二人の野球少年(7)
「淳君居ますかー」
少年は家の前で一人の友人を待っていた。
「あら、涼ちゃんじゃないの。淳はもう公園のグラウンドに行っちゃったわよ。」
「そうですか!ありがとうございます!」
それだけ言うと涼野は駆け出していった。
「車に気をつけるのよ〜」
こんなやり取りはしょっちゅうだった。学校に行く前にはいつも二人は朝練をする。 決まっていつも先にいるのは淳だった。
小さい頃から毎日毎日 淳と涼野は放課後も遊んだ。サッカーもバスケもやったが、やはり一番は野球だった。
涼野と淳は幼稚園の頃から小学校三年生まで一緒の学校だった。 それから、淳は五年生にちょうどなる時に父親の仕事の都合で転校した。手紙やメールで連絡もし合い、夏休みや冬休みには遊びに互いの家に行ったりもしていた。
そして六年の夏、久しぶりに淳が街に遊びに来たのだった。
待ち合わせの公園に行くと淳はタオルを持って投球フォームのチェックをしているところだった。
「よっ!早かったなあ」
「ははっ!お前とこうして朝練するのも久しぶりだからよ!楽しみだったんだよ」
涼野は少しの間、淳のタオルを振るのを見ていた。
「どうしたんだよ、早くキャッチボールしようぜ」
「...ああ!」
涼野はついこないだまで近くにいたはずの友が遠くに行ってしまった気がしていた。 どこか自分に負い目を感じるような、そして淳と比べてしまう自分がいた。
淳は六年に入ってから県の選抜クラブチームにスカウトされていたのだった。
夏の日に照らされた白球が何度も無言に、行ったり来たりしていた。
少し、キャッチボールをしてから涼野は口を開いた。
「なあ淳。お前の球 久しぶりに受けさせてくれよ」