エピローグ、そしてプロローグ
……目を開けると、ただただ真っ暗な、なにも見えない世界。
どうして私はここにいるんだっけ?
…確か、あいつを探して、公園に辿り着いて、そして…
「…ジミー、そうだ!!最後に確かジミーが、健吾君が…屋上に…」
そうか。
健吾君はジミーだったんだ。
あぁ。なんでこんなに近くにいたのに気づかなかったんだ私は!
そして私は…その後何をしたんだ?
何をしたからこんなところに…
『……ね、ねえ、そんなところにいるとまるで…飛び降りるみたいじゃないか』
『見ての通り。その通りだね』
『…やっやめてよ!!ねえ…なんで、なんで君が死ななきゃいけないんだよ?』
『……わからないな、俺には』
『じゃあやめてよ…!!!ねえジャック‼︎‼︎』
『……ごめんな…こうするしかないんだよ』
『…………ジミー、ごめんな…』
そうだ…思い出した。
あの時私は、また生まれ変わらないように、屋上から飛び降りて…
ゆっくり手をついて起き上がる。…動作をしたはずだった
…感覚がない?
…まさか、ここは、また?
……自殺したら終わるんじゃなかったのか?
「なっ…なんで、なんで…そ、そういえばさっきからしゃ、喋る感覚もない…?!……ま、待って、なんで、また…」
なんで終わらないの?終わらせる方法はどこにあるって言うんだ。
これじゃ、これじゃ…
私は一体なんのためにあいつの前で飛び降りたんだ…!!
もう感覚のない頭を掻き毟る。
もう嫌だ。そう思ってももう誰にも届かない。
「……またか、」
また、もう何年たったかも、わからなくなった。
「…何回目だ、この部屋に来るのは…」
自問するも、答える者はいない。
「嫌いだ、ここにいるのは…じかん、が、どんくらいたったかもわからなくなる」
「あー…あぁもう、ぜんぜん言いたいこと、纏まらない…ただでさえ私は頭、悪いって、みんなにいわれてるのに…」
「こんなクライとこじゃ、落ち着かない…」
「…だいいち、何も見えないし、…おちつくのなんてアイツくらいか」
そうだな…あいつ、暗いところが好きだって言ってたっけ。
頬が綻ぶ。
「…でも言わなきゃいけないんだ、言いたいこと、あるんだ」
「ずぅっと、ずううっっっと…言えなかったんだ、言わなきゃ」
「私は、………俺は」
「…アイツが、…君のことが……
すごく大切だった、……大好きだった…」
もうずっと前から気付いていたのに。なんで伝えなかったんだ。
何度も出会っているのに、何度も話したのに。
「……怖かったんだ」
俺は冷たい人間だから。友達をここまで大切に思えるようになるわけないと、ずっと否定し続けてた。
こんな俺の感情が伝わったって、あいつも迷惑だと思い続けてた。
あいつは、あんなに必死に俺のために行動してくれていたのに。
…死んでまで逃げ続けるなんて、俺は、私は馬鹿なのか。
『ちがう…ちがう、ちがう、ちがう、ジミーは友達だろう?家族でもない、友達だろ?……それ以上になると迷惑かけちまうだろ…?』
頭の中で声が響く。
『…わからない。わからないんだよ…健吾君……私…』
男の声と、女の声。
…なんでだ。
まるで、こうしていると…別人のようじゃないか。
俺は私だし、私は俺だったはずなのに、…同じはずなのにどうして?
「………そりゃ、そうでしょ。私は町田由香里。君はジャック。別人なんだから」
先ほどまでとは違う。ハッキリと聞こえる女の声に頭を上げる。
……………真っ暗でなにも見えないはずなのに、此処には誰も居ないはずなのに、どうしてか少女の姿が見える。
…どういうことだ?何が起こってる?
あの時切ってしまった髪の毛はそのままに、ショートカットになった、少女の姿。
「…なんでだ?」
「…あいにいかなきゃ。きっと健吾君が…あの屋上で待ってる」
「何いってるんだ…誰だよお前は…!?」
「ここに来たってことは…生まれ変わるんだよね。でも私は"個別"の意識になったってことは、【私】はなかったこととして生まれ変わるってことかな?」
「ど、どういうことだよ…お前は…俺のはず…」
「君と私は意識が別れちゃったから、別人だよ。だから私がなにしようと関係ないでしょ。…あ、君も"個別"になっちゃってるね。じゃあ、これから君はどうなっちゃうのかな?
次の人の意識に飲み込まれるのかな?
それとも記憶のみ吸収されて、意識は別れるのかな?
私には関係ないけど」
「おい、どういうことだよ!?関係ないって…ふざけるな…!!関係あるに決まってるだろ!お、おいまてよ…っ!!」
何処かへ歩き出す少女に向かって手を伸ばす。
その瞬間、周りが光に包まれて……
【俺】は何も見えなくなった。
最後。薄れる意識の中で少女の声が聞こえた。
『………私は、健吾君にあいたい……!』