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三途の館  作者: 天草一樹
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陸との会話

 歩く、歩く、とにかく歩く。

 歩く以外にやることがないからただただ歩く。

 最初のうちはそれぞれ趣味や好きなことについて話し、それなりに会話が続いていた。だが、一通り話し終えると、死神がいつ現れるか分からない緊張感からか誰も話さなくなった。

 会話がなくなると、やることが歩くことだけになる。

 だから歩く。どこまでも歩く。

 別に歩かずに休んでいても問題はないのだが、立ち止まっていたらその方が疲れそうな気がして歩みを止められない。

 不意に、陸が俺の横に並んできた。

「霧切さん、少しお話してもよろしいですか?」

 小さな声でそう尋ねてくる。

 俺は軽く頷いて同意の意を示す。

 横目でアリスを盗み見ながら、陸が言った。

「彼女、天上院アリスさんは僕たちの中に含まれてると思いますか?」

「よく言ってる意味が分からないな。僕たちの中ってのは具体的に何を示してるんだ」

「最初に死神が言ってましたよね。今日三途の川を渡れるのは十二人だけで、一人余ると。つまりこの変な建物内には十三人の人がいると考えるのが自然ですが、果たしてアリスさんは十三人の中に入っているのか? ということです」

「そういうことね。まあ……入ってないんじゃないか? 確かにアリスはヨスガと異なる人格みたいだけど、体は二人で一つだからな。普通にアリスとヨスガをまとめて一人と認識してると思うぞ」

「でも、アリスさんとヨスガさんでは着ている服が違いますよね」

 アリスの動きに合わせひらひらと揺れる真っ赤なドレスに目を向ける。

「もし本当に同一の存在と認識しているのなら、服を変えたりはしないんじゃないでしょうか? アリスとヨスガは別人である。そういった認識だからこそ彼女たちの服の色が違うのでは」

「ふーむ……」

 今更ながら、俺と陸の認識のずれに気づく。

 俺は以前交わしたアリスとの話し合いから、今ここにいる自分というものは自身がイメージした一種の虚像であると考えていた。だが、陸の考えはどうやら異なっているようだ。すなわち、今の自分たちは死神によって再現された全く同質の別個体だと。

 要するに、今の自分を作り出しているのは自身のイメージなのか死神なのかという違い。どちらが正しいのかは分からないが、俺の答えは変わらなかった。

「でもまあアリスとヨスガは合わせて一人なんじゃないかな。アリスはあくまでヨスガが作り出した人格であって、ヨスガの性格の側面を担ってるだけなんだから」

「そう考えるのが自然、ですよね……。あはは、変な質問してしまってすみませんでした」

「こっちからも一つ質問いいか」

 笑いながら離れていこうとする陸を呼び止める。

「陸君は結局どうするつもりなんだ? 結局は一人しか蘇れないこの状況。裏切らないと言っていたが、まさか蘇るつもりがないとは言わないよな? 最終的な狙いは何だ?」

 苦笑いを浮かべながら陸が答える。

「もし僕が何か企んでいたのならこんなところで話したりはしないと思いますよ」

「まあそれはそうか」

「でも、狙い――というほどのことでもないのですが、一つ考えはあります」

 一度間を置くと、真剣な顔つきになって言った。

「死神に捕まると死ぬのなら、捕まる前に死神を倒してしまえばいいのです」

「死神を、倒す?」

 全く考えていなかったことを言われ、頭が一瞬真っ白になる。

 死神とは人間の力で倒せるものなのだろうか? その姿を二度ほど見たが、関わってはいけないと直感的に思わされたのだが――いや、そういう問題ではないのか。可能か不可能かで言えばまず不可能だろう。しかし、死神を倒しでもしない限り三人全員が助かる方法などない。さらに言えば、どうせ死ぬのなら試してみてから死ねばいいという話だ。

 陸自身どこまで本気で言っているのかは分からないが、もし死神と戦うというのならその方法はどうするつもりなのか。

「あー、死神を倒すっていう考えは悪くないと思う。というか他に全員で助かるすべは思いつかないな。でもどうやって倒すのかは考えたのか? いくらなんでも丸腰で突っ込むのは無謀だと思うんだけど」

「そうなんですよね。武器の一つでもあればいいのですが、残念ながらここにそんなものはありませんし……。実はこの建物に来てすぐ、イメージで何か物体を召喚したりできないか試したんですよ。本来の世界とは異なる世界のようですし、もしかしたらと思って。でもやっぱり何も召喚できなかったんですよね」

 そういえばアリスとそんな感じの会話をした気がする。実行するのは忘れていたが、やはりできないのか。イメージ次第で銃とか剣とか召喚し放題だったら楽しそうだったのに。そんなサービスはないようだ。残念。

 しかしそうすると武器は無しでやらないといけないのか。かなり成功率は低そうだ。

「いざとなったらそれしかないにしても、他の案も考えておいた方がよくないか? まず百パーセント返り討ちにあって終わると思うんだが」

「いえ、諦めるのはまだ早いと思います」

 諦め気分の俺と違い、陸はまだやる気一杯のようだ。

「お二人に出会うまでの間、僕は三度死神の姿を見かけたんです。それで気づいたのですが、死神の視界は僕たちと同じように正面にしか働いていないようなんです。相手は死神ですし、三百六十度周りを見渡せたり、そもそも僕たちの位置を把握するすべを持っているのかと思っていましたが、そんな超能力は持っていません。ですから、先に死神を発見してしまえば、その背後を取って死神の武器である鎌を奪うこともできると思うのです。鎌さえ奪えれば、勝機もあると思えませんか?」

「まあ、そうかもな……」

 陸の言葉に適当に相槌を打ちながら、思考は別のことに向かっていた。

 今の陸の言葉でようやく分かったのだが、二度目に出会った死神。どこか違和感があると思っていたら、死神の象徴ともいえる鎌を持っていなかったのだ。

 隣で陸が死神討伐作戦についてまだ語っているが、今はこっちの方が大事な気がする。より深く自分の思考へと入ろうとしていると、

「お主ら、何を話しているのかは知らんが一旦止まれ。あそこに人がおるぞ」

 つい通り過ぎようとしていた別の通路に、一人の男が立っているのが見えた。

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