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悪魔の騎士  作者: らんか
プロローグ
3/3

2,希望の闇

ここまでがプロローグです

これから先は文字数なるべく増やしていくよう心がけたいと思います。

 あれから何人もの実験体を手にかけた。

 過度の強化により理性をなくした者、体の一部が適応せずに魔物と化してる者、自分と同じ様に成功しているにも関わらず練習用として作られた者。

 生きる理由など存在しない。

 故意に負けて死のうとしたことに気がついた研究員による「全力で倒せ」という命令に従って、唯唯殺していく。

 戦闘が無い時間は狭い牢で寝るだけだ。

 忘れかけている殺した時の恐ろしさと相手の恨みが夢に出てくる。

 次第に薄れていく自我を保つ方法はこれ以外になかった。


 いつものように牢で眠っていると、劈く音で目が覚める。

 緊急用のベルだ。


「この地は我々がソル帝国が制圧したわ!大人しく投降しなさい!」


「クソ!まさかこんなところにソルが攻めて来るなんて・・・!」


 少し低い女の声が施設全体に響き渡り、段々と大きくなる。

 ソル王国―近年小国から大国へと移り変わろうとしていると有名な国である。

 その主な手段は、所有権の無い領土や弱小国の植民地化と言われている。

 外を見たことがない彼女にとって、ソルがここに攻めてくる理由に検討もつかなかった。


「四番以外の実験体を足止めに使え!我々とこれだけでも避難する!」


「もう送り込んだ!はやく逃げ―」


「《風の精霊よ、我の願いに応えよ―刃風―》」


 四番の牢のカギを開けようとした研究員の一人が最後まで話すことなく首が一瞬で刎ねられる。断面からは血だけが大量に吹き出しており、首を失った胴体はそのまま後ろに倒れた。

 それと同時にカツカツとあからさまに音を立てながらこちらに接近してくる。


「実験体…道理で魔法が使える奴が多いわけね」


 真紅に輝く真っ直ぐと背まで伸びた髪。

 妖美な笑みを浮かべる整った顔。

 首や手の装飾品から高い身分というのは直ぐに理解できる。

 薄暗い紫の服は全身包み、ほとんど露出がない。

 その代わりに目立つのは所々についた黒い染み。

 これがどういう事なのか理解できない立場ではなかった。


「ふふふふ、ふざけるな!ソル帝国とはメイ王国は同盟関係のはずだ!それに実験体はどうした!?」


「…貴方達みたいな引きこもりの研究員は知らないのね。二日前に陛下はメイに宣戦布告したのよ。

 それ後者については私がここにいることが答えよ」


「…ッ、た、たった二日で…?まさか前々から準備して…」


 研究員の男は首だけがない仲間の死体の隣に座り込む。

 絶望したような暗い表情を浮かべるが、未だ牢にいる彼女を見ると、狂気の笑みに変わった。

 牢の内側からその様子を見る四番は、特に焦ることもなく目の前の侵入者が言っていた言葉を思い出す。

 ポル王国―

 ソル王国と隣接する小国であり、事実上の無政府国家でもあった。年々増加する犯罪を考えれば、この狂った研究施設がそこにあっても不思議ではない。


「ふぃ、四番(フィーア)!魔法で檻を壊すことを許可する!今すぐこいつをぶっ殺せええええ!」


「…了解《我に宿せし闇よ―闇獣―》」


 3匹の黒い獣が飛び出すと、頑丈に作られている鉄の檻がゆっくりと曲がり、通れる程の空間が出来上がる。

 そのまま一斉に女に攻撃を仕向けると、通路の壁を利用しながら三方向に分かれて襲いかかった。


「《風の精霊よ、我の願いに応えよ―風盾―》」


「早い!?」


 訓練以上に最速を出したつもりだった。

 だが、それ以上に相手の詠唱速度が上回る。

 喰いかかる獣達は、女を中心として球状に出来上がった壁にぶつかると、一瞬で渦巻く風に切り裂かれ空中に霧散した。


「魔族特有の闇魔法……人体実験ってなんでもありね」


「くっ!《我に宿せし悪魔の精霊よ―闇の鎖―》」


「無駄よ。確かに貴方は強い。でもまだ魔法を覚えてから日が浅いわね。それが決定的な弱点よ」


 四方八方から拘束しにかかるも、結果は変わらない。

 その桁違い強さからは今までの相手とは比べようがないことを改めて実感する。


四番(フィーア)の魔法も防ぐ風魔法…ま、まさか死神の旋風と言われるレイ・アーシェスか!?」


「肯定するわ。さて、取引しましょうか?私にこの子の所有権をくれるなら逃がしてあげてもいいわよ?」


「クソッ…!」


「さあどうするの?」


 邪悪な笑みを見せながらしたり顔で研究員に言葉を放つ。

 今の戦闘からして四番(フィーア)が彼女に勝てるという見込みは一切なかった。

 助けてもらうという保証は無くとも、この男には渡すという選択肢しかない。


「分かった…《これより奴隷の主を汝、レイ・アーシェスとす》」


「ッ!?」


 まだ何らかの手段があると踏んでいた彼女は、自分の隷属の首輪が素直にレイに所有権が変わったことに驚きの表情が隠せない。

 既に万策が尽きた研究員は、絶望の表情を浮かべる。

 

「クス。ありがとう、そしてさようなら。《風の精霊よ、我の願いに応えよ―刃風―》


「や、約束が違―」


 後ずさりする彼の胴体を真っ二つに引き裂く。

 あれほど自分を苦しめていた憎い存在がこうも簡単に死んでいることに現実かどうか疑いたくなる。 

 レイは変わらず妖美な表情を見せながら彼女に近づくと、隷属の首輪にそっと手を添える。

 その手はしなやかで、まるで赤子を触るような手つきだった。

 とうに捨てはずの恐怖で体が震え、身動きがとれない。

 何かの魔法だと信じたかった。

 ゆっくりと目の前に近づいてくるレイの顔は、同性という立場でも魅力を感じる。


「《契約解除》」


「……え」


 目の前で起こっている状況に追いつけずに混乱する。

 本当に自由になったのか。

 何故この女は私を拘束しないのか。

 彼女が必死に思考している中で続ける。


「選択肢は3つよ。このまま逃げる。私と戦う。それとも私の物になる。

 一番目はあなた次第ね。帰る故郷があるなら帰ればいいし、行くあてがあるならそうすればいい。

 二番目はおすすめしないわ。

 もし私の物になるなら夢を見せてあげる。勿論これから戦闘に出てもらうことは十分ある。でもその代わりに私はあなたを裏切らない。さあ、選びなさい」


「……っ」


 俯きながら考え込む彼女に対し、レイの表情は何一つ変わっていない。

 最初からすべてを確信しているように物語っている。

 だが、選択が迫られる中、彼女の思惑な知る由もなかった。


「…なり…ます。貴方の物なります。だからどうか傍に置いてください!お願いします!」


 差し伸べられた手をつかみながら跪く。

 もはや帰る場所がない彼女が最後をとるのは必然だった。

 一瞬戦って死のうとも考えたが、恩人である彼女がそれを望んでいないことは理解できる。

 今や神でもあるレイに対して改めて自ら忠誠を誓う。

 その行動に対して、彼女は慈愛に満ちたかのような笑みを浮かべた。


「貴方ならそうしてくれると信じていたわ。今日から貴方の名前はアイリスよ。

四番なんて残酷な名前は捨てなさい」


「あ、ありがとうございます!私アイリス、一生レイ・アーシェス様に使えさせていただきます!」


 涙を流しながら握るその手がどういうものかなど彼女にとってどうでもよかった。自分を裏切らずに必要としてくれる存在。目の前に降りてきた希望にすがりついた。

 

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