち着かない様子で目移りしている。……普段不良ぶってるのに。外出するときヤンキーメイクがベーシックなのに!
「え……えと、何で遊ぶのがオススメ?」
「ここは定番なら何でもあるからなぁ……デートらしくってんなら、プリシール撮ってみる?」
「断固拒否る!」
「だよな。流石にハードル高いか……じゃ、アレなんてどうだ?」
剣が指差す先にあるのは、大きな長方形のゲーム台。テーブルに空いた無数の穴から噴き出す空気で浮かせた円盤のパックを打ち合う対人型対戦ゲーム、所謂エアホッケーだ。
「うん。これなら遊び方簡単だし……よしっ!勝負しよう!負けた方がアイス奢りで!」
「……あ~うん。それで」
正直な話、魔法を使って身体を鍛えている剣と、常人でしかない遥では、運動能力・動体視力共に、比べ物にならない。その力量差を例えるならば、世界チャンプ級のボクサーと万年プロテスト不合格レベル……剣が魔力運用していない状態で、である。あまり露骨に手加減すると遥の機嫌を損ねそうなので、鉄壁ディフェンスで自陣ゴールの防衛に専念するスタイルを剣は選択したのであった……が。
「わっ!?……また?堅すぎる!ディフェンスが……崩せない!」
エアホッケーあるある〝焦って攻撃する程自滅〟によって、遥は自殺点を次々と重ねてゆくのであった。
「くっそ~……たまにはソッチからも攻撃しろよ!少しは隙を見せろよ!」
「……いいの?」
ほんの一寸振りかぶってからのスイングによって、パックは超高速のレーザービームと化し、難なく遥のゴールに吸い込まれ続けていった……
「1点も取れないとか……もっかい!もっかい勝負だ!」
口調も取り繕わず、素で再戦を要求する遥。感情を昂らせ、表情も怒りの形相といった具合であるが、それだけ熱中して楽しんでいる証しでもあるのだろう。
「……おのれ、お姉さまに、あんなに構われやがってぇ~……少し顔がいいからって調子のってんじゃないわよ……」
ゲーム筐体の陰にこそこそ隠れている、真っ暗な表情で剣を呪い殺さんばかりに、邪気に満ちた視線を照射しているお嬢さんも、そう考えているようである。そして、今度こそ男の魔の手から遥を護るべく(思い込み)喰って掛かろうと、筐体を掴んでいる掌にも力が入っている。
「……それ以上、機械を指圧したら壊れてしまいますよ。可愛らしい洋服のお姉さん」
突然背後から声を掛けられ、気勢を削がれた事に抗議しようと都が振り向くと、そこには……
「これは失礼しました。服だけでなく、お顔もとっても可愛らしいですね、お姉さん」
「……!?」
学生服であろう白ワイシャツに赤いネクタイ。青いズボンの清潔感ある服装に、長い黒髪をポニーテールのように頭頂部やや後方で纏めて束ねている、少し小柄な体格の中性的な美少年が涼やかな微笑を浮かべていたのである。その美しさたるや、遥お姉さまに一直線な情熱を傾ける都にして、思わず息を呑み込んでしまう程の、女形歌舞伎役者にも似た色気を放つ美丈夫であった。
「あ……あの、何か、御用でしょうか?私、暇な訳では……」
思わずたじろき、適当な言い訳で誤魔化す都に、謎の美少年(疑)は、常人では空気を読んだり、腫れ物に触らないように避けるようなブッコミを……平然と告げる!
「はい。目立っていたので承知してます。見事なまでの、嫉妬まみれな横恋慕をしておられますね!いや、正直な話……警察に通報するべきか迷っていましたよ~」
「110番寸前!?」
「その前に注意すべきかと思いまして声を掛けたのですが……もし、この先もあちらのカップルを付け回すつもりであれば、青い服の公務員さんに、公務の執行をお願い戴く所存なのですが……」
通りすがりのお節介美少年からの、極めて冷静な客観的通告を受け、都は愛想笑いを浮かべつつ、内心大慌てであった。
「ま……待ってちょうだい!わ、私には、お姉さまを……あの不埒な男から護るとゆう崇高な使命があるのです!」
混乱の極みか、都の口は初対面の相手に、驚くほど滑らかに滑ったのであった!
こんな台詞を聞けば、一般人であれば「え?標的ソッチ?」だとか思ってドン引きするところであるが、ここにいるのは謎の美少年(笑)であるので、1ミクロンすら動じる事なく、平然と受け流す!
「……完全に、お母さんがお子様に「見ちゃいけません!」する事態になってます……お姉さん……百合は大いにけっこうなのですが、遥さんに同性愛の趣味はありませんよ?」
「……え!?」
唐突に遥の名を出され、都は思わず謎の美少年(偽)の両肩を掴んで問いつめようとした。
「貴方……お姉さまの……何なの?お姉さまに、弟はいない筈!」
「はい。弟ではありません」
都は謎の美少年(?)に手首を掴まれると、ソレを下方へスライドされてゆき、胸の位置まで下げられると……
「あっ❤」
……艶やかな声が漏れると共に〝モニュッ〟とした……自分のモノより若干ふくよかな感触が、伝わったのであった。
「初めて……自分から家族以外の方に触らせてしまいました……遥義姉様の義理の妹、中学二年生の聖桜でっす!お見知り置きを、都お姉さん♪」
「え……いも、うと?……男の子じゃ、ない?え?えぇ~っ!?」
桜の悪戯全開スマイルに、都の思考回路は限界に達し、成す術もなく、その場に崩れ落ちたのであった……
今回の桜 外見=ア○ト 中身=ミ○ェル
変態を制するのは更に上位の変態でした。
次回は梓、参上!
このシリーズの最終回……多分。




