二人の野球少年(6)
「廃部…」
「その事件というのは、生徒達の暴力事件だったんだ。野球部にはたくさんのならず者が居てね…バット振り回し、たくさんの生徒達を傷つけてしまった。それも、大人の知らないところで…。それは一部の野球部員だけじゃなかった。始めは、暴力なんてするつもりはなかった人も強要されて、野球部員全員が手に負えなくなってしまった。中には辞める者もいたが、辞める事もできない人も居た。
さすがに野球部員の彼らも大怪我を負わせる程の暴力はしていなかったんだ。でも、暴力は暴力…町に野球部の悪い噂は広がっていった。
ある日…遂に野球部員の中に暴力に反対する者達が現れた。それは凄まじい乱闘を引き起こした。そして、何人者生徒が大怪我をした。当然、野球部は廃部になった…。確かに悪い生徒はたくさん居た。でも、そんな大きな事件になる前に大人の私達は何故きづいてやれなかったんだ…その事だけが悔やまれる…どうして、早く彼らを引き戻してやれなかったんだ!!」
おじさんは頭を抱えて、自分を責めているようだった。
「でも…何で、今も廃部になっているのでしょうか?世代は変わってるのに。」
「先入観とは怖いものだ。そんな、事件があったきり町南中の野球部に入ろうとするものは居なくなったよ。今もその名残から、野球部は町南中には無い。それと、ほとんどの人は事件を知らないか忘れているが、町南中に野球部が無いのは当然の事で別に気にも止めて無いんだろう。」
「そうだったんだ。」
「おおっと、そろそろ任務に戻ろうか…じゃあ、また今度なぼうやたち。」
おじさんが立ち上がると四人はお辞儀した。
「有り難う御座いました。」
…現在
「野球部は廃部になって今は無いから、野球部には入りたくても入れない…ですよね?」
祐司は涼野に聞いた。
「…ああ。そうだよ。でも、俺は…」
そこまで話すと耕は遮った。
「だって…じゃないですよ!野球部に入りたければ、町北中に編入すれば良いじゃないですか!」
涼野はそれを聞くと静かに話を始めた。
「それも考えたんだがな…母さんの事を考えると無理だよ。」
「母さん…?」
「町北中は名門で、学費に多くのお金がかかる....。 母さんが一人で家計を支えてるのにそんなことできないよ。」
「兄ちゃん!嘘つくな!」
「健太…どうした?」
耕が驚いている事は無視して続けた。
「兄ちゃん、本当は怖いんだろ?中学で野球がちゃんとできるか不安なんだろ?」
「…健太」
「前に兄ちゃんが言ってたの思い出した。兄ちゃんはプロを目指してるけど、なかなか自分の実力と夢の、ギャップに焦ってた。だから、野球も楽しくないって…だから、野球に真正面で向き合えないって。でも、兄ちゃん…野球好きなんでしょ?今日の兄ちゃん見ててわかったよ。兄ちゃんは野球を今でも好きですきでたまらないんだよ」
涼野は下を向いていた。健太は続けた。
「兄ちゃん…真正面で向き合えないのは野球じゃないよ。兄ちゃんは自分と向き合えてないだけだよ!!」
「自分に…」
すると思いついたように健太はバックを取りにいった。その間に祐司は涼野に話しかけた。
「事情はわからないですけど、色んな悩みも先ずは自分との闘いだと僕は思います。お兄さんには、自分に打ち勝つ強さがありますよ。」
祐司はニッコリ笑った。健太は帰って来ると一つの写真を見せた。
「兄ちゃん…これみて。」
そこには、涼野ともう一人の男の子が肩を組んでいた。
「兄ちゃん…淳さんに約束したじゃん…「絶対にお前を越える」って…」
涼野は写真をじっと見つめていた。
そして、白球を追いかけた夏空の日々を想起していた。