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歌の旅人はエンジンを奏でる  作者: 秋月諏訪
第一詩
2/7

01

 旅人は演奏を終え、荷物を後部座席に縛り付けている。


「旅の方」


 急な呼びかけに旅人が振り返ると初老の男性が、旅人の背後に立っていた。

 男性は軽く会釈する。


「私は、この先で酒場をやっております。ジュドと言うものです」

「どうも。何か御用でしょうか?」

「この町での宿はお決まりですか?よろしければ、うちなど如何でしょう?住み込み用の部屋が余っておりまして。もちろん宿泊費はいりません」

「この通り家無し、金無し流浪の身、そのお話は大変、魅力的ですが、旅の経験から無償の善意を施してくれるのは聖人か悪人、もしくは底向けの阿呆だけだと思っております。見たところ貴方はそのどちらでもない。私に何をお望みなのでしょうか?」


 旅人の問いにジュドと名乗る酒場の主人は、にやりと笑みを浮かべる。その顔は交渉を行うその顔だ。


「バレてしまいましたか。お察しの通りです。旅人さんに是非うちの店で演奏していただきのです」

「……それだけですか?」

「恥ずかしながら旅人さんの異国の楽器による演奏に心惹かれてしましまして、うちでやって頂けたら客は集まること間違いなしと確信しております!」


 旅人は考えるように顎に手を添える。

 少し間が開いたのちに被っていたフードを外す。


「そういうことでしたら、客寄せパンダになりましょう。自己紹介が遅れ申し訳ありません。私は大陸の辺境の地に住む歌の民、名をナバリと申します」


 ナバリは手を差し出し、ジュドがそれを取り、握手を交わす。

 荷物の片づけが途中であったので、酒場の場所を聞きジュドには先に戻ってもらい、後で合流することにした。

 ジュドの背中を見送り、荷物をまとめると、聞いた酒場の方向とは逆の薄暗い路地へと入っていくと、適当な場所に押してきたバイクを止める。


「そろそろ、いいんじゃないですか?」


 物陰か二人の男が姿を現す。

 手前の男はひょろっとした感じで嫌な笑いを浮かべながら近づいてくる、もう一人は後ろの方で鉄パイプを握って立っており、体格もかなりの物だ。


「よう、兄ちゃん結構稼いでたじゃないの?痛い目見たくなかったら金置いていきな!大人しく出せば、今回はその鉄くずと荷物だけは勘弁してやるよ」


 男が声を張り上げている間、それを無視するようにナバリは先ほど閉まったハングドラムを取り出していた。


「そんな汚い鍋はいらないんだよ!それともそれで俺たちの相手をしようってのか?」


 男たちはナバリを馬鹿にするように笑い声をあげる。

 一通り笑ったかと思うと急に真剣な顔つきになり、手前の男が合図すると、後ろで構えていた大男が鉄パイプを振り上げそれを、ナバリの目の前に振り下ろす。

 それを受けても微動だにしないナバリ。


「今なら見逃します、身を引いていただけないでしょうか?」


 大男はその言葉に激怒し、鉄パイプを今度は頭めがけて振り下ろそうとした。

 ドン!という音と共に大男の体が宙を舞う。落ちた男の胸元には靴の跡がくっきりと残っている。



「てめぇー!」


 ひょろっとした男は仲間がやられたのを見て、ポケットから取り出したナイフで襲いかかろうとしたが、その足が止まる。

 無数の火の玉と音楽が男の周りを取り囲んでいた。


「これ以上、近づけば貴方を燃やし尽くします」


 ナバリはハングドラムを叩きながら男を睨みつける。

 先ほどまでの薄暗い路地裏では、よく見えなかった男の顔が、今は火の玉に照らされているため、血の気が引いて行く様が見て取れる。男はナイフを下に落とすと、倒れた仲間を背負い逃げて行った。


 男たちが居なくなったのを確認すると、演奏を止めた。すると先ほどまで浮いていた火の玉は消えていき、先ほどの薄暗い路地裏へ戻っていく。


「これ以上、遅くなってはジュドへ迷惑だな」


 ナバリは再び、ハングドラムを鞄へ閉まって、約束しているジュドの酒場へ足を向ける。

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