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文学

仲の良い二人

作者: 千路文也

「私は人気者なのだろうか」

「どうしたのですかいきなり」

「いや……ふと気になってな。己の好感度とやらを」

 日夜テレビで顏を見ない日は無いと言われる芸能人と、そのマネージャーが番組の休憩中に話しをしていた。休憩中と言っても水を飲んだり、他の芸人と小話をしたり、メークを手直ししたりするありきたりな休憩とは違い、本格的なお昼休みだ。故に二人は放送局の食堂を利用しながら会話を進めていた。

「好感度なんて飾りですよ。偉い人にはそれが分からんのです」

「そうだろうか。俺みたいなポッと出の芸人なんざ、ベテラン司会者に嫌われたら一発で干される。そうならないために、視聴者から圧倒的な支持を受けるのが得策だと思うのだが」

「そうですね。まあそれなら貴方の意見も一理有ると思います」

「だろう? 俺ってやっぱり的を射た考え方してるよな」

 彼には若干のナルシスト気質を感じられる。そうじゃなくとも普段から何かと偉そうに人を顎でこき使う芸人だ。マネージャーも大変なのは自分でも分かっているが、やはり彼の相談には乗らざる終えない。他に理解者なんていないだろうし、なんやかんや言っても二人の仲はそこまで悪くない。

「ああそうですか」

「ああそうですかって……ちょっとは真剣に考えてよ。それでも俺のマネージャーなの?」

「はいそうですよ。貴方のマネージャーです」

 答えるのは簡単だ。しかし問題は発生する。人間関係という名の複雑な問題が。

「なんだよその言いかた。ぶっきらぼうにも程があるでしょ」

「私がちょっとツンツンしただけで不機嫌になる貴方も貴方です……それよりも問題は、どうやって視聴者の皆さんから好感度を上げるかでしょう」

「あ、ああ! そうだったなつい話しが脱線しちゃったよ」

「まったくその通りです。少しは冷静になって物事を考えてくださいね」

「ああもう、お説教はいいからさ」

 まるで母親に叱られている気分だと芸人の男は大きく肩で息をした。

「分かりました。では本題に移りましょう。貴方がどうやって視聴者の心をわし掴みにするか、それについて深く追求するのが今回のテーマです」

「深く追求するなんて大袈裟だよ」

「ちょっと今更何を言ってるのですか! こうなったらとことん考えるべきでしょう」

 マネージャーは怒ると怖いと分かっていたが、ここまでの剣幕でどなり散らされると肝を冷やしかねない。それでいて休憩が終わった後の仕事にも支障が起こりそうだ。そう考えた芸人は口から蚊が鳴くような声でボソボソと呟く。

「やっぱりいいや。このままで」

「ちょっと……この議題は貴方が提案したのでしょう? 最後まで責任を取りなさい。それが大人の義務です。一度言ったことは二度と覆さないという気持ちが何より重要なのですから」

「す、すみません」

「泣いて謝っても何の解決にもなりません。今すべきなのは好感度を上げるための策です。さあ、とことん話し合いましょう」

「はいはい分かったよ。こうなったらヤケクソで考えてやる!」

 なんやかんや言っても、二人はやっぱり仲が良いのだった。



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