4 フレンドリファイア
ゴブリンとの戦闘後、アイテムボックスの内部に、獲得アイテムとして、ゴブリンの棍棒が一本入っていた。
アイテムの回収は自動的に行わるみたいだけど、アイテムのドロップ率は一〇〇%ではないようだ。
あと、ステータス画面を確認してみたけど、経験値というものもないようだ。
もっともHPやMPを痛さや疲労感で演出しているゲームなので、実は隠れ数値的な扱いで、経験値が存在しているかもしれない。
それらの事を僕とミカちゃんで話した。
僕もオンラインゲームの経験はあるけど、ミカちゃん――叔父さん――は、僕とは経験にならなないほどオンラインゲームのプレー歴が長い。
なので、こういうことの予想がいろいろとつくようだ。
「そういや大事なことを忘れていた。スレイ、PT組むぞ」
「分かりました」
僕とミカちゃんは、今までゲームのシステムで言う、PTを組んでない状態だった。
アイテムのドロップや、経験値が存在している場合、PTを組んでおた方がメリットが大きいだろう。
さっそくミカちゃんから送られてきたPT申請を受けておく。
――ボスッ
と、油断していたところで、ミカちゃんに腹パンされた。
「グウッ」
痛くて、思わず腹を抱えてその場に蹲ってしまう僕。
≪特定の条件を満たしたことにより、虚弱体質Lv1がLv2になりました≫
ちょっ、ちょっと待った!
この虚弱体質スキルって、もしかして味方から攻撃されるとレベルが上がるのか!
システムボイスのトンデモ発言に気を取られてしまったが、僕の前では腹パンしてきた張本人であるミカちゃんが、目を大きく開けて、驚いた表情をしていた。
「ミ、ミカちゃん。なんで攻撃してくるんですか?」
「いや、フレンドリファイアがあるのか確かめたくてな」
「だったら、僕じゃなくて自分の体で確かめてくださいよ」
「痛いのヤダー」
またしてもあざとい笑顔を浮かべるミカちゃん。
そこには純真無垢で、穢れなんて一片の欠片もない、眩しい笑顔があるだけだ。
ただしこれは天使の微笑みでなく、悪魔の笑い。
本当の悪党っていうのは、きっと悪魔ぶった禍々しい笑みでなく、毒のない無垢な笑いを浮かべるのだろう。
そして笑顔を浮かべたまま、酷いことをしてくる。
ミカちゃん、酷すぎる……。
「あとさ、魔法もフレンドリファイアが入るか確認したいんだ。■■■■、フギュッ」
魔法の詠唱を始めたミカちゃんの口を、僕は力づくで閉じさせる。
「だから僕で試そうとしないでください!」
「フガガガ……」
口を塞いでるので、言葉にならない言葉をあげるミカちゃん。
――ボフッ
「グウッ」
そしてまたしても殴られてしまった。
しかも殴られるとものすごく痛いところだ。男でなければ理解できない痛みを受けて、僕はその場に崩れ落ちてしまう。
「よし、実験動物は大人しくなった。■■■■■■、崩壊魔弾」
ちょっ、ミカちゃんひどすぎ!
悶えている僕に、追い打ちをかけるように黒い球体が命中する。
「……」
「あれ?ダメージなしか?」
「って、連発しないでください!」
黒い球体が僕の体に当たる。
だけど、弾よりもさっき殴られたところの方がもっと痛くて……涙が出てくる。
しかも崩壊魔弾だけど、連発して食らうと、地味に痛い。
派手な痛さはないけど、地味に痛い。
「もう勘弁して、ミカちゃん。魔法でもダメージ入るから……」
「そうかそうか。スレイがリア充確定のイケメン男だから、ついつい力を入れちまった」
――もげちまえよ。
最後にものすごく低い声で、ミカちゃんが物騒なことを言った。
それを僕の耳は、聞き取ってしまった。
ミカちゃん。いや、叔父さんは、いろいろ拗らせている人なので、こんな人なのだ。
なぜか僕だけ一方的にいじめられてしまう展開だったが、この実験でPT内でもフレンドリアフイヤがあることが確認された。
あと、この実験の後に僕のスキル虚弱体質が、Lv3にアップしてしまった。
このスキルって絶対にデメリットしかないスキルだよね。こんなののレベルが上がっても、全然嬉しくないんだけど。
そしてミカちゃんは、高速戦闘Lv1というスキルを新たに獲得した。
僕を殴った時の速度が、それだけ早かったということか?
あと深淵崩壊魔法がLv2になり、『黒の槍』という魔法を覚えた。
「なんだか、凄い理不尽を感じる」
「ホホホ、日頃の行いの差でございますわ」
なぜかお嬢様口調になるミカちゃん。
「では、早速記念して、黒の槍の試射と参りましょう。■■■■■■、黒の槍」
ミカちゃんが魔法を発動させると、黒い尖った槍が現れた。
「おお、かっけー」
「崩壊魔弾よりも見た目が凄いですね」
「フフッ、というわけで、私の真の力を見せてあげよう。ていっ」
ミカちゃんが手を振るうと、黒い槍が空中を音もなく高速で飛んで行った。
――ズガッン
そして命中した地面に深く食い込んでから、黒の槍は消滅した。
「明らかに崩壊魔弾と攻撃力が違いすぎません?というか、序盤でこんな魔法使えていいのかな?」
「なんか一発撃ったらスゲーやる気なくなった。あー、疲れたー。スレイ、おんぶしてくれー」
わがままを言い始めるミカちゃん。
威力は凄いけど、どうやら黒の槍はMPの消費量がとてつもなく大きい様だ。
その後ミカちゃんがブーブーと、ただをこねる子供みたいに文句を言い続けたので、仕方なく僕はミカちゃんを肩に担いで、おんぶしてあげることにした。
「よーし、それでは出発だー!」
「出発って、どこか行く当てがあるんですか?」
「んなもん知らん。だが、とりあえずどこかの街へ行こうぜ。こんな平原にいてもしょうがないからな」
「確かにそうですね」
「では、太陽に向かって前進だー!」
おぶられているミカちゃんが、元気よく太陽の方角向けて指さした。
ていうか、さっき疲れたとか何とか言ってブーブー文句言ってたのに、もう元気になってるよ。
「ミカちゃん、元気になったなら自分で歩いてください」
「コホコホ、ただの空元気だから仕方ないね」
……僕、ミカちゃんにかなり都合よく使われてるよね。
でも、僕はそんなミカちゃんに言い返すことができず、とりあえず太陽のある方角へ向けて歩いていく事にした。
幸い、リアルと違ってゲーム内での僕の体力はかなりあるようだ。
ミカちゃん1人背負っていても、全然負担を感じることなく歩く事ができた。
◇ ◇ ◇
そうして平原を歩いていくけど、正直歩いている間暇だ。
周りには誰もいないし、たまに遠くにゴブリンを見かけるけど、こちらから近づいていかないと、攻撃的になることもない。
PCも見かけなかった。
そうしているうちに、おぶられることに飽きたミカちゃんが、再び地面の上を一人で歩くようになった。
「ところでミカちゃん」
「なんだね、スレイくん?」
今度はくん付けで呼ばれた、
ミカちゃんの謎思考によるものなので、理由は全くないだろう。
「女アバター作らないとか言っておいて、結局女の子にしたんですね?」
「当たり前だろ。神殺しをしないために男アバター作ろうとしたんだけど、その瞬間に激しい頭痛に襲われて、死にそうになったんだ」
「……」
ミカちゃん……叔父さんらしい理由過ぎる。
「ゲームの中なんだから、やっぱり女でやらないと損だろ。でも、胸があるとまた神殺しになる。だから完全なまったいら、断崖絶壁、絶望の荒野、最果ての荒れ地。見るがいい、この掴もうとしても、取っ掛かりすらないツルペタ胸を!」
ない胸を突き出して、偉そうに威張るミカちゃん。
どこまでいっても、ミカちゃんの中にいる叔父さんは叔父さんのままだ。
「本当はさ、巨乳がいいんだ。巨乳にしか興味ないんだけど、男に比べれば、幼女ちゃんの方がマシだから仕方ないな」
そんなこと言って、ミカちゃんは黄昏モードに入って、遠い目になってしまった。
ゴメン、僕とは血縁関係にある叔父さんだけど、この人が何を考えて生きてるのか、僕にはほとんど理解できない。