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9話目 ハルにゃんの長い一日 中編

前後編のつもりでしたが、ここまでの一話あたりの文字数(4000~5000)だと尺が足りず、前中後編になってしまいました……

読んで下さっている方、未熟者でごめんなさい!


そして、ハルにゃんは戦場に立った!


「お待たせしました。御主人様、御嬢様。ご注文のケーキセット三名様分になりますにゃ」


(よし!噛まずに言えた!裏声で!)


新人並みに緊張していたハルにゃん、心の中でホッと一息。ケーキの配膳も手を震わせずに及第点。しかーし!ハルにゃんの義姉妹は、すんなりと済ませてはくれんのだ!


「メイドさん、一言いいかしら?」


涼しい顔で、胸元で指を組む梓義姉さん。とても上品に見える仕種である。


「な、何か至らなかったでしょうかにゃ、御嬢様?」


(えー?なにー?アタシ、なんかマズッたー!?)


「そうね。とても大事な事だわ。……貴女は一つ、大きな間違いをしています」


「な、なんでしょう……かにゃ?」


「私の事は……御嬢様ではなく奥様って呼んで下さい!きゃっ!言っちゃった❤」


両手で頬を押さえてテレテレヤンヤンする梓奥様。上品さが欠片も残っちゃいない。その旦那様は、無表情でコーヒーを啜っている。


ハルにゃんはメイド服がズリ落ちる程脱力させられた。肩が露出し、ブラ紐が見えてしまっている。すぐに気づいて直したが、羞恥心は臨界寸前である。


更に追い撃ち。


「ハルにゃん様!ケーキに美味しくなる魔法のサービスを所望するであります!」


前世がヒッキーで、実はメイドカフェ初体験の桜は、テレビのメイドカフェ特集等でよく見た『おいしくな~れ』を生で見たかったのである。メニュー表にもちゃんと〝御希望の御主人様には、メイドがフード・ドリンクを美味しくする(かもしれない)魔法をかけちゃうにゃん。お気軽に申し付け下さいにゃん!〟そう、表記されている。


桜ちゃんは、瞳を輝かせて、鼻息荒く期待している!


「……え、と、コホン。……おいしくにゃ~れ!にゃんにゃんにゃんっ☆」


魔法の呪文と共に、ハルにゃんはポーズを決めた。両手を招き猫のようにして顔のサイドに並べ、二の腕で胸を挟んで強調し、腰をクイッと曲げて、片足立ちで、上げた方の足は太股と脹ら脛を密着させた状態まで曲げて保持し、ゼロ円とびきりスマイル(ウィンク付き)の猫耳メイドがそこにいた!


三秒後、桜が突然テーブルに額を叩き付けた。バゴッ!まるでハンマーで叩いたような音がした。


「お、御嬢様ー!?」


「ありがとうございます!ボクの生涯に一片の悔いなし!」


本当にすんごい音だった。ハルにゃんがドン引きしながらも心配して叫んじゃうぐらい。またしても、店内の視線が桜に集中する。仕方なさげに剣が周囲へ説明する。


「あー、こーゆー病気な年頃なんで気にしないで下さい。ウィルス性感染症じゃありませんので。少しばかり刺激が強すぎただけです。本当、騒がしくてすいません」


続いて、梓が立ち上がり御辞儀をした。


「ごめんなさい。ウチの娘、初めてのメイドカフェに舞い上がって暴走しちゃったみたいです。帰宅したらちゃんと躾ますので、どうか御容赦下さい」


兄と姉に、まるで両親みたいな謝罪をさせていながら、桜はとても幸せそうな顔で夢の中だった。


その後は特に問題無く、三人は普通にケーキの味に満足すると、ハルにゃんを気にする素振りもなく退店していった。


(色々あったが、バレてないっぽい!)


取り敢えず、ハルにゃんはメイド長に平謝りした。当然、さにゃえメイド長は剣達がハルにゃんの身内だと気づいていたので(流石に桜とSAKUTANが同一人物とは知らなかった)怒るどころかとても楽し気でありましたとさ。




退勤まで残り一時間。今日のハルにゃんは滅っ茶疲れていた。肉体的には普段通りだが、精神的には十倍ぐらい。


家に帰って燕がまだ起きてたら、ぎゅっと抱き締めよう。シャワーを浴びて、実鳥に軽くマッサージしてもらったらさっさと寝よう。ハルにゃんはそんなことを考えていた。


……まだ、終わっちゃいないのに。


「…………」


来ると思ってない方が、どうかしているのです。


「「…………」」


二人の御嬢様を出迎えたハルにゃんは、笑顔のまま瞬間冷凍されてしまった。まるで、原寸大フィギュアの如く静止しているメイドを前に、天使で悪魔な双子は、揃って首を傾げている。


数秒後、ハルにゃんはどうにか自力で解凍された。


「お帰りなさいませ御嬢様。只今お席に案内」


「「遥ちゃん?」」


昼間の心労は何だったのかと言わんばかりの速攻瞬殺。


「……人違いですにゃ!自分はメイドのハルにゃんですにゃ♪」


桜にしたのと同様の『29Q』メイドの決めポーズですっとぼけるハルにゃんだったが、双子の目は、梓や桜がどれだけ暴走しようと、平然としていられる鋼の魂を持つ実兄の無表情と同類のソレであった。


※ここから翼と希の精神感応通話でお送りします。


「間違いなく、遥ちゃん……だよね」


「うん。必死に隠そうとしてて……哀れ」


「ま、性格的に、こーゆーバイト秘密にしてたのは判る」


「正直意外、ガテン系な方がイメージに合う。しかし、このポーズは昨日今日のレベルじゃない」


「多分、原付免許取った頃から続けてる。この二年、バイトを辞めた様子も探してる様子もなかった」


「だよね。なんだかんだ曲がった事嫌いな性格だし。根性あるもんね。てか、羞恥心で震えて耐える猫耳メイドカワユス!」


「確かに!しかも、こんな薄化粧な顔見たの初めてじゃない?やっぱ実の姉だけあって実鳥ちゃんに似てる。……むしろ、もっと童顔だよね」


「普段厚化粧なの、素顔がハズいから?ウブなの!?」


「この素顔で似非不良してたの?……うわー、ギャグだよ」


「ま、それはそれとして……どうしよ?」


「知らんぷり……無いね。名前呼んじゃったし」


「そうだね。不信感持たれたくないし」


「それに、昨日の事でお姉ちゃん参っちゃってたし。お兄ちゃんにも釘刺されたし、自重しないと」


「同意する。家内安全第一。遥ちゃんは大切な家族。それに、ここに来れば可愛い素顔は見れる。見返り無しで内緒にするのが上策だと思う」


「どのみち、お兄ちゃん達も来たんだろうし、家族全員が知るのも時間の問題。……私達に誤魔化したって事は、お兄ちゃん達は気づかなかった?」


「どうだろ?敢えて黙ってただけかも。……帰ったら注意深く探りを入れてみよう。私達がバラしたことになるの嫌だし」


「だね。それじゃ、判ってるよアピールをする方針で!」


「了解!」


※精神感応終了。この間約三秒。


双子はハルにゃんの肩に手を置くと。


「「お仕事、頑張ってねー」」


声を掛けるとサクサク店内へ進んでいった。内心のニヤニヤは止まらないが。


「お、御嬢様ぁー!案内しますので待って下さいにゃっ!」


言われた通りハルにゃんは仕事を頑張った!双子をテーブルに案内すると、素早くお冷やとメニューをお届けした!そして、若干ビクつきながらオーダー待ちするのだった。


「オムライスって、メニューの写真みたいにケチャップで猫を描いてくれるんですか?」


「は、はいにゃ!愛情込めて描かせていただきますにゃ!」


「じゃ、オムライスセットふたつ。ドリンクはどっちもオレンジジュースで」


「かしこまりました!しばらくお待ち下さいにゃ!」


少し引き吊っているが、営業スマイルで仕事に徹するハルにゃん。対して、双子はとても冷めた目をしている。


「「……遥ちゃん、痛い」」


グシャッ!言葉の槍が、ハルにゃんの心臓を穿つ。


「憐れ過ぎて、弄る気にもならない」


ザシュッ!憐れみが斬撃となり背中を袈裟切りにする。


「仕事だから無理してるんだよね?実は癖になったりしてないよね?」


ズガガガガッ!理解しようとする優しさが、銃弾の雨となり全身を貫く。


「「みんなには黙っとくから、強く生きてね」」


ゴオオォォォッ!同情がメギドの炎となりて全てを焼却してゆく……。


それでもハルにゃんは灰の中から甦る!覚束ない足取りで、キッチンへとオーダーを届けたのだ!




オムライスの完成まで、翼と希はにゃんこと遊ぶことにした。元々メイドよりにゃんこが本命だったから。


自宅で三匹も猫を飼っているので扱いはお手のもの。ボールや猫じゃらしで興味を持たせ、手の届く位置まで誘き寄せると、怯えさせないように、頭ではなく背中を撫でる。そして徐々に撫でる位置を頭部へ移してゆく。


耳の裏をくりくり、顎をこちょこちょされて、にゃんこは喉をゴロゴロ鳴らして気分は上々。自ら双子の膝枕に身を委ねる。翼と希、二人共にゃんこに甘えてもらえて御満悦である。


一方、メイドさん目当てで来店していた御主人様達はその光景を目にし、嫉妬していた。ぽよんな胸肉とプニプニ股肉に挟まれ、夢見心地な御猫様に。


そして、何を思ったのかメイドさんや双子に対して「自分も甘えさせていただくにゃ~!」と暴走した不届き者が多数出現。だが、その内の一人がさにゃえメイド長に覆い被さろうとした刹那。


「困ったちゃんに、御主人様の資格はありませんにゃあ」


さにゃえメイド長の三倍は体重があるだろう巨漢が、宙を舞った。それは何故か?蹴飛ばされたからだ。


親友の仇を討つ為、ストリートファイトに身を投じた米軍少佐の必殺技が。


蹴り上げと同時に、後方空中一回転、そして、スカートの裾をちょこんと摘まんで静かに優雅に着地。


あまりの事態に、店内が静まり返る。


さにゃえメイド長は店内を睥睨すると、店内ルールを侵そうとしているバカチンを一人ずつ指差し。


「出禁になりたくなければ、会計済ませてさっさと帰れにゃん。それとも……さにゃえと死合うかにゃん?」


腰に手を当て不敵に微笑むメイド長。逆らう者は、誰もいなかった。


店内のメイド達と善良な御主人様方から惜しみない拍手と賛辞がメイド長へと贈られた。


……その後、メイド長が気絶している巨漢を軽々と持ち上げ、店外へポイッしてくるまでは。誰もが、この世ならざるものを見た気分となったのであった。


その中、双子だけは〝面白人間発見!〟とばかりにハイタッチして喜びを分かちあっていたのだった。


ひょっとしたら、後編長くなるかも……?

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