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104話目 はるか防衛戦線!③

かなり、脱線。

時間は剣と遥がフードコートを訪れた時にまで戻る。


「さて、取り敢えずなんか食うか?」


「そうだ……そうね!つ……ケンは、何食べたい?」


遥は都が何時きてもボロを出さないように、剣を本名で呼ばない事と、〝彼氏の前で可愛らしく振る舞う乙女〟を装うように姉妹達から指示されているのである。


実は、この時既に実鳥はフードコートで待機していて、ここからのあれこれを殆ど目にしていたりするのだが……まさか実鳥が厨二スタイルに身を包んでいるとは、遥はちっとも想定しておらず、通路を通る際に視界の隅に入った厨二ちゃんが実の妹だと気付くのは、少~し後の事であった。


「そうだなぁ……ラーメンなんてどうだ?」


「……え?ワタシ、こんな格好してるんだけ……ですけど?」


普段の外見と言動こそヤンキーな遥であるが、中身は姉妹の誰にも負けない乙女である。寧ろ少女である。家庭環境の所為で恋愛思考を一切成長させていなかったので、恋愛感覚が中一レベルで停滞している、夢見るお嬢ちゃんなのである!


それが……まがりなりにも初デートで、エスコートされたのが、日本人なら誰もが大好き大衆食の……ラーメン様である!


そりゃあ、遥もラーメンは大好きである。あるが……こう、スタイリッシュさに欠けるとゆうか、オシャレではないとゆうか……別に贅沢がしたい訳ではないが、気の利いた物を薦めてくれるのでは……と、期待していたのであるが。


しかし!聖家のシスコン過保護者は、そんな義妹の期待の斜め上を往く!


「何故ラーメンなのか?そんな顔だな?」


「!う……うん」


「……確かに、所謂初デートで「美味い店に連れていく」とでも言って、何十分も行列に並ばなければ入店出来ない人気ラーメン店に連れていくような男は、俺から見ても最悪だと思う」


だが!と剣は目を見開く!


「遥は、女子一人でラーメン屋の行列に並べるか?そうでなくとも……一人でカウンターだけのラーメン屋に、入れるか?」


「そ……それは!」


遥ちゃん絶句。所詮は強がりの外面なので……男が大半の空間に、絶対必要でもないのに足を踏み入れる勇気は無い!


「だろう?小○さんみたいな相当のラーメン好き女子でないと、一人ではラーメン屋の暖簾を潜る事すら難しい……」


因みに、中身がオヤジな桜ちゃんは、堂々と○泉さんのコスプレ(原作・アニメ版)でラーメン屋を食べ歩きするが。


「更に理由を付け加えると、遥は倹約家だから外食なんてバイト先の賄いぐらいしかしないだろう?あそこのメニューにはパスタや焼きそばはあるけど、ラーメンは無かったからなぁ。昼飯だって姉さんの作ってくれる弁当だろう?……即ち!カップ麺を食う機会すら、そうそうないだろう、遥!」


「そ……そう言われると、前にラーメン食べたのいつ頃だったの……かしら?ど……どうしよう?なんだか、凄く……ラーメンが食べたくなってきた!」


「そうだろう?そして、この店のチャーシューは1センチ厚にスライスされていて噛みごたえがあり。メンマは甘辛で浸かり具合が絶妙。味玉は卵黄の中心がトロリと半熟……スープの味も醤油・味噌・豚骨の三種類がそれぞれ、動物出汁と魚介出汁の異なる割合でのブレンドが為され、麺の太さ形状も各々に……」


剣さん、ラーメンの魅力を熱弁。最早、遥の胃袋には抗う術無く、お腹が「きゅるるるるぅ……」と、か細く鳴き声を上げた事で、遥は食欲のままにラーメン屋の注文カウンターへと脇目も振らずに進撃したのであった!


「いらっしゃいませ!ご注文は?」


「えと……チャーシュー麺醤油味で!追加トッピングで味玉と海苔をお願いします!」


「俺は味噌大盛で、あ、モヤシを倍増しでトッピングしてください」




待つこと十分。注文時に渡された呼び出しアラームがラーメンの完成を告げる。


アラームと引き換えで注文した料理を受けとり、剣がトレーごと遥が待つテーブルまで、スープ一滴すら溢さぬように、周囲に警戒しながら進む。丼から立ち昇る醤油と味噌の香気が剣の鼻孔を擽り食欲を掻き立てる。だが、もう少しばかりの辛抱だ。テーブルで待つ遥の瞳が、缶詰を開けて貰っている猫のように輝いているのだから……


そして、待ちに待ったラーメンがテーブルに置かれると。


「「いただきます!」」


見事に声を揃え、合掌した。どんなにお腹が減っていても、食材と料理人への感謝を忘れてはならない。聖家の絶対ルールなのである!


遥は先ず、レンゲでスープだけを掬い、火傷しないように息を吹き掛け、ゆっくり啜った。


口中に拡がる醤油・鶏ガラ・鰹節の風味。飲み込んだ後、口中に残る程よい塩味とコクある油分が、次の一口を駆り立てる!


「ん~!美味しい!あんなに語られた後だから、余計に美味しいっ!」


「喜んでもらえて何よりだ。さて、それじゃ俺も……」


剣は直ぐには食さず、レンゲの腹でモヤシをスープに沈めていた。スープを吸って少ししんなりした食感と、パリッとした食感両方を楽しむのが、剣の好みな味わい方である。


そして、スープに浸ったモヤシを、一口目から麺と共に豪快に音を立てて啜るのである!


「熱っ!だが……やはり味噌はこうでないと!」


転生後、味覚と空腹感を得た事により、剣にとって食欲を満たす事は、至上の喜びである。食べれる、味わえるは、とてつもない幸福、口福なのであった!


「いや、最初はラーメンって……思ったけど、何か切っ掛けがないと食べれなかったなぁ……それにしても、つ……ケンは、一心不乱って感じで食べるよねぇ……美味しいんだよね?」


味わうのに夢中になるほど、表情が無と化す剣。これでも本当に美味しく味わっているのだが、遥にはまだ、梓のようには微妙な変化は解らないのである。


「そりゃ美味いに決まってるだろ。味見してみるか?」


「え?いや……んっ!?」


剣はレンゲでスープを掬うと、息を吹き掛け少し冷まし、遥が返事をしようと微かに開けた口へと、返答を待たずに突っ込んだ。それは、全く澱みの無い自然な動作で、スープ一滴すら溢さない、流麗とすら表現すべき、美しくムダの無い、洗練すらされているような所作であった。そう……水属性魔法によりスープが溢れないように操作し、風属性魔法によって液面を安定させ、おまけに重力魔法でレンゲの腹側に付着しているスープまで落下させないようにする念の入れよう。そして、口に入った瞬間に、弾けるように口一杯に拡がる……無駄に高度な魔法制御技術のオンパレードであった。


それはそれとして、遥にしてみれば不意討ち的な行為が過ぎた。レンゲを介しての間接キスだけでもキャパオーバーなのに、おまけにフーフーまでされていたのである。恥ずかしさで赤面硬直してしまうのも無理からぬところであった。


「あ……あぐ……」


「っと……気を付けろよ、スープが垂れてるっての」


「えひゅっ!?」


呆然と開いた口からスープが一筋……それを剣にハンカチでサラッと拭われ、遥はますます顔を紅潮させてゆく……


『あの~……主様?何だか、背後から妬みと嫉みと羨みと憎しみが渾然一体となった(よこしま)な気配を強烈に感じるのですが……』


(わーってるよヒナ。挑発も兼ねてやってんだからさ)


そう、剣は都の接近を当然気付いていたのである。高感度気配察知レーダーである、意思を持つ小刀〝緋波〟を所持しているのだから言わずもがなであろう。更に当然、実鳥と小町がこちらを眺めている事も知っていた。知っていたが……遥は気付いていなさそうだったので黙っている事にしたのであった。


『今にも飛び掛からん感じなのですが……人の愛憎とは如何ともし難いですねぇ……と?この気配……光様と燕様が近付いてきております!』


(さて……わざわざこのタイミングでか。翼と希め、どんなアクセントを加えてくれるのやら……)


接近してくる姉妹の気配を知らんぷりしながら、黙々とスープの染みたモヤシを咀嚼する剣。遥は赤く染まった恨めしそうな、泣くのを堪えているような表情で剣を睨みながら、ちゅるちゅると麺を啜る……「この男はっ!どうしてこう!どうしてこう!ナチュラルにハズカシー真似しやがんだ!?」そう心に秘めながら……


「あらあら……ケンったら、女の子に恥をかかせちゃ駄目じゃないの……うふふ」


涼やかな微笑を浮かべながら現れたカジュアルスーツにロングスカート姿の女性は……勿体振る必要なく、聖家の最高権力者である長女の光様である。しかし、その姿は普段の黒髪ロングではなく、うっすらと茶色に染めて、両肩辺りでシュシュで緩く束ねて前側に垂らしていた。


「姉さん……そこまでやるか」


光が髪を染めた姿は、剣ですら見たことが無かった……更に変装の為に伊達眼鏡まで掛けているので、モデル時代の〝聖ヒカリ〟しか知らない者から見れば、一目では判別がつかないだろうと思える程の、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせる、ホンワカ癒し系お姉さんに仕上がっていた。それに更なるオプションとして……


「にーたん!ばめにもらーめん、ちょーだい!」


光と仲良くおてて繋いでいる燕の存在。その燕は、紺色のブレザーに短パン。首には赤いリボン。円形の帽子に小さな肩下げカバン。完璧な幼稚園児スタイルでコーデされていて……完全に、幼稚園のお迎え帰りの母娘になっていた!光の母性力が五割増しで上昇中!少女力がゲシガシ削られている!


『すっごくママみがありますね~』


(また変な言葉を教わったな……お前も順応性高いわ)


すっかり桜達に毒されているヒナと心中対話しつつ、剣は燕にラーメンを取り分けてあげるべく、ラーメン屋のカウンターへと小鉢を借りに行くのであった。


「ごめんなさいね、遥さん。折角のデートを邪魔しちゃったかしら?」


光様、自然に演技に入りました!ここでの設定では〝偶然、弟のデートに遭遇した姉とその娘〟である!現在、遥とは友人以上、家族未満な設定であるのだった。


「い、いえ!邪魔なんて思ってません……お姉さま……」


無論、遥は設定なんて説明されていないので、完全にアドリブでの対応である。光への受け応えとしては及第点であった。あったのだが……恥じらいながら〝お姉さま〟とゆう単語を口にしたことで、その様子を伺っていたストーカーちゃんが、思わぬ流れ弾に被弾していた。


「……はぅ……はぅ……お姉さまの、お姉さま……ぐひゅ……うひゅひゅひゅ……」


とても、乙女が公に晒してはならない、恍惚として歪みきった表情を、周囲の人々に目撃されていたのであった……


「つばぞみ姉さん……マジ、パないです……」


「我が姉君よ……その御心の苦痛、此処に至りて理解せし……」


小町と実鳥は、遥を護らんと決意をアダマンタイト級の硬さに固めたのであった。




ラーメンの魅力ばかり……私は関東行くと、高確率で家系食べます。

今回のコスのイメージは、光はゆるふわ系眼鏡お(ママ)さん。燕は名門幼稚園児です。ペンギンの小物は沢山着けてます。

次回に続く!


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