02
町の東、先程まで演奏していた中心街から十分ほどバイクを走らせた場所にジュドの酒屋がぽつんと建っていた。
中心街から、それほど離れてはいないのに、ここはまるで別の町のようだ。
周りには民家は無く、街灯とジュドの酒場だけに明かりが灯っており、それ以外の場所は月明かりが無ければ暗闇である。
そんな中で酒屋からは人々の楽しそうな声が鳴り響く。
開けた場所に建っている為だろう、目の前に来るまでこぢんまりとして見えていたが、実際はそれなりの大きさだ。店の横には駐車場もあるが全く車は止まっていない。夜中にこのような場所に来るのだから皆、車などは置いてきているのだろう。
飲んで運転すると魔法が暴走して、エンジンを焼切ったり、途中で魔力が尽きて立ち往生しかねない。
ナバリが以前、立ち寄った工業都市では魔法に変わる燃料を使っていたが、そちらでも酒を飲んでの運転をやっている者はいなかった。
どこの国も技術、魔術に違いはあるが、根本的には似たような物である。
店は外にもデッキ席がある、外と中がカラスで仕切られており、中には舞台もあるようだ。
「いらっしゃいませ!おひとり様ですか?カウンター席で良ければすぐにご案内できます!」
店に入るとすぐに、店の騒々しさに負けなくらいの大きなウェーターの声が響く。
「すいませんが客ではありません。ジュドと名乗る男性に、この店に来るよう誘われたのですが」
「もしかして、あんたが親父の言ってた旅人か?待ってな!今、親父を呼んで来る」
ウェーターの女性は話を聞く前に店の奥へと飛んで行った。
端正な見た目とは裏腹に活気があると言うか、豪快な声と性格のようである。
飛んで行ったかと思うと、物の数秒でジュドを引っ張って戻って来たではないか。
「おう!待たせたな!」
「おい、シュリ!なんだ急に?まだ、調理の途中だったんだぞ!」
奥からシュリと言われる少女に、連れてこられたジュドは何も聞かされずに引っ張って来られたようだ。
先程、会った時とは違い、如何にも酒場の店主という感じの白いYシャツに黒のベスト、腰掛けのエプロンの恰好をしている。
「お前はいつもそうやって、ガサツだから嫁の貰い手も見つからんのだ」
「何言いってんだい。あたしが美人過ぎて、誰も手を出せていないだけだよ。まさに高嶺の花ってやつさね。なあ、みんなも、そう思うだろ?」
「性別が逆ならモテてたかもな」「自分で言うな」「誰か嫁にもらってやる奴はいないのか?」「性格がな……」「手を出したら食いちぎられそうだ」
彼女の問いかけに周りの客がガヤを飛ばす。言われている彼女自身もそれを聞き、あの豪快な声で豪快に笑っている。
「あはは。よし、今、言った奴ら表に出やがれ!」
彼女の迫力に一瞬の静寂が辺りを包む。すると、どこかの席から、「そういう所!」と一声かかると再び、笑いに包まれる。
やってしまったという表情を浮かべて苦笑いをしている彼女が、何かを思い出したという表情を作るとナバリに向き直す。
「そういえば、客だぜ親父」
ジュドもようやくナバリの存在に気付くと何とも言えぬ表情を作る。
「すいません、ナバリ君。お恥ずかしい所をお見せしてしまい。さあ、こちらへ」
そのまま、ナバリを連れて、奥の部屋へと消えて行った。