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三途の館  作者: 天草一樹
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真っ白な建物

「ここは……どこだ」

 周りには数人の人が。彼らも自分と同じようにここがどこだか分かっていないらしい。きょろきょろと不思議そうに辺りを見回している。

 周囲に映る景色は全て真っ白。白い天井、白い床、白い壁。白くないのはここに立っている俺たちだけ。

 この意味不明な白い空間に来るまで、自分はいったいどこにいたのか。少しばかり記憶を巡らせる。

 ――ズキリ、と頭に痛みが入った。

 ……そうだ、俺が乗っていた飛行機が突然墜落したんだ。

 グラグラと体だけでなく脳までが揺れる感覚。その後にやってくる意識を一瞬にして消失させるほどの衝撃。

「ここは、死後の世界か?」

 隣に突っ立ていた、冴えないオッサンが呟く。

 どうやら隣のオッサンも俺と同じ結論に達したようだ。よくよく見てみれば、そのオッサンは飛行機内で俺の斜め左にいた人だ。

 となると、ここにいる人は全員……。

 一人一人の顔をよく見てみる。俺の考えを裏付けるように、どの顔も見覚えのある、同じ飛行機に乗っていたメンバーだった。

 つまり、ここにいる俺たちは飛行機事故によって亡くなった人ということだろうか? 乗客はもっとたくさんいたはずだが、ここにいないってことはその人たちは生き残ったのか。

 しかし、もしここが死後の世界だとしたら、俺が想像していたよりはるかに簡素な場所だ。天国にしては全く楽園感がないし、地獄にしては悲惨さがない。そもそも天国とか地獄とか、その概念自体が間違っていたのかもしれない。

『全員集まったようだな』

 突如、頭の中に直接言葉が流れ込んでくる。

 不気味な、聞いているだけで鳥肌が立つような声。

 一体どこからこんな声が聞こえてくるのか。奇妙に思って周りを見回すが、どうにも声の主は見当たらない。他の人も俺同様、周りをきょろきょろと見ていることから、この声が俺にだけ聞こえる幻聴というわけではなさそうだ。

『お前たちは今、生と死の狭間にいる』

 再び声が流れ込んでくる。

『覚えているかどうかは知らないが、お前たちは先の飛行機事故に巻き込まれた。そして今は、意識不明の状態で病院に運び込まれている』

『我はお前たちが死のうが生きようが興味はない。だが、今日三途の川を渡れるのは後十二人だけ。つまり、一人余るのだ』

 声の主の言葉を信じるなら、今この場にいるのは十三人ということか。乗っていた飛行機にはもっとたくさん人がいたはずだが、彼らは全員助かったということか? いや、生死の境を彷徨うこともなく一瞬で死んだ人もいるのだろう。

『そこで、少々面倒ではあるものの生き残る人間を選別させてもらう。方法は至ってシンプル。死神に捕まらなかったものが蘇り、捕まったものは三途の川を渡ってもらう。では、選別開始だ』

 頭の中の声が聞こえなくなる。

 唐突に始まった蘇りをかけたゲーム。正直何が起こってるのかさっぱりわからないので、とりあえず周りを見渡し皆の行動を窺う。

 俺以外の皆も呆然とした様子で佇むか、きょろきょろと周りの動きを窺うかしている。と、不意に怯えたような女の声が聞こえてきた。

「あ、あれは何?」

 あれ? あれって何だ?

 俺はおそらく声を発しただろう女性を振り返ると、彼女の視線を追って――あれ(・・)を見た。

 あれ(・・)は目と口の部分が開いただけの白いお面。ぼろぼろの黒いローブ。そして銀色に輝く巨大な鎌を持った、異形な何かだった。直視しているはずなのに、どこかノイズが走っているように、その存在をはっきりと捉えられない。

 誰も声すら出せずあれ(・・)を見つめる中、俺の頭ではかつてないほどの警戒音が鳴り響いていた。

 ――あれ(・・)には絶対に近づいてはいけない。

 いつからそこにいたのか。いったい何者なのか。そんな疑問は、考えるだけ無駄だと本能が語っている。

 あれはしばらくの間ふらふらとその場に漂っているだけだったが、痺れを切らしたのかゆっくりとこちらに近づいてきた。

 ――あれ(・・)が俺に近づいてくる。

 逃げなければいけないと分かっているのに、体が動かない。何とか足を動かそうと踏ん張るが、根が張っているかのように、足はピクリともしない。

 いよいよあれ(・・)が目の前までやってきた――そう思ったのも束の間、あれは俺の前を通り過ぎ、俺の横に立っていた冴えないオッサンに近寄って行った。

 オッサンは呆然と目前にいるあれ(・・)を見つめている。すると、あれ(・・)は鎌をゆっくりと振り上げ、何の躊躇もなくオッサンの首を刎ねた。

 オッサンが死んだ――そんな感慨を持つ間もなく、異常事態が起こった。というか、オッサンの体が消失した。それはもう影も形もなく完全に。当然返り血など一切流れていない。完全な消失。

 あれ(・・)も動かない、全てが静止したような時間が流れる。

 その静かなる時間が終わった瞬間。俺を含めた全員が一斉に走り出した。

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