06
店を出ると、シュリが連れていきたい場所があると、言うのでバイクに戻り、買った荷物をサイドバッグに入れていく。
その様子を少し遠くからシュリが眺めていた。
急に低い地鳴りのような音が一帯に響き渡る。それと共に地面が揺れ始めた。
咄嗟に後ろを振り返ると、土煙を巻き上げながらジュリを包むように土壁が築かれる!
気が付くと周りにはガラの悪い男たちが、薄ら笑いを浮かべながらナバリを取り囲んでいた。
その中には昨日、追っ払った二人組の姿も。
「てめぇか?うちの手下に手を出したってのは?」
男たちの中心に一際、図体のデカい男が立っており、その男が見た目通りのデカい声でナバリに問いかける。
どうやら奴が男たちのリーダーなのだろう。
「そこの二人の事か?悪いが先に仕掛けてきたのは、そちらからだ。こちらに咎められる覚えはない」
「どっちからなんて関係ねぇな。手下がやられたら、当然、やり返すに決まってんだろ!」
話がむちゃくちゃである。
そもそも向こうは、こちらの言い分など聞く気はないのだろう。
「それならば、私だけを狙えばいい。シュリは解放しろ!」
「それはできんな。お前はもちろん殺す!そして手土産に、この姉ちゃんは俺らがたっぷり可愛がってやるよ!」
ナバリは会話しながら彼らに気取られないよう、バイクに括りつけていたハングドラムへと手を伸ばす。
「ちょっと待ちな!まずはバイクから離れろ!てめぇはその変な鍋で魔法を使うらしいじゃねか」
あと少しの所であったが、状況を考えると言う事を聞く他ない。そっと手を上げながら一歩後ろに下がる。
あの土壁は魔法によるもの、だとするとその壁を操っているいる者を倒さなければ、シュリをいつでも壁で押しつぶせる状態のはずだ。
ナバリがバイクから離れると、男たちはじりじりと距離を詰めてくる。
魔器を持っていないとしても、大男を蹴り飛ばすほどの体術を使うナバリへの恐れは拭いきれないようだ。
男たちが近づく中、ナバリは戦闘態勢なのか、独特の足さばきで周りを警戒しながら、冷静に術者を探していた。
もはや男たちは目と鼻の先である。
「かかれ!」
リーダーの大声と共に数人の男が手に持った武器で襲い掛かってきた。
それを流れるように避けながら、相手の顎やみぞうちを的確に一発で打ち抜いていき、周りを固めていた男たちを一瞬のうちにのしてしまう。
「そこまでだ。それ以上動くな!」
いつの間にか、リーダーらしき男は土壁の前に移動していた。
その傍らには、術者と思わしき人物が。
「それ以上、抵抗を続けるならば、この壁をつぶす」
やはり、そう来たかとナバリは動きを止めた。
これをチャンスと残っていた手下の男たちが近づいてくる。
「♪~♪~♪~」
この状況で突如、ナバリが歌いだした。
それと同時に、周りに居た男たちは突風に吹き飛ばされてしまう。
飛ばされた男たちは体中に切り傷が付いていた。
「我ら歌の民は、音を重ね魔法を生み出すことから、歌の民と呼ばれているのだ。ハングドラムが無くとも音さえあれば、魔法は使える」
「この野郎……、いい度胸だ。そんなに女がミンチになる姿が見たいようだな!」
やれ、というリーダーの合図で術者が、杖状の魔器を振り降ろす。
すると再び地鳴りをたてながら土壁が動きだし、小さくなっていく。
「ははは、女はお前のせいで死ぬんだ!一生悔いていき……。なんで、そんな余裕なんだよ?」
土壁が動き出すもナバリは焦る様子もなく、バイクに向かい、ハングドラムを取り出していた。
一切、土壁の方を振り向きすらしないのだ。
急に土壁の動きが止まった。いや、動こうとしてはいるが、何かが挟まって動かないといった感じである。
しばらく動きが止まったかと思うと大きな音を立てながら、土壁は崩れ去っていった。
すると崩れ去った土壁の中から、今までの不恰好な土壁ではなく、立方体の壁が現れたのである!
「言っただろ、音さえあれば、魔法は使えると」
「ま、まさか、てめぇ、あの変な足さばきは魔法の詠唱だったとでも言うのか」
「今更、気が付いても、もう遅い!」
リーダーと術者の周りには、無数の火の玉が浮遊していた。
二人が土壁に気を取られている間に、すでにハングドラムによる詠唱は終わっていたのだ。
タンというハングドラム独特の音の後に、周囲に爆発音が響き渡る。