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1 転生したら吸血鬼と堕天使

 VRMMORPGロード・オブ・ラグーン。



「ユウ、ラグーンやろうぜー」

 僕は叔父さんの勧誘によって、この世界に再び戻ってきた。



 別に暇を持て余してるからいいんだけど、前回の叔父さんの奇行のせいで、このゲームの世界を堪能することなくログアウトしてしまった。

 以来、一度もプレーしてなかった。



 そんなラグーンの世界に、再び戻ってきた。


 僕のこの世界でのアバターの名前はスレイ。

 黒髪長身痩躯の男で、種族は人間。

 リアルの僕より一〇センチ背を高く設定し、身長は一九三センチある。リアルの僕も背が高いけど、できれば一九〇を超えたいというのが密かな願望だ。



 そして(スレイ)がログインした場所は、以前と同じく緑が続く平原。

 穏やかな風が吹いていて、この世界は居心地がいい。


 なんて景色に見とれていると、

「イケメン男、死ねー!」

 いきなり背後から殴られた。



「うおおーっ、リア充め!非モテの怨念を知れー!」

「チョッ、叔父さん、何やってんですか!」


 目には見えない、どす黒オーラを纏う女の子がいた。


 背中に白羽の羽をはやした、金髪碧眼。

 年齢は12歳くらいの背丈で、まるで天使のような愛らしい外見。

 と言いたいけど、今は顔に般若のような表情を浮かべている。

 なのに、そんなおどろおどろしい表情をしたまま、両目から大粒の涙を流している。


 物凄く不気味で、怖い。



 そんな女の子に殴られて吹き飛ばされ、さらに追撃で顔面を蹴られる。

 それも、一、二発じゃすまない。


 って、手加減しろよ!

 痛いなんてレベルじゃないぞ!




 僕は這う這うの体で、その場から飛び退って逃げる。

 リアルの身体能力に比べ、ゲーム内では体が軽くなった気分になる。少し力を入れただけで、僕は女の子の傍から離れた場所に逃げることが出来た。


 しかし僕をいきなり殴って蹴ってきた子だけど、頭おかしすぎる。

 でも僕は、こんな頭のおかしい人をリアルで一人だけ知っているので、女の子が初見で叔父さん以外の何者でもないと理解できた。



「イタタタッ。叔父さん、無茶苦茶ですよ!」

「フハハハ、イケメン男を泣かせてやったぞ。フハッ、どうだ」

「どうだじゃないでしょう!リアルで痛いんですよ。うっ、口の中切った」



 リアルすぎるゲームの世界。ロード・オブ・ラグーン。

 リアルと変わらない五感があるせいで、一方的に殴られて蹴られてしまった僕は、顔面にとんでもない痛みを感じてしまう。

 おまけに口の中に血の味が広がって、思わずそれを飲み込んでしまった。


 ゲームでも、ここまでくると現実(リアル)と勘違いしてしまいそうで怖い。



 直後、僕の頭の中で抑揚のない声が響いた。


≪特定の条件を満たしたことにより、プレーヤースレイの種族が人間から、人間(吸血鬼・真祖)に転生しました≫


≪吸血鬼・真祖に転生したことにより、闇魔法Lv1、血魔法Lv1、死霊魔法Lv1、身体能力向上Lv1の各種スキルを獲得しました≫


≪吸血鬼・真祖に転生したことにより、吸血鬼化、眷属支配、不死、吸血、魔眼、暗視、HP自動回復(大)、SP(スタミナ)自動回復(大)の各種固有スキルを獲得しました≫


≪特定の条件を満たしたことにより、虚弱体質Lv1のスキルを獲得しました≫


≪特定の条件を満たしたことにより、称号『闇の住人』を獲得しました≫



「えっ?」

 今の声は、ゲーム内での情報を教えてくれる、システムボイスだろう。


 でも、なんて言った?

 僕は人間で種族を作ったはずなのに、いきなり条件を満たして吸血鬼……それも真祖に転生した?


 ゲームを開始してまだ1分も経ってないのに、おかしくないか?



「ハーッハッハッハッハッ」

 殴られた痛さ忘れて、僕は茫然としてしまった。


 だが、目の前では相も変わらず見た目天使だけど、壊れた笑いを上げ続ける気味の悪い女の子がいる。


 しばらく見続けていたら、AR表示が浮かんだ。

 そこには、『ミカエラ、PCプレーヤー』との表示が出てくる。

 ここが本物の異世界でなく、ゲームの中だからだ。



 叔父さんが作ったキャラの名前は、ミカエラさんというらしい。

 ミカエラは天使の名前だけど、しかし僕にはどうしても、悪魔か堕天使にしか見えない。


 そりゃ、いきなり殴ってくるし、訳の分からないこと言ってれば、誰でも似たようなことを思うよね。



 ただ、しばらく笑い続けた叔父さんは、般若のようだった表情を引っ込めると、見た目相応のあどけない顔をして小首を傾げた。


 ちょっと待て!

 さっきの悪魔どこに行った!

 全くの別人になってるぞ!


 年相応の愛らしい少女にしか見えない。

 白羽の幼女天使ミカエラさん。



 まあ、中身は27歳のおじさんだけど、ミカエラさんは不思議そうな顔をしながら、僕の方を見てきた。


「なあ、ユ……スレイ」

 僕のアバターのAR表示を、叔父(ミカエラさん)も見たのだろう。


 オンゲの中でリアル名を呼ぶことは、様々な理由から憚られることだ。



「俺、種族を天族で作ったはずなのに、なぜか堕天使になっちゃった」

 どうやら僕と同じで、種族が変わってしまったみたいだ。


「どう見ても、初っ端の行動が原因でしょう」

「えっ、お前のムカつくイケメン面をぶっ飛ばしただけなのに、どうして?」


 ――マジで訳分かんねーわ。

 なんてことを、可愛い姿をしているのに、思いっきりおっさん臭い声をしながら言うミカエラさん。

 ちなみにキャラクターの声は、キャラクリをする際に自由に設定することができ、ミカエラさんの声は見た目に会った女の子の声だ。


 だけど、外見と中身がここまでチグハグなのを見ていると、僕の中で常識とか理性とか、大切なものが壊れてしまいそうになる。



 い、いや、落ち着くんだ僕。

 叔父さんのペースに巻き込まれてはならない。



「あとさ、種族が変わった時に、変なスキルももらっちゃった」

「実は、僕もです」

「へー、お前もなのか」

 不思議な顔はそこそこに。

 今度は興味津々な顔になるミカエラさん。


「で、スレイはどんなスキルを獲得したんだ?」

「それはですね……」

 ミカエラさんに言われて、俺は自分が獲得したスキルの事、さらに種族が吸血鬼の真祖になってしまったことを告げた。


「吸血鬼……チクショウ、お前イケメン面だよな。それで闇の帝王になって、帝王の義務としてハーレムを囲うつもりなんだな。俺なんてリアルだけでなく、ゲーム内でもハーレム作れたことがないのに……あ、エロゲではできたけどさー」


 叔父さんの頭の中は、いつもこんな感じだ。

 脳内ハッピーと言うか、常に自分の欲望の方向にしか頭が働いてない。



「……それで、叔父さんの方はどうだったんです?」

 まともに取り合ってたら疲れるだけなので、僕は叔父さんの馬鹿な発言を全てスルーすることにした。



「えーと、俺はまず種族が天族から堕天使になって……クククッ、『白羽の堕天使』。なんて中二チックな響きだ」

「それはいいから、続きを聞かせてください」

「ヘーイ。で、スキルの方だが」


 ミカエラさんが獲得したスキルは以下のもの。

 もともと天族の種族固有スキルで持っていたのが、翼飛行と詠唱。そして光魔法Lv1のスキルを、プレー開始時点で持っていたそうだ。

 ただ、その後スキルに深淵崩壊魔法Lv1、闇耐性Lv1、深淵崩壊耐性Lv2、体術Lv3を獲得したとの事。

 さらに称号は、『フレンドリファイア』を獲得。


 いきなり僕を殴りかかってくる訳の分からない行動をしているから、フレンドリファイアの称号は全くその通りだと思う。


 それに体術って、僕を殴ってきていたあれか!

 あれが原因で、いきなりLv3になってるのか!?



「それにしても深淵崩壊魔法とか、聞くだけで危険すぎる気がしません?」

「面白そうだからいいじゃん」

 そう言い、ケタケタと嬉しそうに笑うミカエラさん。

 この人、マジで堕天使だよ。



「とりあえず、深淵崩壊魔法に"崩壊魔弾"ってのがあるから、これ使ってみるわ」

「ヤバくないですか?」

「大丈夫だってー。えーと、詠唱スキルがあるから、魔法は自動(オート)でしてくれるのかな?■■■■■■、崩壊魔弾」


 詠唱スキルの効果らしく、魔法の言葉がミカエラさんの口から自動的に紡がれて、魔法が発動した。


 黒い球が飛んでいく。

 それが地面に当たった。


「……」

「……」

 地味すぎる。

 なにが地味かと言われれば、とにかく何もないことが地味すぎる。


 魔法の当たった場所が抉れるわけでもなく、黒い闇に包まれるわけでもなく、あるいは弾の弾けるパチンなんて音がするわけでもなく、当たると弾が消えるだけ。


 そんな光景に、僕もミカエラさんも沈黙だ。


「き、きっと敵に当たると、即死効果とかあるんじゃね?」

「名前はともかく、序盤から即死効果のある魔法なんか撃てたらおかしいですよ。ゲームバランスが死にます」

「や、やかましいわい!」


 敵モンスターが周囲にいないので、これ以上実験しようがない。

 ラグーンでのミカエラさんが初めて使った魔法は、なんとも微妙な結果に終わってしまった。


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