8 ホラー幼女天使
「ペペッ、酸っぱい、マズい、まともな飯食いたい」
ミカちゃんの強い要望によって、結局僕はログアウトせずにゲームの世界に留まった。
ただし、空腹が辛すぎる。
なので、ついに木の実に手を出して食べた。
「くうっ、酸っぱすぎて涙が出てきた」
僕もミカちゃんも涙を流し、鼻を赤くしている。ヤバイ、鼻水出てきたかも。
木の実に泣かされてしまった。
なお、肉に関しては焼く手段が見つかるかもしもしれないので、今のところ保留だ。
もっともこんな森の中で、どうやったら肉を焼く手段が見つかるか、理解に苦しむけどね。
それでも飢餓状態から、なんとか脱せた。
ただし森の中で迷ってる間に、周囲は暗くなり、すっかり完全に夜になったけど。
「ミカちゃん、夜って強いモンスターが出やすくなるんじゃない?」
「おまけに視界が悪くなるから、戦いにくくなるぞ。俺は真っ暗闇でも問題なく戦えるけどな」
「もしかして、例の師匠の呪いとかいう奴ですか?」
するとなぜかミカちゃんが、滂沱の涙を流し始めた。
あ、あれ?何かまずいことを言ったか?
もともとおかしな人だけど、地雷を踏んでしまったようだ。
「ウ、ウウッ。触手系モンスターが蠢きまくる暗い洞窟の中に、装備品全部はがされて師匠に投げ込まれて、お、俺は、俺は……ウワアアアアン」
何があったんだ?
ミカちゃんがマジ泣きを始めてしまった。
その顔を見てると、なぜか少しだけドキッとしてしまったけど、どうしてだろう?
大体中身が叔父さんだから、落ち着くんだ僕。
しばらく深呼吸して、心を落ち着ける。
「いいか、そのことは二度と口に出さないでくれ。でないと俺が泣いちゃう」
「あ、はい。分かりました」
ミカちゃんと師匠の間には、僕が知らない方がいいことがあったみたいだ。
この件に関して、僕は深く関わらないことにしよう。
藪をつついて、蛇が出てきたら大変だ。
「ところでスレイ、お前の方は暗闇はどうなんだ?」
「全然平気ですよ。種族固有スキルに暗視があるので、昼間みたいに明るく見えてます」
「なにそれ。そう言えばお前、吸血鬼だったな」
「なりたくてなったわけじゃないですけどね」
種族を人間で作ったのに、どうして吸血鬼になってしまったのか。
でも、暗闇で全く苦労せずに済むのは大助かりだ。
それと余談だけど、吸血鬼になっても、僕の犬歯が尖った牙になったりはしてない。
キャラクリをした時のままの状態なので、見た目は完全に人間のままだ。
ミカちゃんにしても、堕天使になったからって翼が黒くなったりせず白いままだ。
ただ心の中は、最初から黒……というか、混沌だけど。
「畜生チート野郎め……これだからイケメン野郎は……」
ミカちゃんがまたブツブツ何か言ってるけど、スルーしておこう。
藪蛇、藪蛇……。
この後、ミカちゃんはライトの呪文を使って、辺りを照らしながら森を進んでいった。
堕天使だけど、光魔法が一応使えるからね。
ただ暗闇の中で明かりをつけていると、とにかく目立つ。
暗い森の中から、蛇系のモンスターが次々に現れて、それを僕とミカちゃんは相手する羽目になった。
体長三メートルから五メートルの蛇。
しかも太さが現実の蛇と違って、成人男性の腕の太さから、胴体ぐらいの太さまで、大小さまざま。
日本ではこんな蛇はいない。アマゾンなら、ひょっとするといるのかもしれないけど。
AR表示では、スネークとか、グリーンスネーク、ヘッドスネークとなっている。
そんなのが闇の中から口を開けて襲ってくるので、ホラー映画状態になってしまった。
蛇は見た目の大きさに反して、素早さがかなりあり、それが森の木々を這い回りながら襲ってくるので、ゴブリンより遥かに厄介な敵だった。
もっとも眉間をショートソードで貫けば一撃で倒せるので、防御面はそれほど強固でない。
攻撃を当てれば倒せるので、撃退するのはそれほど難しくなかった。
ただ、ミカちゃんの方はかなり危険だった。
戦闘的には問題ない。僕より近接戦のプレーヤースキルが段違いに高い人だからね。
でも、
「このウネウネ動く爬虫類どもが。貴様も、貴様らも、触手どもの仲間か。……俺は、俺はもう二度とお前らのような奴らに、好きにはされんぞ。アハ、アハハハハハ……」
感情の抜けた虚ろな目をして、蛇の頭をメイスで叩き潰した後、死んだ体にさらにメイスを何度も振り下ろして、ミンチ肉にしていく。
「アハハハ、こうなればもはや動けまいー」
ミンチに変えた後も、足でグシャグシャと踏み続ける。
完全にトリップしてしまってる。
「ミ、ミカちゃん……」
蛇より、ものすごいホラーだった。
だって、翼のはえた見た目だけは可愛らしい幼女天使が、血肉をまき散らしながら、惨殺死体を踏み続けてるんだよ。
それも暗い夜の森の中で。
ライトの魔法による光で、ミカちゃんの顔には陰影が浮かび上がり、もはやクリーチャーか悪魔、修羅と化した姿。
僕はそんなミカちゃんの姿を見て、何度か悲鳴を上げてしまった。
僕が臆病だからじゃなく、ミカちゃんがそれだけ怖くて、危なかったんだよ。
……ミカちゃん、本当に昔何があったの?
いや、何があったか知りたくないけどさ。
なお、一連の戦闘で僕は、夜間戦闘能力向上Lv1、気配察知Lv2、危機感知Lv3のスキルを獲得し、クリティカルLv2がLv3になった。
危機感知……戦闘では全く感じなかったけど、ミカちゃんが常時トリップして怖かったから、仕方ないね。
一方ミカちゃんは、危機感知Lv3を獲得し、スキルのレベルアップは威圧Lv1がLv3、鈍器Lv2がLv3、気配察知Lv1がLv3になった。
威圧がレベルアップしたのは、トリップしいてたのが原因で間違いない。
あとは、ドロップアイテムでスネークの肉や鱗などがある。
スネークの肉……完全にゲテモノだけど、やっぱり焼かないと食べられないよね。
そんなことを考えてしまうあたり、やはり木の実だけで僕たちの胃袋は満足できていないわけだ。
……僕たち日本人なのに、かなりヤバくなってない?
◇ ◇ ◇
その後も森の中で迷子を継続。
「は、腹減った……」
「ひもじいよー」
一時凌ぎで食べた木の実の効果が切れて、再び飢えてる僕とミカちゃん。
このままだと、本当に森の中で餓死するしかない状況だ。
そして森の中では蛇にたまに襲われて、そのたびに戦闘している。
戦闘をしていて思ったことだけど、戦闘中はあまり空腹を感じずに済む。ただ、終わった後で、以前よりさらに強烈になった空腹感が襲ってきた。
戦闘をすることで、満腹度の消費が激しくなるのかな?
……これ以上考えると余計にお腹がすくので、考えるのはやめておこう。
「ところで思ったんですけど」
「なんだスレイ?」
「もしかして蛇って、ライトの光に集まってきてるんじゃないですか?」
「……」
――フッ
ライトの明かりが消えて、周囲が真っ暗な闇に包まれる。
もっとも僕の視界は昼間と変わにない明るさで、周囲を見て取れるから問題ない。
「どうしてそのことに早く気づかなかったんだよ!」
「なんとなく思っただけで、確証なんてないですよ」
「どっちでもいい。暗いと歩きにくいから、肩車してくれ」
おんぶじゃなくて、今度は肩車になったミカちゃん。
「ミカちゃんって、暗い場所でも戦闘に差し支えない、異常な感覚してるんでしょ」
「できるけど、それしながら歩くと、余計に腹が減る気がするから肩車ー」
中身二七歳だけど、本当に見たまんまの幼児状態になってるミカちゃん。
「はあ、分かりました。でも頭の上で暴れないでくださいよ」
「ウイー」
ミカちゃんは適当に返事して、僕の体をモゾモゾと這い登ってきた。
「普通に僕が腰を下ろしたところで、肩に乗ればいいでしょう」
「常識なんてクソ食らえだー」
また訳の分からないことを言ってる。
で、肩車したのはいいんだけど、その後頭の上からポタポタと滴が垂れてくる。
「唾を出さないでください」
「スレイ、お前の頭って旨いのか?」
「ちょっ、僕の頭を食べるくらいなら、生肉食べてくださいよ!」
「腹痛って異常状態とかあったらどうしよう。……今更、腹痛で死のうが、餓死で死のうが、どっちも同じか」
「ギャー、頭を噛むな!」
空腹で錯乱しているミカちゃんに、頭をガジガジされてしまった。
≪特定の条件を満たしたことにより、荷運びLv1のスキルを獲得しました≫
≪特定の条件を満たしたことにより、虚弱体質Lv3がLv4になりました≫
ちょっと待て、荷運びはどうでもいい。
それより、また虚弱体質がレベルアップしたじゃないか!
ああもう、どうしてこうなるんだよ!
「この堕天使、今すぐ頭から離れろ!」
「ムガー、暴れるな。お前の肩から落ちちまうだろ!」
「落ちちまえー」
僕、いつもみたいに敬語使う余裕なくなった。
……クソ天使め!
―――――スレイ―――――
・名前 スレイ
・性別 男
・種族 人間(吸血鬼・真祖)
―――装備―――
武器 開拓者のショートソード
防具 開拓者の皮服
開拓者の皮ズボン
開拓者の皮靴
―――種族固有スキル―――
・吸血鬼化
・眷属支配
・不死
・吸血
・魔眼
・暗視
・HP自動回復(大)
・SP自動回復(大)
―――スキル一覧―――(カッコ内は獲得話数。または最終レベルアップ話数)
―――魔法
・闇魔法Lv1 (2話)
・血魔法Lv1 (2話)
・死霊魔法Lv1 (2話)
―――武器補正
・体術Lv3 (3話)
・剣術Lv3 (3話)
―――戦闘補助
・回避Lv4 (3話)
・クリティカルLv2 → 3 (8話)
・高速戦闘Lv2 (5話)
・見切りLv1 (5話)
・魔力感知Lv1 (5話)
・隠密Lv1 (7話)
・奇襲Lv1 (7話)
―――感知
・弱点部位看破Lv2 → 3(8話)
・気配察知Lv2 (8話)
・危機感知Lv3 (8話)
―――ステータス強化
・身体能力向上Lv1 (2話)
・虚弱体質Lv3 → 4 (8話)
・SP最大値上昇Lv2 (5話)
・技量最大値上昇Lv1 (5話)
・敏捷最大値上昇Lv2 (5話)
・夜間戦闘能力向上Lv1 (8話)
―――移動
・神速Lv1 (5話)
・立体機動Lv3 (7話)
―――連帯
・PT連帯Lv1 (3話)
―――生産系
荷運びLv1 (8話)
―――称号―――
・闇の住人 (2話)
―――――ミカエラ―――――
・名前 ミカエラ
・性別 女
・種族 天族(堕天使)
―――装備―――
・武器 開拓者の槌
・防具 開拓者の皮服
開拓者の皮ズボン
開拓者の皮靴
―――種族固有スキル―――
・翼飛行
・詠唱
―――スキル一覧―――
―――魔法
・光魔法Lv1 (2話)
-ライト (2話)
・深淵崩壊魔法Lv2 (2話)
-崩壊魔弾 (2話)
-黒の槍 (4話)
―――武器補正
・体術Lv3 (2話)
・剣術Lv2 (6話)
・鈍器Lv2 → 3 (8話)
・投擲Lv1 (3話)
―――戦闘補助
・奇襲Lv2 (3話)
・隠密Lv1 (7話)
・クリティカルLv3 (3話)
・高速戦闘Lv3 (4話)
・回避Lv2 (5話)
・威圧Lv1 → 3 (8話)
・飛行戦闘Lv1 (5話)
―――感知
・気配察知Lv1 → 3 (8話)
・危機感知Lv3 (8話)
・弱点部位看破Lv1 (3話)
―――自動回復
・MP自動回復Lv1 (5話)
―――ステータス強化
・MP最大値上昇Lv1 (5話)
・技量最大値上昇Lv1 (5話)
・敏捷最大値上昇Lv2 (5話)
―――耐性
・闇耐性Lv1 (2話)
・深淵崩壊耐性Lv2 (2話)
―――連帯
・PT連帯Lv1 (3話)
―――称号―――
・フレンドリファイア (2話)