101話目 なんてことのない、朝の様子
百話突破で投稿一周年!
少し更新遅れました。残業ぉぐぁぁ……睡魔がぁ……
賑やかながら、平凡な聖家の朝食風景の中、若干二名、普段と様子が異なる者達がいた。
一人は剣。普段は黙々と料理を噛み締め味わい、穏やかな雰囲気を放っているのだが、本日は少々目付きが悪く、箸も進んでいなかった。
もう一人は桜。聖家のムードメーカーとして、食卓で明るい話題を振り撒くのが常である彼女が、無言で眼鏡をクイクイしながら、眉間を揉んだり摘まんだりして、悩む素振りを見せていた。
昨晩までは、特に異常な様子でなかった二人の変化に、他の姉妹達はどうしたものかと顔を見合わせ、声を掛けるタイミングを計っていた。
すると、自然に剣と桜に一番精神的な距離が近い存在である梓に、視線が集中していった。
「あ~その~……けんちゃんにさっちゃん。今日は、どうしてご機嫌斜めなのかなぁ?かな?」
妹達の、期待の視線を裏切れないのが梓ちゃん。姉妹を代表して、どんよりとした空気を打ち破るべく、黒い靄に包まれているかのような二人に問い掛けた!
「梓……いや、機嫌悪く見えたか?……やっぱり、そうなのか……確かに釈然としない思いがあって、腹立たしくも感じるのだけれど……理由がさっぱり思い出せない……」
剣自身、言葉にしてみて……訳が解らなかった。確かにイライラしているのに、その怒りをぶつけるべき先が思い当たらないのである。
「ボクの方は、忘れてはならない、忘れたくなかった事を忘れてしまったとゆう確信が……世界の根幹に関わる重要な情報を知った筈なのに、それを思い出せない空虚感が……」
二人とも、神様パワーで夢の記憶を抹消されてしまったが為に、感情だけが未処理となっているのであった。
「すっげぇモヤモヤする……」
「やるせないのであります。本当に、何故思い出せないのか……」
「う~ん……さっちゃんのは厨二のこじらせだとしても、普段寝起きの良いけんちゃんが機嫌が悪いとはねぇ……そんなに夢見が悪かったんだ……じゃあ、今夜は添い寝しよっか?全裸で!」
丁度、味噌汁を啜っていた実鳥と小町が、仲良く噎せて咳き込み、盛大に汁を噴き出すとゆう、乙女が食事中にしたくない失敗上位にランクインする失態をしでかした。
「げほっ!げほっ!……梓姉さん、朝っぱらからアダルトトークやめてよ!清純な少女がいるって忘れないで!」
「そ、そうです!御二人がそうゆう仲だって事は言葉にしなくても解ってますから!ホラ……お姉ちゃんがオーバーヒートしちゃってますから……」
遥は、ムスッとした表情をしながら……湯気が沸きそうな程に顔面を赤く染めてフリーズしていた。タイミング良く?口中に何も入れていなかった為、小町達ほど無様ではないが……
「この程度で……遥ちゃん、純情!免疫無さすぎ!」
「それとも妄想しちゃった?しょびっち?」
空かさず、双子がからかいモードに入る!
「ち、違!そんなんじゃ……」
ワナワナ震えながら弁明する遥であったが、なんらかの妄想をしてしまったのは、この場にいる誰が(燕以外)見ても明らかな反応をしていた。故に言い返す言葉に力はなく、元々のボキャブラリーが双子の知識量に敵うべくもなく、相手は二人。質でも量でも圧倒されて、遥はどんどん縮こまって悔しそうに「あぐぐぅ……」するしかなかったのであった。
「……ひかねぇ、ねぇたんたち……」
「はい!あ~んしましょうね、燕。燕があの会話に入るには、十年は早いからね~。今日の塩鯖は、脂がのってて美味しいわよ~」
「あん!……やわい!おいしい!」
光は燕の心を汚すまいと、全力で誤魔化して朝食に集中させていた。燕の口の中では、鯖の身が噛むほどに抵抗無く解れ、濃厚でありながらくどくない、まろやかな脂が染みだし、程よい塩味が口中に広がっていた……
燕はそこに、ふんわり熱々、艶々もっちりに炊かれた白米を放り込む。すると、口中でデンプン質と脂肪分が混ざりあい、噛むほどに塩味がまろやかになり、仄かに甘味も加わって……
「さばごはん、さいこう!ひゃくてん!」
燕から最高の賛辞を贈られ、光板長は満足そうに表情を蕩けさせたのでありました。
どうと言う事の無い、聖家の朝食風景であった。剣と桜が、未だに浮かない顔をしている以外は……
放明中学校への登校中、桜は依然として釈然としない面持ちで、あからさまに悩んでいる様子を見せていた。それは当然、並んで歩く実鳥には伝わらない筈もなく。
「桜ちゃん、どうしたの?変なのはいつもだけど……今日は、いつもと違う感じで二回りは変だよ?」
「ナチュラルなディスり……腕を上げたでありますな実鳥たま……ありがとうございます!いや、その……自分でも上手く説明する言葉が見付からないのでありますが……強いて言えば、今後の自分や家族に関わる重大なナニカを……イベントフラグを立てたとゆう確信がありながら、その内容だけまるっと忘れてしまったみたいな……とってもワクワクするようでいて、そこはかとなく不安や嫉妬も織り混ぜられたような……そんな記憶を……忘れた確信があるのであります!」
「……何だか、宇宙人にアブダクションされた人みたい。拉致されたけど、何をされたか覚えていない……みたいな?」
「むむぅ……言い得て妙、と言うところでありますな。確かに、思い出せないと言うよりは、意図的に記憶を消された……その方がしっくりくるのであります……本当に、知ってはいけない何かを知ってしまったのでありましょうか?」
「私に聞かれても困るなぁ。でも、昨日の夜はなんともなかったんだから……変に現実味のある夢でも見たんだよ、きっと。私も時々……現実みたいに、リアリティある夢を見ることあるし」
「むむぅ……夢と言われてしまえば、そこまででありますなぁ……まぁ、思い出せない以上、気にしないで他の事を考える方が、余程建設的ではありますか……」
「それに……嫌な事だったとしたら、思い出せない方がいいかも知れないよ?」
「それも、そうですなぁ……」
実鳥は過去、虐待を受けていた影響で悪夢にうなされていた時期があった。桜はそれを知っているので、気遣いからこれ以上この話題を拡げるべきではないと判断し、実鳥の意見にやんわりと同意を示した。
実鳥もまた、桜が母の夕樹を亡くしてから短くない間、精神的に不安定であった事を光や梓からそれとなく説明されていたので、無理に記憶を掘り返そうとする過程で、その記憶を思い出す事で嫌な思いをさせまいとしたが故の進言だったのである。
とっても仲良しさんである。
「それにしてもね、梓さんには参ったよ……あれでピクリとも動じない剣さんも剣さんだし……仲が良いのは素晴らしいんだけどね……」
朝食中での梓の痴言に、思わず味噌汁を逆噴射してしまった事を思いだし、実鳥は苦笑いを浮かべた。小町と共に、恋愛経験が皆無ではあるが多感な年頃であるので、どうしたって……言葉にされると考えてしまうのである。
「正に!仲良き事は美しき哉!であります!御二人の妹として現世に生誕した幸運に打ち震えるのみであります!……それと同時に不幸でもあるのです……兄様以上の、奇跡的存在なイケメンに、この先の人生で出会えるかと思うと……」
「……過大評価、とは言えないなぁ。一緒に住んでて剣さんの半端なさを直に見ているから……」
実鳥から見て、家庭内での剣は、頼もし過ぎる兄であった。体力的には言うに及ばず、学校の成績は常に上位。料理も出来て普通に美味しい。若干妹達に過保護ではあるが……友達付き合いを優先して家族を蔑ろにするよりは、とても好感が持てていた。
「それに……不思議なんだけど、何だか安心感が有るんだよね……他の年上の男の人って苦手なんだけど……お義父さんとも、燕が生まれる迄は、あんまり会話出来ずにいたし……でも、剣さんは、昔からずっと知っていたような……そんな筈、無いのになぁ……」
実父からの虐待によって、暴力に脅えて臆病な性格に育ち、現在でも人見知りがちな実鳥であるが、何故か他の男性とは異なり、剣に対してだけは警戒心を抱いていなかった事に、実鳥は最近になって気付いていた。
「成る程、実鳥たま、それは……デスティニーなのであります!実鳥たまにとって、兄様は運命の人なのです!」
「え?……いやいやいや!そーゆーのとは違う気が……そもそも私じゃ、梓さんには到底及ばないよ!」
「でも、ボクには無いワンチャンがあるのですよ!羨ましい限りであるのです!……男に興味が無いのであれば、ボクは何時でもウェルカムなのでありますよ!」
実鳥の背中に抱き着き、肩に首を乗せておもむろに頬擦りをする桜。
「も~……巫山戯ないでよ桜ちゃんってば!」
「ボクは常に真剣なのであります!」
傍目には、女子中学生が仲良く戯れ合う光景であるが、桜の中身は、紛うことなきオッサンである!前世の姿で、人が行き交う公道で同じ事をしたら……大問題だ!外見って、大事である……
一方その頃、剣も煮え切らない想いを抱えたまま清央高校へと登校中であった。梓と翼と希。女子高生を三人侍らせて登校する姿は、二ヶ月経った今ではすっかり、清央高校生徒にとって見慣れた光景となっていた。しかし、今日は普段と様子が異なっていた。無表情がデフォルトな剣が、とても不機嫌(周りからはそう見える)な表情をしていて、威圧感が三倍増しになっていたのである。
その為、双子とお近づきになりたかったり、妬みや羨望の視線を向ける男子生徒達は、危険を感じて、遠巻きに様子を伺っているのであった……
「けんちゃん……そんなに不安?」
「……あぁ、自分でも訳が判らないんだが、自分じゃ対処しきれそうにない〝ナニカ〟が、そう遠くない内に起きそうな……それと、無性に込み上げてくる怒りが……」
女神様による記憶操作は抜かり無し!それが女神様の仕業だとも思わせない、意識誘導まで万全だった!
(ヒナ、俺が寝ている間……何も感じなかったか?)
『はい……少なくとも、私の感知に引っ掛かるような強い反応は……なにも』
剣の就寝時、ヒナは机の上に置かれている。剣の感覚とリンクしていない状態なので、多少感知能力が低下するが、それでも生きている人間に影響を与えるような強い霊体の反応を逃す程、鈍くなりはしない筈なのだ。
「……俺、情緒不安定なのかな?修学旅行であんなことも有ったし、精神的に疲れたままなのかな……?」
妖怪さん達が楽しく暮らす京都の位相空間〝裏京都〟に突然迷い混んだり、陰陽師と一悶着したり、世界の闇に潜んでそうなカルト集団の実効部隊員的な連中をピチュンしたり、モノホンの悪魔さんをプレスしたり……地球に転生して以来、濃密過ぎる程にファンタジーに溢れた……そんな修学旅行であった。
「けんちゃん、あの時はビックリしたんだからね!無茶する程頑張る必要あるなら仕方無いけど……次があったら倒れる前に相談して、ちゃんと私でも誰でもいいけど、頼らなきゃ駄目なんだからね!」
「あ、あぁ……気をつけるって」
不様にも倒れてしまった事で、梓に心配させてしまったことを剣は心底反省していた。だからこそ、本当の事情を話して余計な心配まで掛けられないと思っているのであるが……実は、正妻様がほぼ全ての事情を懐刀から聴取済みであるとは、剣は全然気付いていなかった……
「私達も傍にいなかったし」
「梓ちゃんがいて、本当に良かった」
剣が倒れた事で一番内心で動揺していたのは双子であった。現実的に戦闘能力面に於いて、地球上の生物で剣に敵う存在がいる筈がないと確信していたからである。
「私達もけっこう驚いた。獅子や虎でも仔猫扱いなお兄ちゃんが?と」
「シロナガスクジラを単身で捕鯨出来そうだもんね」
剣は肯定も否定もしない。やった事は無いけど……どっちもやってやれない事はない……そう思ったから。
「ま……あん時は本当に突然だったからな……そうだな。お前らが傍にいれば、不安になることもないか……別の面倒は増えそうだけどな」
特に、最近調子にのってる後輩三人組とか……
剣の言いたい事を察してか、双子はあからさまに剣から視線を反らした。
「……どうして俺より、俺のハーレム作りたがってるんだか」
少し、剣の表情が柔らかくなっていた。その、ふっと表情が緩んだ瞬間を目撃した通りすがりの女子生徒が何人か剣に見惚れたりしていたのだが……そんなのは剣の預かり知らぬ事である。知らないったら知らないのだ!
そんな、普段とそんなに変わらない登校風景であった。
特にアクシデントも無いお話でした。
女神様が暴れた反動だとでも思って下さると助かります。
次回のメインは、久々に遥ちゃんです!
割とありがちな展開かな……




