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98話目 誕生日ピクニック

お弁当を食べつつ会話する回。

公園の木陰に大きく広げられたレジャーシートに腰を下ろした聖家の面々。その中心には様々な料理が詰められた重箱が沢山並べられている。各々に配られた紙コップにジュースが注がれた頃を見計らい、一家の主が咳払いをして注目を集めると、紙コップを高々と天に掲げた。


「え~それではコップも行き渡ったところで……翼、希、十六歳の誕生日、おめでと~う!乾杯!」


落ち込み易くも立ち直りも早い敏郎の音頭で、翼と希の誕生日屋外パーティーが開始された。


家族全員からの拍手とお祝いの言葉に、翼と希は少しだけ照れた表情を見せると立ち上がり、謝辞を述べた。


「ここまで健やかに育てたのも、愛すべき家族のお陰と、感謝以外の言葉がない」


「そして、今年もここで無事に祝って貰えて嬉しく思う。こういうマンネリは、悪くない」


他の姉妹の誕生日は様々な趣向が凝らされるが、翼と希の誕生日だけは、墓参りからの流れで、霊園に隣接する公園での昼食会が恒例となっている。他の姉妹のパーティーと比べると華々しさに欠け、地味ですらあるが……この公園は幼少の頃から墓参りの度に訪れている思い出の場所でもあるので、翼と希には特に不満がある訳でもなかった。


「その分、プレゼントには期待している!」


「実用的から即物的、刹那的な物まで各自のセンスを問う!」


不満は無いが……別の事には欲望丸出しであった。


「それはそれとして、いただきます!」


「おねーちゃんの手作り弁当、最高!」


当然、重箱に詰められている料理の数々は光の主導で作られた物である。オーソドックスな太巻き寿司にいなり寿司。色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチ。海老と野菜を巻いたサラダ生春巻。焦げ目一つすらない厚焼き卵。山盛りの唐揚げ。そして……大きさや形が不揃いの、おにぎり?等が重箱を彩っていた。


「ばさねぇ!ぞみねぇ!ばめもね、おにぎりつくった!」


燕はおにぎりの中でも、特に歪で小さな物を指差すと、期待を込めた瞳で翼と希の瞳を見つめた!これには……姉として食べない訳にはいかない!翼と希は想像した。恐らく、テンプレ通りに美味しいとは言い難い具材が握り込まれているのだろうと……それでも、可愛い末っ子の期待を裏切る事は……剣の妹としての誇りにかけ、食べずして否定してはならないのだ!


「分かった……一ついただく」


「私も……食べる」


意を決し、双子は海苔に全体を包まれ、外見から中身を伺い知れないおにぎり?にかぶりついた!


「「……あれ?美味しい……?」」


二歳児が心を込めて、力一杯握り締めた結果、米粒が原形を半壊させる程に固められて、粘りの無い餅みたいな食感ではあったのだが、それが不思議と、具材の味付けとマッチしていたのであった。


「味噌っぽい味……そして、ご飯を潰した歯応え……」


「なんだか、五平餅みたいな?」


潰したご飯を割り箸や串に纏わせ、味噌ダレを塗って焼いた、中部地方等で食べられるローカルフードに似たおにぎり?であった。


「でも……シャケも入ってる?」


「それに……濃厚でまろやか?」


双子は思った。コレ、焼いたらマジでもっと美味くなる!


「どう?おいしかったでしょう!さけと、ねぎみそと、バターをまぜたのです!」


えっへん!と胸を張る燕。


「コレ……燕が考えたの?」


「混ぜたのも?」


「うん!ひかねぇがおしえてくれたとおり、あじみしながら!」


自信満々で答える燕に、双子は黙々とおにぎり?をモグモグする事で答えとした。


一方で、実鳥と小町が微妙に暗い顔をしていた。他の、ちゃんとしている形のおにぎりを握った二人である。


「初めての味付けでこんなに成功しちゃうとか……私よりセンスがあるよぉ……」


「味見して驚かされたもんね……何気に、燕が家族で一番チートかもって気がしたし……」


小町にとっては唯一の妹であり、実鳥にしても小町は妹よりも友達に近い間柄であるので、妹として見ているのは燕だけである。二人からすれば歳が十も離れている、初めて料理に挑戦したような幼女に、日常的に料理をしている自分達が負けてしまった気分なのである。少しやさぐれるのも無理からぬ事であった。


一方、料理は食す以外に興味もプライドもない姉達は、素直に称賛するのであった。


「いや~、離乳食からお姉ちゃんの料理食べてるからかな?ばめたんの味覚は肥えてるね!」


「鮭と味噌とバター……相性が良い食材ではありますが、実にバランスよく混ぜられているのであります!ホカホカご飯丼三杯は余裕で入るのです!」


「えへへ~、ばめは、てんさいりょーりにんなのです!」


どんどん頭に乗る燕に、おにぎり?を食べ終えた翼と希は、足を正すと、深々と頭を下げた。


「大変美味しゅうございました。幼女の作る物だと高を括っていました。ごめんなさい」


「てっきり、お菓子とか果物とか生クリームを、漬け物や佃煮と和えた物体X的な、表現し難い生臭い味だと覚悟していた。全面的に謝罪したい」


何故、頭を下げられているのか理解に困る燕であったが、一応美味しかったと言って貰えて満足そうに白い歯を見せニカッと笑うと、下げられている翼の頭を右手で、希の頭を左手で撫でたのであった。


「どういたしまして~ばさねぇ、ぞみねぇ、はっぴーばーすでー!」


燕の行為に双子は感極まり、二人で燕を抱き締めたのであった。


「……俺に限らず、皆燕には甘々だよなぁ」


「そりゃま、歳も大分離れてるしよ。家族全員が世話する側だからな……懐かれたくて、そうなっちまうんじゃね?」


「そんなもんか?俺は深く考えずに可愛いから可愛がってるだけなんだけどな?」


遥の言い分にイマイチ納得出来ない剣に、光が呆れたように付け加えた。


「まあ、剣は特別だもの。お姉ちゃんは沢山いるけど、お兄ちゃんは剣だけなんだから。それに加えて頼りないお父さんとのギャップ!そりゃ、特別頼りにされるでしょ?」


「光ちゃ~ん。お父さん、ハートがボロボロになりそうなんですけど!?」


立ち直った直後、情けなくも泣き出しそうな表情で抗議するパパさん。全くもって情けない姿である。それが頼りないと言われる所以であると敏郎が気付く時は、来るのであろうか……?


「敏郎さんって、本当に庇護欲くすぐるのよねぇ~。傍に居てあげないとって思っちゃうのよね~」


「ママ!パパをあまやかしちゃいけません!それじゃあずっと、つおいこにならないの!」


幸せそうに惚気る母親に、説教する幼児……ハイスペックな兄と姉達に囲まれ育てられている結果、ここ最近心身共に急激に成長しているのであった。


「そろそろ、私達も本格的に燕の教育する」


「小学校入学までに、因数分解まで教えたい」


「いや、それは無茶苦茶だろ?……え?どうして皆して目を背けるんだよ!?」


「遥義姉さん……私、小一の頃には分数の計算まで教わってた……」


「……はあっ!?」


衝撃の事実に、遥は奇声を上げた後、絶句して呆然状態となった。


「えっと……数字を使ったパズルやゲームを二人がよく作ってくれて……小さな頃それでなんとなく遊んでいたら、自然と算数を覚えられるように出来てて……」


遊びの一環としてやっていた事が、小学校では何年も先に習う筈の授業内容よりも解り易く高度な指導だったと知って、小町も愕然とした思い出がある。小一の算数の授業で「簡単で面白くありません」と言ってしまい、教師を困らせ一時期目の仇にされたりしてしまったのは……今も大して変わっていなかったりするが。


「てゆうか、私の事はいいの!今日の主役は翼姉さんと希姉さんなんだから。二人とも、十六になって……何か新しい目標とかないの?」


「特に改めては……一応、来週原付の免許取るけど」


「今年の夏は、原チャリツーリングを堪能する予定」


因みに、日常的に原付に乗っているのは遥だけだが、剣と梓も原付免許は取得済みである。剣が原付に普段乗らない理由は、運動にならないからと、自分の足で走った方が早いからである。


既に普通自動車免許を取得しているが、光も高校在学中には原付免許を取り、乗り回していた。夕樹が亡くなってから敏郎が美鈴と再婚するまでの間、光も色々とストレスを溜め込んでいたのである……その解消の一環であった。


「いいでありますなぁ~原付!ボクも十六になったらソッコー免許を取るのであります!」


「なんだか、聖家の通過儀礼になってない?でも、あると便利なのは確かだよね。ガレージがバイクだらけになっちゃいそうだけど……」


現在でも三台(梓のは光のお下がり)あるのに、二台追加が確定(敏郎からの誕生日プレゼント)しているのである。まあ、聖家のガレージにはまだ余裕があるので大丈夫なのだが。


「免許か……夏休み中に、普免取っておこうかな……小型特殊なんかも欲しいし……受験勉強もやんないとな~」


「うぐうっ!だよね……私達受験生だもんね。忘れてたよその現実……」


剣と同じ高校に入学する為、中三の頃、長期休みを全て犠牲にしていた過去を思い出して身震いしてしまう梓。その努力は無事に実り、高校に入ってからも毎回のテストで赤点をなんとか回避して補習を受けずには済んでいるのだが……


「おのれ、もや○もん!銀○匙!農大の競争率を上げてくれよって~!」


「梓ちゃん、創作物のせいにしちゃ駄目」


「勉強なら私達が見てあげるから」


「……持つべきものは、優秀な妹達だね!」


そう、翼と希にとって、大学受験など些事に過ぎないのである!現に高校受験は気にする程でもなく、追い込み時期の中三の秋にバンド活動を始め、そちらにのめり込んでいたのだから。


「……今まで訊かなかったけど、翼姉さんと希姉さんが本気で勉強してたら、もっと上の高校行けたよね?別に清央が良くないとは言わないけど……」


小町にとって、それは大きな疑問だったのである。小町は物心付いた頃から兄と姉達の凄さを思い知っているからこそ、向上心が強くなったのだが……学力面が凄い筈の翼と希に、その方面での向上心が全く無いのが、納得出来ずにいたのである。


「小町……進路悩んでる?」


「もしかして、私立行きたい?」


「え?そ……そんなことないけど……」


逆に想定していなかった質問をされ、小町に動揺が走る。私立中学の受験を考えていなかった訳ではないが、聖家の誰も選ばなかった進路を選ぶ事に、二の足を踏んでいるのも事実であったからだ。


「そう……では、人生の先輩として判断材料の一つになるべく答える。私達が清央を選んだのは……」


「お兄ちゃんと梓ちゃんと学校行くのが楽しいから!」


「……………………それだけ!?」


「それと、近いから」


「他に理由は無い!」


双子からして見れば、どの高校のレベルも五十歩百歩なのである。頭が良すぎて、何処へ行こうとも低レベルにしか思えないのだが……それを小町に正直に言ってしまうとプチ切れしそうなので言えないのだが。


「まあ、学歴必要とも思わないし」


「音楽活動の方が、やりがいあるしね」


「あまりお上品な学校だと、校則でライブハウス入れないかもしれなかったり?」


「その点、清央は自由な校風。お兄ちゃん達のお陰で居心地最高」


この()には光も含まれている。本当に家の外では、はっちゃけていたお姉ちゃんだったのである……


「小町も、やりたい事をやるといい」


「向いてる事より、やりたい事。それが聖家の教育方針」


「そんな教育方針あったっけ?でも……二人とも凄く頭いいのに、勿体無くない?」


まだ納得しきれないのか食い下がる小町に、双子は正直に……実現可能な現実を話す事にした。


「確かに私達が本気になれば、地球の文明を二百年は進められる自信はある」


「そう……GNドラ○ブでエネルギー問題を解決したり、ハイパー○ーツで食糧難を解決可能」


「……冗談はやめてよね!全く……真面目に聞いて損した……」


人は、信じたい事しか信じないのである……当然、双子も小町がそんな反応をする事は想定内であったが。


「真面目な話をするなら……私達は、二人で一生一緒に過ごすと決めている」


「その為になら、どんな困難も厭わず、邪魔する者とは戦う覚悟はしている」


十六歳、それは日本人の女性にとって、大きな意味を持つ歳である。だから、二人はここで家族に宣言した!


「翼は希を」


「希は翼を」


……………………


「「お互いを誰よりも愛しています!」」




ラスト……カミングアウッ!

次回、知ってた人達はどんな顔をしているのか?

知らなかった人達はどんな反応をするのか?

一応、双子の誕生日編のラストになる予定です。


サイコ○スの万能麦……えげつない裏設定ありそうですよね……

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