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transmigration  作者: さーどん
第二章【彼】
9/41

《俺》2

俺はジミーに出会って全て変わった。





寒くてたまらなかった夜も、


仲間といたのにどこか冷たかった昼も、


嫌で嫌でたまらない朝も、



全部変わった。






あいつが、『おはよう』って言ってくれる。


あいつが、微笑みかけてくれる。




だから、生きてるんだって思えた。

幸せだった。

あいつが俺の安心の象徴でもあったし、幸せの象徴でもあった。






その日も、ジミーがそばにいた。

朝早くから散歩だといって何処かへいっていたジミーが息を切らしながらこちらへ来た。

そして、耳元でみんなに聞こえないように囁く。


『ねぇねぇジャック!起きて起きて!!』

『………どうした?』



眠たさでまともに起き上がれない俺を引っ張って、いつもよりきらきらする瞳をしばたたかせて俺の腕を引っ張っていく。


俺も寝ぼけているから、まともに速く走れない。




でも、ぼぅっとする頭の隅で、かわいいかもなんて考えてしまっていた。



『ジャック、ジャック、早くいかなきゃ!ね!』

『……どうしたんだよ…』

『いいから!』




腕を引っ張られ連れて行かれ、20分も走っただろうか。

正直へとへとになった俺の頭をすっきりさせるようなものがそこにあった。





まだ集合もかからない早い時間。




そこには、朝日でオレンジに染まる草原があった。

ちらほら見える花が更に彩りを与えていて、



とても、綺麗だった。



『っはぁ…!』

『ね、すごいでしょ?』

『…すげぇ』



俺の感嘆の声が聞こえたのか、ジミーはとても満足そうににこにことしていた。



『ここ、どうしても見せたかったんだ!…朝日でさっきより綺麗になってるし、すごいね』



得意気なあいつの目はまだきらきらしていて、横顔も朝日で綺麗なオレンジに染まっている。


『……かわい』

『……え?』

『……………いや、なんでも……』



小さな声でいったから聞こえなかったのだろう。聞き返してきた。

普通にありのままを言えばよかったんだろう。

でも、何故か俺はその時恥ずかしくなって目をそらしてしまった。



『…花が、綺麗だなって』

『………そっか。』

『おう』

『でもさ、こんなにいっぱいお花があったら花冠でも作れそうだね』

『…? はなかんむり?』



『?』という顔をした俺の意図を察したのか、あいつがあはは、と笑って『じゃあ作ってみようか。あと集合まで1時間くらいあるし』と言ってくれた。





『ここをちょっとひねって…花を差し込む…んだっけ』

『そうそ…う…』

『?』

『…君、僕より花冠上手い』



ジミーがちょっと悔しそうに俺の手元の花冠を見つめた。



『…それも十分綺麗だけど』

『君ほどじゃないよー…なんでそんなに綺麗なの?』



ぷうと音がしそうなくらいほっぺを膨らまして、じぃぃぃっと見つめ続けていた。




なーんとなく。その顔が面白くて。

花冠をジミーの頭に引っ掛けた。



『…わっ』

『……おっ。似合う』

『そ、そう?そうなの?』

『おう』

『…それ喜んでいいことなの?』



さっきまで不機嫌そうだったのに今度は嬉しそう。

コロコロと変わる表情が、とても愛らしく感じる。





『…あっ!じゃあこれどうかな!』

『?』

『ちょっと待ってね〜…』



せっせと花を一輪つんで、何か作って行く。




『…できた!ちょっと手出して〜!』

『……?』

『いいからー!ね?』

『…はい』



ちょっと躊躇した後、手を出すと、ジミーがその手を取って、ゆっくりと右の薬指に小さな花がついた指輪をはめた。



『ふふっ、ほら!どうかなぁ…!』

『…綺麗だ』

『……気に入ってくれた?』



おずおずと静かに聞いてくるジミーの顔をみながら、考える。



そんなの、俺が…俺が気に入らないわけないだろ。




そう考えるとなんだか気恥ずかしくて。結果ゆっくり頷くことしかできなかった。



『…よかった』




ふわっと笑って見せたその笑顔が、とても、とても忘れられそうにない。














それからも、これる時はその草原に来た。


その度にジミーが見せてくれる表情が増えて行く。


その度に俺も嬉しくなっていく。








その日も、その場所にいた。


『オレンジって、白に良く映えると思うんだ』

『…突然どうした』

『あはは、なんとなく…かな。…君はどう思う?』

『…俺も。そう思う』



ジミーの肌は赤褐色に近い俺とは違って真っ白だった。

だからこそ映えるのかもしれないな、とも思った。



『…あっ。でも白より緑の方が映えるよね。ところどころ白っぽくなったりしてるし、すっごく色が綺麗』

『…ここ…まさにそうだな。綺麗だ。』



ふふ、ほんとだ、綺麗だねというと、ジミーは一拍置いて言葉を繋いだ。


『……夕陽って綺麗だよね。もっと近くで観れたらいいのに』

『…それは死ぬだろ。熱いし、第一宇宙だろ。…呼吸できねぇよ…』

『…え、ロマンがないなぁ、でもここが最高かも』





さっきと少し違う言い分。


ジミーがコロコロ意見を変えるのなんて珍しいから、なんとなしに『なんで』と聞いて見る。



『…それ言わせる?…………あぁ、もうちょっと経ったらいう…よ』

『…今言わねえの?』

『…恥ずかしい』

『…なんで』

『うぅもぅー…』




しばらくうずくまってうぅ、と言い続けていたジミーは、少し経ってゆっくりつぶやいた。




『…でももっと広い草原があったらもっと映えるんだろうな』

『…ここ、あんま広くねえのか』

『もっと広いとこがあるらしいよ。本でちらっと見たくらいだけど』




こんな広い所でも狭いと言うのが、当時の俺には想像できなくて黙り込んだ。






そんな俺の様子を見兼ねてか、また呟いた。





『いつか、いってみたいなぁ。』

『……そう、だな。』

『…僕、頭悪いし不器用だから…見つけるのに時間かけすぎちゃいそうだな…』




手に握った花を見つめながら、ジミーが呟いた。


ジミーが不器用だと言うのは不恰好な花冠を一度見てからなんとなしにわかってはいたが、こうして目を伏せるジミーを見ると、とてもさみしい気持ちになる。




だから、思わず呟いてしまった。




『……じゃ、俺が見つけてやる』


『? 君が見つけてくれるの?』

『…お前より俺の方が、手先も器用だし』


そういっていて可笑しくなって少し笑ってしまう。


ジミーはそうすると少し顔を赤くしてむ、と言う顔をした後『からかうなよー』という顔をした。



『…それに、体は丈夫だし、……頭は多少弱いけどなきっと滅多なことじゃ死にゃしねえし。…きっと時間もかかんねえよ』

『……君、十分か弱いよ?』

『…そうか?』



『わかってなかったんだね』と今度はジミーがへらっと笑って見せた。



『……そうだなぁ。そうしたら、案内してね。楽しみに待っとくから。』




ジミーが頬をかきながら、照れ臭そうに笑って見せた。





『…でも、いつかね、離れたらきっと会えなくなっちゃうから』


『…?』



『…ほら、なにが起こるかわからないでしょ?それに僕は…』


そういうとまた俯き、『…いや、なんでもない』と濁した。





『…じゃ、……探すよ』

『…えっ君、探すって…?』

『…そりゃ……そんままの意味。お前を探す。…見つかるまで、絶対』






言ってる俺の方が恥ずかしくなってうつむいていても、珍しくジミーが話しかけてこない。

流石に嫌だっただろうか。そう思ってジミーの方をゆっくりと見ると、目をぱちくりぱちくりさせていた。




俺と目があってすぐにはっとなると、ゆっくり微笑んで…



『……そっか。見つけてくれるの、楽しみにしとくよ。』




とても嬉しそうな顔をして、そう言った。







思わず見惚れてしまうほど綺麗な笑顔だった。





そうしてあんまりにもまじまじと見つめていたため、恥ずかしかったのだろう。



顔を真っ赤にして夕日に顔を向けて、ジミーがぎこちなく言葉を継ぐ。







『……あー、それにしてもここ寒いね。』

『……………そうだな。……まだ温まらないな』


朝方だというのもあっただろうが、その国は常にとても寒かった。

冬なんて薄着では外に出れたもんじゃないだろう。



『…あっ。東にいったらもっとあったかいらしいよ。』

『……ひがし?』

『うん。ここはちょうど…その本だと北西のあたりだったかな』

『……ほくせい』

『うん!だから冷え込むんだろうなー』




たまに、ジミーの会話には難しい単語が出てくることがあった。

もともとどこにいたのかと聞いても、ちょっと笑って『ここの近く…かな?』と言うだけだったけれど、教養高い家の子であることは伺えた。



何しろ俺はもちろん、その時代大抵の人間は文字は簡単な単語しか読むことはできなかったから。





『そう!夢みたいな国もその本には載ってたんだ』

『…へえ。何て言う国なんだ?』

『本で昔読んだんだ。……じぱんぐ…だったかな』




呪文のような単語が耳に入り、俺は少し顔を歪めて『じぱんぐ』と繰り返した。



それを見たジミーはくすっと笑うと、『そう。じぱんぐ』と言った。


『いってみたいな。食べ物がいっぱいあって、いいところらしいよ。…畑がいっぱいあるって。きっと夕陽に映えて綺麗だろうなぁ』

『畑?』

『そう!広いところに植物をこう…植えていくらしい』



腰を曲げて身振り手振りでジェスチャーしてくれるものの、冷たい街中で育って、畑と言うものを見たことがなかった当時の俺には到底理解のしようがなかった。



それを察してくれたのか、ジミーはジェスチャーをやめるとぽつりとこちらに話しかけて来た。











『いつかさ、2人で行こうよ。…離れても君が僕を見つけてくれるんでしょ?』





息を呑むほど綺麗な表情で、ジミーはさらに言葉をつないでいった。




『待ってるからさ。』

















これが、俺自身含めいくつもの人生を大きく左右する言葉になるとは、当時の俺は、当然、全く知る由もなかった。














No.2 『ジミー』

・謎に包まれた少年。出生・実名は不明

・金髪碧眼。身長は180センチをゆうに超えていると思われる

・ジャックよりも年下のような姿をしているが、年齢は不明

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