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transmigration  作者: さーどん
第二章【彼】
6/41

《お前》1

「ーーーーーー町のーーーにトラックがーーーー人が重軽傷ーーーー2人が意識不明の重体ーー」





TVから流れる音声をぼうっとしながら聞いて行く。




まだ1日もたっていないのに、まるで遠い過去のことのように他人事なアナウンサーの声に不快感を覚え、TVを切る。





「ゆか…もう帰らなきゃ」



美樹が心配して話しかけてくれる。



「辛いと思うけど…ゆかは高校もあるし…」




美樹の言葉も遠いように感じて、そのままぼうっと座り続ける。



「…美樹、もう帰ろうか。…ゆかはここにいる方がいいか?」



慶の声に、黙って頷く。



「…そうか。腹が減ったら帰れよ。減らなくても一日一回は帰れ。いいか」



こくこくと頷き続ける。



それを確認した慶が美樹をつれて病室を出ていったことを告げるドアの音が、バタンと重く響いた。






今、私は真っ白い部屋の中にいる。

ピッ、ピッと響く音と、彼の口元から伸びるチューブをぼんやり見つめる。



時間が移り変わるごとに病室がオレンジに染め上げられて行く。





『オレンジって、白に良く映えると思うんだ』






ふわっと心地いい声が、それとともに聞こえる。


…あの日から、誰かの声がたまに聞こえるようになった。


あの日目の前で起こったことで、頭がやられ始めているのだろうか。







気づいたら朝が来ていた。

看護師さんに帰るよう言われ、ぼんやり病室から出る。



『…あっ。でも白より緑の方が映えるよね。ところどころ白っぽくなったりしてるし、すっごく色が綺麗』




また、聞こえる。




『……夕陽って綺麗だよね。もっと近くで観れたらいいのに』





…君、誰なの?随分懐かしい感じがするけど。





『…え、ロマンがないなぁ、でもここが最高かも』



会話が成立してない。




…ってことは、これ。記憶?


でも、私のクラスにこんな話し方の人なんていたかな。





あっ…なんだか、健吾君みたいな雰囲気だな。





不思議で、なんとなくふわふわしてる。そんな感じ。



『でももっと広い草原があったらもっと映えるんだろうな』






……広い草原?



あの、オレンジに染まる、君の背中と…




懐かしいあの、草原?





『いつか、いってみたいなぁ。』







『? 君が見つけてくれるの?』







『……そうだなぁ。そうしたら、案内してね。楽しみに待っとくから。』





『…でも、いつかね、離れたらきっと会えなくなっちゃうから』





……会えなくなる?






…そっか、だから。





『…えっ君、探すって…?』





『……そっか。見つけてくれるの、楽しみにしとくよ。』





『……あー、それにしてもここ寒いね。』






『…あっ。東にいったらもっとあったかいらしいよ。』





…私はここにいたんだ。





『本で昔読んだんだ。……じぱんぐ…だったかな』





……じぱんぐ。彼が言ったあの地名は日本のことだ。




『いってみたいな。食べ物がいっぱいあって、いいところらしいよ。…畑がいっぱいあるって。きっと夕陽に映えて綺麗だろうなぁ』





彼が気に入ってた草原。…畑?

……あぁ…私は、すぐに見つかる場所に住んでるじゃないか。









…それなら、きっと君も気に入る。

なにせ、ここはあたたかくて、しかも夕陽も綺麗だ。




…それなら。



あとは、君を見つけるだけだ。









……君は、

…どこにいるんだ?















『いつかさ、2人で行こうよ。…離れても君が僕を見つけてくれるんでしょ?』







『待ってるからさ。』
























弾かれるように、病院を飛び出す。


訝しげに見つめる人々。


ぶつかりそうになって、怒鳴ってくる男の人。


全て後ろへ流れて行く。





ただ、私の頭の中は『君に会いたい』と、それだけだった。


それ以外は何もかんがえられない。



頭にこびり付いた君の笑顔が、声が、離れない。





…草原。


もしも君が何処かにいるなら、きっとそこだ。





…とはいっても、どこにあるのか。




「この辺りのだだっ広い草原とか…」





…畑だらけだぞこら。





…はぁ。早速難航しそうだな…。



でも。






『…離れても君が僕を見つけてくれるんでしょ?』




ただただ君の言葉に背中を押され、歩く。






今度は…私が、君を励まそう。



今度こそ、今度こそ…ずっと一緒にいれるように。







「っゆか!?なんでこんな所に…っ?」


さきほど病室にいた私が、朝早くに汗まみれで駅にいるのがよほど驚くべきことだったらしく、美樹が私に問いかけてくる。


……まあ当たり前か…



あぁ、そうだ。


美樹だったら知っているだろうか。



「…ねえ、この辺りの、知ってる所で、こう…草原みたいなとこ、ないか…な」

「ゆか…?」

「…いや、なんでも」



質問を無視して話しかけたためか。とても動揺したような返しをしてきた。



「ゆか…どうしたの?まるでゆかじゃないみたいだよ…?」



失礼だなあ。私は…



『ジャックとか…どうかな』




由香里じゃないのか…?




「……? ゆかちょっと!?」



「…私…ごめん…探し物があるから…じゃあ」


駅の改札に切符を手早く入れ、駆け抜けて行く。


その背中から、ずっと「ゆか!?」と私を呼ぶ美樹の声が聞こえた。





急がないと。急がないと。



君に早く会わないと…壊れてしまいそうだ。

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